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<第四話>任務開始!

 錨泊する「氷川丸」に負傷者を乗せた輸送船「海平丸(かいへいまる)」が接舷する。接舷を確認すると、担架を担いだ兵員が「氷川丸」から「海平丸」に乗り移る。その中には雄人の姿もあった。


 「自分は下半身を持ちます。一曹は上半身を」


 「分かった」


 相方の兵の言葉に頷き、雄人は傷病兵の両脇を持つ。そして、二人がかりでその人物を持ち上げ担架に乗せた。


 「「せーのっ!」」


 二人で声を合わせて担架を持ち上げる。患者を揺らさないように気をつけながら「氷川丸」へと運ぶ。二隻の船の間に架けられた渡し板を渡り、雄人は患者を「氷川丸」船上に運んだ。


 患者を「氷川丸」に運んで来ると、船上で待機していた兵員が患者を受け取り、甲板上のハッチからクレーンを使い患者を船内に下ろす。ぱっくりと口を開けたハッチの中に、クレーンに吊られた患者がゆっくりと下ろされていく。船内に下ろされた患者は、そこから客室を改装した病室へと搬送される。これらのハッチは、貨客船時代に貨物の積み込みに使用されていた物だ。


 患者を託した雄人は空になった担架を担ぎ、相方の兵と共に再び「海平丸」へと乗り移った。「海平丸」に溢れる傷病兵を片端から担架に乗せ、「氷川丸」へと運び込む。甲板上のハッチだけでは患者を捌き切れず、比較的軽症の患者は背負って病室まで搬送するなどした。


 数時間に及ぶ患者の収容作業は昼過ぎになってようやく終わった。この収容作業で「氷川丸」が「海平丸」から収容した傷病兵は一八七名に上った。


 収容された患者たちは身体を清潔にされ、包帯などを取り替えられた。傷病兵用の白衣に着替えた患者たちを軍医士官の医師たちが診察していく。下士官や兵は診察の補助や患者の手当てにあたる。雄人も患者の手当てに携わり、他の兵たちと共同で包帯の交換や傷口の消毒などを行った。


 「・・・看護士さんよ」


 包帯を取り替えている最中、兵士が口を開いた。彼の歳は二十代中頃。雄人より少し年上だ。


 「何ですか?」


 何かを言おうとした兵士は傷の痛みに顔をしかめた。痛みが去ると彼は雄人の顔を見てこう言った。


 「ありがとな。来てくれて」


 「いえ。これが僕たちの仕事ですから」


 雄人が答えると兵士は笑った。


 「そうか。でも・・・来てくれて本当に助かった。ありがとう」




 一日の作業を終えた雄人は氷川丸が待つ一等客室へと向かった。扉を開けると、椅子に座って読書をしている氷川丸の姿が目に入った。


 「あ、お帰りなさい。雄人さん。お疲れ様です」


 「ただいま」


 扉が開く音に気づいた氷川丸が顔を上げる。彼女の顔を見た雄人は若干の驚きを覚えた。


 「あれ?氷川丸、目悪かったの?」


 「え?・・・ああ、これですか?」


 そう言って氷川丸はかけていた眼鏡を外した。


 「目は悪くないですよ。ただ、物をよく見る時は眼鏡をかけるようにしているんです。ほら、こんな風に」


 氷川丸は外した眼鏡をもう一度かけ直した。細い黒縁の眼鏡は落ち着いた雰囲気の氷川丸にぴったりで、彼女をより知的に見せていた。いつもより大人びた雰囲気の氷川丸に、雄人は胸が高鳴るのを感じた。


 「ところで、氷川丸が読んでいた本って、どんな本なの?」


 「『平家物語』です」


 氷川丸が見せたのは豪華な装丁に包まれた厚い本。表紙には平氏一族の興亡を描いた軍記物語の題名が記されていた。


 「『平家物語』・・・。渋いね・・・」


 「・・・別に良いじゃないですか。私がどんな本を読んでも」


 「それは、そうだけど・・・」


 確かに、氷川丸がどんな本を読もうとそれは彼女の自由であり、雄人に口出しする権利は無い。しかし、可憐な少女が読んでいる本が「平家物語」というのは違和感がある。


 「飲み物を取って来ますから、少し待っていて下さい」


 氷川丸は読みかけの本に栞を挟み、瞬間移動で部屋を去った。雄人はテーブルの上に置かれた本を手に取る。その本の最初の一ページを読み終わる前に、氷川丸が戻って来た。


 「お待たせしました・・・って、人の本を勝手に読まないで下さい」


 「ごめん、ごめん」


 「アイスティーです。どうぞ」


 「ありがとう」


 氷川丸は二つのグラスをテーブルに置く。グラスの中には氷で冷やされたアイスティーが注がれている。


 「このアイスティー、よく冷えてるね。美味しいよ」


 「予め作っておいた物を厨房の冷蔵庫を借りて冷やしておいたんです」


 「なるほど。上手い事を考えたね」


 「喜んでもらえてなによりです」


 嬉しそうに笑う氷川丸。と、彼女の顔に影が落ちた。


 「それで・・・どうでしたか?収容された兵隊さんたちは・・・」


 恐る恐るといった様子で聞く氷川丸に雄人が答える。


 「うん・・・。患者の殆どは身体に銃弾を受けている。銃弾が身体を貫通している人もいれば体内に残ってしまっている人もいる」


 「身体に、銃弾・・・」


 そう呟く氷川丸の顔は蒼い。恐らく、身体を銃弾が貫く光景を想像しているのだろう。唸りを上げ、猛烈な速度で我が身を貫く弾丸。肉が抉られ、鮮血が飛び散り、断末魔の叫び声が響く。その光景は例え想像のものでも少女を恐怖に陥れるには十分だった。


 「助ける事は、できるんでしょうか・・・」


 俯く氷川丸に雄人はしっかりとした口調で言う。


 「それが僕たちの仕事だ」


 「・・・そうですね。私たちが弱気でいたら、人を助ける事はできませんよね」


 氷川丸は瞼を閉じ、深呼吸を一つした。


 「傷付いた人を助ける事が病院船の務め。ならば私は、粉骨砕身の気持ちでその務めを果たします」


 氷川丸が力強く宣言する。雄人も決意を口にする。


 「僕もだ。一生懸命やるよ」


 決意の篭った眼差しで意気込む二人。すると、氷川丸が吹き出した。


 「えっ、どうして笑うの!?」


 「だって、いつもぼけっとしてるのに・・・雄人さんに真面目な顔は・・・くくっ、似合いませんよ」


 「酷っ!」


 必死に笑いを堪える氷川丸とショックを受ける雄人。さっきまで部屋を支配していたシリアスな雰囲気は一瞬の内に崩れ去った。


 「冗談ですよ。そんなに気を落とさないで下さい」


 口ではそう言う氷川丸だが、まだ笑いを堪えているのがばればれだ。その後暫く、落ち込む雄人とそれを慰める氷川丸のやり取りが続いた。




 氷川丸の慰めにより雄人が精神的打撃から立ち直った後。一頻り談笑した雄人は自室に戻る事にした。


 「それじゃあ、そろそろ僕は戻るよ」


 「はい。お休みなさい、雄人さん」


 「うん。お休み」


  雄人はそう言うとドアノブに手をかけた。部屋を出ようとした瞬間、雄人が振り返って言った。


 「あ、そうそう。氷川丸、その眼鏡すごく似合ってるね。可愛いよ」


 瞬間的に頬を朱に染めた氷川丸が言葉を発する前に雄人は部屋の外へ姿を消した。小さく音を立てて扉が閉まり、部屋に静寂がもたらされた。


 「・・・・・・っ」


 氷川丸は頬を紅く染め、彼が去ったあとを見つめていた。無言だった氷川丸はやがて、くすっと小さく笑った。


 「可愛い、って言ってくれました・・・」


 頬を朱に染めながらも、嬉しそうに呟く氷川丸。彼女は暫く幸せそうな笑みを浮かべていた。

 作者「Buenos Dias!」

 青葉「ぶ、ぶえの・・・何て言ってるの?」

 氷川丸「Buenos Dias.スペイン語で『こんにちは』って意味よ」

 青葉「へぇ~。氷川丸、スペイン語話せるんだ」

 氷川丸「挨拶だけね。・・・で、何でいきなりスペイン語なんですか?」

 作者「この間、期末テストがあったんだ。そうしたら、スペイン語で大苦戦してね。一から復習している所なのさ・・・」

 氷川丸「まったく・・・。普段からしっかり勉強していないからこうなるんですよ。反省して下さい」

 作者「仰る通りで・・・」

 青葉「ははは。容赦ないね~」

 氷川丸「スペイン語の話はさて置き。本編の方はようやく病院船らしい話になりましたね。少しだけですが」

 作者「はい。これからもっと病院船らしくしていきたいです」

 氷川丸「それと、更新ペースに大体の目処が立ったそうですね」

 作者「ええ。基本的に、一ヶ月に一度のペースで更新する事になると思います。遅筆なため、中々筆が進まず・・・」

 氷川丸「まあ、自分のペースで進めて下さい。くれぐれも放置する事だけはしないように」

 青葉「そうそう。放置だけは勘弁してね。私なんか、最後は修理もされずに呉で・・・モゴッ!?」

 氷川丸「(青葉の口を塞ぎ、小さな声で)それは禁句!本編ではまだ開戦直後なんだから」

 青葉「(首を縦に振って頷く)」

 氷川丸「(青葉を開放して)・・・さて、ではそろそろ締めましょうか」

 作者「そうだね。毎度の事ながら、この作品を読んでくれている全ての方に心よりの感謝を。ありがとうございます」

 氷川丸「ご意見・ご感想、お待ちしております」

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