第43話 天才との対峙
猫宮先輩は、笑っていた。
いや……口元は笑っていても、目はまるで獣のように獲物を射抜いていた。
「さっきのジャイロカッター、面白かったよ。でも、それだけじゃ僕は打ち取れないよ?」
挑発とも取れるその一言に、俺の中の何かがカチリと音を立てた。
「……なら、全部使っていくだけっすよ」
俺は帽子のつばを一度ぐっと握りしめ、打席の猫宮先輩を見据える。
(絶対に打たせない。ここだけは)
佐野先輩からのサイン。初球――ストレート。
「行くぞ!」
左腕を大きく振りかぶって、真っ直ぐ全力で投げ込んだ。
ズバンッ!
ミットに突き刺さる感触と共に、猫宮先輩は動かなかった。
見逃し――ストライク。
「へぇ、悪くないじゃん」
猫宮先輩がにやりと笑う。
二球目、今度はカーブ。
外角低めを狙って、縦に大きく落とす変化球。
「ふっ……!」
キレのあるボールに、猫宮先輩が反応し、鋭くバットを振る――
ガチンッ!
「ファウル!」
「ちっ……」
カウントは0-2。追い込んだ。
でも、ここからが本番だ。
猫宮先輩の目が、じわりと鋭さを増していく。
三球目。インコースをえぐるスクリューで勝負に出た。
小さく握りを変え、肘をたたむようにして放つ。
――ギュッと右方向に食い込む球筋。
「っしょお!!」
猫宮先輩のフルスイング。
鋭く振り抜かれたバットが、ボールの芯をかすめた。
カシュッ。
「ファウル!」
(やばい……タイミング合ってきてる)
油断すれば、次で仕留められる。
佐野先輩が慎重にサインを出す。次は――外のボール球、カーブで誘い球。
俺は一呼吸置いて、大きく縦に落とすカーブを投げた。
ボールは猫宮先輩の手元でふわっと沈む。
「見極めるよ、さすがに」
見送り。ボール。
カウントは1-2。
次――勝負どころ。決めに行くか、または揺さぶるか。
佐野先輩が出したのは……ジャイロカッター、外角ギリギリ。
「……っ!!」
ギリギリのコース。猫宮先輩は食らいついてきた。
――ガチン!
またしてもファウル。
「粘ってくるな……!」
こっちが投げたボール、全部見極められてる。
五球目、内角高めのストレートで押し込む。
渾身の気迫を乗せて投げた。
「はああっ!!」
――バットは振られない。
ストライクゾーンからわずかに外れた。
「ボール!」
ツーボール・ツーストライク。
そして、六球目――決め球に選んだのは、再びカーブ。
「……これで終わらせる!」
大きく曲がる変化球をフル回転で投げた――が。
「っしゃああ!!」
またもフルスイング!
……が、かすっただけで、ボールは一塁側へ転がるファウル。
(くっそ、どんだけ粘ってくるんだよ……!)
気づけば、カウントはフル。
「ようやく五分ってとこだね、風間くん」
汗を拭いながら、猫宮先輩が鋭い目で言う。
「……いや、これで勝ちます」
最後の勝負。
佐野先輩は、迷いなくサインを出した。
(高めストレート……真っ向勝負、か)
俺も頷いた。
これが一軍。これが全国レベル。
だったら、逃げない。
俺は全力で振りかぶり、魂を込めて――高めのストレートを投げ込んだ!
「いけえええ!!」
風を切り裂きながらボールがキャッチャーミット目がけて飛んでいく!
バットが――振られた!
空を切る金属音!
「ストライクバッターアウト!!」
決まった。
討ち取ったんだ、真っ向勝負で……猫宮先輩を!
スタンドが爆発するように歓声を上げる。
「っしゃあああああ!!」
ベンチから春日が吠える。佐野先輩がミットを外して、ぐっと拳を握った。
猫宮先輩は、バットを肩に戻しながら、にやりと笑って言った。
「……一本取られたね。いい球だったよ」
その目は、敗北ではなく――明確な『評価』の光を宿していた。
俺は息を切らしながら、帽子を深くかぶり直す。
「ありがとうございました。……でも、次も絶対抑えます」
この一打席が、次に繋がる。
そう確信できた勝負だった。
◆
新入生――風間との勝負を終えたボクがベンチへと戻ると、すぐに金城と神宮寺が寄ってきた。
「……お前にしては珍しく、ど真ん中で空振らされていたが、使えそうか?」
神宮寺が腕を組みながら訪ねて来る。普段は寡黙な金城も、じっと猫宮の顔を見つめていた。
「うん。正直、あれは予想外だったよ」
猫宮はベンチに腰を下ろし、ヘルメットを膝に置いたまま軽く息をつく。
「ジャイロカッターに、スクリューにカーブ。あれだけの変化球をあれだけ制球できるのは、ちょっと尋常じゃない。……球速自体はまだ遅いけど、キレやノビが段違いだ」
「ほう……血がたぎるな」
金城が顎をさすりながら唸る。
「しかも最後は、あえて真っ向勝負で来た。あれは勝負師の球だったよ。自分の勝ち筋と度胸、両方持ってる。たった一打席だけど――ハッキリ言って、あいつ……」
猫宮はふっと笑って、言葉を続けた。
「俺たちの土俵に上がってくるタイプの投手だよ」
「……言い切るんだな。お前が、そこまで言うとはな」
神宮寺が腕を組んだまま低く唸る。
「我がバットで、叩きつぶしてくれよう」
金城が不敵に笑い、バットを肩に担ぎ上げる。
猫宮は首を横に振る。
「つぶす? それは違うよ、金城。あいつは――試すべきだ。どこまで来れるのか。どこまで伸びるのか」
「ふむ?」
金城が面食らったように眉を上げる。
「強い相手とやり合って、ギリギリの勝負の中でしか見えないものがある。……あいつの底はきっとこんなもんじゃない、もっと強くなるよ。楽しみだなぁ……」
その言葉に、神宮寺が静かに目を細める。
「なら……俺も少し、興味が湧いてきた。まさか、お前を空振り三振に取る一般生がいるとはな」
「ふふっ、悪くないでしょ?」
ボクはそう言うと微笑んだ。
その視線の先では、上級生達からベンチでもみくちゃにされている風間が居た。
(また、勝負しよう。次は……ボクが勝つ)
胸の内に火が灯ったように、静かな闘志が燃え上がっていた。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:129km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:E(49)
打撃:ミートE(44)、パワーE(44)
捕球:E(49)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼
成長タイプ:元天才型
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