第35話 ジャイロカッター
――六回表。
点差はまだ、3対4で一点差。
攻撃ではチャンスを作れど、途中で相手ピッチャーが交代した事で攻略が一からとなり、あと一本が出ないまま迎えたこの回。
相手打線は再び上位、二番からの好打順。
(ここが正念場だ……)
初球、インコース低めに決まったストレート。
だが――二番バッターはそれを完璧に見切っていた。
「カキィィィンッ!」
乾いた音が響く。打球は左中間を鋭く抜け、あっという間にバッターが一塁を踏んだ。
ノーアウト一塁。
そして、相手ベンチからは野次とも言える声が飛んでくる。
「ようやく一年坊主も疲れが見えて来たか?」
そんな声をかき消すように、俺は帽子を深く被り直した。
続く三番バッターは――バントの構え。
だが、それはフェイクだった。
「バスターか……!」
内角高めにややボール気味に投げ込んだストレートを、相手は巧みに流し打つ。
同時に相手ベンチは一層盛り上がった。
「ライト前ヒット! 一、三塁ィィ!」
ノーアウト、ランナー一三塁――
最悪の形で、四番・角田を迎える。
バットを構えた角田が、満面の笑みで叫ぶ。
「今度はマジで飛ばすぜ、一年! スタンドに叩き込んでやるよ!」
その瞬間、佐野先輩がタイムを取り、マウンドへ駆け寄ってきた。
「お前はよく投げてるよ、風間。二回から今まで無失点、普通に考えりゃ大したもんだ」
けれども――と佐野先輩は続けた。
「……けど、いくら変化球のキレがあっても、今の球速じゃ、さすがに角田みたいな強打者を何度も抑えるのは厳しい」
俺は、悔しさを噛み殺すように唇を噛んだ。
それでも、目を逸らさずに先輩を見る。
「……だがな。もしジャイロカッターを“見せ球”として混ぜられれば……相手の目もタイミングも崩れる筈だ。俺は、お前の可能性に試してみたい」
そう言ってジッと見て来る佐野先輩に対して俺は、一瞬だけ深く息を吸って、力強く頷いた。
「お願いします」
再びプレイの声がかかる。
野次も、走者の気配も、スタンドの喧騒すらも遠のいていく。
ただ俺と――佐野先輩の構えるミット、そして打者の姿だけがはっきりと見えた。
出されたサインは――《ジャイロカッター》。
(行くぞ)
左手の感覚を研ぎ澄ませ、指にかかったボールを押し出す様にしながら、限界まで加速した腕を――振り抜く!
――シュルルルッ!
「ストライクッ!」
浮き上がる様にしながら落ちずに曲がるボールに、角田のバットが虚しく空を切った。
相手ベンチがざわめき、ざわついた声がグラウンドまでもれ聞こえてくる。
「今の……なんだ!?」
「カットボールか? いや、違う……」
その隙を逃さず、俺と佐野先輩はテンポよくカウントを稼いでいく。
二球目は外角低めへスクリュー、三球目はインハイにカーブ。
角田の目が泳いでいるのが分かった。
(決めるなら、今――!)
再びサインは、ジャイロカッター。
さっきよりも一段曲がるよう、リリースを丁寧に。
「――っ!」
打球は、詰まった音を立てて頭上に飛んで来て――それをグラブでつかみ取る。
「ナイス1アウト!」
「いいぞ風間!」
一死。だが、ランナーは一、三塁に残っている。
迎えるは、相手の五番――中肉中背だが、バットコントロールに優れた右打者。
(角田で一死……。ここでもう一つ取れれば、大きい)
サインは……インロー、ストレート。
うなずいて振りかぶり、渾身のストレートを投げ込む。
「ストライク!」
見逃し。だが、五番の目がギラリと光る。
「……おいおい、マジかよ。こっから盛り返すのはウチの流れだぜ?」
そんな捨て台詞にも、俺は動じない。
今はただ、佐野先輩のミットだけを見つめる。
二球目、外角スクリュー。
打ち気を逆手に取ったそのボールに五番が手を出し、高く打ち上がる。
「ライトッ!」
佐野先輩の鋭い声が響く――打球は、浅いライトフライとなっていた。
「任せろ!」
ライトを守っていた先輩が鋭いダッシュから落下点に入り、グラブを高く掲げて――しっかりと捕った。
「ツーアウト!」
スタンドの歓声が、どっと湧き上がる。
「ここを乗り越えれば流れが来るぞ!」
「行け、風間っ!」
(あとアウト一つ――!)
だが、油断はできない。打席には六番の左打者。
佐野先輩が、ジェスチャーでこちらに落ち着くように促していたのを見て一呼吸する。
サインは……初球、カーブ。
投げた瞬間、感触が良かった。
シュルル……と切り裂くような軌道で、バットの下をすり抜ける。
「ストライク!」
相手がうっすらと眉をひそめたのが見えた。
二球目、インコースのジャイロカッター。ギリギリのゾーンを狙って、打ち損じを誘う。
すると――
――カキンッ!
低い打球がショートの前に転がると、それを丁寧にさばいて一塁へ――
「っ、アウトォォッ!」
際どいタイミングだったが、一塁塁審の手が右こぶしを上げた!
「よっし!!」
思わず拳を握りしめた。ベンチもスタンドも、大きく湧き上がる。
「スリーアウト、チェンジ!」
その声を聴くのと合わせて、脳内に音が響いた。
【ジャイロカッター 1を獲得しました。】
ステータス画面を確認すると、確かにこれまでは0だったジャイロカッターが1に代わっているのを見て取り、かつての感覚を取り戻しつつある事に喜んでいると、佐野先輩がマスクを外して、にやりと笑いながら歩み寄ってくる。
「ナイスピッチング、風間。……これで、お前の“武器”は、十分通じるって証明できたな」
俺はこくりと頷いた。
さぁ、後は逆転するだけだ。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:126km/h
コントロール:E(48)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター1【↑】
守備:E(48)
肩力:D(56)
走力:E(48)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:E(46)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ△・
逆境○・ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
対ピンチ〇・スライディング・
未来への一歩・
選球眼
成長タイプ:元天才型
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