パート4：騎士とスマートフォン
私は、あたかも粗末に維持された守備隊を視察する君主のように見えるよう努めながら、威厳ある仕草でカイトについて行くことを受け入れた。彼は私を外へと案内した。そこでは、空気が痛々しいほどの強さで振動していた。看板の光はあまりにも明るく絶え間なく、灰色の空に星がないことを補おうとしているかのようだった。
これが魂のない商業だ、私は考えた。冷たいモノリスのようにそびえ立つガラスの建物を観察しながら。アストレアでは、控えめな鍛冶屋の店でさえ、ガーゴイルや紋章があった。ここにあるのは、光る文字とファストフードの写真だけだった。
カイトは無謀だと考えるようなペースで歩き、地面のひび割れまで知っている人のように群衆の中を移動していた。私は、ガウンが地上の汚れを引きずらないように注意しながら、彼のペースについていくために意識的に努力しなければならなかった。
—見て —カイトは缶コーヒーで高い壁を指差した。壁はカラフルなポスターで覆われていた—。 あれ、俺のお気に入りの店の一つだ。アクションフィギュアを売ってるんだ。俺の車よりもディテールが細かい鎧を着た騎士がいるだろ。
私は突然足を止めて、ポスターを分析した。私の世界（または、少なくともそのファンタジー）の戦士が、巨大な剣を持ち、英雄的なポーズで描かれていた。
—その鎧は歴史的に不正確だ —私は軽蔑を込めて断言した—。 胸当ては両手剣からの適切な防御を提供していないし、兜は彼の周辺視野を損なうだろう。開けた戦場では致命的な怠慢だ。
カイトは振り返り、半分面白がり、半分うんざりしたような表情で私を見た。
—いいね、「公爵令嬢」。それ、アニメの収集用のプラスチックフィギュアだよ。機能的であることじゃなくて、かっこよく見えることが目的だ。まあ、この通りはそういう場所が多いことで有名なんだ。アキハバラって呼ばれる場所だけど、もっと上品な感じかな。
—そして「アニメ」とは何だ？ —私は尋ねた。彼が使うすべての言葉が障壁であり、この不条理な世界の新たな層だった。
—描かれた映画みたいなものだけど、もっとずっと良いんだ。それは… 複雑だ。ほら、家に行こう。もうすぐそこだ。
静かなコミュニケーションの謎
私たちが交差点を渡る間、私は奇妙な社会的習慣に気づいた。多くの人々が角に立って、何かの合図を待っていた。ある音が鳴り響き、信号が赤から青に変わると、群衆は規律ある群れのように一斉に動き出した。
しかし、私の注意は、私たちの近くを歩いている二人の若い女性に集中した。彼女たちは買い物に出かけるような服装をしているように見えた。彼女たちは並んで歩いていたが、会話を交わしていなかった。
二人ともその小さな平らな人工物（「スマートフォン」）を手に持っており、彼女たちの表情は画面と歩道を交互に見ていた。彼女たちは、ある意味で、一緒だが離れていた。
—カイト —私は、彼の袖を軽く引っ張りながら囁いた（かつての私には考えられない行為だった）—。 あの二人。仲たがいしているの？一緒に歩いているのに、言葉を交わさない。何かの沈黙の罰を受けているのかしら？
カイトは足を止め、親指で自分の携帯電話の画面をつけ、微笑んだ。
—あの二人？いや、全然。たぶん、アプリでメッセージを送り合ってるんだよ。話さずに話すんだ。急いでいるときは声に出して話すより早いし、面白いスタンプも送れるんだ。
話さずに話す。 それは、一言一言が宝石の重さで選ばれる貴族の弁論術とは正反対だった。私の世界では、沈黙は戦争の合図か深い瞑想の印だった。ここでは、それは友情のカジュアルな形だった。
その概念は私を魅了すると同時に嫌悪感も抱かせた。
平民の家
ついに、私たちは大通りから離れ、より狭く静かな路地へと曲がった。ガラスの建物は、低く無味乾燥なコンクリートの構造物に取って代わられた。料理と湿気の匂いがより強くした。
カイトは、小さく素っ気ないアパートの建物の前で立ち止まった。扉は金属製で、一連の小さなボタンが付いていた。
—よし。着いたぞ —彼は言い、ボタンの一つに素早くコードを打ち込んだ—。 ここが俺の… 住居だ。質素だよ。それで、お願いだから、誰にもお茶を持ってくるように命令しないでくれよ。
—もしあなたの「住居」がお茶に必要な手段を提供できないのであれば、それは明らかに建築上の怠慢だ —私は威厳をもって反論した。
扉がカチッと音を立てるのを待っている間、私はカイトの肩越しに見た。入り口のドアの横には、しおれた鉢植えがあり、この場所の生命の小さく悲しい表現だった。通りの向かい側には、一列に並んだ錆びた自転車が手すりに鎖で繋がれており、すべてビニールシートで覆われていた。
セシリーは、絹商人の家への表敬訪問が高度に振り付けられたイベントであった子供時代以来、平民の家に入ったことがなかった。
金属の扉が摩擦音を立てて開いた。カイトが先に入った。
—ついてきて。エレベーターは小さいけど動くよ。衛兵の騎士が突然入ってくる心配はないから。
私の心臓は、冷静さを保とうとしているにもかかわらず、跳ね上がった。衛兵の騎士。脅威は現実のものだった。しかし、カイトはそれを冗談として言ったのだ。
私たちが小さなエレベーターで昇っている間、カイトが携帯電話を見るのをやめたことに気づいた。彼の私への懸念は、間違っている（彼は私を女優だと思っている）にもかかわらず、本物のようだった。
この若者は、だらしない服装と敬意の欠如にもかかわらず、初歩的な義務感を持っている。 私は彼を研究しなければならないだろう。彼は私にとって最初で最も重要な資源だった。
