第48話 1軍への合流、そして直面する実力
一軍練習への合流初日。
グラウンドには、先日試合をした選手たちの姿があった。
神宮寺先輩、猫宮先輩、金城先輩、そして佐野先輩と山岡先輩もいる。
どの選手も、球際の鋭さやバッティングの音が、二軍とは明らかに違う。空気すら張り詰めているように感じる。
そんな中、スーツ姿の平間監督が一歩前に出て、全体に向けて声を張った。
「――今日から佐野、山岡に加えて一年の風間が一軍に合流する。実力はまだこれからだが、育成の逸材として注目されてる。しっかり面倒見てやってくれ」
その言葉に、何人かの選手が笑顔で手を挙げる。
「はい、任せてください」
「よろしくな、風間」
猫宮が軽く手を上げながら近づいてきた。
「緊張してるのかな? まあ、最初は誰でもそんなもんだよ。焦らずいこうよ」
その言葉に、俺はわずかに安堵した――が、安堵したのはその一瞬だけだった。
練習が始まってから、現実を突きつけられるのに時間はかからなかった。
キャッチボールですでに差を感じた。
トス一つ、ステップ一つ取っても、無駄がない。一球ごとの集中力が違いすぎた。
投内連携では一歩出遅れるだけでテンポを狂わせてしまう。
バッティング練習でマウンドに立ったときも、衝撃だった。
神宮寺のバットが風を切る音は、打球の音とともに心に突き刺さる。
自分のボールが、打者を揺さぶれていないのが痛いほど分かった。
(……違う。俺だけ、動きが全部遅い)
先日の試合の疲れもあるのか、力が入らない。バッティングでは、バッドのヘッドスピードが明らかに一人だけ遅かった。
コーチの声も遠く感じた。
照明の灯りがグラウンドを白く染め始めた頃、平間監督の一言が練習終了を告げた。
「今日はここまでだ。各自、クールダウンを忘れずに」
周囲の一軍選手たちが談笑しながら引き上げていく。
神宮寺先輩や猫宮先輩たちは、どこか余裕のある笑顔を浮かべていた。
一方、俺は膝に手をついて肩で息をしていた。
(通用しなかった……)
わかっていたはずだ。試合中はこの世界で得たスキルで誤魔化しているだけで、自分はまだまだ未熟だと。
それでも――これほどまでに「遠い」と思い知らされるとは。
(俺は、スキルが無ければただの客寄せに過ぎないのか)
胸の奥がずしりと重く沈む。
悔しい。自分の無力さが、情けなくて仕方なかった。
だけど、それでも。
(……だからって、諦める理由にはならない)
俺は、誰もいなくなったブルペンへと歩いていった。
肩で息をしながらも、足を止める気にはなれない。
悔しさが、汗となって額から流れ落ちる。
目の奥が熱い。だけど泣きたくなんてない。泣いたところで何も変わらない。
そんな事を考えていると、背後から声が聞こえて来た。
「……ったく、予想はしてたけど、ほんとにいたわ」
振り返るとそこには、春日が呆れたように腕を組んで立っていた。
その隣には、小春の姿もあった。
彼女もやれやれというような顔をしていたが、どこか心配そうな色も滲んでいる。
「風間くん、練習が終わってから、もうどれだけ時間経ってると思ってるの?」
彼女たちに今のみっともない姿を見せたくなくて、思わず上を見上げる。
「……悪い。まだ、終われなくて」
言い訳のように呟くと、春日は肩をすくめてため息をついた。
「ったく、一年生――それも一般生上りがいきなり一軍の練習についていけると思ってたのか?」
「……」
グラウンドに沈黙が落ちる中、春日が大きくため息をついた。
「お前はすげぇよ。最初は本当にどこにでも居るレベルの投手だった。それがめきめき力をつけて2軍に上がって、そこで成果を示して――1軍も抑えて、今では1軍入りだ」
そこで大きく息を吸うと、春日は大声を出した。
「俺は、お前に嫉妬しちまった! まだ2軍でさえスタメンに入れない俺と比べて、なんでお前だけって!」
そんな春日の声を聴いて、俺は思わず春日の顔を見るが――その顔は醜い嫉妬で歪んでなんておらず、どこか晴れ晴れとしたものだった。
「でも嫉妬した以上に俺は誇らしかった。この高校で、初めてお前の球を受けられた事、そして同じ舞台に立てなくても、お前と一緒に野球が出来ている事が」
春日は続ける。
「悔しいのは分かる。でもな、ここで無理しようとすんなよ。俺や小春はもちろん、鬼島監督や佐野先輩、山岡先輩――それ以外の二軍の先輩もお前がきっと活躍すると信じてる。だから、今は無理せずに成長してくれ」
その言葉に、目元に光る物をたたえた小春がそっと声を重ねた。
「私も、風間くんが頑張ってるのずっと見てたよ。……でも、ここで頑張りすぎて――体を壊した私のお兄ちゃんみたいにはならないで」
震える声でそう告げられて俺はは俯いたまま、手にしたボールを強く握りしめる。
「ありがとう……でも、悔しいんだ。全然通用しなかった。足手まといだった……」
声が震えた。
不甲斐なさと悔しさ、情けなさが混ざって、喉の奥から熱く込み上げてくる。
「……俺は、自分が他の人より恵まれているのは分かっている。だからこそ、実力を示さなきゃいけないのに」
そう言うと、春日がゆっくりと歩み寄ってきて、俺の肩をぽんと叩いた。
「だったら、示せばいい――俺たちはお前の味方だ。ただ、無茶をするのだけは無しだぜ」
その言葉に、風間の視界が滲んだ。
小春も、そっとグラブを構えながら言った。
「私も風間君のこと、ちゃんと見てるから」
その瞬間、胸の奥が熱くなった。
誰かがそばにいてくれる。たったそれだけのことが、こんなにも心を救うなんて。
「……ありがとう」
握ったボールは重い。だが、俺は孤独じゃない。
一球、また一球、積み重ねていくんだ。
その先にある未来のために。
【負けないエースを獲得しました。負けないエース:登板中、同点または負けていると球速+3、コントロール+2、ミート+2、パワー+2】
<ステータス>
===============
名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:129km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:D(50)
打撃:ミートE(46)【↑】、パワーE(47)【↑】
捕球:D(50)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼・リベンジ・
負けないエース【new】
成長タイプ:元天才型
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