第44話 一軍とのしのぎあい
六回裏。スコアは0-3。追いかける展開。
ベンチに戻ってくると、佐野先輩がすぐに近寄ってきた。
「風間、次の打席で金城さんと当たるな」
「……はい」
喉が少し乾いている気がした。緊張か、それとも一軍の投手と直接戦える期待か――。
「正直あの人の球はまともにやっても打つのは、俺や山岡先輩でも難しい――でも、お前なら狙いを絞ればきっと打てるはずだ」
その言葉を聞いて、佐野先輩の考えを察し俺は頷いた。
「分かりました。絞ってみます。俺の“勝てる球”に」
佐野先輩は静かに、でも力強く頷いた。
「そうだ。それができりゃ、状況は動く。信じていけ」
その言葉を背に、バットを持ってバッターズサークルへと向かう。
8番バッターの先輩が凡退し、一死走者なし。打席へと向かう俺を、マウンド上の金城先輩が静かに見据えていた。
「……来たか、1年坊主。お前の実力を試させてもらうぞ」
威圧感を感じさせる声ながらも、どこか楽しんでいる様な声色だった。
「先輩方には悪いんですが、このままじゃ終われないんで、打たせてもらいますよ」
そう告げると、金城先輩の口元がわずかに吊り上がる。
「……面白え。じゃあ、全力で叩き潰してやる」
プレートを踏むその姿からは、気迫を感じる。
【選球眼が発動します。打者の時、ストライク・ボールを見極める際に少し正確性が増す】
【打撃センス○が発動します。試合時のミート力が+5向上します。】
【意外性が発動します。試合終盤で負けているか同点だと、パワーが+10向上します。】
脳内で流れる音を無視して、指先から放たれる白球に集中する。
――初球。インローのスライダー。
唸りを上げながら迫ってくる程に速い。けれど、球の回転を見極める。
「ストライク!」
コースに決まっていたが、どの道俺が狙っている“球”じゃない。
二球目、アウトハイの150キロを超える剛腕ストレート。
「ボール!」
下位打線に投げているとは思えない程に力が入っていた。見送って正解。狙い球じゃない。
三球目、ストライクゾーンを鋭く切り裂くカーブ――どんなに良くても打ち損じにしかならないと考え、最初から手を出さない。
「ボールツー!」
四球目。微妙な球筋。だけど――
(……これだ!)
スクリュー……自分の持ち球でもある事で、金城先輩の球の中で見極めがついた球。
その球を体の感覚が動くままにバットで振り抜いた、その瞬間。
「――ちっ!」
金城先輩の舌打ちが、ミットよりも早く耳に届いた。
打球は低く鋭く、遊撃寄りの三遊間を突き抜けていく――かに見えた。
「ははっ、やるじゃん! でもね、そう易々とは打たせてあげないよっ!」
ショート方向から猫宮先輩が笑い声が聞こえたかと思うと、鮮やかなグラブさばきでボールをキャッチし、俺がスライディングの体制に入るよりも早く、矢のような送球が一塁へと届いた。
「アウト!」
「っ……」
確実に抜けたと思ったタイミング――金城先輩の顔も、しまったと言った顔に歪んだように見えた。にもかかわらず、猫宮先輩のファインプレイで止められてしまった。
悔しかった。心の奥が焼けるように悔しかった。あれだけ狙いを絞って、ベストのタイミングで打てたというのに、それでもヒットにできなかった。あの一打が、今の俺の全てだったからこそ、なおさら。
けれど同時に、胸の内に確かに湧き上がるものがあった。
届いた。届きかけた。金城先輩の投げる“勝負球”に、俺のスイングが食らいついた。その手応えが、指先に残っている。
ベンチに戻ると、佐野先輩や春日、そして大野からも「惜しかった」と声をかけられる。けれど、恐らく俺の足では、同じ場所に何回打ったところで猫宮先輩に止められてしまうだろう。
――でも、それでも、確かなものを感じていた。
悔しさの向こうにある高揚感。あの場で、あの一球を、自分の感覚で選び、そして打てたという事実。
次は、抜く。その確信を静かに握りしめながら打席を終え、ベンチでグラブを取るとマウンドに向かう――まだ、試合は終わっちゃいない。
◆
得点できず三点差のまま迎えた七回表。俺は再びマウンドに立つ。
これ以上点数を取られると、金城先輩相手に逆転をするのは難しくなってくるだろう。
グラブの中で、指先に少しだけ汗が滲んでいるのが分かる。だけど、不思議と怖さはなかった。
ここで流れを渡しちゃいけない。自分に言い聞かせて、佐野先輩のサインを覗き込む。
先頭は二番バッター。バントから長打までこなすマルチな選手だ。ただ、野村先輩が投げていた時の打席を見ている限り、好んでストレートに手を出している様に見えた。
(なら――)
俺はあえてそのストレートを投げた。外角、膝元ギリギリ。全力の一球。
キィン!
詰まった打球は、セカンド正面へのゴロ。
「よしっ!」
セカンドの先輩が軽快にさばき、一塁へ送球。
「アウト!」
まずは一つ。リズムは悪くない。
続く三番。さっきはセンター前にクリーンヒットを放っていた。
バットを握る手の位置が少し深い――内角に強い構え。
(だったら……外で勝負だ)
初球、外のストレート。見逃しでストライク。
二球目、変化球のサインに頷いた。
(よし、ここで落とす)
握ったカーブ。しっかり腕を振り、思いきり投げ込む。
打者の手元付近で、一気に沈むカーブ。
三番バッターが慌ててバットを振るが――空を切った。
続く三球目は、外角低めのジャイロカッター……こちらは見逃される。
「ストライク! バッターアウト!」
不満げな顔を一瞬浮かべたが、一呼吸すると悔しそうな顔のまま打席を離れていく。
そしてマウンドでひとつ息を吐き、グラブの中で小さく拳を握る。
二死。最高の流れ。
(このままいける……!)
だが、そこで――静かにバッターボックスに入ってきたのは、神宮寺先輩だった。
主将で、2年の頃から不動の四番らしい。
場の空気が、ほんの少しだけ張り詰めるのが分かった。
「風間と言ったか、お前の実力――試させてもらう」
そう告げた神宮寺先輩の圧を受けて、俺の鼓動は更に高鳴った。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:129km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:E(49)
打撃:ミートE(44)、パワーE(44)
捕球:E(49)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼
成長タイプ:元天才型
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