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第7話 卒業式、そして新たな出会い

 卒業式の日。


 クラス全体が慌ただしく、最終的な準備を進める中、俺は普段通り、制服を着て登校した。


 今日が最後の登校だと思うと、少し胸が高鳴る。


 これで一旦は、この体がいじめられたクラスともお別れだと思うと少し晴れやかですらあった。


 けれど――その思いは、校門をくぐった瞬間打ち砕かれた。


 校舎の壁、掲示板、そして教室の入り口――あちこちに見慣れた文字が散らばっていた。


 「風間、野球とか無理じゃね?」

 「お前の球、マジでスローボールだろ?」

 「投げる真似してるだけで笑える」


 それだけではない。


 教室のドアにも、そして黒板にも、俺が投げる姿を馬鹿にした落書きがところ狭しと書かれていた。


 「素人ピッチャー現るwww」

 「野球やる前に、まず体育のシャトルランやれよw」

 「甲子園とか、絶対無理だろ~」


 そんな目に余る落書きが書かれた教室に教師が入ってくるが……教師はそれらを一瞥し苦笑いすると、「あまり卒業式だからってはっちゃけるんじゃないぞ」とだけ言って卒業式の説明を始めた。


 そして巻き起こるクラス中に笑いの嵐――そんな様子を見て胸の中に湧き上がったのは――このイジメをギリギリまで耐えていた少年への称賛だった。


 ――こんなにも苦しめられながらも、それでもなお中学卒業直前まで耐え抜いたのか


 そんな感情が湧き上がった後に確かに感じたのは、悔しさと怒りだった。

 それは、自分の過去の姿を見るようで、何も言い返せなかったあの日々が蘇った。


 ――俺って、こんなにも弱かったのか。


 クラスメイト達が集まって、笑いながら指を指している様子が見えた。


 その中に、先日打ち負かされた少年たちの顔もあった。


 彼らの笑顔が、かつての自分の記憶に重なっていく。


 昔の俺も、こうだったのかもしれない。


 彼らが投げかける言葉の一つ一つが、まるでかつての俺に投げていた言葉のように感じた。


 ――でも、違う。

 今はあの頃の無力な俺じゃない。


 その思いが、次第に心の中で大きくなっていった。


 ――もう、二度と屈しない。


 あの日、泣きながら帰ったあの自分は、もういない。


 あの涙を、悔しさを、二度と味わわないために――今度は絶対に負けない。


 誰に何を言われようと、どう笑われようと――俺は、絶対にやり抜く。


 そして――俺はここに居る連中を、この体の少年のためにも見返してみせる。


 そう、心に強く誓ったその瞬間、俺の目に映ったのは、笑いながら俺を見下ろすクラスメイトや教師の顔。


 ああ、こいつらは――一生、俺の背中を追い越すことはできない。


 そう思った瞬間、背筋が伸びた気がした。


 今度こそ、どんな言葉にも屈しない。


◆◆◆


 卒業式を終えた後、家に帰ってすぐに部屋を出て公園へ向かった。


 卒業式の後に家でじっとしているのが耐えられなかったからだ。


 気持ちの整理をつけるためにも、何かをしていないと落ち着かなかった。


 手に持っていたのは、家にあったバット。


 バットの重さを感じながら、何度も何度も素振りを繰り返していた。


 だが、相変わらずスイングは安定せず、振り回されている感覚しかない。


 「うぅっ……!」


 力任せに振ったバットが空を切るたびに、腰が引けてしまう。


 下半身の力が弱いせいで、体全体の軸もブレてしまう。それでも、どうにかしなきゃという一心で、振り続ける。


 そのとき、ふと背後から声がかかる。


 「おい、君、ちょっといいか?」


 振り返ると、そこには20台後半位のジャージ姿の男性が立っていた。


 「何か用ですか?」


 思わず立ち止まると、男は肩で息する俺をジッと見て来た。


 「……バットが振れていないわけじゃないな。でも、軸が安定しないし、下半身に力が入ってない。だから、バットの重さに振り回されてるんだろう?」


 その言葉に、思わず顔が熱くなる。


 確かに、今の自分ではスイングに安定感が全くない。力任せに振っているだけだ。


「俺の名前は永井武ながいたける。去年まではプロ野球の1番打者だったんだが、今はケガでスランプに入って、2軍での再起を目指してる。」


 俺は少し驚いた。プロの選手が、目の前にいるとは思わなかった。


「俺自身なんとかかつてのスイングを取り戻そうとしてるんだが、どうにも上手くいってなくてね、そんな中で不思議と惹かれるものが有る君のスイングを見てれば俺も何か掴めるんじゃないかと思ってな……もし君さえよければ、俺にアドバイスさせてくれないか?」


 俺は一瞬言葉を失った。まさか自分が、プロ野球の選手から指導を受けることになるとは思っていなかったからだ。


「僕が……指導を?」


「そうだ。お前のフォームには、まだ磨きが足りない部分があるが、それはすぐに直せる。あと、お前がどんなフォームを作ろうとしているのか、俺はしっかり見届けたいんだ。」


 男、永井の目は冷やかしなどではなく真剣そのものだった。


 それを見てしばらく黙って考えた。


 今の自分には足りないものが多すぎる。


 悔しい思いも、逆に燃えてくる気持ちもある。そんな中で、目の前の男が示す指導を受けることで、何か変わるかもしれないという予感がした。


 何より、前世の様に体を壊す様な事が無いためにも、今から適切なトレーニングを積めるように誰かの指示を仰いだ方が良いだろう。


「……お願いします。教えてください!」


 そう言って、俺は力強く答えた。


 <ステータス>

 ===============

 名前:風間 拓真(Kazama Takuma)

 ポジション:投手(左投左打)

 球速:108km/h

 コントロール:F(20)

 スタミナ:F(20)

 変化球:ストレート1

 守備:G(12)

 肩力:G(16)

 走力:G(18)

 打撃:ミートF(21)、パワーG(19)

 捕球:G(13)

 特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・

      逆境○・ピッチングの心得(Lv1)


 成長タイプ:元天才型

 ===============

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