表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・天才ピッチャー、転生先では俺だけが見える“野球スキル”で無双する 〜ケガで終わった俺が、ざまぁと完全試合で夢を取り戻す〜  作者: 猫又ノ猫助
甲子園へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

196/197

第195話 二回の守備

 金城先輩がマウンドに立つと、球場全体の空気がピリッと張りつめた。


 甲子園特有の湿った熱気の中でも、あの人の背中だけは、まるで炎の芯みたいに揺るがない。


 ――ストレート勝負で行きます!


 佐野先輩の短いサイン。


 金城先輩は軽くうなずくと、グラブを口元に添え、ゆっくりと息を整える。


 足を高く上げた――と思った瞬間、――ズバンッ! という破裂音がミットに吸い込まれた。


「ストライクッ!」


 審判の声が響く。


 初球から150キロを超える速球。


 あの音、あの球筋。練習の時に見るよりずっと重く、速い。


(……これが先輩の本気ってやつか)


 ベンチの前列で俺は思わず膝を乗り出していた。


 春日はキャッチャーとしての目線で冷静に見ている。


「やっぱ、金城先輩の球、伸びエグいな」


「あぁ。低めの制球が神がかってる。キャッチャーが構えた通りに来てる」


 春日の声は小さいけど、どこか興奮を隠しきれていない。


 打者が2球目のカーブにバットを空振りした瞬間、俺たちは同時に顔を見合わせた。


「今の……カーブ?」


「そうだな。落ちるってより、沈む軌道でストレートが速いから余計に見極められない」


 三球目――内角を突くストレート。


 打者のバットは動けないまま、空を切った。


「バッターアウト!」


 球審が右手を上げる。


 佐野先輩が軽く頷きながらマスク越しに微笑む。


 それを見て金城先輩も、唇の端をわずかに上げた。


 あの無言のやりとりに、二人の信頼が詰まってる気がした。


 二人目の打者も、スクリューを混ぜながら完璧に打ち取る。


 内野ゴロを猫宮先輩が素早くさばいて一塁へ――スリーアウトチェンジ。


 スタンドの歓声がひときわ大きくなる中、ベンチに戻ってきた金城先輩が帽子を取って汗を拭った。


 その横顔には、まだ一滴の焦りもない。


 ただ、静かな闘志だけがあった。


「佐野先輩、ヤバいな……。あの球、キャッチするだけでも一苦労だぞ」


 春日がぽつりと呟く。


 そんな声を聞いたコーチの1人が笑った。


「お前らも、いずれこうなるんだよ」


 冗談とも本気とも取れない声。


 でもその言葉が、俺の胸の奥に火をつけた。


(――“いずれこうなる”)


 そう言われて、本気でそうなりたいと思った。


 この人みたいに、甲子園のど真ん中で、誰も打てない球を投げてみたい。


 そのためには、まだまだ足りない。


 技術も、心も。


「なぁ春日」


「ん?」


「ブルペンで肩作る時、いつも以上に厳しく見てくれないか?」


 俺がそう言うと、春日は少しだけ驚いた顔をして、それからニヤリと笑った。


「任せろ。お前の球、誰よりも知ってるんだからな」


 甲子園二回の守備――


 まだスコアは動かない。


 けれど、チームの鼓動は確かに熱を帯びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ