第21話 予測不能な魔球と安藤の実力
ノーアウト一塁。俺が一塁ベースを踏んだまま、バッターボックスに入ったのは――春日だった。
「へっ、なんだよその顔。打つ自信でもあんのか?」
安藤が半笑いで春日を見下ろす。
「さぁな。ま、やれることをやるだけさ」
春日はゆっくりと構えを取った。
その目は、冗談を言っていたさっきまでとは違い、鋭く一点を射抜いている。
――安藤の初球。唸るようなストレートが、内角高めギリギリへ飛び込んだ。
「ストライク!」
「うわ、マジかよ。あんなとこに140超えがズバンかよ……」
ベンチから誰かの驚きの声が聞こえる。
次は外角低めへ、今度は少しだけシュート回転。春日は手を出さずに見送った。
「ボール」
2球目まで見て、春日は小さく頷いた。
(……分かってる。安藤のストレート、普通じゃない)
春日はすでに安藤の情報を調べていた。中学時代、全国のエースと呼ばれ、球速とスライダーを武器にしていたことも。
3球目――そのスライダーが来た。
(来たっ……!)
タイミングを合わせ、スイング。だがわずかに芯を外れた。カチン、と鈍い音がして、ファウルに逃がす。
「ちっ、簡単には打てねぇか……」
「へぇ、よく当てたな。だいたいの奴はそこで終わるんだけど」
安藤の口元が歪んだ。
それでも春日は、ぐっとバットを握り直す。
「なぁ、格の違いってこういうのを言うんだよ」
――次の球。
それは、明らかにこれまでのどの球とも違った。
「……!」
スローに見えた、と思ったその一瞬。
球がストンと落ちた。
下へ――不規則に、予測不能に。
春日のバットが空を切る。
「ストライーク! バッターアウト!」
小さく、観客席からどよめきが起きた。
春日が帽子を取って振り返る。俺と目が合うと、肩をすくめた。
「悪ぃ……あれは読めなかった」
「今の……ナックルか?」
「たぶんな」
まさか、安藤がそんな球を持っているなんて――完全に予想外だ。
次の打者も、そしてその次も、バットを出すことすらままならず、空振り三振。ストレート、スライダー、そしてナックル。
あらゆる球種を完璧に操るその姿は、まるで“完成された高校生ピッチャー”そのものだった。
「うっわ……なんだよあのレベル。別格すぎだろ……」
ベンチの誰かが呆れたように呟く。
グラウンドには、しばしの静寂が訪れた。
と、その沈黙を破るように、春日がポツリと漏らす。
「……これは投手戦になるな」
その言葉に、俺は自然と笑みがこぼれた。
「望むところだ!」
燃える心を抑えきれないまま、俺はマウンドへと向かう準備を始めた。
◆◆◆
再び俺がマウンドに上がると、白側のベンチが活気づく。
「こっちも本気出すかー!」
「いけいけ、安藤さんの打席の前に塁に出ろ!」
その声に乗せられるように、バッターボックスには赤の4番――体格の良い特待生が立っていた。
構えは低く、下半身の粘りもありそうな、見た目通りのパワーヒッターだ。
(……なら、まずは芯を外す)
一球目、スクリュー。
手元まで直球に見せかけ、左下へグニャリと沈む。
「っ!?」
バットが空を切った。
二球目はやや外角にストレートを投げ込み、フライを打たせて難なく処理。
落ち着いて一人目を切って落とした俺の前に、続いてバッターボックスに入ったのは――安藤だった。
「おーっと、来たぞ来たぞ。打て、安藤ー!」
白側のベンチが一斉に沸く。
ただ、安藤の目は冷静そのものだった。
「悪くねぇ球投げてんな。……でもな、俺は全国のシニアでエース相手に打ってきた男だ。お前のレベル、全部見えてんだよ」
挑発混じりに笑いながら、軽くバットを肩に乗せる。
――その言葉に反応せず、俺はカーブを選択した。
手元まで直線を描き、そこから大きく落ちる変化球。
……が、カツン、と金属音が響く。
ボールはファウルゾーンへと飛んでいった。
(反応してくるか……)
二球目は内角寄りにストレート。
再びファウル。
そして三球目は大きく外したボール球で反応を見るが――
「ほう。逃げんのか?」
安藤は手を出さず、余裕の態度。
その瞬間、なぜか脳裏に浮かぶのは、前世で見てきた全国の猛者たちの姿だった。
(安藤……確かに反応はいい。でも――)
四球目、再びカーブ。
――結果、安藤は芯を捉えきれず、ボテボテのゴロになった。
「ショート、前っ!」
春日の声が飛ぶが、グラウンドの整備が甘かったのか、ボールがイレギュラーにバウンドして処理を誤る。
「っ!」
ボールがグラブからこぼれ、安藤はそのままセーフ。
打球自体は正直、ヒットとは呼べないレベルだった。
「うし、出たぁ。やっぱ格が違ぇんだよ、お前とは」
満足そうに安藤が塁上で笑う。
……だが、俺の表情は変わらなかった。
春日がマスクを外してマウンドへ向かってくる。
「風間、気にすんな。ただのエラーだ。実力負けじゃねぇ」
「……ああ。わかってるよ。ありがとな、春日」
前世での経験――甲子園を始め、地方大会、シニアやリトルでの大会、試合に勝っても負けても受けてきた評価や罵声、ブーイング。
それに比べれば、今のこれはただの“通過点”だ。
「まだ点を取られたわけじゃない。皆、しまっていこう!」
そう言いながら、申し訳なさそうな顔で頭を下げていたショートに親指を立てると、チームメイトから活力の満ちた声が返ってきた。
マウンドに戻り、深く息を吐く。切り替えるんだ。
――次の打者は左の中距離バッター。やや前目に構え、コンパクトなスイングが持ち味らしい。
(詰まらせる)
一球目、ややインハイへストレート。わざと少し抜いて、バットの芯を外す。
狙い通り、詰まった打球がピッチャー返しになった。
「よしっ!」
俺は反射的にグラブを出し、打球を弾かずにキャッチ。そのまま一塁へ送球してアウト。
紅組側ベンチから歓声が上がる。
(これでツーアウト。あと一人)
続く打者は右のアベレージタイプ。手堅く当ててくるバッターだが、逆に言えば力勝負には向いていない。
一球目、スクリュー。インコースから食い込ませるように沈ませると――
「っ……!」
体勢を崩したまま、無理やり当てた打球はショート正面。
「いける!」
今度は先ほどと違いショートがスムーズにさばき、一塁へ送球。
「アウトー!」
3アウト。チェンジ。
「くそっ、使えねぇ連中だ」
悪態をつく安藤を残塁のまま抑えたその瞬間、ベンチの雰囲気が一気に明るくなった。
「ナイスピッチ!」
「落ち着いてたな、風間!」
仲間たちの声が響く中、俺は胸の内で静かにガッツポーズを握った。
「さ、次は攻撃だ。先制と行こうぜ!」
そう言うと自然と、チーム内に前向きな空気が流れていった。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:122km/h
コントロール:E(43)
スタミナ:E(48)
変化球:ストレート2,カーブ1,
スクリュー1
守備:E(42)
肩力:D(54)
走力:E(43)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:E(40)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・継続○・
意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
対ピンチ〇
成長タイプ:元天才型
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