第53話 嘲笑の視線と、突然の告白
合宿が終わり、俺たちは再び学校のグラウンドに戻った。
地方予選まで、残された時間はわずか。
朝練、授業後のメニュー、夜の反復――すべてが実戦に向けた仕上げに入っている。コーチ陣の声も、練習の強度も、どこか殺気立っていた。
「風間、ピッチングフォームの入り、もう一回修正してみろ! 左足が流れてる」
「はい!」
額の汗を拭う暇もなく、グラウンドに声が響く。
その時だった。
ふと、三塁側のネット裏に視線を向けると、見慣れない制服の一団が立っているのに気づいた。
「あれ、偵察じゃねぇか?」
佐野先輩が眉をひそめて小声で言う。
よく見ると、県内の強豪校――城東学園の野球部員たちだった。毎年のように決勝で当たる、早実の“最大のライバル”。去年も、決勝でウチに敗れた因縁の相手。
その中心にいたのは、長身で鋭い目つきの男。城東のエース、九条 翼だった。
「噂の草の根ヒーローくんは、一軍入りしてるのか」
近くで投球練習をしていた俺を見て、九条は薄く笑った。
そして、隣の仲間にこう囁く。
「あんなのそこら辺の二流高校にいるレベルだぜ」
あざける声が、わざとらしく聞こえるような声量で響いた。
「随分レベルが落ちたな、早実も」
(……!)
その言葉に、思わず手が止まる。
体の中で何かがふつふつと沸き上がるのを感じた。
その瞬間、背後から聞こえた声があった。
「……聞こえてるっての」
声の主は猫宮だった。ショートの守備位置からこちらを見つつ、グラブを軽く投げ上げる。
「風間っち、気にすんな。あいつら、口だけだ」
「猫宮先輩……」
彼は真っ直ぐな目で、俺のほうを見てうなずいた。
続いて、内野ノックの手を止めていた主将・山岡が俺に近づいてきた。
「風間、いいか。こういう時こそ、受けて立つんだ」
俺の肩を軽く叩きながら、低い声で続ける。
「あんな奴らには言わせておけ。実力で黙らせろ……お前なら、できる」
その言葉に、胸が熱くなる。
(今ここで怒鳴るのは簡単だ。怒りを表に出しても、所詮“外野”の声で終わる)
(なら、証明するだけだ。グラウンドの上で)
俺はもう一度マウンドに立ち、指先に集中を戻した。
彼らと対峙した時に――その一球一球に、自分の全てを込めるために。
◇
その日、練習が終わる頃にはいつも通りすっかり夜が遅くなっていた。
グラブを拭きながら、ひと息つく。汗で濡れたアンダーシャツが背中に張り付き、そこに吹く風がひどく冷たく感じた。
あとは片付けだけだ。ベースを倉庫に戻して、ボールかごを……。
「……風間くん!」
声がして、振り返るとそこには、髪をショートに切り揃えた小柄な少女が立っていた。
確か、別のクラスの……名前は、なんだったか……。
挨拶くらいで、ほとんど話したことがなかったはずだ。その彼女が、制服のまま、手をぎゅっと握りしめて俺の前に立っていた。
「……あのっ」
彼女は一度だけ息を整えると、顔を上げて、まっすぐ俺を見た。
「……好きです。ずっと、前から……!」
……え?
その言葉が頭に届いた瞬間、体が一瞬固まった。
グラブを落としかけ、慌てて持ち直す。
「え、ちょ、えっ……?」
何か言わなきゃと思った時には、彼女はもう一歩下がっていた。
「大丈夫。答えは、今はいらない。ただ、私の気持ちだけ知っておいて欲しくて!」
そう言って、彼女は顔を真っ赤にしながら、真っ暗なグラウンドを背にして走り出し、そのまま消えていった。
……何が起きたんだ、今の。
頭の中が白くなって、何秒かその場に立ち尽くしてしまった。
ようやく我に返った頃、背後で――
カサッ
という、小さな物音がした。
ハッとして振り向く。誰かがいたのかと周囲を見渡す。
「……誰か、いるのか?」
声をかけてみたが、返事はなかった。
物陰に目を凝らしても、誰の姿も見えない。
ただ、部室の裏の方で、誰かが着た制服のスカートがチラッと見えたかと思うと、コンクリートの上を走って行く音が聞こえた。
気のせいか――それとも。
そんな、なんとも言えない胸のざわめきだけが残った。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:134km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(55)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(51)【↑】
肩力:D(56)
走力:D(54)
打撃:ミートD(50)、パワーE(48)
捕球:D(50)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・
ノビ◎・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース
成長タイプ:元天才型
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