第81話 準々決勝に向けての不穏な気配
準々決勝の対戦校が発表されたのは、練習中に平間監督がやって来たタイミングでのことだった。
「相手は──市立明誠高校。去年のベスト4校となります」
監督の声が部室に響いた瞬間、どよめきが広がる。直近3年での早実との対戦記録はないものの、名のある強豪校である。
「よっしゃ! 燃えてきたな!」
「準々で明誠って、肩慣らしにはちょうどいいな」
「油断せずに行こうぜ」
そんな声が自然とあがる。先輩たち――一軍の空気は、熱を帯びていた。当然、俺も胸の内に熱いものがじわじわとこみ上げてくる。
(ここまでくると、もう名のある学校しか残っていないな)
そんな中、スタメンが発表されていき、今回も監督から先発を任される事になった。
メンバー発表を終えると監督は早々に立ち去って行き、再び各メンバーが次の舞台を見据えて練習にのぞむ──そんな矢先だった。
守備からのランダンプレー練習の最中、ベースカバーに入った佐野先輩が、グラブを構えた瞬間に軽くバランスを崩した。
「っ……」
ほんの一瞬、顔をしかめたように見えた。でも、その後すぐ立ち上がり、平然とプレーを再開していた。
「おい、佐野。今手首をグネった様に見えたが大丈夫か?」
金城先輩からそう尋ねられるも、佐野先輩はマスク越しに笑顔で答えた。
「全然大丈夫ですよ、気にしないでください」
いつもと変わらない様に聞こえる声色だったが、ベンチにいたコーチの目は誤魔化せなかった。
「佐野、ちょっとこっち来い」
「え、何ですかコーチ?」
マスクを外し、ベンチへと近づいた佐野先輩の手首をコーチが軽くつかむと、「っつ……」と声にならない声を上げながら、顔を歪めたのが見て取れた。
「折れては無さそうだが……腫れてきているな」
「ここで佐野が抜けるのは痛手だが、今後の事を考えれば……」
そんな話し合いをしながら手首の状態を見たコーチ達が、「佐野は今日は上がって、大事を取って病院で診てもらえ」と判断が下された。
「取り合えずは診て貰いに行きますけど、ほんとに大丈夫ですって」
佐野先輩はそう言いながらも、抵抗はせずコーチが運転する車に乗っていった。
──その後の練習は、どこか空気が変わっていた。
ムードメーカーだった佐野先輩が消えた事でキャッチボール中の声出しが減り、ベンチでは誰も口にはしないが、ざわつきがあった。
(……あの佐野先輩が)
エースである金城先輩や4番の神宮寺先輩とは別の意味で、チームの精神的支柱であり、俺にとっては最も世話になっているともいえる先輩。
(大丈夫って言ってたけど……)
ただの打撲ならいい。でも、準々決勝はもう目の前だ。
コーチたちもいつもより口数が少なく、先輩たちもみな、どこか“落ち着かない”雰囲気に包まれていた。
そんな中、小春が2軍側が休憩に入ったのか、グラウンド脇に顔を出し小さく手を振ってくれた。
その姿を見た瞬間、不思議と少しだけ、呼吸が楽になった気がした。
(……俺が浮足立ってちゃ、意味ないよな)
だからこそ。
佐野先輩が戻ってくるまで。
あるいは、万が一しばらく戻ってこられなくても。
自分にできる最大の準備をするしかない。
(俺が、チームを支えるってくらいの気持ちでいないと──)
そう考えながら、マウンド上で全力のジャイロカッターを投げた。
シュッという空気を裂く音が、グラウンドの空気を少しだけ引き締めた気がした。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:135km/h
コントロール:D(58)【↑】
スタミナ:C(60)【↑】
変化球:ストレート2,
カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター2
守備:D(55)
肩力:D(57)
走力:D(55)
打撃:ミートD(51)、
パワーE(49)
捕球:D(55)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース・
投打躍動・緩急○
成長タイプ:元天才型
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