第51話 仲間で、ライバルで
合宿三日目。
ついにそのときが来た。
午前のメニューを早めに切り上げた後、グラウンドには合宿1日目、2日目とは違う緊張感が漂っていた。テントの下に集められた全選手に対して、鬼島監督が手短に告げる。
「これよりミニ紅白戦を行う。メンバーは1軍対2軍、試合は5回まで。延長はない。目的は実戦感覚の確認と、戦力の見極めだ」
それだけで、空気は一段と引き締まった。
ユニフォームに袖を通し、1軍、2軍に分かれてベンチ入りする。風間は1軍の控え――リリーフ登板の予定。春日はキャッチャーとして3回裏から出場、大野は先発のショートとして名を連ねていた。
「春日、いよいよだな」
ベンチ前で、肩を回しながら声をかける。
「あぁ、今日勝たせてもらうぜ」
春日の目は静かに、しかし燃えていた。
「俺は、負けるつもり無いけどな」
そう言ってお互いに拳をぶつけ合うと、それぞれのベンチに分かれた。
試合が始まると、1軍の打線はさすがの強さを見せつける。
2軍の先発である野村先輩の立ち上がりを攻め、2点を奪った。一方、2軍の打線は2回表に金城先輩からバトンを渡された武田先輩から1点を取り、2回終了。流れはどちらにも転がりそうなまま、試合は進んでいった。
2対1となった3回裏。
春日がキャッチャーとして出場する。
はた目からはそれほど緊張せず、ノビノビとリードしている様に見えた。
途中ヒット級のあたりが出るが、大野が二遊間へのゴロに素早く反応して回り込み、軽やかに一塁へ送球。
「ナイスプレー、大野!」
春日の声がグラウンドに響く。
(あいつら、やっぱりこの合宿で成長してる……)
春日のデータを元にした緻密で的確なリード、大野の鋭いフィールディング。2軍といえども、この紅白戦は“評価の場”だ。1軍昇格を目指す者にとっては、これが“選抜”の最初のハードルでもある。
そして、4回裏。
コーチが俺に声をかけた。
「風間、行くぞ。次の回、1軍のマウンドを任せる」
「……はい!」
心臓が一瞬跳ねた。
1軍の試合での初登板。それも、相手は先日まで自分が一緒にプレイしていた2軍との紅白戦という舞台。
胸の高鳴りを感じながら、スパイクで地面に踏みしめる。
打席には、春日が立っていた。
知り合って初めて、彼と試合の中で対戦する。
言葉は要らない、ただジッと佐野先輩の構えたミットを見る。
初球はストレート。ミットは内角低めを指示していた。
「――ッ!」
全力で腕を振る。
ズバン!
ボールは佐野先輩のキャッチャーミットに吸い込まれ、心地いい音を立てた。
「ストライク!」
ストライクのコールが響いても、春日の表情は微動だにしない。
(そうか……そういう顔をするんだな、お前)
目の奥は静かに、だが確かに燃えている。ベンチで交わした冗談混じりの拳とは違う、これは“勝負”の顔だった。
二球目もストレート。少し浮いたが、春日のバットは出なかった。見逃してボール。
1ストライク1ボール。
三球目はカーブでタイミングを外しにかかる。春日はわずかに体を泳がせながらも、上手くバットに乗せてファウルへ逃がした。
(甘くはない……けど、手応えはある)
球数を重ねず、勝負を決めたい。
次に佐野先輩が出したサインは、インハイのストレート。
(ここで押しきれってことか……)
振りかぶって、全身の力を込めて投げ込む。
風を裂くような音とともに、ボールは春日の胸元を突いた。
スイング――空を切った。
「ストライク、バッターアウト!」
三振。
風間は、無意識のうちに右手を握りしめていた。
春日は軽くバットを払いながら、何も言わずに一塁側ベンチへ戻っていく。その背中は、どこか満足げにも、悔しげにも見えた。
「ナイスボール、風間!」
佐野先輩がマスク越しに声をかける。
「ありがとうございます!」
気持ちを切り替え、次の打者に集中する。
二人目は、2軍の中でも打撃好調な左打者。外のスライダーで勝負を仕掛けるが、ファウルで粘られた。
カウント2-2。
内角高め、ボール気味の速球で誘う。
バットが出る。打球は詰まってサード前のゴロ。すかさず三塁手がさばいて、一塁送球、アウト。
(よし、あと一人)
3人目の打者は大野だった。
ショートとして安定感を見せる一方、打撃ではまだ評価が分かれている選手。だが、油断はできない。彼もまた、この紅白戦を「見せ場」として捉えているのは間違いない。
初球、外角低めのスライダー。
大野は手を出さず、見送り。ボール。
二球目、内角への速球。
狙っていたかのようにスイング――が、詰まらされた。打球はショートとセカンドの間、落ちそうな位置へ。
「行け大野!」
相手ベンチの誰かが叫ぶ。
が、ショートが見事に捕球し、アウト。
三者凡退に終わる。
マウンドで小さくガッツポーズを作り、ベンチへ戻る。
「いいピッチングだったぞ、風間!」
コーチが笑みを浮かべて声をかける。
「ありがとうございます!」
視線を向けると、2軍ベンチで春日がこちらを見ていた。遠くからでも、その口元がわずかに笑っているのが分かった。
それは、負けを認めた笑みではない。
(まだ終わりじゃない、そういう顔だな)
俺たちの試合は、まだ続いていた。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:134km/h【↑】
コントロール:D(51)
スタミナ:D(55)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:D(54)
打撃:ミートD(50)【↑】、
パワーE(48)
捕球:D(50)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース
成長タイプ:元天才型
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