第54話 小春の気持ち
部室の裏手に、私はひとりでいた。
今日は、たまたま用事があって帰りが遅くなった。誰もいないと思って歩いていたグラウンドの脇から、声が聞こえた。
聞き慣れた声――風間くんだった。
気づけば、隠れるようにして、そのまま足が止まっていた。
見てはいけないとわかっていた。でも、目が離せなかった。
風間くんの背中が、ぼんやりと照明の明かりに浮かんでいた。
その前に立つ少女の声は、遠くからでもはっきりと届いた。
「……好きです。ずっと、前から……!」
その言葉が空気を震わせた瞬間、私の時間も止まった気がした。
風間くんは驚いていた。戸惑っていた。けれど、その姿さえ、私には優しく映った。
女の子はすぐに走って行った。まるで逃げるように。
風間くんは、ただ呆然とその背中を見送っていた。
彼の姿が、まるで夢の中の景色みたいに、ぼやけて、滲んで。
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
何度も何度も、彼のピッチングを見てきた。汗まみれで、泥だらけで、必死に食らいついていく姿を。
それを見て、胸が熱くなった。悔しそうに歯を食いしばる彼に、何かを言いたくなった。勝ったときに笑う彼の横顔が、いつもまぶしかった。
言葉じゃうまく説明できない。痛いような、苦しいような、でもどこか温かくて、切ない……そんな気持ち。
(……そっか、私……)
気づきたくなかった。認めたくなかった。
けど、もう、誤魔化せなかった。
(私、風間くんのこと、好きなんだ……)
グラウンドの隅、誰にも見つからない場所で、私はただ息をひそめながら、その気持ちと向き合っていた。
でも――その次の瞬間、脳裏に浮かんだのは、兄の姿だった。
――春翔お兄ちゃん。
私のたったひとりの、かけがえのない兄。高校時代、地元のエースで、甲子園を目指していた。誰からも期待されていた人。
でも、あの日。
炎天下のグラウンドで、誰よりも多く投げて、走って。
「期待に応えたい」と、誰にも言えず、無理をして。
結局、練習試合の最中に倒れ、そのまま、二度と目を覚まさなかった。
熱中症と心不全の併発――あと一歩、気づくのが早ければ。
私は、兄の最後の試合を、スタンドで見ていた。
あの時の空の色、照りつける日差し、そして、ストレッチャーに乗せられる兄の姿――全部、今も鮮明に残っている。
(……もう、あんな思い、したくない)
風間くんは、どこか兄に似ていた。
不器用で、努力家で、まっすぐで、ひとりで全部抱え込んでしまうところまで。
だから怖い。彼が夢を追えば追うほど、私の中の不安も膨らんでいく。
このまま好きになってしまったら、もし彼が傷ついた時――私、また、何もできずに見ているしかないの?
……それが、怖い。
彼は、まだ途中だ。
甲子園を目指してる。未来のエースとして、チームの未来を背負っていこうとしている。
そんな彼の横に、今の私は立てない。
だから、胸に手を当てて、そっと呟いた。
(大丈夫。伝えなくてもいい……今は、まだ)
目を閉じて、夜風をひとつ吸い込む。
涙なんて、こぼしてない。ただ、少しだけ、目が痛いだけ。
風間くんの背中が小さくなっていくのを見送りながら、私は静かに踵を返した。
踏みしめる足音が、やけに大きく響いた。
でも、その一歩一歩が、心を少しずつ落ち着かせていった。
(……いつか、胸を張って、私も――)
その「いつか」が来るまで。
私は、私の場所で、私にできることをする。
彼の夢が、輝きを失わないように。遠くからでも、見守れるように。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:134km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(55)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(51)
肩力:D(56)
走力:D(54)
打撃:ミートD(50)、パワーE(48)
捕球:D(50)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース
成長タイプ:元天才型
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