屈強な男に新たな名を!!-Part13
シルトマー下層区域で迷子になったペドロだが、
偶然、明かりがついている家屋を発見した。
暗がりを戻る勇気も無く逃げ込んだが、
思いの外、家主の歓迎を受ける.....。
——また一方で、フレンとシャーロットは、
シルトマーで多発している事件を捜索する為に、
通報があった納屋を調査する事になった.....。
——シルトマー下層区域にて、
「ああ、もう暗えな!デカくて高い建物がこんなにも立ち並んでいるからかよ!まるで都市一個分枯れたみたいだぜ!ガラの悪い奴多いしよ.....まあ、もしこの俺様に触ってきたらぶっ飛ばしてやるけどな!!」
——そこには愚かな1人の男がいた。
屈強でハンサムなヤングマン.....
その名も、《ペドロ》であった!
「来るんじゃなかったぜ。って後悔してもおせえよなぁ。ここは混血の種族がハブられてて見てらんねえ.....こういう所に光を与えてくれる奴は、この世に1人も居ねえのかな.....」
——ペドロは考えた.....
その惨状を目の当たりにし、
自分の存在意義を導出したのだ!
「俺はここの奴らを助け出して仲間にしてやるぜ!したらきっと、コイツらも俺みてえな酷い境遇に遭わずに済むのかもな!」
暫くペドロは暗い夜道を進んだ.....。
松明一つも灯されていない道路を、
ひたすら真っ直ぐに進んでいくのだ。
——やがて、一軒の家屋に辿り着く.....。
「おーい。こんな暗えのに、ここだけ明るく中が光ってやがるぜ。もう暗いのは怖えし限界だな.....ちょっと頼りになってみるか.....!」
ペドロはその不可思議な決断をせずに居られなかったのだ!
(バンバンバン!)
「おい。すまねえが、開けてくれるか!?もう外が暗くて来た道を戻る気力がねえんだ!頼むぜ。」
——哀れな他力本願.....だがしかし。
「もう開いているよ〜。」
中からは若々しい少女?の声が聞こえてくる。
この時、ペドロは完全に安堵していた。
「本当か!んじゃ開けるぜ〜!」
(ガチャ!コ!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
——扉が勢いよく開いた。
中は正しく明るく、薄暗い外と比べて、
あり得ないくらいに整理されている空間であった。
大きな木棚に博識な本が立ち並び、
所々に観葉植物が植え付けられている.....
そして、何やら花の良い香りもするでないか!
「お、おい。さっき誰か返事したよな?だ、誰も居ないぞ!あ、あんた。何処にいるんだ!?」
ペドロが家の中に入っていくと、
本棚の傍にあるテーブルに、
等身が高い水色髪の少女が腰掛けていた。
——ペドロは、奇妙にもその美貌を怪しく思う。
「ようこそ。お客さんなんて初めて.....貴方、ここが見えるみたいね.....羨ましいわぁ.....」
——何やら謎な事を言っている.....。
ペドロは内心、ますます怪奇に思う。
「え、えっと。駄目だったか。そ、そらぁ知らねえ奴を家に入れるなんて、い、いけねぇよなぁ.....あ.....」
「駄目?.....ですって.....ふふ。駄目ではないわよ。貴方はここが見えるのだから、私が招き入れただけよ。こういう場所はお好き?お茶しましょう.....」
——少女は立ち上がる.....。
ペドロ程では無いが、身長は高い様だ。
「えっと、よぉ。招き入れて貰って悪いんだが、あんまり知らねえ奴が淹れたお茶、飲みたくねぇなと.....内心、お前のことあんま知らねえしよ.....」
ペドロは少女相手に怖がる様子を見せる。
ああ、ペドロ。なんて卑猥な事なんだか。
——しかし、少女は楽しそうにしている。
「ゆっくり.....していけばいいわ。お客さんなんて貴方が久しぶりよ.....貴方みたいにユーモアがある人がここに居てくれるだけで嬉しいわ.....さあ、そこのテーブルにお掛けなさい.....お話.....しましょ.....」
「あぁ、わ、分かったぜ!」
——ペドロは全てを読まれた様に感じた。
少女はお茶を淹れると、ペドロに差し出す.....。
「内心.....自分の心を打ち明けるのね。素直な子.....貴方みたいに誠実な人が好きよ.....お友達から始めましょう.....きっと仲良くなれるわ.....」
「《オトモダチ》から.....って!おい!なんか今後俺達との絆に将来性がほぼ確定してるみたいな言い方すんな!まだ会ったばっかりだぞ!」
——急に、彼女が黙る.....。
ペドロは彼女に見つめられている。
彼女の美貌が全身の強張った筋肉を安堵させ、
“別の緊張”へと持っていく.....。
「お、俺さ。ここに来た理由がイマイチ分かんなくてよ.....シルトマーを仲間と歩いてきたら、あまりの広さに迷子になっちまって.....気付いたらここに.....」
——ペドロは事情を少女に話す.....。
「へぇ.....不思議ね。理由もないのに偶然、ここに貴方は迷い込んで.....私と会った.....運命なのね。」
ペドロは彼女に見つめられ続ける。
——精神的な緊張が続いている.....。
「えっと、お茶と菓子.....いいか?」
——ペドロは彼女の意識を逸らす為に、
用意されたアフタヌーンティーへと手を出す。
彼女はそれでも、黙ってペドロを見つめる.....。
「えっと.....さ.....名前教えてくれねえかな.....お友達からって言うなら、その、名前くらい知り合っておいた方が良いかなってよ.....おう.....」
——すると、彼女が口を開いた。
「私はフィバリ.....貴方の名前、教えてくれる?」
「フィ!フィバリか!ああ、良い名前だと思うぜ!な、なんか馴染み深いっつーか!これからオトモダチになるには打ってつけだなっつーか!ハハ」
——ペドロはかなり混乱する。
「まあ!俺はペドロだ。宜しく.....」
——少女がまた喋る.....。
「ペドロ.....苗字は無いのね。」
「え?」
驚く事に、ペドロに苗字がない事を知っている.....。
——そして、彼女は再びペドロに聞いた。
「本は好き?知識を語り合うのが癖なの.....」
彼女はそうペドロにアプローチした。
「好きだぜ。最近だと料理にハマってるから、料理の本とかが読みたいなと.....」
すると、突然少女は立ち上がる.....。
彼女は本棚にある一冊を取り出して、
ペドロの目の前で開いて見せる。
「ここに全てが載ってるわ。」
開いた本を閉じると、ペドロにゆっくりと差し出す。
「貴方は今、生きがいを見つけたのね。」
ペドロは渡された本を手に取って、
ゆっくりと慎重に開いてみせる。
「なんか、いっぱい載ってるな。材料とかレシピとか工夫とか、コツって言うのかな。とにかく、なんかありがとうな。面白そうな本だぜ。」
——最初の警戒が徐々に解け、安堵に変わる。
少しずつ、ゆっくりと彼女の魅力に惹かれる.....。
「アンタ。いや、フィバリは何が好きだ?」
——彼女は少し考えたフリをする。
「自分のこと.....全て.....自分のことよ.....」
フィバリは落ち着いた様子で話す。
「まさに全てが哲学。この世は議論の余地がある。いつもそう思ってる。貴方.....対話は出来る?貴方の事を深く知れたら、すっごく楽しいと思うの.....」
——そして、興味津々にペドロを見つめる.....。
「ああ.....自分の事、か。俺は料理作った事ねえけどよ、料理をいつか自分で作れるようになって、沢山の奴に喜ばれたいぜ.....フィバリよ.....アンタは.....一体何者なんだ。」
すると、フィバリは初めて視線を外した。
「私は能力を見るのが好きなの。貴方もそうでしょ?最初に会って.....形としての印象がわかって、それで殆どの人間は終わるけど、貴方も私も相手にどのような能力があるか、それを見て付加価値を付ける。」
「言われてみりゃーそうだけどよ.....アンタも相手のスキルを垣間見る事が出来るのか?」
それにフィバリは少し混乱して話した。
「全てを見る事が出来る。貴方の優しさも、能力も、考えも、全てが見える。何年も生きてきて貴方が初めて、対象を深く見れているよ。」
——ペドロは凄く恥ずかしかった。
「全部見られてるなんて酷いぜお姉さんよ。それに、ケーキも何もかも食べてしまったぜ。こんなの初めて食べたから驚きだが、まあ良い経験だった。」
「貴方はとても価値が高いわ.....」
——少女は大人げな瞳を麗している。
そして、本棚から新しく本を取り出して、
ペドロに再びゆっくりと差し出した.....。
「ま、また新しい本か.....次は何なんだ.....?」
「貴方についての本.....貴方が自分を見るために、きっと力になってくれるわ。他人の価値を垣間見ることが出来ても、貴方は貴方を知らない.....それってとても残念な事だから.....」
少女はお茶を濁して立ち上がる。
「貴方はもっと沢山のことを見れるはず。そして、全てが終わったら、またこの家に来てね.....」
——突然、ペドロが光り出す!
「お、おい!まだ終わってねえぞフィバリ!」
「またね。ペドロ=アルマレス。貴方はきっとここに来れる。価値を悟り、価値を通して物を見る。そういう深い生き方が、貴方には必要だと思うから.....」
「ペドロ.....アルマレス.....!?」
「私の作った.....貴方だけの名前.....」
——そして、ペドロは眩い光に包まれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おいシャーロット。事件の捜索も早めにすませたい。俺の目的はあくまで東の竜を討伐する事だからな。賞金とかそういう話じゃないんだぜ!」
俺はシャーロットに目的を語る。
「何言ってるんだお前は!未解決の事件を早めに済ませるだって!?ふんじゃあそれなりにテキパキ動いて頂きますよ。全くお前は社会を知らないぜ。自然に野放しにされた子鹿は生きていけないんだよ。」
また、シャーロットに皮肉を言われる。
——これで15回目だ。もうウンザリだぜ。
「ったくよ!良い加減馬鹿にするのも大概にして欲しいぜ。俺はお前と連む気なんて一切無かったのによ!ーー事件なんて、お前は幾らでも解決してきたって聞いたぞ!さっさと証拠分析して捕まえるぜ!」
シャーロットが巻きタバコを吸う.....。
「おい!無視するなよ!つーかタバコやめろ!」
「いちいちうるさいぞ。黙っててくれ.....通報がある納屋に入る。お前もこれから準備しろ!」
——シャーロットに急かされ、持ち物を整理する。
「とりあえずお気に入りのクレイモアは備えておいたけど.....今は神聖がないから力を発揮できねえな。ま、流石に.....この鉄剣を折る奴は居ないか.....」
俺とシャーロットは目的の納屋に到着、
どうやら近隣の住民が野次馬の様に群がっている。
「おい捜査する。邪魔だ邪魔だ。」
シャーロットが強引に住民を退けて納屋に入る。
そして、俺もシャーロットに続く.....。
——納屋の扉は半開きだ。
まさに誰かが侵入した形跡がある。
「これは、危険だ。異臭が漂う。ここまで漂うというこよは、既に殺された遺体があって、かなり時間が経っている証拠だ。この納屋を調べたら直ぐに次の行動へ移る!フレン!お前が邪魔なら置いてくぞ!」
そう急かして先へ行くシャーロット。
しかし、考察はかなり鋭い物だ。
入った地点で状況が分かってしまうとは.....。
——薄暗い納屋を進んだ.....そして.....
「うぉ。これは.....うぅ.....」
——シャーロットが一歩下がる.....!
「どうしたシャーロット!う!うぅ.....」
——薄暗い納屋の中、藁に包まれた遺体.....
既に腹が切り裂かれ、臓物が飛び出し、
目は抉られ、顎は開放骨折している.....!
「ここまでの所業を.....かなり事件性が高い!フレン、辺りを警戒しろ!俺は証拠になる物を探す。血痕や落とし物があったら教えろ。」
そう言ってシャーロットは辺りを入念に捜す。
俺は同伴者として無論、警戒を怠らない.....。
「あったぞ!これは.....道具がある!」
——シャーロットは状況を推測し始めた.....。
「おそらくだが、この被害者が殺されて直ぐに住民の駆けつけがあったんだろう。緊迫した状況下で犯行道具を落としたのはかなり痛手だな。普通ならこれだけでは見つからないが、俺には能力がある.....」
——そしてシャーロットは指を輪のようにした!
その手を顔に近づけ、輪の中心を見るようにする!
「《ダイアモンド・パースペクティブ》!!」
シャーロットの能力が発動した!!
おそらく.....エーテルを宿している!!
全ての行動や結果が透けて見え、結論に帰結する.....
時空を超えて周りに犯行当初の状況が浮かび上がる!
「見える見える見える見える見える見える見える見える見える見える見る見える見える見える.....」
繰り返し『見える』と言い続けるシャーロット。
「血痕が続いている。出口は南側の窓.....そして、道具についた指紋からは犯人の顔が連想できる.....行動原理を読み取る.....ん?こいつら!.....」
——そう言った途端!!シャーロットは叫ぶ!!
「フレン!納屋の中に1人いるぞ!」
——振り返る!そして!!
「ふひゃぁ!スゲエ能力だ...なぁぁぁぁぁぁ!!!」
刃物を持った男が飛び掛かってくる!
——俺はクレイモアで奴の刃を弾き返す!
「あれぇ.....?物騒なモン持ってんじゃんか!流石に分が悪いじゃんか!?やれやれ.....だがお前は直ぐにあの世生きじゃんかぁぁぁ!!」
——奴の電光石火のような一撃が頬を掠る!!
「フレン!大丈夫か!」
「黙れシャーロット!コイツは俺がやる!」
クレイモアに一心に力を込め奴に繰り出す!
——しかし!簡単に避けられる!
「やれやれぇ!!やれやれやれぇぇ!?」
奴が刃に力を込めて突進してくる!
「ファアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
——力強く無駄のない動きで繰り出される連撃!
「ぐぅ.....ぐぅあ!!」
——俺の腹を奴の刃が通り抜ける.....!
厳しい.....このままだと厳しいぞ!
「クレイモアなんてデカい武器!この狭い納屋じゃ逆に不利になるだけだ!無駄なんだよ!」
——すると、シャーロットが切り口を打つ!
「フレン、無様晒しやがって!《アレスト・チェーン》!この狂人を永久に捕えろ!」
シャーロットの《アレスト・チェーン》!!
何だこれは.....この狂人を強力な鎖が捕捉する!!
「な、なんだこれはぁぁぁ!!」
その鎖は壁・天井に食い込み、対象を固定した!
「伏兵なんて要らなかったな.....衛兵を呼ぶぞ。フレン、怪我はどうだ。無事なら早く立て。」
またもやシャーロットに急かされる.....
何なんだこいつは.....一瞬で対象を拘束して.....
「ぐぁぁぁ!!」
——狂人が完全に固定される。
「フレン、俺のダイアモンド・パースペクティブで時空を超え、状況を確認したが.....犯行を行ったのはこいつ1人だけじゃない.....!」
畜生。とんでもねえ.....複数人いやがるのか!
「全員手慣れだ!気をつけるぞ!」
——そう言ってシャーロットは奴に近付いた.....。
「お前のことは今から城に連行しよう。シルトマーの多くの民の命を奪った罪を、その下衆の口で赤裸々に白状し、相当な拷問を受けると良い.....」
——こうしてシルトマーで初めて、
この未解決事件が解決に向かったのだった。
次回:尋問の必要性を感じたフレンとシャーロット。シャーロットの能力の影響を受けて拘束状態になった犯人を、城の尋問室に連れ帰る事になり、事の発端や事情が明確になっていく.....。
——そして、またあの魔道炉にてエルフと再会する.....。




