第8話 プロ指導と確かな進歩
永井さんの家に入った瞬間、俺は思わず息を飲んだ。
「……すっげ」
広々としたリビングの奥、ガラス張りの向こうに見えるのは、まるでジムのような空間。
ダンベル、バーベル、懸垂バー、スイングマシン……見たこともないような器具がズラリと並んでいた。
「驚いたか? これ、ぜんぶ俺が1軍時代に揃えた設備だ。今はスランプでまともに使ってやれてないけどな」
そう言って苦笑する永井さんの後を、俺はそっとついていく。
「今日から、お前をここでしごく。覚悟しとけよ」
「……はい!」
自然と声が出た。心が、少しだけ震えていた。怖さじゃない。熱さだった。
永井さんはまず、一本の素振り用バットを手渡してきた。見た目は普通の木製だけど、持った瞬間、腕がしびれるほど重かった。
「1.2キロ。プロ仕様だ。素振り千本なんて無意味だが、意味のある素振り百本なら価値はある。まず、お前のフォームを見せてみろ」
「はいっ!」
俺は気合いを入れて、昨日まで毎日繰り返していたスイングを一本振った。
「……っ!」
ズシン、と全身に負荷が走る。下半身が流れて、腰が浮く。踏ん張りきれず、バットの重さに引っ張られるようにバランスを崩した。
「――ダメだな」
永井さんはきっぱりと言い切った。
「体幹がない。軸がない。そもそも立ち方が甘い。上半身だけで振ろうとするな」
「……はい」
悔しさはあった。けど、それ以上に、プロにちゃんと教えてもらえる喜びの方が勝っていた。
「これから取り合えずお前が高校に入学するまで、野球を教える代わりにひとつ約束しろ」
永井さんは真剣な目で、俺を見据えてきた。
「自分を侮辱する奴には、言葉でやり返すな。結果で黙らせろ。それが、選手としての誇りってもんだ」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「……わかりました。絶対、やり返します。野球で」
強く、うなずいた。
「よし。じゃあまず、スクワット100回な。もちろんゆっくり。フォーム崩したらカウントなし」
「えっ」
「あと、バット持ったままやるんだぞ? 体幹と下半身、まとめて鍛えるんだ」
……この人、ドSだ。
でも俺は笑っていた。今なら、やれる気がしていた。
【ミート+3、パワー+1(G→F)を獲得しました】
◆◆◆
――この目を引かれる素振りは何だ!?
初めて見たあの日。公園での素振り。
フォームはめちゃくちゃ、体の軸はぶれてる、腰も浮いて、何より下半身が全く使えていなかった。
けど、妙に気になった。
理由は分からない。ただ、目に焼き付いた。
不器用にバットを振るその姿が、なぜか目を離せなかった。
それが偶然じゃなかったと確信したのは、今日――自宅のトレーニングルームに招いたときだった。
「よし、まずはフォーム見せてみろ」
素振り用のプロ仕様バットを手渡すと、風間は、俺の目をまっすぐ見て、力強くうなずいた。
……そして振った。
――ひでえフォームだった。
バットに振られてるし、スイングの途中で軸がブレる。脚が弱すぎて、踏ん張る力もない。
でも、妙に目を引く。
力任せでも、形になってなくても――何か“意志”がある。
バットに、自分の何かを乗せようとしてる。
それが伝わってくるから、気づけば言ってた。
「これから取り合えずお前が高校に入学するまで、野球を教える代わりにひとつ約束しろ」
自分でも驚いた。見知らぬ子供に本気の言葉を言うなんて、スランプ前の天狗になってた俺なら絶対にしなかったはずだ。
でも、あの時のあいつの顔は、忘れられない。
まだ弱いけど、それ以上に悔しさと憧れがにじんでて、誰よりも真剣だった。
「自分を侮辱する奴には、言葉でやり返すな。結果で黙らせろ。それが、選手としての誇りってもんだ」
――言ってから、ふっと笑った。
それは、俺が現役時代に教えてもらった、たった一つの「強さの定義」。
それを引き継げるなら、きっと意味がある。
「よし。じゃあまず、スクワット100回な。もちろんゆっくり。フォーム崩したらカウントなし」
そう言うと、風間は目を見開いてた。
でもすぐに、くっと唇を結んで、静かに――それでも確かな気迫を込めてうなずいた。
その顔を見て、思ったんだ。
――こいつ、化けるかもしれない。
体も技術も、まだまだひよっこだ。でも、心が負けてない。
そんじょそこらの育成選手より、ずっと“野球”をやろうとしてる。
だから、俺も本気で教えてやる。
これはただのリハビリじゃない。こいつの未来を――そしてもしかしたら、野球界を変える事になるトレーニングなんだ。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:108km/h
コントロール:F(20)
スタミナ:F(20)
変化球:ストレート1
守備:G(12)
肩力:G(16)
走力:G(18)
打撃:ミートF(24)【↑】、
パワーF(20)【↑】
捕球:G(13)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・逆境○・
ピッチングの心得(Lv1)
成長タイプ:元天才型
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