第55話 初戦
蝉の鳴き声が、まるで試合開始のホイッスルのようにけたたましく響く朝。
俺たちはぞろぞろとグラウンド脇のミーティングルームへ向かった。
湿った空気の中を歩く靴音が、妙に耳に残る。
ホワイトボードの前には、平間監督の姿はなくコーチ陣と主将・山岡さんの姿があった。
「やっとこの時期が来たか……」
「俺らの実力を見せる時が来たな」
ざわつく一軍の部員たちの中に混ざりながら、俺も一人、静かにその時を待つ。
――いよいよ、発表される。地方予選・初戦の相手校。
この夏の一球一球が、夢への階段。その第一歩が、今ここに刻まれる。
「静かに」
コーチの低く張った声に、ミーティングルームの空気が一気に引き締まった。
「本日、正式に抽選会の結果が出た。初戦の相手は――」
キュッとホワイトボードにマジックの音が走り、コーチの筆がゆっくりと漢字を綴っていく。
『都立桜台高校』
一瞬、部屋に小さなどよめきが広がった。
「あそこって、去年二回戦で負けてたとこじゃなかったか?」
「いや、今年は新しい監督が来てるらしいぞ。ピッチャーも帰国子女で140超えの剛腕だってさ」
誰かがそう言うのが聞こえた。
それでも、俺の胸の中には、不思議と焦りも驚きもなかった。
(相手がどこでも、やることは一つ)
全力を尽くして、一球に魂を込めるだけだ。
ふと、目線を窓の外へやった。
朝の陽射しの中、校庭を通り過ぎる一人の女生徒の姿が目に映る。
(……あれ、小春?)
いつもなら気づいて、軽くでも手を振ってくれるはずなのに、彼女はそのまま、こちらに気づかぬ様子で歩き去っていった。
(……気のせいか?)
胸の奥に、小さな違和感が沈殿する。
あの夜、練習後の告白。
小春があの場にいたという確証はない。でも――誰かの走り去る足音を、あの時たしかに俺は聞いた。
(まさか……)
言葉にならないざらつきが、喉の奥に引っかかったまま、コーチの話が続いていく。
「相手は、去年と同じチームだと思うな。どの学校もこの大会に死に物狂いで来る。だからこそ、こっちも全力でぶつかる。いいな」
「はいっ!」
部屋に響いた声に、俺も背筋を伸ばして拳を握った。
(気持ちは逸らさない。まずは、初戦)
俺の夏は、まだ始まったばかりだ。
胸の奥に沈んだ疑問の答えを出すのは――その先でいい。
◇
そして初戦当日。
炎天下の中、地方大会の開幕が告げられた。
都立桜台高校との一回戦。
俺はスタメン入りを許されず、ベンチに腰を下ろしていた。
握ったユニフォームの裾がじっとりと濡れる。緊張ではない。
ただ――悔しさと、焦り。
「……やっぱ、すげぇな」
自然と口を突いて出た言葉に、隣の佐野先輩がうなずいた。
「だろ? 俺らが目指すのは、あの完成度だ」
一軍のメンバーは、まさに“圧倒”していた。
初回。
猫宮先輩がライト線へ鋭いツーベース。久保田がきっちり送って、山岡さんがセンター前で返す。
一気に3点先制。
相手のエースは、評判の帰国子女。140キロ超のストレートを投げ込む本格派――のはずだった。
「球が速いだけじゃ、ウチのバッターは止められねぇんだよな」
佐野先輩がぼそりと呟く。
その通りだった。
変化球は冷静に見極め、甘い球は逃さず叩く。
外野を越える打球が何度も飛び、相手守備陣は明らかに焦りを見せていた。
四回には、主将・山岡さんがレフトスタンドにツーランを叩き込む。
スタンドが、まるで歓喜の渦に包まれたように総立ちになる。
そして――
七回表、10対0。
球審の「試合終了!」の声が、球場に大きく響いた。
規定により、コールドゲーム。
勝利の歓声の中、ベンチから飛び出してくる先輩たちの笑顔は、眩しくて――少し、遠かった。
(これが、一軍……)
試合のリズム、守備の連携、打席での冷静さ。
どれも、今の自分たち二軍には到底真似できない。
(まだ、遠い)
口の中に苦味が広がる。
でも――
(それでも、火は消えねぇ)
小さく握った拳に、確かな熱が宿っていた。
あの輪の中に、自分も加わってみせる。
(次だ。俺も、食らいついてやる)
グラウンドの中心で笑う先輩たちの背中が、今はただ、羨ましかった。
その羨望が、悔しさが――俺を強くする。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:134km/h
コントロール:D(52)【↑】
スタミナ:D(55)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(52)【↑】
肩力:D(56)
走力:D(54)
打撃:ミートD(50)、パワーE(48)
捕球:D(50)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース
成長タイプ:元天才型
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