第87話 再びのバッテリー
三点を先制して、なおもワンアウト・ランナー二塁。
打席には今日6番に入っている矢代先輩。佐野先輩の代役とは思えないほど落ち着いた構えだが、どこか緊張の色が見える気がした。
(気負いすぎないでくれよ、矢代先輩……)
相手ピッチャーがセットに入り、初球を投げた。
外角低め──スライダー。矢代先輩のバットが空を切る。
「ストライク!」
二球目、今度はインハイの速球。
矢代先輩はタイミングを外され、バットが止まらず空振り。
「ストライク、ツー!」
(まずい……)
三球目、アウトローに沈むカーブ。完全にタイミングを外され、空振り三振。
「スリーアウト! バッターアウト!」
ベンチからは「ドンマイ!」の声が飛ぶけれど、矢代先輩の悔しそうな背中が痛いほど伝わってきた。
続くは7番の先輩。
先輩はカウント2-1からの四球目、真ん中高めのストレートを強引に打ちにいった。
打球は高く上がり──レフトフライ。
「キャッチ! スリーアウトチェンジ!」
後半テンポよく打ち取られた物の、それでも三点先制という事実は、確実に相手にプレッシャーを与えている。
(次は守備……しっかり抑える)
俺はグラブを軽く握り直し、ベンチからマウンドへと向かった。
◇
風の流れ、ボールの感触、そして……キャッチャーマスク越しに構える春日の姿。
(──いける)
春日とは、入学以来ずっと組んできた。1軍に上がってからは佐野先輩と組んでいたが、やはり息は合っている。
サインは……ストレート。アウトロー。
うなずき、振りかぶって──初球。
バシィッ!
「ストライク!」
一球で掴んだ。春日のミットが気持ちよく音を立てる。
初回の先頭。流れを渡すわけにはいかない。
二球目、カーブで緩急をつけ、カウント1-1。
三球目は高めの誘い球。手を出してきた。
ボテボテのサードゴロ。矢代先輩が軽快に捌き、一塁アウト!
「ナイスプレー!」
先頭打者を抑えて、ひと呼吸。
──けれど、二番バッターは油断ならなかった。
フルスイングでくるタイプじゃない。小技も使える俊足系。
初球、スクリュー。ボール。
二球目、ストレート──うまく合わせて打たれた。
鋭い当たりがセンター前へ抜ける。
(……やられたか)
けれど、焦る必要はない。まだ一死一塁。
次は三番。体格が良く、長打もある右打者。
春日がサインを出す。──ストレートで押す。
その瞬間。
「ッ!」
走った。
盗塁。
春日の送球は鋭かった──が、わずかに逸れてセーフ。
「セーフ!」
一塁走者が二塁へ。ベンチがどよめき、春日が僅かに顔を歪めているのが見えた。
だけど──俺は帽子のツバに手をかけて、ゆっくりと深呼吸した。
そして、マウンドからジェスチャーを送る。
大丈夫、と。問題ない、と。
春日が小さくうなずいた。
(──こっから、落ち着いて抑える)
三番打者へ、再びサイン。カーブで緩め、ストライク。
インコースへストレート、見送り。カウント1-1。
次は、決めに行く。
サインは……ジャイロカッター。
春日のミットが、真ん中低めで小さく構えた。
「──っ!」
投げた球は鋭く沈む。
空を切ったバットが風を裂く。
「ストライク、バッターアウト!」
三振となり、ベンチから声が飛ぶ。
「いいぞ風間ー!」
「落ち着いてるぞ!」
二死二塁。相手の三番を打ち取り、ひと息つく間もなく、続く四番がバッターボックスへと歩いてきた。
(……体つきが違う)
がっしりとした胸板に、ゆったりと構えるバット。威圧感のある打者だった。油断すれば、あっという間に一点どころか、試合の流れを持っていかれかねない。
キャッチャーの春日が静かに構えた。
──初球、外角低め。カーブのサイン。
(落とすか……)
首を縦に振る。セットポジションから、ゆったりとした腕の振りでリリース。
カーブは大きく曲がりながら、低く沈んでいく。打者は食いついたが、バットの先でファウル。
(一発を狙ってきてる……なら)
春日が構えをわずかに内へ寄せ、スライダーのサインを出す。意図は読めた。ストライクゾーンの外を見せて、意識を揺らす。
二球目、少し力を抜いて投げたスクリューが、ベース板の手前で逃げていく。打者はバットを止めて見送る。
「ボール!」
カウント1-1。
ここで春日は、内角高めにミットをかざした。
──真っ向勝負か。
応えるように頷き、インコースへストレートを全力で投げ込む。
バットが振られる。詰まった打球は、ファースト後方への小さなフライ。
「任せろ!」
神宮寺先輩が素早く下がりながらグラブを伸ばす。
「捕った!」
──スリーアウトチェンジ。
ベンチから歓声が上がる中、春日がマスクを外してこちらを見た。
「ナイスボール。今の、完璧だったな」
「そっちこそ、いいリード。助かったよ」
目が合い、ふっと笑う。
──佐野先輩じゃない。でも、俺の投球を信じて構えてくれる“バッテリー”が、ちゃんとここにいる。
心の中の不安が、ほんの少しだけほどけていくのを感じた。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:135km/h
コントロール:C(62)【↑】
スタミナ:C(62)
変化球:ストレート2,
カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター2
守備:D(57)【↑】
肩力:D(57)
走力:D(55)
打撃:ミートD(51)、
パワーE(49)
捕球:D(55)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース・
投打躍動・緩急○
成長タイプ:元天才型
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