第20話 再びの紅白戦
紅白戦当日、俺を含めた1年生たちは鬼島監督のオーダーをかたずを飲んで待っていた。
「風間と春日、お前たちのバッテリーが紅組の先発だ」
鬼島監督の言葉に、一気に部員たちがざわついた。
「マジか……一般組が先発?」
「監督、なに考えてんだ?」
そんな声が聞こえてきても、俺は気にしなかった。
隣で春日がグローブを叩きながら、ふっと笑っている。
「ついに来たな、俺らの番が」
「ああ。やってやろうぜ、春日」
春日と拳をあわせ合った後に紅組のベンチでアップを始めると、向かいの白組のベンチが騒がしくなった。
ちらりと視線を向けると、あの関西弁の投手――田辺が、何やら特待生の安藤と騒いでいた。
「お前みたいな一般生上がりが、俺ら特待生の足引っ張るなんて認められない!」
「はん、ワイは監督の指示に従うとるだけや。悔しかったら、監督に選ばれるようになったらええねん」
そう田辺が勝ち誇ったように笑うと、安藤が舌打ちをする。
「絶対に負けることは許さんぞ」
「言われんでも分かっとるわ。大人しくそこで見とき」
そう告げると田辺はベンチを飛び出すと、白組のユニフォーム姿でマウンド近くに現れた。
「おーい風間ァ!うちの特別ゲストにようこそや!」
ベンチからも笑いが起きる。
「出たよ、関西のうるせぇやつ」
「アイツ、前に風間とやりあって卑怯な手段で負けたとか言ってなかったか?」
そんなベンチの声を受けて、田辺が笑顔になる。
「今日のワイはちぃと違うで? 前とちゃう成長っぷり、楽しみにしとき」
そう言って田辺は、バットをクルクルと回しながら先頭打者として立った。
――1回表、俺の先攻。
「赤ん坊が投げるようなストレートに、ションベンみたいなカーブしかなかったクセに、よう先発なんて任されたもんやなァ?」
田辺はニヤニヤ笑いながら、こちらの気持ちを逆立てる様に挑発してくる。
「もう逃げ場ないで。お前がどんだけ努力したんか知らんけどな、せいぜいワイのバットの肥やしになってくれや」
「……あいにく、俺も前とは違うからな」
俺は深く息を吸い、ゆっくりとセットポジションに入る。
マウンド後方、バックネット裏では小春が、スマホを手に俺をじっと見つめていた。
視線を感じる。大丈夫。見てろよ。
(肩の力を抜いて……スナップで……)
――1球目、ストレート。
ズバンッ!
「っ……!」
田辺のバットは空を切った。が、彼の顔に余裕は消えていない。
「ちょーっとマシになっとるけど、まだまだや。こっからが勝負やで?」
――2球目、カーブ。
ぐにゃりと落ちる変化球に、田辺のタイミングがズレる。
「っくそ……!」
カウントは0-2。春日がサインを出した。もちろん――あれだ。
春日の目が、目に物見せてやれ! と言っている様に見えた。
――3球目、スクリュー。
フォームはストレートとまったく同じ。手元まで直球の軌道。
そこから、ボールが突如、左下にぐにゃりと沈み込んだ。
バットは――空を切る。
「な、なっ……なんやあ今の……!?」
田辺はその場で棒立ちになった。周囲がざわめく。
「今の球……ストレートじゃなかったよな?」
「え、スクリュー?あんなの投げられるのかよ、アイツ……!」
ベンチのどよめきが、ひとつの空気を作り出していく。
そこからは、もう流れるようだった。
二番打者には再びスクリューを。三番打者にはあえてのカーブからのストレートで見逃し三振。
三者三振。俺たちの初回を、完璧な立ち上がりで締めくくった。
「っしゃぁぁ!! どうだこれが風間だァァァ!!」
春日が叫び、俺の胸をドンと叩く。
「お前……本当にすげぇな!」
「まだ1回だ。気を抜かずにやって行こう」
ベンチに戻ると、味方の面々が目を丸くしていた。
「マジで風間、ヤバくないか……」
「あんな球、いつの間に……」
ふと、ベンチの外に目を向ければ、小春がこっちに大きく手を振った後、拍手していた。
◆◆◆
「1番、ピッチャー風間!」
紅組のベンチから俺の名前が呼ばれる。
投げて抑えて、今度は打席。
「風間、いっちょ打っちゃえよ!」
春日の声を背中で受け取りながら、バッターボックスへ歩を進めた。
マウンドには――田辺。
先ほど三振を喫した時とは打って変わって、眉間に深い皺を寄せていた。グラブ越しの眼差しには、明らかな怒り。
「……ふん、上等や。さっきのはたまたま抑えたとしてもな、ピッチャーとして舐めとったらアカンで?」
ぶっきらぼうに構える姿勢から、ボールが放たれる。
――初球、外角低めのストレート。
「……チッ」
見送ったボールはストライク。
田辺の制球は悪くない。ただ――読みやすい。
「一発目はまずストライク。次は……」
2球目、内角ギリギリを狙った速球。
読んでた。踏み込む。力は要らない、合わせるだけだ。
【打撃センス○が発動します。試合時のミート力が+5向上します。】
カキーン!
乾いた金属音がグラウンドに響き、白球はライト前へと抜けていった。
「……なっ!」
田辺が目を見開く。俺は静かに一塁へ走り出す。
紅組側ベンチが湧き、春日が勢いよくバットを構えた。
その時だった。
「……タイム!」
白組のベンチから、安藤が帽子を斜めにかぶりながら歩いてきた。
「おい田辺、マジでなにしてんだよ。やっぱり所詮は一般生徒だったか?」
「なっ……ち、違う! 今のは……そ、そうやっ、朝から利き腕の調子が悪かったんや!」
「ダッサ。だったら大人しくマウンドから降りろよ……そうだよな? 皆」
「あぁ、一般生如きが先発な時点で俺は不満だったんだ」
「さっさと降りろよ、本当のピッチングってもんを安藤が見せてくれるからよ」
自分のチームメイトにそんな風に煽られて田辺は悔しそうに唇を噛み締め、自ら監督に負傷で選手交代する旨を告げてマウンドを降りていった。
そして代わりに立ったのは――安藤。目つきが違う。余裕を通り越して、こちらを見る目は侮蔑そのものだ。
「で、風間だっけ? さっきのスクリュー? へぇ、よかったじゃん。雑魚を抑えられて自信になった?」
「……何が言いたいんだ」
「お前ら一般組が一瞬輝いたところで、俺ら特待生には永遠に届かねぇって話だよ。教えてやるよ、現実ってやつをな」
その言葉に、春日がふんっと鼻で笑った。
「おい安藤、そろそろ黙れよ。こっちは野球しに来てんだ」
「はぁ? 誰に口きいてんのか分かってんのか?」
「分かってるさ。口ばっかで態度ばっかデカい特待様ってな」
――一瞬、空気が凍る。
けれど、俺は笑った。
この空気を破るのは、プレーしかない。
「……言いたいことあるなら、マウンドで証明してみせろよ。言葉じゃなくてさ」
安藤の眉がピクリと動いた。
「おもしれぇ。じゃあ、俺の球、見せてやるよ。後悔すんなよ?」
俺は一塁に立ちながら、じっと安藤の背中を見つめた。
特待生――その象徴たる存在が、今ここに降り立った。
だが努力してきた日々、苦しみ抜いてきた時間。それを一瞬で否定されるいわれはない。
「……俺たちだって、負けるわけにはいかない」
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:122km/h【↑】
コントロール:E(43)【↑】
スタミナ:E(48)【↑】
変化球:ストレート2,カーブ1,
スクリュー1
守備:E(42)
肩力:D(54)【↑】
走力:E(43)【↑】
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:E(40)【↑】
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・逆境○・
ピッチングの心得(Lv2)・継続○・
意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇・
対ピンチ〇
成長タイプ:元天才型
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