第31話 小春が見た朝のブルペン、大きな背中
「はぁ、何で時間設定ミスっちゃったかなぁ」
目覚ましの時間設定をミスって、焦っていつもの朝練の時間よりも1時間も早く来てしまったせいで、グラウンドに来ても当然誰もいなかった。
慌てて朝ごはんを食べる私をお母さんが止めていた理由を理解したのは、人が殆ど乗っていないバスに乗ってからだった。
わざわざバスを降りて引き返すのもバカらしくて学校へ来てみたら――フェンス越しにひとり、投球練習をしている人の姿を見つける。
「……風間くん?」
誰もいない第2グラウンドのブルペンで、風間くんは黙々とボールを投げていた。
足元には水とタオルはあるけれど、当然コーチも、春日くんもいない。完全にひとりきり。
だけどそんなの関係ないって顔で、彼は腕を振っていた。
「ビュッ」
鋭く、乾いた音がする。
でも、納得はいってないみたいだった。
ミット代わりのネットに投げ込むけれど、軌道が安定しない。低めに逸れたり、高く浮いたり……そんな光景をみて思わず私も手に汗握ってしまった。
(……この間練習してたジャイロカッターかな?)
この前のキャッチボールで見せてた、彼の新しい球。
きっと風間くんにとって今後必要になってくる球だと、私も思ってる。
2軍の厳しい練習。走り込み、打撃練習、筋トレ。みんな立ってるだけでフラフラになるくらいの負荷をかけられているのに。
それでも彼は――こうしてまた、ひとりでボールを投げてる。ただそれは闇雲に回数をやって肩を痛めている訳ではなく、永井さんから言われた一定のルールを守ってやっている事も知っていた。
何度も何度も投げては上手くいかなくて、その度にちょっと悔しそうな顔をして。
それでも諦めず、また、投げる。
腕を振るたびに、額から汗が落ちる。
ユニフォームの背中は、すっかり濡れていた。
(……なんで、こんなに頑張れるんだろう)
そして同時に思わず、私は口に出してしまった。
「……かっこいい」
その瞬間だった。
「えっ?」
風間くんが振り返った。
目が合う。
「わっ、小春!? え、うそ、見てたのかよ、今の!」
動揺しまくってる彼の顔が、すごくわかりやすくて――思わず、私は笑ってしまった。
「ごめん、見ちゃった。たまたま朝、ちょっと早く来ただけで……」
「うわー、マジかぁ……恥ずっ!」
頭を抱える風間くんに、私は声をかける。
「でも、すごいなって思ったよ。ずっと、一人で頑張ってて」
「……そっか」
照れくさそうに、風間くんが顔を背ける。その横顔を見ながら、私は胸の奥で小さく、言葉を噛みしめた。
(誰よりも、努力してる人だ……)
――私は、兄の事もあって「マネージャーになりたい」って思っただけだった。
でも、ここにいる人たち――風間くんは本気で自分の夢を、甲子園を掴もうとしてる。
特に風間くんは一般生にも関わらず、ずっと厳しい練習を受けながら、毎日成長してる気がする。
変わってきてる。
表情も、声も、立ち姿も。
会ってまだたった数週間なのに――目を離せなくなっていた。
◆◆◆
午前の練習が終わった頃、風間くんは1人で練習してた姿よりもずっと軽やかな足取りでベンチに戻ってきた。
私は準備していたスポーツドリンクを持って、その前に立つ。
「はい。小春さんから、けさ頑張ってた人にプレゼントをあげよう!」
「……お、気が利く。ありがとな、小春」
彼が笑ってくれた瞬間、私の心臓が――少しだけ、跳ねた気がした。
(ねぇ風間くん。私、これからもアナタの背中を見ていても良いかな)
心の中だけで、そんな言葉をつぶやいてみた。
恥ずかしくて、まだ口には出せないけど――。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:126km/h
コントロール:E(48)【↑】
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター0
守備:E(46)
肩力:D(56)
走力:E(46)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:E(44)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ△・
逆境○・ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
対ピンチ〇・
スライディング・
未来への一歩
成長タイプ:元天才型
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