第63話 因縁との対峙
二死一塁の状況で迎えるのは、一番バッターの猫宮先輩だった。
一軍に入ってからずっとお世話になってきた先輩。打席に立つ姿を見るだけで、自然と背筋が伸びる。
安藤の初球は高めに浮いたストレート。猫宮先輩は見逃した。
そして二球目、今度は甘く入った球を逃さずに叩いた。
──カキンッ!
打球は三遊間を抜けるかと思った。その瞬間、誰もが立ち上がりかけた。
けれど──
「おらぁっ」
声を上げながら相手の三塁手が横っ飛びで打球を掴み、そのまま起き上がって一塁へ送球。ギリギリのタイミングで、アウト。
……惜しかった。
打球は鋭かったし、当たり自体は間違ってなかった。それでも、たった一歩。それだけでアウトかセーフかが分かれる。
二回の攻撃は、惜しくもそこで途絶えてしまう。
だけど、2点は入った。流れはこちらにある。それだけで十分だった。
三回表。俺は再びマウンドに立った。
スパイクの感触、ボールの質感、背中越しに聞こえるチームメイトの声。さっきより全部が鮮明に感じられる。
初球、八番打者へのストレート。セカンドゴロ。
打席の失敗を取り返すように猫宮先輩が軽やかに処理して、ワンアウト。完璧だ。
そして──
バッターボックスへ向かってくるその姿を見て、自然と俺の呼吸が少しだけ変わった。
安藤。
ヘルメットをかぶり、バットを片手に肩で揺らしながらゆっくりと歩いてくる。
真正面から、俺を睨みつけるその目。
まるで、すべてを敵と見なしているような視線だった。いや──違う。すべてじゃない。「俺だけを」睨んでる。
(……お前は俺を憎んでるだろうな)
自分でも、意外なほどに落ち着いていた。
佐野先輩のミットが構えられる。俺はうなずき、足を上げる。
ここで負けるわけにはいかない。絶対に。
安藤のバットが、わずかに揺れた。
静かだった。まるで、周囲の音が全部消えたみたいだった。
佐野先輩のミットが、外角低めを指す。
──まずはスクリューからいく。
セットから、俺は一気に体重を乗せて投げ込んだ。
クイッ、と沈むボール。けれど──
カンッ。
安藤のバットがかすかに当たった。打球は一塁側スタンドへ。
(……軽く振って、当ててきたか)
油断すれば、すぐに持っていかれる。初球から分かった。こいつも──本気だ。
次はカーブ。縦に落とすイメージで、指にしっかり掛けて放る。
ストライクゾーンから急激に沈む球。だが。
カンッ。
またもバットの先に当てられて、ファウル。
しぶとい。
三球目、今度はストレートで押す。力強くミットめがけて叩き込む。
──が、これもカットされる
三球続けて当てられる。
(簡単には終わらせてくれないか)
四球目。高めに抜けるボール。安藤は見逃して、ボール。
五球目、もう一度スクリュー。今度はしっかり低めに落とす──が、またカットされた。
カンッ、カンッ、カンッ……何度も、何度も。
粘る。打たない。まるで怨念の様に絶対に三振したくないという執念が、球を跳ね返してくる。
気がつけば、カウントはフル。
(決めるしかない──この一球で)
佐野先輩が構えたミットは、内角寄り。迷いはなかった。
──ジャイロカッター。
以前から、俺が最も信頼する決め球。
俺は力を込めて、指先に全神経を集中させ、振り抜いた。
──ギュルルッ。
低めに、斜めに、ギリギリのコースへ。
安藤のバットが動いた。
……が、わずかに空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
佐野先輩のミットがズドンと音を立てて止まり、審判の声が響いた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、俺の背中に仲間たちの歓声が降り注いだ。
(やった……!)
マウンドの上で拳を握る。
打席に立った安藤は、一歩、二歩と下がり、肩を振るわせながら俺を睨んだままだった。
因縁とも言える安藤を実力でねじ伏せた事で、自分の中の変化が確信へと変わり始めていた。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:134km/h
コントロール:D(53)
スタミナ:D(55)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(53)
肩力:D(57)
走力:D(54)
打撃:ミートD(51)、
パワーE(49)
捕球:D(51)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース
成長タイプ:元天才型
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