第30話 かつての背中、手を伸ばした先に
練習試合が終わって、また日常が戻ってきた。
汗と砂と怒号が飛び交う、厳しい練習。だが、俺の心にはまだ炎が燃えていた。
先日の試合でわかってしまったのだ。今の自分が、どこに立っているか。
確かに試合には勝って、3年生たち相手にも打たせなかった。
――でも、こんなもんじゃない。
あんな投球、昔の俺なら納得していなかった。
――そう、あの時甲子園のマウンドに、背番号1をつけて立った時の、あの“俺”なら。
「……取り戻して見せる」
夜の公園。街灯の下、俺はタオルを握っていた。
人なんていない。あるのは、風の音と虫の羽音。そして、自分の息づかいだけ。
ぴしっ。
ぴしっ。
タオルを振るたびに風が起きる。
頭の中に描くのは、かつての自分のフォーム。右足を高く上げ、軸足でしっかりと立ち、胸を張って――柔らかく、しなやかに、腕を振る。
リリースポイントで指に乗せる繊細な感覚。肘の高さ、腰の開き、全身の連動――。
「……ここだ」
ぴしっ。
何度も、何度も。
脇が甘い。体重移動が流れてる。リリースが遅い。
そうやって自分を分解していくと、今の自分がまだソコソコの段階で止まってるのが、嫌ってほどわかる。
「くそっ……」
誰に聞かせるでもなく、呻きが漏れる。
でも――それでも、やるしかない。
あの頃の俺も、努力してなかったわけじゃない。でも、才能と肉体に染み付いた感覚に頼っていた。
でも今の俺は、もう当時の様な才能も感覚もない。
けれど、努力する力と経験だけは……まだある。
そしてふと思い立って、あの頃使っていた決め球を試してみる。
スクリューでもカーブでもない、あの球。
人差し指と中指を立てて挟み、手首のスナップで回転をかける。
「――っ!」
空を切るタオルが、独特の風を生んだ。
まだ当時の感覚とは程遠い。
でも、今までとは違う“手応え”があった。
「……もしかして――」
思わず、自分の手元を見下ろして、にやりと笑ってしまった。
届かないと思っていた背中に、指先だけでも触れたような気がした。
俺はもう、あの頃の“天才”じゃない。だけど、あの頃の“努力”は、俺の中にまだ残ってる。
明日も、やる。明後日も、やる。俺はきっと、あのマウンドに――もう一度立つ。
いや、立ってみせる。
◇
二軍のグラウンド。キャッチボールの合間、俺はふと春日に声をかけた。
「なぁ春日。ちょっと、試したい球があるんだけど」
ボールを受けた春日が、軽く首を傾げる。
「試したい球? お前、この間スクリューを習得したばっかじゃなかったか?」
笑い混じりに言いながら、返球してくる。でも、その顔はすぐに真剣なものに変わった。
「……どんな球だ?」
「――ジャイロカッター。最近練習してて、形になりつつあるんだよ」
「ジャイロカッター、ね……いいじゃん。やってみろよ」
春日がキャッチャー姿勢で構え直す。
すると、少し離れたところで水筒を持って見ていた小春が、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「えっ、なになに? 新しい球試すの? 見てていい?」
「もちろん、見届け人よろしく!」
俺が答えると、小春は笑顔で親指を立てた。
「任せて! 私、ちゃんと実況してあげるから!」
俺はボールを握り、深呼吸する。
(イメージだ、イメージ。ストレートのように振り抜きながら、指先で微妙にスライドさせる――)
全神経を指先に集中させて、腕を振り抜いた。
ビュッ!
「っ……!」
真っすぐ伸びるボール……と見せかけて、最後の瞬間、わずかに外へ逃げた。
春日がミットを動かしながら受け止める。
「……おぉ、今の、ちょっと動いたな」
「マジか!」
思わず駆け寄る俺に、春日はニヤリと笑った。
「悪くねぇよ。まだ荒っぽいけど、ちゃんと横回転かかってた」
「よっしゃ……!」
拳を握った俺の背中を、小春がぽんと叩く。
「すごいじゃん風間くん! 今の、見ててゾクッときた!」
「ありがとな、小春。まだまだこれからだけどな」
「もう一球、頼む!」
「おう、どんどん来い!」
そこからは反復だった。
回転がズレれば打者に簡単に見抜かれる。軌道が甘ければ打たれる。
でも――
(できる。俺には、絶対にできる……!)
全身は筋肉痛でも、指先の感覚だけはどんどん鋭くなっていく。
「風間、ラスト一本!」
春日の声。小春の拍手。
俺は大きく息を吐き、全力で腕を振った。
ビュッ!
今までで一番鋭く、小さく変化した球。
バシィン!
乾いた音が響き、春日のミットにしっかり収まる。
春日がミットを見つめ、満足そうに笑った。
「これだな」
「……やった!」
ガッツポーズする俺に、春日がニヤリと告げる。
「これ、モノにできたら、マジで武器になるぞ。お前のストレート、まだまだ遅いからなぁ」
「うるせぇ! そんなことはわかってるよ!」
「でも、遅くたって当てさせなきゃいいんでしょ?」
小春がいたずらっぽく笑って、ふたりの間に入ってくる。
「ジャイロカッターで相手の芯を外しまくってやればいいのよ!」
その言葉に、思わず俺と春日は顔を見合わせて、同時に笑った。
「お前、マネージャーじゃなくてピッチングコーチかなんか狙ってんのか?」
「それ、ちょっと面白いかも……!」
笑い合いながらも、心の奥底では確かに熱く何かが震えていた。
俺たちの練習は、まだまだ続く。
でも――確かに、未来へ繋がる何かを掴んだ気がした。
【新球種『ジャイロカッター』変化量0を獲得しました。】
ジャイロカッター:打者のバットの芯を外しやすい高速小変化球。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:126km/h
コントロール:E(47)
スタミナ:D(54)
変化球:ストレート2,カーブ2,
スクリュー2,
ジャイロカッター0【new】
守備:E(46)
肩力:D(56)
走力:E(46)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:E(44)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ△・
逆境○・ピッチングの心得(Lv2)・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
対ピンチ〇・
スライディング・
未来への一歩
成長タイプ:元天才型
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