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第33話 エース不在の交流戦


 交流戦当日。


 白川学園のグラウンドに降り立った瞬間、聞こえてきたのは、敵チームの監督の声だった。


「早実さんどうやらエース、いないらしいぞ。いやぁ、見れるのを楽しみにしてたのになぁ」


 そんな白川の監督の声を受けた選手たちも、こちらを見てニヤニヤ話をしている。


「エース抜きとか、マジでラッキーだろ」


「今日、コールド狙えるかもな」


 そんな声が聞こえたけれども、俺たちは誰一人として負けるつもりは無かった。


 春日が小声で話しかけてきた。


「ナメられてるな……」


「あぁ。でも、こっちにとっては何も問題ないだろ」


 そう言うと、春日がニヤリと笑う。


「思いっきり、ぶっ潰せばいいだけだな。頼むぜ未来のエース!」


 その言葉に、俺も笑った。


(そうだ。こちら側にエースがいなかろうと、関係ない。出番が有れば、実力を見せつけるだけだ――)


 そう考えている間にも、直前練習としてスタメンが守備位置につき、ボールをグラウンド上で回し始める。


 エース不在でも先輩たちの体のキレや、球筋は何ら問題なさそうだった。


 そして一通り練習を終えると、試合開始となる。


 ――プレイボールの声が響き、試合が動き出した。


 先発は、二年の佐伯さんだ。


「落ち着いていこう、佐伯!」


「今日の球走ってるぞー!」


 ベンチから声援が飛ぶ中、佐伯さんは淡々とマウンドに立ち、テンポよく投げ込んでいく。


 低めに集められたストレートとスライダーが冴えわたっていた。

 相手打線は、手を出せない。


 ――そして、あっという間に三者凡退。


「っしゃぁぁ!!」


 俺たちのベンチが湧いた。


 続く攻撃、一番がフォアボールを選び1塁に出た後、二、三番が凡退し迎えた四番の山岡さん。


 静かに、ゆったりとバットを構える。


 相手ピッチャーが投じた、内角高めのストレート。


 それを、狙いすました様にジャストミートした。


 ――カキィィィン!!


 高音を響かせながら飛んだ打球は、ぐんぐん伸びた。


 そのまま、レフトスタンドの防球ネットを直撃!


「ホームラーーーン!!」


「さっすが山岡さん!」


 ベンチが総立ちになった。


 初回から、2対0。


 最高のスタートだった。


 しかし――順調だったのはここまでだった。


◆◆◆


 その後、2対0で迎えた三回表。


 佐伯さんは、安定した投球を続けていた。


 だがツーアウト1塁で、事件は起きた。


 相手の三番バッター。


 低めのボールをすくい上げた、ピッチャー返し――!


 ドンッ!!


 ベンチにまで聞こえるほど、鈍い音が響いた。


「……っ!」


 小さな悲鳴を上げた佐伯さんの体が、ぐらつく。


 打球は、利き腕の肘に直撃していた。


「タイム、タイム!!」


 鬼島監督がすぐさま飛び出してきた。


 グラウンドに倒れ込む佐伯さんに、周囲がざわつく。


 俺も、思わず立ち上がった。


「佐伯さん……」


 顔をしかめながら、立ち上がった佐伯さんだったが――


 肘を押さえる仕草は、明らかに尋常じゃなかった。


 鬼島監督が、すぐに判断を下した。


「……交代だ。ブルペンの安藤を呼んで来い! 代わりに風間は、ブルペンで肩を作っておけ」


「はい!」


 ベンチからブルペンに伝令が走り、事前に投球機会があると言われて体を温めていた安藤が、俺とすれ違う様に慌ててマウンドへ向かう。


 俺は拳をぎゅっと握り締めた。


(……頼れる物が他にいないここからが、勝負だ)


 そう考えながらブルペンに向かうと、既に春日がプロテクターをつけて準備しており、はやる心を抑えながら気持ちゆっくりとした動作で春日が構えるキャッチャーミットへと投げると、普段よりも良い音がした。


◆◆◆


 2点リード。


 しかし、早実ベンチには暗雲が立ち込めていた。


 佐伯先輩が運び出された後に迎えた、ツーアウト1塁からの試合再開。


 そんな中、相手側ベンチの声が聞こえてきた。


「相手ピッチャー1年だぞ、高校野球の厳しさ教えてやれ!」


「コールドにするつもりで打ってこーぜ!」


そんなヤジが飛び、流石に審判から注意が入るが、ヤジを真に受けたのかマウンドに立つ安藤の顔色は、明らかに悪かった。


 一球、また一球――。


 ボールが、ストライクゾーンを外れていく。


 キャッチャーが何度も胸元にサインを送るが、安藤の目は泳いでおり明らかに動揺していた。


 ――ストライクが、全く入らない。


「バックを信じて真ん中投げてけー!」


「こっち飛んで来たら取ってやるから、後ろ飛ばすつもりで投げてこーぜ!」


 先輩達からそんな声がかかるが、安藤の耳には入っていないのか返事すらもない。


 結局、1球もストライクに入らずフォアボール。


 ツーアウト一、二塁。


 さらに続く1球で暴投し、あっという間に二、三塁のピンチとなる。


 白川のベンチが、わかりやすく色めき立った。


「いけるぞ! 相手ピッチャービビってんじゃねーか!」


 再度審判から警告があるが、安藤の表情がみるみる曇っていく。


 投げる球すべてが力んで、腕が縮こまり、低く沈む。


 ――そして。


 甘く入ったストレートを、真芯で弾き返された!


 打球はセンター前へ一直線。


 ランナー二人が楽々と生還し、スコアボードには無情に『2-2』の文字がともる。


「くそっ……!」


 安藤はマウンド上で、グラブで顔を隠した。


 まだ、続く。


 次の打者にも、初球から痛打。


 レフト前へポトリと落ちるヒットで、一、二塁。


 更に続くバッターもフォアボールとした後、満塁からヒットを打たれて点数は2対4、走者は一、二塁となり、アウト一つを取ることが出来ずに状況は完全に悪化していた。


 安藤の球を受けていた佐野先輩が、首を横に振りながらベンチを見た。


 ――そのときだった。


 鬼島監督が、立ち上がりこちらに向かってくる。


「風間! いけるか?」


「はいっ!」


 急遽、俺の名前が呼ばれた。


 心臓が、ドクン、と高鳴る。


 ブルペンからダッシュでマウンドへ向かうと、安藤とすれ違った。


 しかし安藤はこちらを見ることすらなく、小さく震えながら下を向いていた。


(……もう他にピッチャーはいないんだ、俺が止めるしかない)


 胸の奥で、静かに火が灯る。


 マウンドに立った俺は、ボールを受け取ると、帽子のつばをぐっと下げた。


(ここからだ――)


 気合を込めて、俺は初球を握りしめた。


 マウンドに立つと、汗ばむ手のひらに、ボールの感触がやたらと重く感じた。


 三回表ツーアウト一、二塁で2点差。


 ここで踏ん張れるかどうかで、今後の試合の流れは大きく変わる。


 そう考えていると、佐野先輩がマウンドへ歩いてきた。


「風間、いけそうか?」


 声は低く落ち着いていたけど、その奥にある焦りを、俺は見逃さなかった。


「今、七番。出来れば、ここで一旦切っておきたい。万一にも上位打線に回すのはリスクが高い」


 俺は、しっかりと頷いた。


「問題ありません」


 佐野先輩は目を細め、口元だけで笑った。


「じゃあ、任せる。お前の持ち味、見せてやれ」


 そう言って、戻っていく背中を見送りながら、俺はもう一度、息を整えた。


 七番打者は、やや前寄りの構え。


 ここは、落とす。


 俺はスクリューの握りに変えた。


 腕をしっかり振り切って、低めへ沈む軌道を描いたボールは――バッターのバットの下をすり抜けた。


「ストライク!」


 よし、球は問題なく走ってる。


 二球目。今度は外のカーブ。


 ゆるく、大きく。タイミングを外す。


 打者のスイングは明らかに泳ぎ、空を切った。


 三球目、再び外低めにスクリュー!


 相手バッターの手が出た――でも、届かない!


「スリーアウト!」


 俺の背中を打つように、早実ベンチから歓声が飛び込んできた。


 1アウトをとりピンチを切り抜けた――それだけのはずなのに、体中に電気が走るような感覚があった。


 ベンチへ戻ると、春日が俺の背中をバシンと叩いた。


「……お前、マジで仕上がってきたな」


「春日が調整を手伝ってくれたおかげだよ。さあ、試合は始まったばっかだ」


 そう、これからだ。


 まだ、俺たちの戦いは、終わっていない。


<ステータス>

 ===============

 名前:風間 拓真(Kazama Takuma)

 ポジション:投手(左投左打)

 球速:126km/h

 コントロール:E(48)

 スタミナ:D(54)

 変化球:ストレート2,カーブ2,

     スクリュー2,

     ジャイロカッター0

 守備:E(48)【↑】

 肩力:D(56)

 走力:E(48)【↑】

 打撃:ミートE(42)、パワーE(43)

 捕球:E(46)【↑】

 特殊能力:元天才・ケガしにくさ△・

      逆境○・ピッチングの心得(Lv2)・

      継続○・意外性・対強打者○・

      打撃センス○・ノビ〇・

      対ピンチ〇・

      スライディング・

      未来への一歩


 成長タイプ:元天才型

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