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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
序章:転生と邂逅

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第九話「半妖の守護者」

真澄と出会ってから、数日が経った。


我が名は玄丸。黒猫として真白の屋敷で暮らす元魔導王だ。葛上真澄という半妖の家令、彼との出会いは、我にとって大きな意味を持つものだった。


何故なら、彼もまた、真白を想う者だったからだ。



秋の午後。


我は真澄と共に、屋敷の裏手にいた。


真白は母の看病をしている。その間、真澄が「少し話がある」と、我を連れ出したのだ。


「玄丸殿」


真澄が、木陰に座って我を見る。


「貴方には、話しておきたいことがある」


真澄の表情が、いつもより柔らかい。


恐らく、自分の過去を、語るつもりなのだろう。


「私が、まだ子供だった頃の話だ」


真澄が、遠い目をする。


「葛上の血を引く者は、人からも妖からも疎まれる」


真澄の声が、静かに響く。


「人の里では、妖の子として恐れられた。妖の世界では、人の血が混じった穢れた存在として蔑まれた」


真澄の拳が、僅かに握られる。


「居場所が、なかった」


その言葉に、我は、共感した。


我も今、似たような立場だ。人でも、猫でもない。どちらにも完全には属せない。


「ある冬の日、私は、死のうとしていた」


真澄が、苦しそうに続ける。


「どこにも居場所がないなら、いっそ消えてしまおうと」


我は、じっと、真澄を見つめた。


「だが、その時、一人の男性が声をかけてくださった」


真澄の目に、温かい光が宿る。


「藤原家の先代当主、真白姫君の祖父だ」


真澄が微笑む。


「『お前は、何故そこにいる』と問われた」


真澄が当時を思い出すように、空を見上げる。


「私は答えた。『居場所がないから、です』と」


真澄が静かに笑う。


「すると、その方は言われた」


真澄の声が、優しくなる。


「『では、ここがお前の居場所だ。我が屋敷で、共に生きよう』と」


その言葉を聞いて、我の胸が、熱くなった。


真白の祖父、良い人物だったのだろう。


「以来、私は藤原家に仕えている」


真澄が我を見る。


「そして、真白姫君が生まれた時、私は誓った」


真澄の目が、真剣になる。


「この方を、命に代えても守ろうと」


その眼差しに、深い決意が宿っている。


「姫君は、私にとって、全てだ」


真澄が、静かに言う。


「だから、玄丸殿。貴方にも理解していただきたい」


真澄が我を見つめる。


「私は、姫君のためなら、何でもする。たとえ、この妖の血が暴走しようとも。たとえ、自分自身が姫君の敵になろうとも」


真澄の目に、覚悟が宿っている。


「その時は、貴方に頼む」


真澄が、我に向かって頭を下げた。


「私を、止めてくれ」


我は、驚いた。


真澄は、自分が暴走した時のことを考えているのか。そして、その時は我に、自分を止めてほしいと。


「貴方なら、できる」


真澄が顔を上げる。


「貴方は、ただの猫ではない。何か、特別な力を持っている」


真澄が微笑む。


「だから、頼む。もし、私が姫君を傷つけようとしたら、私を止めてくれ」


我は、少し考えた。そして、「にゃあ」と鳴いた。


承知した。もし、その時が来たら、我は、お前を止める。真白を守るために。


真澄が、安堵したように微笑んだ。


「ありがとう」


真澄が我の頭を撫でる。


「頼もしい仲間だ」



真澄との話が終わり、屋敷に戻ると、真白が迎えてくれた。


「玄丸、どこに行っていたの?」


真白が心配そうに我を抱き上げる。


「真澄が連れ出したのね。ごめんなさい、心配したでしょう」


我は「にゃあ」と鳴いた。心配には及ばない。ただ、真澄と話をしていただけだ。


「玄丸」


真白が、我を見つめる。


「真澄も、あなたのことを信頼しているのね」


真白が微笑む。


「二人とも、私を守ってくれる」


真白が我を抱きしめる。


「私、幸せ者ね」


その言葉を聞いて、我は、思った。


幸せなのは、我たちの方だ。真白を守れる、という幸せ。真白の傍にいられる、という幸せ。


それは、何にも代えがたい。



夜。


我は窓辺に座り、月を見ていた。


今日、真澄から聞いた話を思い返す。


半妖として生まれ、居場所を失い、そして、真白の祖父に救われた。真澄の人生は、苦難に満ちていた。


だが、今は、居場所がある。藤原家という、真白という、居場所が。


我も、同じだ。


かつては魔導王として世界の頂点にいたが、孤独だった。だが、今は、真白という居場所がある。


居場所、か。


それは、何よりも大切なものかもしれない。


力も、地位も、全てを失っても。居場所があれば、生きていける。


真白の部屋から、優しい声が聞こえた。


「玄丸、おいで」


真白が、布団の中から呼んでいる。


我は、真白の元へ駆けていった。


真白が、我を抱き上げる。


「今日も、真澄と仲良くしてくれたのね」


真白が微笑む。


「真澄は、本当に優しい人なの。でも、時々、寂しそうな顔をするわ」


真白が、少し悲しそうに言う。


「きっと、辛いことがたくさんあったのよね」


真白が我を見つめる。


「玄丸、真澄のことも、よろしくね」


我は「にゃあ」と鳴いた。


承知している。真澄は、我と同じだ。真白を守る者として、共に戦う仲間だ。


「ふふ、ありがとう」


真白が我を抱きしめる。


「玄丸がいてくれて、本当に心強いわ」


真白の温もりが、心地よい。


「おやすみなさい、玄丸」


真白が、優しく呟く。


我は、真白の腕の中で、眠りに落ちた。


今日も、良い一日だった。


真澄という仲間を得て、真白を守る決意を新たにした。


そして、何より、真白の傍にいられる。


それが、幸せだ。


いや、誇らしい。


真白の守り人として、生きる。それが、今の我の、使命だ。


「玄丸」


真白が、我を見つめる。


「あなたには、何か秘密があるのよね」


真白の目が、優しく問いかける。


「でも、それでもいいの。あなたが私を守ってくれる。それだけで、十分」


真白が我を抱きしめる。


「真澄も、あなたも、私の大切な家族よ」


我は、真白の温もりに包まれながら、誓った。


ああ、真白。


我は、ずっとお前の傍にいる。守り人として。家族として。そして、それ以上の何かとして。


たとえ、この想いに名前がなくても。たとえ、言葉にできなくても。我は、お前を、守り続ける。

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