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元・天才ピッチャー、転生先では俺だけが見える“野球スキル”で無双する 〜ケガで終わった俺が、ざまぁと完全試合で夢を取り戻す〜  作者: 猫又ノ猫助
新しい世界で

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第49話 合宿

 午後の陽射しがグラウンドにじんわりと広がる頃、俺たちは一軍練習の真っ只中だった。


 照りつける日差しに、肌がジリジリと焼かれる。


 投内連携のリズムにもようやく慣れてきたところで、キャッチャーの佐野先輩が急に立ち上がった。


「……ん?」


 佐野先輩の視線の先を追うと、ベンチ裏からのっそりとスーツ姿の男が出てきた。


 平間監督だ。


 だらしなく開いたネクタイの結び目。片手にはなぜか書類ファイル。


 その姿からは、鬼島監督のような鋭さも、コーチ陣のような熱も、まるで感じられなかった。


 グラウンドに足を踏み入れた瞬間、何人かの選手が小さく顔をしかめた。


(……また何か、妙なことでも始まるのか?)


 胸の奥に、じんわりとした不安が広がる。


「ちょっと、練習中断。全員、こっちに集まってくれ」


 どこか所在なげな声。威厳の欠片もない。

 けれど逆らえるわけもなく、俺たちは静かに整列した。


 グラウンドの片隅に選手が横一列に並ぶと、平間監督はふう、と一つため息をついてから、無理やり口を開いた。


「……えー、その、地方予選を見据えてだな」


 読み上げるような口調。紙の資料を何度かめくってから、しどろもどろに続ける。


「学校とあと……上の判断で、三連休に合同合宿を行うことになった。場所は、ええと、山奥の研修施設……野球に集中できる環境だそうだ」


 “だそうだ”。――その言葉に、どこか他人事のような響きがあった。


(あくまで「上の判断」か……)


 心の中で吐き捨てるようにつぶやく。俺だけじゃない。周囲の先輩たちも、明らかに呆れたような顔をしていた。


 それでも平間監督は気づかないのか、あるいは気づかないフリをしているのか。話を続けた。


「一軍、二軍、それに一年生も対象……みんなで、ね。うん、みんなで、底上げを……しましょうってことで」


 ごにょごにょと、語尾が濁る。


 目を逸らすように空を見上げながら、やけに早口で締めくくった。


「……詳細はコーチたちから伝える。以上。あ、がんばってね。うん」


 そう言い残して、平間監督は背を向けると、そそくさとベンチの奥へと消えていった。 


 しばらく誰も何も言わなかった。


 大きくため息を吐いた後で佐野先輩が、ぼそりと呟いた。


「……あれ、絶対自分で考えてねぇな」


 その声に、猫宮先輩が苦笑混じりで応える。


「まあ、僕らはやることいつもと変わらんけどね。どうせ実際に指示出すのはコーチたちだし」


 確かにそうだ。


 けれど俺は、胸の奥で妙な苛立ちが膨らんでいた。


(あんな頼りない監督のもとで、本当に勝てるのか?)


 それでも、俺たちは練習を再開するしかなかった。



 あっという間に1週間が過ぎていき、1軍全員が乗った合宿所へ向かうバスのエンジンが唸りを上げて坂道を登る。

 

 車窓の外には、だんだんと人の気配が薄れ、深い緑が広がっていった。


 俺は後部座席寄り、通路側に腰かけていた。となりには猫宮先輩。


 先輩はスマホをいじりながら、ときおり鼻で笑っている。


「ねぇ、風間っち」


「はい?」


「お前さ、小春ちゃんと最近どうなん?」


「……どうって、何がですか」


 顔を向けると、猫宮先輩はニヤついた顔で肘をつついてくる。


「んー? よく話してるじゃんか。ほら、グラウンドの隅っことか、購買前とかで仲良さげに」


 どこで見てるんだだよ、この先輩……。

 言い返したいのに、変に言い訳すると余計怪しまれそうで、俺は黙って窓の外を見ていると、前の座席に居る佐野先輩まで乗ってきた。


「あっ、それ俺も気になるかも。教えろ風間!」


「そう言われても、特になんもないですよ」


 そう言うと二人は、目を細めた。


「本当かなぁ。怪しいなぁ。ま、合宿ってさ、何が起きるか分かんないからね。楽しみにしてるといいよ!」


 そう言って、猫宮先輩は佐野先輩と何やら耳打ちし合っていた。


◆ 


 2年生組に散々バスの中で弄られながら合宿所に到着したのは、昼を少し回ったころだった。


 山に囲まれた古びた研修施設。芝のグラウンドと、風呂付きの二階建ての寮が並んでいる。


 バスから降りると、俺たちを出迎えたのは鬼島監督だった。


 平間監督の姿は、どこにもない。


「ここから三日間、野球漬けの生活になる。グラウンドでは無駄口を叩くな。タイムスケジュールは貼り出してある。動けるやつから荷物置いて、グラウンド集合!」


 鋭い声が山に響く。


 周囲がピリッと引き締まるのが分かった。


 初日はアップもそこそこに、基礎の徹底練習が始まった。


 俺は、投球フォームの見直しと下半身の使い方に関する内容を中心に組まれていた。


 フォームはコーチが一球一球横から見て修正を入れてくれる。


 脚力強化のための坂道ダッシュと、太腿が悲鳴を上げるラダートレーニング。


 とにかく量が多くて、途中で思考が止まりそうになる。


 だけど、その中で気づいた。


(……俺、確実に前より投げやすくなってる)


 指摘を受けた事でフォームの癖が取れて、力の伝え方が変わってきていた。



 夕方、ようやく一日のメニューが終わったころには、全身が鉛のように重かった。しかし、まだ練習は終わっていなかった。


「食トレ始めるぞー!」


 食堂に集められ、渡されたのは栄養士が監修したという“増量メニュー”。


 どんぶり飯二杯に鶏胸肉、納豆、プロテイン入りスープ……。


 鬼島監督は監視こそしなかったが、コーチ陣が巡回しながらしっかり見ていた。


 佐野先輩が隣で苦しそうに米をかきこむ。


「地味に、練習よりキツい……」


「いや、俺は……練習の方がキツかったです」


 苦笑して答えると、佐野先輩は笑った。


「それは、まだ胃袋が若いってことだな。うらやましい」



 飯を終えて風呂に入り、やっと一息つけたと思ったところで、グラウンド脇に小春の姿があった。


「……小春?」


「お疲れ様、風間くん。がんばってたね」


 白いパーカーにジャージ姿。見慣れた制服じゃないだけで、ちょっとだけ雰囲気が違って見えた。


「見てたのか?」


「うん。春日くんが『風間くんは絶対、この合宿中で変わるから』って言ってて。だから」


 その声には、からかいも誇張もなかった。


 グッと手を伸ばして体を伸ばしていると、小春が「そういえば」と口を開いた。


「2軍の先輩たちが言ってたけど明日、練習終わりに1年生はマネージャー含めて肝試しするって言ってた。……風間くん、こわがり?」


「どうだろ……ビビるときは、ビビる」


 そう答えると、小春はふっと笑った。


「じゃあ、明日は……びっくりさせちゃっても、許してね?」


「びっくりさせること前提で話すなよ」


「そこは、明日になってからのお楽しみってことで!」


 そう言って、小春は駆け足で寮のほうへと戻っていった。


 夜風が頬を撫でる。


 脚はガクガクで、肩は上がらない。


 でも、それでも俺は、心のどこかで、少しだけ明日が楽しみになっていた。


<ステータス>

 ===============

 名前:風間 拓真(Kazama Takuma)

 ポジション:投手(左投左打)

 球速:130km/h【↑】

 コントロール:D(51)

 スタミナ:D(55)【↑】

 変化球:ストレート2,カーブ2,

     スクリュー2,

     ジャイロカッター1

 守備:D(50)

 肩力:D(56)

 走力:D(52)【↑】

 打撃:ミートE(48)【↑】、パワーE(47)

 捕球:D(50)

 特殊能力:元天才・逆境○・

      ピッチングの心得(Lv2)・

      継続○・意外性・対強打者○・

      打撃センス○・ノビ〇・

      強心臓・

      スライディング・

      未来への一歩・

      選球眼・リベンジ・

      負けないエース


 成長タイプ:元天才型

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