第6話 逆境
夕暮れ時の公園。
空がオレンジに染まり始め、俺はランニングを終えてベンチで息を整えていた。
「……ふぅ、次はシャドウだな」
汗をぬぐいながら、ゆっくりと立ち上がる。
肩に掛けたタオルを外して手に巻きつけ、イメージの中のボールを握った。
右足を上げて――振りかぶる。
重心を前に乗せて――タオルを振り切る。
風を切る音。たったそれだけ。
しかし、頭の中は昨日この世界について調べた情報について考えていた。
「この世界は、俺のいた世界とよく似ている様で違う世界なんだな……」
そう感じた1番の要因は、自分がかつていた世界とプロ野球の球団が異なっていたからだ。
しかもプロ野球がNPBでは無くJPBになっていたり、日本学生野球連盟が異なる連盟になり、プロアマ規定を含む規定類が幾つか変わっていたが、俺が甲子園を目指す上での影響は殆どなかった。
だからこそ、堅実にフォームの改善に注力する事が出来た。
「……へぇ、何やってんの?」
考え事をしている間に、声がした方を見ると、数人の少年たちが笑いを噛み殺しながらこちらを見ていた。
「……お前、風間じゃん。あれ? お前って野球部でもねぇのに、なに投げる真似してんの? ウケるんだけど」
制服の下から見えるのは、少年軟式野球チームのユニフォーム。
こいつらは――この体の持ち主を、以前いじめていた連中だった。
「もしかして、野球始めるとか言っちゃう系? 無理無理。お前、運動オンチだったじゃん。体育のシャトルランで10回も走れなかったくせに」
「そもそも、野球ってルール分かる? バットってどっちの手で持つか知ってる~?」
ゲラゲラと笑いながら、肩をすくめて見せる。
だが俺は、ただ静かに一言返す。
「……見たいなら、投げてやるよ」
「へぇ~? 言ったな? じゃあさ、俺らが練習してたグラウンド、空いてるから使っていいぜ? 見せてみろよ、風間の投球ってやつをさ」
彼らに誘導されるまま、公園から少し外れた、少年野球チームがよく使っている広めの空きグラウンドへと向かう。
その間も、口は止まらなかった。
「お前がマウンド立つとか、マジで草しか生えないんだけど」
「動画撮っとけばよかったな。『伝説の素人ピッチャー現る!』ってタイトルで上げたらバズるかもよ?」
「まず投げる前に、転ばないように気をつけろよ~?」
――どれもこれも、小馬鹿にしたような口調ばかりだった。
だが、俺はただ静かにグラウンドのマウンドへと立つ。
見渡すと、まだ少しだけ夕日が残る広い空が、胸の中を不思議と冷静にしてくれた。
「じゃあ、俺がバッターやってやるわ。手加減してやんないからな?」
1人の少年がバットを握って構える。打席に入る姿勢も、子供ながら堂に入っていた。
俺は深く息を吸い、右足を上げ、振りかぶって――投げる。
「シュッ――!」
放たれたボールは、たしかに軌道を描いて飛んでいった。
しかし――
カキィィィィン!
乾いた金属音が響いた。
「はい、ド真ん中ストレートごちそうさまー!」
球は左中間の芝へと一直線に飛んでいった。
「次、いってみよー!」
もう1人が打席に入る。
同じように投げたボールも――
カキィンッ!
「ねえ、それスローボール? 投げてるのに見えるんだよね、縫い目まで!」
さらに別の少年が笑いながら言い放つ。
「高校デビューで野球やろうなんて甘い考えもってんの? お前なんか、地区大会1回戦で5回コールド負けがオチだろ、あはは!」
「お前の球なんて、俺らでもジャストミートだっての。これが現実だよ、風間ぁ~」
「あー、マジで面白。お前のせいでグラウンド使う事になったんだから、きっちり整備しとけよバ風間」
ゲラゲラと笑いながら俺の事を蹴り飛ばしていくと、彼らはグラウンドを後にした。
……その場に、一人残される。
足元の土を見つめたまま、俺は拳を握りしめた。
たしかに――今の俺では通用しない。あの程度の球すら、制球も速度もできない。
けれど、悔しいというより、むしろ――燃えていた。
「……なぁに、今に見てろよ。絶対、追いついて――追い越してやる」
唇を噛みしめながら、俺はもう一度――ボールのないマウンドで、腕を振り上げた。
【スキル『逆境○』を獲得しました】
逆境○:試合で負けているとき、ミート+20、パワー+20
【全ステータスに+10の経験値を獲得しました】
<ステータス>
===============
名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:108km/h
コントロール:F(20)
スタミナ:F(20)
変化球:ストレート1
守備:G(12)
肩力:G(16)
走力:G(18)
打撃:ミートF(20)、パワーG(18)
捕球:G(13)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・
逆境○【new】・
ピッチングの心得(Lv1)
成長タイプ:元天才型
===============
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思った方は、
☆☆☆☆☆を面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つにして頂けると、とても嬉しく思います!
また、『ブックマークに追加』からブックマークもして頂けると本当に嬉しいです。
皆様の評価とブックマークはモチベーションと今後の更新のはげみになりますので、なにとぞ、よろしくお願いいたします!