第92話 リリーフ陣の活躍
7回裏、スコアは6-0。
ここからは、リリーフの本城先輩と、笹原先輩のバッテリーに託された。
「頼むぞ、本城」
「任せてください、コーチ」
本城先輩は二年時から登板経験のある技巧派左腕。決して派手ではないが、スライダーとチェンジアップの緩急で打たせて取るスタイル。
マウンドに立つ本城先輩の表情は落ち着いていた。それを受ける笹原先輩も、静かに構えながら見上げる。
二人は派手なやり取りはしない。ただ、経験のある者同士、最小限のアイコンタクトで意図を通わせていた。
──初球。
7回裏の先頭バッターに対し、本城先輩は迷いなくアウトローのチェンジアップを選択。
「ストライク!」
緩急に崩されたバッターは手が出ず見送り。続く2球目、内角スライダーを詰まらせ、バットの根元でセカンドゴロ。
落ち着いた送球で一死。
「テンポいいぞ、本城!」
「このまま抑えていこう!」
ベンチから声が飛ぶ中、笹原先輩は淡々とサインを出す。
経験があるだけでなく、試合の流れを読む勘も鋭い。次のバッターに対しては、あえて初球からインローのストレートを要求。
「ズバンッ!」
狙い通り、見逃しストライク。打者は手が出なかった。
2球目のスライダーは空振り。最後はチェンジアップでバットが泳ぎ、三振。二死。
「さすがだな、笹原先輩……」
ベンチで思わず呟くと、春日もそれを見ながら、グラブを抱えたまま小さくうなずいた。
「“抑える”って空気が、もう完成されてる……これが一軍か」
続くバッターは相手の4番。ここを抑えれば、完全に流れを掴める。
笹原先輩が要求したのは、インハイのつり球だった。
ストレートが高めへ──バッターがフルスイング!
「カーンッ!」
高く舞い上がった打球は、ライトがしっかりと追いかけ──キャッチ!
「チェンジ!」
危なげない守備に、スタンドの応援団も大きく沸いた。
本城先輩と笹原先輩は軽くグラブを合わせるだけで、黙ってベンチに戻っていく。
「……安定感があるな、あのコンビ」
ベンチの俺がポツリとつぶやくと、隣の風間もうなずく。
「点差はあるけど、こういう試合をちゃんと締めてこそ、リリーフって感じだな」
グラウンドの空気が、しっかりと締まっていくのを感じた。
(……やっぱり、すげえ)
マウンドを降りてからも、こうしてチームが試合を締めにかかってくれること。
今までは、自分が投げることで精一杯だったけど──今は、仲間と一緒に「勝ち切る」ことの意味を、実感している。
そして、迎えた8回表の攻撃。
八代先輩が、鋭い当たりをライト前に運ぶと、続く7番──この試合からスタメンに入った二塁の先輩が、バントを成功させて一死二塁。
打席には、代打で出場していた選手が送り込まれ、初球を狙いすましたように叩いた。
「行った!」
打球は三遊間を抜け、矢代先輩が三塁を蹴る──
「ホームイン! 追加点!」
「ナイスラン、ナイスバッティング!」
ベンチが一気に沸く。スコアは7対0。試合の行方を決定づける一打だった。
(……これは、もう完全に“勝ちの空気”だ)
けれど気を緩めることなく、次の打者もヒットを放ち、もう一点を追加。
8対0。
そのまま一気に畳み掛けたいところだったが、続く打者は凡退してチェンジ。
──そうして迎えた8回裏、本城先輩が再びマウンドに立ち、きっちりと三者凡退で抑えた。




