黎明の獣祠-Part4
ポテスの洗礼を皮一枚で切り抜けた2人。
その先に待ち構えていた洞窟にて、
一休みする事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彼らは.....この洞窟に何を見つけるのか.....
ーーそして、何を見出していくのか。
ーー極寒の凍えも忘れるほど、
洞窟の中の暖かさは偉大だった。
既に人が通ってそうな予感もある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この先に人里があるのか.....もしくは.....」
ーー自分の考えを完全に凍らせる予感.....
ヴィーナスはあり得ないと言う顔をしている。
「ダメだよ。世界は全てが安全じゃない。特に今の世の中は恐ろしいんだ。何世紀にも渡って得体の知れない未知の物体がこの世の中に干渉してくるんだ。」
ーー予感は的中しそうだった。
あの男の住処かもしれない。
この洞窟は俺たちが考える以上に
危険かもしれないんだと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この洞窟は既に人が通った痕跡がある。
人間の足跡が辺り一面に残っている。
「一度来たら.....二度とこないぜ.....」
ーー俺のこういう言葉に対して、
ヴィーナスの顔を見れば呆れているのが分かる。
ここに辿り着いたのは、俺のせいだ。
他に行くあてもなく入り口で一夜を過ごす。
明日は間違いなく洞窟から出るだろう。
あの命を狩るような吹雪が収まっていたらな.....。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーー吹雪の音が消えて、
いつしか木陰の元で横たわっている。
もう諦めたいよ.....同じ結果になるだろう。
こうやって横たわっていたい。
この世界にある幸せを掻き集めて.....
俺だけが幸せな世界になってやりたい。
番兵なんてクソ喰らえだ。
俺の耳にあの激しい吹雪の音が戻ってくる。
俺は目を覚ましたことに気がついた。
ヴィーナスは.....どうやら.....。
『ハグー.....ハグー.....』
なるほど。ヴィーナスは疲れたんだな。
外に目をやると、吹雪は止んでいない。
もうこの洞窟を進むしかないだろう。
「おはようフレン.....ああ、まだ止んでないみたい」
ーーヴィーナスが起き始めた。
「起きたのかヴィーナス。まだ止んでないみたいだから外には出られないな。ここで待つか?」
この吹雪が止むまで待ち続けるのは
少し気が滅入る気がする。
「フレン。先に進もう。待っている暇はない。携帯用の松明は持ってる。洞窟の先へ進もう。ほら、これは獣も寄せ付けない特殊な石炭を使ってるんだ。」
そうやって独特の香りがする松明に
ーーマッチで火をつけ始める。
その光景がとてもお淑やかに見えた。
俺たちが進むのは洞窟の少し先、安全を確かめるのと、向こう側に通じる通路があるか探すためだ。
「暗いな。これは1人では来れそうにないよ。まともに人は来ないだろうし、本当に大丈夫なのかな。」
ヴィーナスは昨夜のように呆れた拍子を見せた。
「フレン。立ち止まらないで。君は騎士にならないといけない。そして誰よりも大きな宿命を背負っている。成就する者の宿命が君にあるんだ。必ず神聖を見つけなきゃいけない。」
ーーそう言われたが、
俺はこの神聖とやらにウンザリしている。
3週間の間もこの存在に振り回されて、
自分の存在や出生も分からないまま、
ずっと見たこともないものを探す旅をしている。
「神聖って何だ。本当にあるのか?」
俺はヴィーナスにそう聞いた。
神聖というものが俺に必要なのか。
もう一度確認したかった。
ーーただ.....俺はすぐに聞くのをやめた。
「今は足を動かさないとな.....」
ーー洞窟の足元は滑りやすい。
まるで滑り台が永遠に続いてるようだ。
暗くて足元が正確じゃない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フレン。ヴィーナス。お前たちの会話は筒抜けだ。全く最悪な所に来たな。俺はお前らのような哀れで、間抜けで、腑抜けで、勘違い野郎じゃなくて心底良かったと思ったぜ。」
..........!
「誰だ!」
ーーヴィーナスは声を張り上げる!
周りを見渡しても誰も見つからない。
「まあまあ落ち着けってぇ。騒いだって不利になるのはお前らだぜ?えぇん?自分の置かれている状況を把握することだな。」
ーー謎の男の声が聞こえる。
「誰なんだ。そして.....え?」
気付いたら下に大きな魔法陣が現れたではないか!
「俺の魔力を舐めないでもらいたい。お前らを嵌めるために用意したんじゃない。絶大な存在がこの洞窟にいるんだよ。お前たちよりも、圧倒的強者の存在がァ!」
魔法陣が男の声と共に激しく浮かび上がる!
「これはまずい.....!」
ヴィーナスが対処するも遅かった!
足に茨が巻き付いていく!
ヴィーナスの足が出血し始める!
「はっはっは!もうダメだなぁこれ。呆れるぜぇほんと。洞窟の中で松明付けてりゃ良いってもんじゃないのよぉ。じゃあ、姿形見られる前にさようならと行きますかね。」
ーー男がそういうと、
ヴィーナスの全身に茨が伸び始める!
俺も何とかしたい.....!
でもどうすれば良いんだ!
「フレン!僕のバッグだ.....!僕のバッグに剣が入ってるはずだ!それを取って、奴を見つけ出せ!君なら出来る.....!」
ヴィーナスはそう言って茨に囲まれた。
ーー俺はバッグに向かって目を背けず走っていく!
あったぞ。これが剣か.....四頭分の刀身に二枝に分かれた柄。鋭いクレイモアが入っている。俺はクレイモアをバッグから引き抜くように取り出して、自己流の持ち方で構え始める!
「良い剣じゃねぇかヨォ!お前らを殺したらそれが手に入んのか?良いじゃねえか!そんな小細工を持っていたって俺の魔法陣の効果には勝てない。お前たちの会話を聞いていたからなァ!」
俺たちの会話.....?何のことだ。
ーーこいつは俺たちの会話から
何かを察しているというのか.....?
「ヴィーナス!今助けるからな!」
ヴィーナスを助けに行かなければ!
「フレン!奴を狙え.....」
そうヴィーナスが声を小さく上げる。
「奴を?どうやって狙うんだよ。」
ヴィーナスの指示に戸惑う。
「奴が魔法使いだ。魔法使いは生命の源である根源、それを持つ素質があるものが魔法を使えるんだ。僕にはわかる.....フレン、魔法陣があるだろ.....?それ自体が奴の正体だ!」
ヴィーナス.....なんで分かる?
俺は魔法陣に剣を振り下ろす。
しかし!剣は木っ端微塵になってしまう!
「あのなぁ。気づけヨォ。お前たちから盗んだ情報があるから、俺をやっつけるなんざ無理だぁ。1人は何も出来ない野郎だが.....2人目は魂の根源を秘めている.....それさえ分かれば、俺の魔術は通用するって分かるんだよ。」
ーーしまった.....秘密が悟られてしまっている!
ヴィーナスの茨が強く巻き付く!
生命をストローのように吸い上げる!
もう駄目だ、このままじゃ持たないだろう!
ヴィーナスが次に策を俺に提示する!
「僕が君に神聖を渡そう.....保証は出来ないが、君のアミュレットに力を与えるはずだ。お願いだ。奴の魔法陣を切り崩せ!」
ヴィーナスから光の集団が飛び出て、
俺の元に幽遊とやってきた!
「これが神聖か.....ヴィーナスの!?」
俺の体にその神聖の集団が宿った途端、
不思議な事が起こり始める!
微かだが、アミュレットが光る!
「俺に力が.....ヴィーナス!」
ーーヴィーナスの茨は動かなくなった.....。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「覚悟しろ!お前!」
ーー俺は折れたクレイモアを手に取る!
その途端、折れたはずのクレイモアの刀身が
見事なまでに立派に復活したではないか!
俺は魔法陣にそのクレイモアを振り落とす!
「ぐぉお!危ねえなテメエ。何やってくれてんだよ.....たく、厄介な野郎じゃね?その剣.....もう絶対に折れることはねえだろ?俺は相手のやる事に対して解像度を上げて見る事が出来る.....何処までもな.....」
ーー遂に.....奴の姿が目視出来る!
奴の肌は黒く、毛皮の服を身に纏う。
そして、ヴィーナスの茨が解き放たれ、
彼は横這いになる。
「舐めなくて良かったぜ。ただの旅行感覚の馬鹿じゃねぇことは分かってんだ。ただな、油断っていうのは慢心と優越の権化だ。俺はそれが世の中で最も恐ろしい恐怖だと思ってる。常にそれは自分を退化させ、陥れるんだぜ。」
俺は奴の気迫に押されてしまった。
彼は手持ち無沙汰じゃない。
この世のものでない何かを纏っている!
「お前の名前は!目的はあるのか!」
ーー俺は奴の素性を問いただす。すると.....!
「ヴォイドリアは魔境だ。この世にいつでも干渉している。ただの御伽話じゃない。俺はエーテル由来の魔法は使えないが、ヴェクターラに与えられた魂を操る事ができる素質を持っていたんだ。小細工は.....いくらでも出来るぜ。」
ーー奴の手から大量の茨が!
それが大群となして向かってくる!
「殺される.....ヴィーナスも動けない.....」
俺は薙ぎ払うように無造作な動きで剣を振るう。
それらは無駄かのようにも思える.....
しかしその瞬間、茨が粉々になる!
「なんだテメェはぁぁ!何の能力だ!その剣技は!一瞬下手くそな横薙ぎかと思ったが、素質がちげえ.....見くびっていたぜ.....お前はただの人間じゃないな?名を聞こう.....お前は誰だ?」
ーーその問いに答える気などない。
「名前と目的を聞いているのは俺だろうがー!!」
ーー俺は奴に向かって再び剣を振るう。
次は大きく振り上げ、下に勢いよく下ろした!
「クソメェ!なんだこれは!」
奴の嘆きが聞こえてくる!
効果はあるのか.....?
「テメエの斬撃は洒落になんねえ.....斬り下ろすと同時に波動が刃のように向かってきやがる.....お前の《エーテル》の恩恵は只者じゃねえ.....」
エーテル.....?何だそれは。
「お前!何を言っているんだ!」
ーー俺は再び奴を問いただす!
「この世の生命の権化だと思って死ねぇ!」
奴が手を振り出すと、茨が辺り一面に広がる!
ーー何なんだこいつは.....どんな能力だ.....。
「考えろ.....こいつは明らかに何かを悟っている.....俺たちの素性が分かっている。なら、何を逆手にとる.....考えろ。奴は俺たちの行動までは読めないはずだ.....奴の予想を超える一撃を!」
そして、俺はある事に気がついた。
茨がヴィーナスに絡まっていた瞬間を。
「そうか.....ヴィーナスが魔法陣の正体に気付いたのは、茨の魔法には魂ってやつが宿っていない。つまり、隠された魔法陣という概念が俺たちが入り口で会話していたのをバレずに聞くことが出来たのを理解していた。そして、奴が姿を現し、茨の魔法は解けた。奴は形態を変える事によって性質が無力化されるんだ!これだ!」
俺は奴に急接近で近づいていく!
奴は見透かしたように茨の魔術を
俺の懐に忍び込ませて絡めていく。
「テメエの人生も終わりだ!俺の目的も何も知らねえで、よくも朦々とここに来れたぜ!つまらねえ人生を見せてくれてありがとよ!」
まずい.....奴の形態を変化させるためには.....
もう考えるしかない。奴の落とし穴を.....。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーーおい.....待ってくれ。
「お前.....俺に悟らせたな。お前は俺の能力が最大限見えている。この技以外にも、見えているんだな。お前は剣に茨を巻きつけている。ただ、俺の方には巻きつけていない。つまり、剣を恐れているんだな。」
俺は咄嗟にアミュレットを投げ捨てる。
そして、絡んであるクレイモアは
再び茨の力によって折れた。
「テメエ!何のつもりだ!無駄なんだよ!」
奴は怨嗟を飛ばすように叫ぶ。
俺は再びアミュレットを身につけ、
クレイモアに触れていく。
すると、剣の刀身が再び戻る。
「残念だな。いくら能力が理解できたって、それは表向きのルールを知っただけにすぎない。俺は騎士として、お前らの同胞を狩るものとして宣言する。ヴォイドリアの悪魔たちをエインウィルに入れさせはしない!絶対に!」
奴はその事を聞くと驚いた表情で、
最後の抵抗をしようと試みる。
ーー奴の姿が巨大な魔法陣へと変形する!
「お前.....相手の能力ばっかり知って、自分の能力は一切見えていないんだな.....」
ーー俺はそう奴に言い放つ。
「なに!?」
奴は俺の言葉に反応を見せる。
「相手の短所だけ付け狙い、自分の長所や弱点にも気付かない無様な生き様だ。お前らのような人間は俺の手で倒しきる。」
俺は巨大な魔法陣に無造作な大振りをかます!
当たらなくてもいい.....当たる事だけが命じゃない。
茨は再びリセットされ.....俺の斬撃を通す。
「グアア!もう.....死んでしまう......」
奴の悲鳴と共に、俺の斬撃によって
ーー巨大な魔法陣が崩れ落ちていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
奴は倒れ込み、捻り出すような声で俺に言う。
「俺は.....ずっと見くびってたよ.....こんな知らねえ所で死ぬのも本能じゃないんだよ.....ただ、俺は人生に違和感を感じて、新しい力が欲しかったんだ.....自分に自信が欲しかった。少しの間でも良いから、ただ優越感に浸りたかったんだ.....」
ーー俺は奴の言葉を飲み込んだ.....。
「お前の.....本当の名前を教えてくれ.....」
ーー彼に優しくしてみようと思ったんだ.....。
「俺はペドロだ.....お前からは優しい匂いがするぜ。貧困街にいたとき.....そんな奴もいたな.....お前の.....人生なんて知らねえが.....俺と.....似てるんだ.....昔の俺だよ.....過去なんて、当時、クソ喰らえだと思っていたんだが、こうやって.....今に見ると美しい.....」
ーー奴の言葉に圧巻した。
ペドロ.....君もまた、外の世界も見えない、
そんな空間で生きてきたんだろう。
「俺の名前.....知ってくれたか.....」
ーーそうやって.....奴はそっと目を閉じた.....。
次回:ポテスの洞窟にはペドロというヴォイドリア異教徒の同胞が潜んでいた。彼の能力を掻い潜った末に、ヴィーナスから受けたエーテルという謎の力により、ペドロを撃破する事に成功したフレン。
ヴォイドリアの王、ヴェクターラの信者が集うアジトは近い.....彼らは雑貨店の店主を見つけなければならない。茨の魔術によって負傷したヴィーナスは無事なのか.....?神聖な力、エーテルとは何か.....?この世界の神秘溢れる体験には目を疑うばかりである。




