第42話 食らいつく2軍、そして――
試合はすでに五回の表。
一回以降、野村先輩は凄まじい集中力で、一軍相手に無失点を続けていた。
ピンチの場面では、セカンドの小田先輩が飛びついてダブルプレーに仕留めたり、センターの谷口がフェンスに激突しながらもスーパーキャッチを決めるなど、守備陣も必死で食らいついていた。
しかし――打線は、まったく点を取れなかった。
「くそ……やっぱ、あの金城先輩の球はやべぇよな……」
春日が苦々しげに、ベンチに座る金城を見た。
一軍のエース・金城が投げる球は、速いだけじゃない。緩急もキレもコースも一級品で、まるで打たれる気配がなかった。先輩たちのスイングはことごとく空を切り、ようやく当てても凡打ばかり。
そんな中でも野村先輩は、淡々とマウンドに立ち続けていた。
だが――六回表の6番の先頭打者。
初球を、バット一閃。快音とともに打球はライトフェンス直撃の二塁打。
続く7番バッターにも粘られ、甘く入ったカーブをレフト前へ弾かれる。
ノーアウト一、二塁。
その瞬間だった。
「タイム!」
鬼島監督がベンチを出た。
静かに、しかしはっきりとした足取りでマウンドへと向かう。その後ろ姿には、迷いがなかった。
「……野村、よく投げた」
監督の一言に、野村先輩は目を伏せて頷いた。
「すみません、監督……」
「謝るな。お前が抑えたからこそ、ここまで試合になってる。胸を張れ」
そのやり取りを見ていた俺は、自然と胸の内から燃え上がる物を感じていた。
野村先輩をベンチに送り届けると監督がブルペンへと来ると、俺をまっすぐに見据えた。
「風間、行けるな?」
その言葉に、俺は深く頷く。
「はい、準備はできてます」
「よし。……お前の球で、この空気を変えてこい」
そう告げる監督の目に、一切の冗談や不安はなかった。
ただ、信じてくれていた。
俺はキャップを深くかぶり直し、マウンドへと駆け出した。
憧れだった場所。越えるべき壁が、すぐそこにある。
あの日、全てを失った少年のままじゃいられない。
――今度は、俺がチームを救う番だ。
◆
マウンドに足を踏み入れた瞬間、心臓が跳ねた。
踏みしめる土の感触、広がるグラウンドの景色、スタンドから遠巻きに響く声援。その全てが、俺の感覚を研ぎ澄ましていく。
「風間」
マウンドの横に、キャッチャーの佐野先輩が歩み寄ってきた。
「焦るな。一軍は強い。だけどお前の球にも武器がある。まずは低めを責めろ。高めに抜けたら一発で持ってかれるからな」
「はい」
「ビビってるくらいが丁度いい。お前の球で主導権、握れ」
心に、その言葉がじんと染みた。
プレイボールのコールが響く。
最初の相手は……一軍の8番バッター。
だけど、8番だからと言って侮れなかった。
打席に立った彼からは、圧を感じた。8番打者とは思えない構えの鋭さ、静かに燃えるような視線。
他校に居れば十分上位打線を任されているだろう――そう考えた所で、俺の視界にスキルの表示が浮かぶ。
【対ピンチ〇が発動します。ピンチの時に、投手能力が上がります。】
【対強打者○が発動します。球速が+2、変化球の変化量が+1されます。】
「……マジかよ。8番でこれか」
俺は軽く息を吸い、セットポジションに入る。
佐野先輩のサインに従い、ストレートで様子を見よう。
そう思って投じた一球目——。
「っ!」
低めに投げたつもりだった。でも、わずかに浮いた球を、バットは軽々と掬い上げた。
打球は高く舞い上がり、レフトの遥か後方まで飛んでいく。
「おいおい……嘘だろ」
結果はギリギリのフェンス前までのびたフライは途中で切れてファウルとなった。だけど、冷や汗が背中を伝った。
俺のストレートは遅いとはいえ、これほど簡単に持っていかれるとは。
「くそ、あとちょっとだったのに……」
8番バッターの先輩がヘルメットを取って頭をかきながら、悔しがっているのが見えた。
足の先から頭まで、怖気の様な物を感じた――が、呼吸を整えると、胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。
震えていた指先や心が、不思議なほど落ち着き始める。
いや——違う。
落ち着いたというより……楽しくなってきた。
「……ははっ」
思わず笑ってしまった。
全身を使って得点して来ようとしてくる怪物たち。
それに挑めるこの舞台――そう、まるでかつて強敵と戦っていた時を思い出す様な高揚感。
「やべぇ、これ……おもしれぇ」
【対ピンチ〇が強心臓に変化しました。得点圏に走者がいるとき、球速+3km/h、変化量+2】
俺はもう一度グラブを握り直し、再度バッターを見据えた。
だが——今の俺は先ほどとは違った。
今度は低めの変化球。バットが空を切る。
続いてインコースへストレート。詰まらせて三遊間へのゴロ。
ショートが上手くさばいて、三塁へ走った二塁ランナーがアウト。
続いて現れた9番バッター。
カーブで一度外を意識させた後、ストレートでカウントを取り――3球目投げたジャイロカッターに手を出してくるが打球は高く打ちあがり、キャッチャーフライに終わる。
そして、場面は整った。
バッターボックスに入ってくる男。
1番——猫宮先輩。
スタンドがざわつく。
その名が告げられただけで、空気が変わる。
軽やかなステップでバッターボックスに入った猫宮先輩は、まるで試合を遊んでいるかのような余裕を漂わせていた。
だけどその目だけは、笑っていなかった。
「キミ、面白い球投げるね」
猫宮先輩のその言葉を聞いて、俺はボールを強く握り、胸の内で呟いた。
さぁ、ここからが本当の勝負だ。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:129km/h
コントロール:D(51)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1
守備:D(50)
肩力:D(56)
走力:E(49)
打撃:ミートE(44)、パワーE(44)
捕球:E(49)
特殊能力:元天才・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
強心臓【new】・
スライディング・
未来への一歩・
選球眼
成長タイプ:元天才型
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