第45話 4番との対決、繋がる思い
二死。場面は静まり返るような緊張感に包まれていた。
その空気の中、バッターボックスに歩を進めたのは――神宮寺先輩だった。
ゆったりと構えたそのバットが、風をはらむように小さく揺れる。
銀の刃のように鋭い眼差しが、マウンド上の俺を捉える。そこに迷いは一切なかった。ただ、俺を見透かすような静かな確信だけが、あの瞳にあった。
思わず、喉の奥で息が引っかかる。
(……この人は、本気だ)
佐野先輩が構えを変え、ミットを内角低めに示す。
スクリュー。
うなずくと同時に、俺はセットポジションに入った。
指先に神経を研ぎ澄まし、リリースの感覚だけを信じる。
――行け。
投じた一球は、切れ味鋭く膝元へと沈み込んだ。
「ストライク!」
乾いた声とともに、球審の右手が上がる。
その瞬間――神宮寺先輩の眉が、ほんのわずかに動いた。
(……外せた)
だが、それでも油断はできない。むしろここからが勝負だ。
二球目。佐野先輩のサインは、ジャイロカッター。狙いは外角低め。
(よし、これで泳がせる)
全力で振りかぶり、躊躇なく腕を振り切る。
だが。
――その刹那。
神宮寺先輩のスイングが、音を置いて鋭く走った。
カン、と鋼を打ちつけたような音がグラウンドに響く。
打球はセンター方向、鋭く伸びていく。抜けるか――誰もが一瞬そう思った。
だが。
「任せろっ!」
センターの山岡先輩が、躊躇なく前進ダッシュ。スパイクの踏み込みが土を跳ね、空気を切るように飛び込む。
グラブが、打球の軌道を完璧に読み切った場所で広がった。
――バシィ!
白球が、音を立てて収まる。
「アウト!」
球審の声と同時に、スタンドが爆発するようなどよめきに包まれた。
山岡先輩が立ち上がり、ボールを高く掲げる。ベンチから歓声が巻き起こり、俺は無意識に拳を握っていた。
神宮寺先輩は、無言のままバットを引き、ベンチへと歩き出す。その背に、ふと、かすかな声が聞こえた。
「……やるな、1年」
ほんの一言。だが、それは確かに俺の胸に届いた。
流れが、ほんの少しだけこちらに傾いた。
ベンチに戻ると、佐野先輩がにやりと笑う。
「よく止めたな、ナイスピッチ」
「本当に助かりました」
背中に軽く叩く感触。振り返れば、山岡先輩が力強くうなずいていた。
「まだ、これからだ」
そうだ。ここで点を取らなきゃ、何も始まらない。
俺は、静かに息を吸った。
――そうだ。次こそはあの男から打ってみせる。
◇
七回裏。点差は3点のまま。ここで何か、掴まなきゃいけない。
打順は3番から。俺に回ってくるには少しだけ遠い――けれど、もしこの回で打線が繋がるなら、もう一度チャンスがくる。
チームの核が、いまバッターボックスに向かう。
「頼みます……」
思わず声に出たその言葉は、祈りのようでもあった。
3番の打者――チームで最も粘り強く、チャンスメイクができる男だ。相手投手が初球を投げる。内角高め、力んだストレート。
「ストライク!」
球審の声が響く。そろそろ疲れを見せ始めるかと思っていたが、金城先輩のコントロールは乱れる事なく、むしろ球威が増している様にさえ見えた。
二球目。外角低めの変化球。だが、3番は見送る。スイングせずにファウルを誘う冷静さがあった。
(繋いでくれ……)
三球目、真ん中高め――渾身のスイング。
カキィィン!
乾いた打球音が、快音として響く。打球はライト前へと飛んだ――が、ライトの定位置だった。
「アウト!」
相手ベンチが沸く。
一死の状態でバッターボックスに向かうのは、4番・山岡先輩。さっきセンターでダイビングキャッチを見せていたため、守備で流れを引き寄せ、今度は打席で流れを掴みにいって貰いたい。
当然、相手バッテリーも警戒している。しかし、山岡先輩は動じない。バットを肩に置き、目線だけで金城先輩を睨み返す。
初球、外角いっぱいのストレート。
「ストライク!」
だが、山岡先輩の表情は変わらない。淡々とバットを構え直す。
二球目――スライダー。浮いた。
見逃さなかった。踏み込んでフルスイング。
ズドン、と重い打球がセカンドの頭上を越えていく。
「抜けた!」
一塁に到達した後、すぐに塁を蹴って二塁へと回る。得点圏にランナーを進めて、続くのは――5番、佐野先輩。
キャッチャーであり、俺の女房役でもある先輩が、勝負を決めにきた。
佐野先輩が、ゆっくりとバッターボックスへ歩みを進めた。
その背筋は、まるで一本の槍のように真っ直ぐで、重圧を物ともせず、ただ静かに打席へと立つ。
そして――一度だけ、こちらを振り返った。
にやりと、笑う。
「ここで一本だ。見てろよ、風間」
声には出さず、唇だけがそう動いた。
胸が、熱くなる。
無意識に、俺は手を合わせた。
(……お願いします、先輩)
背中越しに伝わる気迫に、敬意が自然とにじみ出る。頼れるのは、こういう男だ。
相手バッテリーは、佐野先輩の出方を探っていた。ストレートで押すか、それとも変化球でかわすか――そのわずかな逡巡が、はっきりと見えた。
だが、その一瞬の揺らぎを、佐野先輩は決して見逃さない。
――初球。緩やかなカーブ。
高く弧を描くその軌道を、鋭く見切った。
「ボール!」
審判のコールが響く中、佐野先輩の眼差しはさらに研ぎ澄まされる。まるで獲物を狙う獣のように。
二球目。
相手バッテリーが勝負に出た。内角高め――ストレート。
その瞬間。
――振り抜いた。
鋭いスイングから生まれた快音が、夜空に突き抜けるように響く。
カン!
打球は一直線に伸び、レフト線を切り裂いた。白球が弾けるように転がり、外野の手前を抜けていく。
「山岡、回れっ!」
声が飛ぶ。山岡先輩が三塁を蹴った。全力疾走、迷いのない足取り。
ホームへ――滑り込む。
「セーフ!」
球審の叫びに、ベンチが爆発した。
「ナイスバッティング、佐野先輩!!」
声が渦を巻き、総立ちの歓声が響き渡る。
スコアボードの数字が動く。点差は――ついに、2点差。
まるで、一筋の光が差し込んだかのように、流れがこちらに傾き始める。
俺の中にも、熱が込み上げた。
(来るかもしれない……俺にも、もう一度……)
あのマウンドへ。あの勝負の場所へ。
拳を強く握りしめた。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:129km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:E(49)
打撃:ミートE(44)、パワーE(44)
捕球:E(49)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼
成長タイプ:元天才型
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