<第二十三話>星降って絆深まる
四月二四日。内地では北海道の桜が花を咲かす頃。「氷川丸」は再びトラックを訪れていた。
「もうすぐ環礁内に入るぞ。総員、入港準備!」
船橋で指揮を執る石田船長が船員たちに命令する。貨客船時代から船長と共に働いてきた郵船の船員たちは、慣れた手つきで作業に取りかかる。
北東水道から環礁の内側に入った「氷川丸」は、主要艦艇が停泊する夏島の泊地を目指す。夏島は第四艦隊の司令部が置かれている場所であり、文字通りトラックの中心地だ。
入港の様子を、氷川丸はデッキの上からのんびりと眺める。船の出入港風景の見物は、彼女の楽しみの一つだ。海軍に徴用される前は、船客と桟橋の見送り人との間に色とりどりのテープが投げられる光景をよく眺めた。今は七色のテープが乱れかう様を見ることはできないが、代わりに、鮮やかな原色に溢れた南国の景色を思う存分、堪能できる。
碧の海。青の空。白の砂浜。北太平洋の灰色がかった風景と比べ、眩しいほどに鮮やかなその色彩は、何度見ても目を楽しませてくれる。
「いつ見てもきれいな景色ですね、雄人さん」
横に顔を振り向かせながら氷川丸が言う。
「海は碧にして浜はいよいよ白く、空は青くして花は燃えんと欲す―――なんて」
「それ、『春望』の替え歌?」
「はい。ふと思いついたので、やってみました」
雄人の問いに、氷川丸は笑って答える。
「『春望』か・・・。懐かしいなあ。学校で暗唱させられたのを覚えてるよ。僕、漢文は苦手なんだよね。古文は好きなんだけど」
「好き嫌いしたらダメですよ。なんなら、私が教えましょうか? 横須賀に帰るまでにすらすら読めるようにしてあげます」
「うっ・・・それは、遠慮しておくよ」
分かりやすい反応を示す雄人に、氷川丸はくすくすと笑う。しかし、その声は不意に途切れた。
「あ――――」
洋上の一点に目を向け、氷川丸は声を漏らす。彼女の視線の先には、一隻の軍艦があった。
その艦は、見るも痛ましい姿を水面に晒していた。火災の跡が残る上部構造物。甲板には大きな穴が穿たれ、応急修理用の木材が辛うじてそこを塞いでいる。舷側にも、無数の傷跡が刻まれている。恐らく、敵の空襲を受けたのであろう。舷側の傷は至近弾の破片によるものに違いない。少なく見積もっても、直撃一、至近弾多数。間違いなく大破判定だ。
だが、それほど酷い被害を受けているにも関わらず、氷川丸は相手の正体をはっきりと悟っていた。そして、それが彼女の表情を強ばらせていた。
「青葉・・・」
満身創痍の艦の名を、氷川丸は呟く。それきり、彼女は口を噤んだ。
雄人のおかげで立ち直ったとはいえ、氷川丸の心の傷が完全に癒えたわけではなかった。次に青葉と会う機会があれば、彼女に謝ろうと心に決めていた氷川丸だったが、いざその姿を前にすると、青葉の冷たい目つきや、胸を突き刺すような言葉が閃光の如く脳裏に甦り、足を踏み出すことができない。同時に、薄まりかけていた自責の念が再び噴出し、胸を締め上げる。
遠目に見える艦影に視点を定めたまま、氷川丸はその場に立ち尽くす。その隣で、雄人は様々な感情の色が浮かぶ彼女の横顔を見つめていた。
◆ ◆ ◆
夏島泊地に停泊する軽巡洋艦「夕張」。開戦時、第六水雷戦隊旗艦であった彼女は、現在、第八艦隊に編入され第三水雷戦隊の所属となっている。
全長一三八メートルと「氷川丸」に比べ小型な「夕張」の艦体は、巡洋艦らしく細身で精悍な印象を持つ。その艦容には、結合煙突など後に日本巡洋艦の定番となる設計が多く盛り込まれている。竣工当時、三千トンほどの艦体に五千トン級の武装を搭載し、「造船の神様」と歌われた天才設計士、平賀譲造船中将の名を世に知らしめた艦である。流石に、太平洋戦争が開戦する頃には旧式化が否めない艦齢に差し掛かっていたが、第一次ソロモン海戦では五隻の重巡に続いて敵艦隊に殴り込みを仕掛けた経験も持つ。
このように輝かしい艦歴を持つ軽巡「夕張」であるが、この艦の艦魂である夕張は、そこから想像する姿とは程遠い。すなわち、彼女の容姿は十歳そこそこ――人間であれば小学生だろうか――であり、性格も外見と同様であった。
この日も、艦魂である夕張は趣味の科学実験(内容的には小学生の理科実験程度)を終えたあと、お気に入りの場所である主砲塔の上から景色を眺めていた。
丈の合っていないぶかぶかの白衣を広げて天蓋に寝転がる夕張は、楽しそうな表情で空を眺める。風の流れによって雲が刻々と表情を変えていく様は、見ていて決して飽きる事がない。頭を使った後は、こうして脳を休めるのが彼女の習慣である。
「あ、あの雲、アイスクリームみたいです~。おいしそう・・・」
口元をふにゃりと緩ませながら夕張が呟く。幸せそうな表情のまま涎を垂らしかけたその時、突然彼女を呼ぶ声がした。
「夕張!!」
「ひゃわっ!?」
想像の世界に耽りかけていた夕張は急に聞こえた大声に驚いて飛び上がる。主砲塔から転げ落ちそうになるのをどうにか堪えた夕張が下を見ると、一人の青年がこちらに顔を向けていた。
「久しぶり、夕張」
「もしかして、日高一曹ですか?」
相手が頷く。夕張は白衣の裾をはたいて埃を落とし、主砲塔の下におりる。
「お久しぶりです、日高一曹。先ほどはお恥ずかしいところをお見せしました・・・」
直前の自分の醜態を思い返し、夕張は恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ところで、どうして日高一曹が私のところに?」
「病院船の仕事だよ。この船に医薬品の補充品を届けに来たんだ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
と、以前彼に出会ったとき隣にいた少女の姿が見えない事に気がつき、夕張は質問する。
「氷川丸さんは、一緒じゃないんですか?」
「うん。・・・ねぇ、夕張。一つ、頼みを聞いてもらえないかな」
「頼み・・・ですか?」
なんでしょう、と夕張が首を傾げる。
「僕を『青葉』まで連れていってほしいんだ」
「『青葉』に?」
夕張が怪訝な顔をする。
「構いませんけど・・・それは、氷川丸さんに頼めばいいのでは?」
「ちょっと、それはできない事情があってね―――」
雄人は氷川丸と青葉の一件について手短に説明する。話を聞き終えた夕張はひとつ頷いてみせた。
「分かりました。そういう事でしたら、私がお連れします」
そう言って、夕張は雄人の手をとる。氷川丸の手よりも小さく柔らかな夕張の両手が雄人の右手を包む。
「・・・では、いきます」
目を閉じて意識を集中し始めた夕張の身体から、淡い蛍光色の光が生まれる。輝きを増すその光が視界を覆った次の瞬間、雄人は既に「青葉」の甲板に立っていた。
「氷川丸」のデッキから望遠した通り、「青葉」の艦上には其処彼処にまだ戦闘の傷跡が残っていた。甲板のチーク材に刻まれた機銃の弾痕が空襲の激しさを物語っている。
雄人と夕張は、空襲の傷跡生々しい「青葉」の艦上を歩く。やがて、二人は目指す人影を見つけた。
「青葉」
射出機付近の舷側に立っていた青葉は、雄人の声を聞き、海に向けていた顔をゆっくりと振り向かせた。
「ああ。日高一曹」
青葉の動きは、氷川丸の時と同様に緩慢で、心ここにあらずといった風情であった。彼女の身体にはまだ戦の傷が残っており、頭には血を滲ませた包帯を巻いているが、当の本人はそれさえも他人事である様子だった。
青葉は横並びに立つ雄人と夕張の姿を見ると、クスリと乾いた笑みを漏らした。
「その組み合わせは珍しいね。駆け落ちでもした?」
雄人はその軽口には答えず、真剣な目を相手に向けた。
「青葉。君に話がある」
「なにかな」
「氷川丸のことだよ」
雄人がその名を口にした瞬間、青葉の表情が僅かに強ばる。しかし、それはほんの一瞬のことで、青葉は口元に再び笑みをはりつける。
「なるほど。氷川丸から聞いたんだね」
肯定する代わりに、雄人は話を続ける。
「氷川丸は、故意でないとはいえ、自分の言葉で君の心を傷つけてしまった事を深く後悔している。あの後、氷川丸は横須賀に帰るまでの間ずっと自分を責め続けていた。『私のせいだ』って」
「・・・・・・」
「氷川丸は、君に謝って、仲直りしたいと思ってる。だから―――」
「・・・分かってるよ」
訴えかける雄人の言葉を遮り、青葉が言う。呟くような小さな声で、青葉は繰り返した。
「分かってるよ・・・。そのくらい、私だって分かってるよ・・・」
気づくと、青葉の声は震えていた。驚く雄人の前で、青葉は己の心情を吐露する。
「私だって、氷川丸と仲直りしたいよ・・・。でも、あれだけヒドいこと言って氷川丸のこと傷つけて、今さら合わせる顔なんてないよ・・・」
今や、青葉の声音は泣き出す寸前だった。そんな彼女の声を聞きながら、雄人は事の全容を悟った。
青葉も、苦しんでいたのだ。姉妹を失い、精神的に不安定な状態にあったとはいえ、心無い言葉で親友を深く傷つけてしまったことに。青葉も氷川丸も、自分の発した言葉で親友を傷つけてしまった事を深く悔やみ、自責の念に苛まれていた。二人は共に、同じことで悩み、苦しんでいたのだ。そして、互いに仲を直したいと願いながら一歩を踏み出すことができずにいる・・・。
雄人は初め、青葉に氷川丸のことを許してくれるよう頼むつもりだった。正直、かなり苦戦するだろうと雄人は考えていた。氷川丸の話を聞く限りでは、青葉の激情は相当なものだと思われたからだ。
だが、それは杞憂に終わった。青葉も氷川丸も、その心情はまったく同じだった。ただ、お互いにきっかけを見つけられていないだけ。なら、雄人のする事は一つだった。
「そういえば・・・」
何気ない口調で、独り言でも言うように雄人は話し始めた。
「明日、夏島に上陸することになってるけど、氷川丸の誕生日プレゼント買わないとなぁ。明日が誕生日なんだけど、何にしよう」
雄人の言葉に、青葉は顔を上げて彼の顔を見る。それから、不敵な笑みを浮かべた。
「・・・日高一曹。最初から、これがねらいだったね?」
「ん? 僕はただ、考え事を口にしただけだけど。どうかした?」
素知らぬ顔で答える雄人に、青葉は思わず吹き出す。そして、大きな声で笑いだした。
「くっ・・・あっはははは!! ほら、夕張! なに突っ立てるのさ!」
「ふぇっ!?」
突然矛先を向けられた夕張が頓狂な声を発する。事態を呑み込めず混乱する彼女に、青葉が溌剌とした声をかける。
「氷川丸の誕生日パーティーの準備をするよ! 他の艦魂たちも呼んできて!」
「・・・はいっ!」
いつもと変わらない、明るく快活な声で言う青葉に、夕張は本来の彼女が戻ってきたことを知る。顔をぱあっと輝かせて返事をした夕張は、早速、他の艦に転移していった。
「まったく、気が早いんだから・・・。これじゃ、日高一曹が帰れないじゃん。ま、私が『夕張』まで送ればいっか」
苦笑を湛えながら青葉が言う。青葉は雄人の手をとると、一瞬のうちに「夕張」へと転移した。
「それじゃ、またね、日高一曹。くれぐれも、パーティーのことは氷川丸に話さないでね」
「うん。分かってる」
「もし話したら、魚雷発射管に詰め込んで撃ち出すからね?」
冗談めかして言い、青葉は歯を見せて笑う。それから不意に柔らかな表情になり、穏やかな声で言った。
「ありがとね。日高一曹」
直後、青葉の姿は転移の光と共に消える。光の残滓が溶けゆくのを見届けた雄人は、内火艇で「氷川丸」へと戻っていった。
◆ ◆ ◆
四月二五日。この日は、貨客船「氷川丸」が竣工した日だ。つまりは、この船の艦魂である氷川丸の誕生日にあたる。
氷川丸は、一三回目となる誕生日を、日本から遠く離れた南の海で迎えた。生まれたばかりの時は、まさか自分がこんな場所で誕生日を迎える日がくるとは夢にも思わなかった。普通に客船としての人生を過ごしていたら、決してすることのなかった経験。それが、何の因果か、こうして実現している。そのことに、氷川丸は気持ちを高揚させると同時に運命の悪戯のようなものを感じた。
しかし、今の氷川丸の心は、もっと大きなものに占められていた。それは、苺のような甘酸っぱさを持つ感情だった。心の奥底から湧き上がってくるその感情は、氷川丸の身体を芯から熱くさせる。向かい合って座る相手がその源であることは、理解していた。
「誕生日おめでとう、氷川丸」
優しい微笑みを浮かべ、雄人が言う。彼は用意していた小さな紙袋を取り出し、氷川丸に手渡した。
「いま開いてもいいですか?」
「もちろん」
雄人の快諾を得て、氷川丸は袋の口を開く。中に入っていたのは、様々な色のリボンと種々の貝殻で作ったアクセサリーだった。
「わあっ・・・」
氷川丸が感嘆の声を漏らす。瞳を輝かせて貝殻のブレスレットを眺める氷川丸に雄人が言う。
「前と比べると島の店もだいぶ品揃えが少なくなってて、このくらいしか買えなかったんだけど、気に入ってもらえたかな?」
「はいっ!」
氷川丸は満面の笑みを浮かべて雄人に礼を言った。
「ありがとうございます、雄人さん!」
「どういたしまして」
心の底から嬉しそうな氷川丸の笑顔に、雄人もつられて笑顔になる。氷川丸は早速ブレスレットを腕につけ、雄人から貰ったリボンで三つ編みを結び直した。
「・・・似合いますか?」
「うん。よく似合ってるよ」
氷川丸は破顔し、部屋に備えられた姿見を覗く。そこに映る、いつもと僅かに違う自分の姿を見て、氷川丸は笑顔をさらに輝かせた。
「雄人さん。素敵なプレゼントをありがとうございます」
振り返ってお礼を言う氷川丸に、雄人は意味深な笑みを向ける。
「それだけじゃないよ」
「他にもあるんですか?」
驚き半分、期待半分の顔で氷川丸が聞き返す。身を乗り出す氷川丸を焦らすように、雄人はもったいぶった調子で言う。
「まあ、ついてきて」
微笑を絶やさない雄人に、氷川丸は回答を促す視線を送るが、雄人は答えてくれない。言われるままに、氷川丸は先導する雄人の後を追って自室の一等船室から外に出た。
部屋を出てからも、雄人はわざとゆっくりとした歩調で歩く。焦らされている事を感じ、氷川丸は後ろで小さく口を尖らせる。やがて、船尾甲板に通じる扉の前まで来たところで、雄人が振り返って言った。
「この先だよ」
「この先って・・・船尾甲板ですか?」
「うん」
雄人が頷き、扉を開く。甲板に出た氷川丸は、頭上を仰いで歓声を上げた。
「わあっ・・・!」
夜色の空に、満天の星が瞬いていた。藍色の天鵞絨を敷いた宝石箱に無数の宝石を収めたような、美しい光景。夜空を見上げ、氷川丸は目を見開いた。
「これが、もう一つのプレゼントですか?」
瞳に星空を映しながら氷川丸が尋ねる。それに対し、雄人はまたも含みのある答えを返す。
「当たらずも遠からず、かな」
「どういうことですか?」
氷川丸が首を傾げた瞬間、複数の光が甲板に生まれる。同時に、幾つものクラッカーの音が鳴り渡った。
「きゃっ!?」
突然の炸裂音に、思わず身をすくめる氷川丸。その音に重なるようにして、賑やかな声が響いた。
「「「誕生日おめでとう! 氷川丸!」」」
光が収束した甲板に夜の情景が戻る。しかし、そこには先程までは無かった、様々な料理が載ったテーブルとそれぞれの制服に身を包んだ少女たちの姿があった。
「これは・・・」
「何だと思う?」
目を丸くする氷川丸に、雄人が悪戯っぽく問いかける。氷川丸は雄人に顔を向けると、驚きの色を浮かべて尋ねた。
「もしかして、もう一つのプレゼントって―――」
「これだよ」
背中から聞こえた声に氷川丸がはっとした表情を浮かべる。反射的に振り返った氷川丸は、そこに立つ人物を見て身を固くした。
「青葉―――」
口に出した音が、無意識のうちに強ばる。続く言葉が見つからず、氷川丸は口を噤む。
氷川丸は、青葉に会ったら謝りたいと思っていた。だが、こうして相手を前にすると途端に息が苦しくなり、言葉が出てこない。何か言いたくて、しかし何を言えばいいのか分からなくて、氷川丸はその場に立ち尽くした。
無言の氷川丸に、同じく無言で青葉が近づく。腕一本ほどの至近距離に達したところで、青葉は足を止めた。
息の詰まる静寂が甲板に流れる。青葉と氷川丸は無言のまま互いの顔を見つめている。顔を強ばらせている氷川丸に対し、真顔の青葉からは感情が読めない。場の全員が注目する中、先に沈黙を破ったのは青葉だった。
「氷川丸――」
静かな声で、青葉が言う。名前を呼ばれ、氷川丸は一瞬、肩を震わせたが、青葉の口から出たのは温かな言葉だった。
「誕生日、おめでとう」
にっこりと笑い、青葉は言った。明るく笑いかけるその表情は、親友の誕生日を心から祝うものだった。そこに突き刺すような冷たさはなく、ただ温かな優しさがあった。
「青葉・・・」
明るい笑顔を向ける親友の名を氷川丸は呼ぶ。胸の奥から込み上げる想いのままに、彼女は言葉を紡いだ。
「ごめんね・・・私、青葉の気持ち全然考えてなかった。姉妹を失ってとても辛かったのに、無責任な慰めの言葉をかけて・・・本当にごめんね」
瞳を濡らして言う氷川丸に、青葉は首を横に振って答える。
「ううん・・・氷川丸は悪くない。謝るのは私の方だよ。氷川丸が私のことを心配して言ってくれたのは分かってた。それなのに、私はやり場のない思いを吐き出したくて、氷川丸にあんなことを言って―――八つ当たりだよ、完全に」
青葉は窺うような目を氷川丸に向け、問いかける。
「ねぇ・・・氷川丸は、私のこと許してくれる? 私ともう一回、仲良くなってくれる?」
「もちろんよ。青葉こそ、私のこと、許してくれるの?」
「当たり前だよ」
相手の返答に、二人は互いに顔を輝かせる。二人が握手を交わすと、それまで沈黙を守っていた周囲の艦魂たちが一斉に歓声を上げた。
「よかったね、おねえちゃん!」
「平安丸!」
群集の中から、一人の少女が氷川丸に抱きつく。
「平安丸、トラックに来てたのね」
「うん!」
氷川丸の問いに、平安丸はにっこり頷く。彼女は、姉が親友と仲直りできたことを自分のことのように喜んでいた。
「さて、それじゃあパーティーを始めよっか! みんな、準備はいい?」
「「「オオッーー!!」」」
音頭をとる青葉に、艦魂たちの叫び声が答える。調子よく場を盛り上げる彼女の表情には、もはや僅かな翳りもなかった。
「ほら、雄人さんも来てください」
少し離れた所から事の成り行きを見守っていた雄人に氷川丸が声をかける。
「そうそう。日高一曹も一緒に盛り上がろうよ!」
「それなんだけど・・・」
雄人は氷川丸たちの方へ歩きながら口を開く。
「僕、もう日高“一曹”じゃないんだよね」
「はい?」
「どういう意味ですか?」
疑問符を浮かべる二人に、雄人は懐から一枚の紙を取り出す。広げてみせた紙面の字を、氷川丸が追う。
「日高雄人一曹看護兵曹・・・本日付でこの者を上等看護兵曹に任命する・・・。これって・・・!」
喜色を浮かべる氷川丸に、雄人が頷く。
「昇進辞令だよ」
「おめでとうございます、雄人さん!」
雄人が驚くのもお構いなしに氷川丸は雄人の手をとる。その横で、マイクを取り出した青葉がとびきりの明るい声で叫ぶ。
「と、いうわけで! 日高一曹の昇進も氷川丸の誕生日と一緒にお祝いするよ!! レッツ・パーティー!!」
「「「イエェーーーイッ!!」」」
乾杯の杯を手にした艦魂たちが、それらを一斉に掲げる。その夜、「氷川丸」の甲板からは無礼講のパーティーを楽しむ少女たちの歓声が絶えることが無かった。
氷川丸「これからもよろしくね、青葉」
青葉「こちらこそ、よろしく」
作者「二人が仲直りして、後書きにも青葉が戻ってきて、これで一安心だ」
青葉「自分で事を起こしておいて、よく言うよ」
氷川丸「そうですよ。私たちがどんなに苦しかったか、作者さんは分かっていますか?」
作者「二人に辛い思いをさせたのは悪かったよ。でも、結果的には仲直りできたし、それによって二人とも前より更に絆が深まったでしょ? 雨降って地固まる、ってやつだよ」
氷川丸「まったく、うまいこと言って……。まあ、確かにその通りですけど」
青葉「今回のタイトルも、その諺をもじったワケね」
氷川丸「作中では、星は降ってませんけど」
青葉「あんまり上手くはないよね」
作者「二人とも、もう少し柔らかい言い方は……」
氷川丸「それじゃあ、青葉。そろそろ終わりにしよっか」
青葉「うん。賛成」
作者「ちょっ、スルー!?」
氷川丸「ねえ、青葉。せえの、で一緒に言わない?」
青葉「いいね。それでいこう」
氷川丸「いくわよ。せえのっ」
氷川丸・青葉「この作品を読んでくださる読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。ご意見・ご感想もお待ちしております!」