第15話 小さい春の訪れと過去の因縁
翌朝の教室は、いつもより少しだけ明るく見えた。
黒板の前で先生が喋っている内容は、正直ほとんど頭に入ってこなかった。眠いわけでも、やる気がないわけでもない。ただ、まだどこか現実味がなかった。
(……受かったんだよな、俺)
昨日の夜、永井さんに連絡を入れたときのことを思い出す。
『おお、マジか! やったじゃねぇか! ちゃんと監督も見てたんだな。お前ならやれると思ってたよ』
電話越しの声はいつもより弾んでいて、思わず俺も笑ってしまった。
それから、母さんにも報告した。最初は「ほんとに?」と信じられないような顔をしてたけど、すぐに目尻を下げて、
『よかったぁ……! これで夢に、ちょっとは近づけたわね』
そう言って、俺の頭をぽんぽんと撫でてくれた。俺が小学生の頃みたいに。
チャイムが鳴って、現実に引き戻される。昼休みだ。
俺は鞄から弁当箱を取り出して、机の上に広げた。今日のメインは卵焼きと唐揚げ。茶色くて安心するラインナップだ。母さんの味は、やっぱり落ち着く。
「よぉ、風間! 一緒に食おうぜ!」
突然声をかけられて、顔を上げると、春日が笑いながらこっちへ歩いてくる。
「お前んとこ、唐揚げ入ってんじゃん。うまそうだな」
「人の弁当覗くなよ……というか、急に来て何の用だよ?」
そう尋ねている間に、春日は当然のように空いていた隣の席に腰を下ろした。
「何の用だってそりゃ、将来バッテリー組みそうなお前と親交深めに来たんだよ」
春日が売店で事前に買っておいたのだろうパンを食べ始めたので、俺も弁当へと箸を伸ばす。
「にしても、あれだな……特待でもないこの学校の野球部に俺たち合格って、ちょっとスゴくね?」
「……まぁな。運も良かったんだろ」
「いや、風間のあの球見てたら納得だわ。俺、マジで背中ゾクッとしたもん」
春日が口を開けてパンを頬張ろうとしたそのときだった。
「え、今の聞いた? ウチの野球部に合格ってちょっと凄いんでしょ?」
「いやアンタ、ウチの野球部と言えば甲子園常連だし、例年入部さえ難しいので超有名じゃん!」
「そう言えば小春、野球部のマネージャーとか希望してなかったっけ?」
「うん! もし、本当に風間君たちが入部できたとしたら凄い事だよ! 過去10年のデータから見ても早実の野球部の一般生の合格率って……」
「ハイハイ、また小春の高校野球オタクが出て来たよ……」
そんな近くの女子たちの声が聞こえてきたので見ると、数人で話していた女子グループの中から、一人の少女が立ち上がってこっちへ歩いてくる。
その姿に見覚えがあった。明るい笑顔、茶色がかったポニーテール、そして少し大きめの目が印象的な女の子――
「ねぇねぇ! 昨日あった野球部の入部試験に合格したってホント!?」
興奮気味に目を輝かせながら声をかけてきたのは、朝倉小春。俺と同じクラスで、男女問わず人気のあるタイプだ。
「あ、あぁ。まぁ、なんとかね」
「すごい、すごい! 一般生が入部するのは凄く難しいから、一緒のクラスの人が合格しててなんか感動しちゃった! あ、私も野球部入るからよろしくね!」
小春が茶目っ気のある笑みで言うと、春日が驚いた顔をする。
「えっ、お前も野球やるのか?」
「そんなわけないじゃん! マネージャーだよ。 お兄ちゃんが昔、早実で甲子園出てたから……私もなんか、夢の続きが見たくてさ!」
その言葉に、俺は一瞬だけ何かを感じた。でも、小春はいつもの調子で、
「だから、これも運命でしょ? せっかくだから、今日から仲間ってことで――私も一緒にお昼してもいい? ついでに、2人のポジションとかも聞きたいな! 私、敏腕マネージャーになっちゃうからさ!」
テンション高く言う小春に俺も春日もしばらく返事に困って顔を見合わせたけど、結局ふたりとも、無言で机の上の弁当箱を少しずつ横にずらした。
すると小春は「やった!」と嬉しそうに笑って、自分の弁当箱をテーブルに置いた。
春日と小春と並んで弁当を囲むなんて、昨日までの俺はまったく想像していなかった。
小春は箸を動かしながら、興味津々といった様子で俺たちに質問を投げかけてくる。
「でさ、春日くんは元有明シニアの正捕手だしキャッチャーで……ってことは風間くんはきっとピッチャーだよね? もしかして、もう1年生バッテリー結成って感じ?」
「いやいや、まだそこまでは。たまたま昨日、組んだだけだって」
目を輝かせる小春にそう告げると、春日が割って入ってきた。
「でもさ、あの試合で俺のリードも光ってたし、風間のピッチングもめっちゃ冴えてたろ? 実質デビュー戦みたいなもんだろ!」
自慢げに鼻を鳴らす春日を見て、小春は楽しそうに笑った。
「ふふっ、そういうの聞くと、私も頑張らなきゃって思えるなぁ。マネージャーって、やっぱり選手を支える立場でしょ? 責任重大だよね」
「そんな気合い入れてんのか」
「うん。兄の分も含めて、ちゃんとやりたいなって思ってるの!」
そう言って、小春は明るく笑みを浮かべた。
「私、気合だけはあるから! 洗濯も水汲みも、全部やるよ! あと、得意科目は化学だから、スポーツドリンクの配合とか、完璧に覚えてやるんだから!」
春日が思わず吹き出す。
「お前、化学とスポドリの配合は関係ないだろ!」
「ふふん、ナメてもらっちゃ困るな~。体の吸収率は配合によって大きく異なるんだよ!」
小春の明るい声に釣られるように、周りのクラスメイトたちもちらちらとこっちを見ては、なんとなく微笑んでいる。
(……なんだろうな、この感じ)
昨日までは、合格したことさえ実感がなかった。でも、春日と話して、小春と笑って……ようやく今、自分が「チームの一員」になった気がした。
そして――この居場所を、絶対に守りたいと思った。
そうして俺たち三人が笑い合っていると、教室のドアが開いてクラスメイトが顔を覗かせた。
「風間……くん。ちょっと先生が呼んでるから、来てもらえる?」
視界が揺れ、やや挙動不審なクラスメイトに呼び出されて、思わず首を傾げていると、春日と小春が同時に俺の方を見てくる。
「なんかやらかしたか?」と春日。
「え、なになに、まさかいきなりお説教?」と小春。
俺は弁当のフタを閉じながら、軽く笑って立ち上がった。
「わかんないけど……行ってくるよ」
軽く手を振って廊下へ出ると、呼び出したクラスメイトが俯きながら歩き始める。
その背中は僅かに震えていて、不審に感じたので声をかけようとして、クラスメイトの名前をまだ覚えていない事を思い出す。
「あー……その、大丈夫か?」
そう聞くもクラスメイトはうつ向いたまま歩いて行き――連れられてきたのは、教員室ではなく、人通りの少なそうな階段下の薄暗い場所だった。
「……ごめん」
そうクラスメイトが告げると、元々そこに居たのだろう人物が声をかけて来た。
「よぉ、風間ぁ。昨日ぶりだなぁ」
薄暗闇から出てきたのは、教師――ではなく、渡井だった。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:121km/h
コントロール:E(41)
スタミナ:E(45)
変化球:ストレート2,カーブ1
守備:E(40)
肩力:D(52)
走力:E(41)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:F(36)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・逆境○・
ピッチングの心得(Lv1)・継続○・
意外性・対強打者○・
打撃センス○・ノビ〇
成長タイプ:元天才型
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