表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・天才ピッチャー、転生先では俺だけが見える“野球スキル”で無双する 〜ケガで終わった俺が、ざまぁと完全試合で夢を取り戻す〜  作者: 猫又ノ猫助
新しい世界で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/197

第12話 紅白戦開幕

 一次試験――遠投、シャトルラン、バッティング――それらの基礎的な試験を終え、いよいよ発表の時間だった。


「二次試験進出者を呼んでいく。呼ばれた者は、ユニフォームに着替えて集合。呼ばれなかったものは、速やかにこのグラウンドを去れ」


 (俺は、本当にこの学校で野球を続けられるのか?)


 そんな不安が、ふと脳裏をよぎる。


 しかし、そんなことは考えるな、と自分に言い聞かせた。


 俺は、あの時に誓ったはずだ。あの日、あの場所で。


『お前にはもう、戻る場所なんてねぇ。進むしかねぇんだよ』


 永井さんの言葉が、耳に蘇る。


 覚悟を決めて、グラウンドの中央に立った。


 目の前では、帽子を深くかぶった2軍監督が、手元のリストを見ながら番号を読み上げていく。静寂の中、番号の一つひとつが、まるで時限爆弾のカウントのように感じられた。


「……41番、42番……」


 番号は俺のすぐ前を通り過ぎていく。呼ばれない番号のほうが圧倒的に多い。立ち尽くす生徒たちの中には、拳を握りしめたまま俯く者もいた。


(次……次で来る。来なかったら……)


 喉がからからだった。手のひらに汗が滲んでいる。脳裏をよぎるのは、過去の俺――あの時の無力さ、後悔、絶望。


(違う。もう、俺はあの頃の俺じゃない)


 そう言い聞かせた瞬間だった。


「――43番、風間拓真」


 その一声で、世界が音を取り戻した。


 一瞬、自分の耳を疑った。けれど、確かに聞こえた。風間――俺の名前だった。


 俺の番号が、今、呼ばれた。


(……よっしゃ)


 心の奥底で、小さくガッツポーズを作る。叫びたい気持ちをぐっと堪え、口元だけがゆっくりと笑みを浮かべた。


 振り返れば、そこに28番のゼッケンをつけた渡井の姿があった。その表情が怒りと混乱に染まっていくのが、スローモーションのように見えた。


 けれど俺は、もう彼を見る必要なんてなかった。見るべきは、これから進む先だけだ。


 そして次の瞬間、渡井の怒声が響いた。


「ふざけんなっ……! なんであいつが通って、俺が落ちるんだよ!」


 渡井が俺に向かって、勢いよく詰め寄ってきた。


「てめぇ、裏でなんかやったんだろ!? その身体で……俺より上なわけねぇだろが!」


 そう叫んで、渡井が俺の胸倉を掴もうとしたその瞬間――。


「28番、アウトだ」


 短く、鋭い声が響いた。

 振り返ると、そこには2軍監督の姿があった。


「高校野球はな、そういう場じゃねぇ。自分の実力を受け入れられねぇ奴に、グラウンドに立つ資格はない。さっさとこの場を去れ」


 その言葉に、渡井の動きが止まった。怒りと屈辱の入り混じった顔で、俺を睨みつけたまま、渡井はその場を離れていった。


 それから間もなく、二次試験――紅白戦の準備が始まった。


 臨時で組まれたチームは、過去に名を馳せたシニアの選手や、中学で県選抜に選ばれた者ばかり。


通過者は全部で27人。シニアで有名だった選手、過去に全国まで行った学校のエース、県選抜経験者――錚々たる顔ぶれが並んでいた。


「よし、んじゃ俺、キャッチャーやるからチーム決めていいよな?」


 そう言い出したのは、がっしりとした体格の男子。確か中学全国大会でベスト8に入ったという情報が、ちらほら聞こえていた。


「異論ない。お前、シニアで4番だったろ」


「じゃあ、Aチームは俺がまとめる。Bチームは……そっちのピッチャーのやつ、仕切ってくれ」


「了解」


 そんなやり取りの中、自然とグループ分けが進み始める。


「田辺はこっちな。去年の成績知ってるし、安心できるわ」


「田中もAチームで。中学で戦ったけど、バッティング良かったし」


 名前が次々と読み上げられていく中、俺の名前は出てこなかった。


「……えっと、残ったのは43番の風間ってやつ?」


 ようやく誰かが俺の存在に気づいた。


「ああ、いたな。あれ、どこ出身? シニアじゃないよな?」


「聞いたことねーな。地元の軟式か?」


 数人が首をかしげる。


「まぁ、無名ならBチームでいいんじゃね? 様子見ってことで」


「賛成ー。てか、正直紅白戦の人数合わせだろ、あいつ」


「ハズレでもしゃーねーしな。試合に出ないなら問題なし」


 ……面と向かって「いらない」とは言われなかった。けれど、空気がすべてを語っていた。


 俺は静かに、Bチーム側に並ぶ。誰も話しかけてこない。ただ黙々と準備する姿が並ぶ中、俺はバットのグリップを握りしめた。


(別に、期待されてたわけじゃない。けどな……俺は、ここに立つ意味がある)


 ベンチに座る。緊張はなかった。


 そうして、2軍監督へオーダー表を提出して間もなく試合が開始された。


 試合は一進一退の攻防を繰り広げた。ピッチャーは皆速球派で、ミスも少ない。守備も正確で、緊張感のある展開が続いていた。


 ――そして、7回裏。スコアは依然として同点。


 二軍監督が立ち上がり、スコアブックを見ながら口を開いた。


「43番。代打、いけるか?」


「……はい!」


 立ち上がった瞬間、体の奥から熱がこみ上げてくる。恐怖じゃない。期待でもない。ただ、今ここに立つための覚悟が、俺の身体を突き動かしていた。


 ゆっくりとベンチを出て、バッターボックスへと向かう。


 その時だった。マウンド上のピッチャーが、にやりと笑って俺を見た。


「おーおー、なんや代打かいな? ……って、誰やお前? 見たこともない顔やな」


 帽子の下からのぞく鋭い目が、まるでこちらを品定めするように細められる。


「なんや、シニア出身ちゃうんか? えらい雑魚っぽいの出てきよったな。まぁ、こっちは格がちゃうからしゃーないけどな?」


 場に響くその関西弁の挑発に、ベンチが少しざわめいた。


 それでも俺は、黙って構える。今さら何を言われたって、俺の決意は揺るがない。


「ええわ。3球で終わらせたる。うちはこう見えて、大阪南シニアでエース張っとったんや」


 ――プレイ。


 一球目、内角高めのストレート。見送る。ストライク。


 二球目、鋭いスライダーが外に逃げる。思わず振ってしまい、空振り。


「うひゃっひゃ、見てみい! 完全に泳がされとるがな。やっぱり思った通りのザコやでぇ!」


 ベンチの一部からも、くすくすと笑い声が漏れる。


(三球目……まだ焦るな)


 今度は見送ってボール。カウントは1-2。


(くそ……速い。でも、見える。永井さんの……あの時の軌道と、似てる)


 そこから、ファウル、ファウル、ファウル。


 鋭く振り抜くたびに、バットがかすかにボールをかすめていく。


「……なかなか粘るな、あいつ」


「球数稼いでるな。あの無名が?」


 マウンドの男の表情が、少しずつ変わっていくのが見えた。余裕の笑みが、徐々に焦りに変わる。


「チッ……。ほんまにウザいタイプやな。ええわ、これで終わりや。ワイの速球、打てるもんなら打ってみぃ!」


 最後の一球――まっすぐ、ど真ん中に来る。


(来た……ストレート! 狙え!)


 ――その瞬間。


 【打撃センス○が発動します。試合時のミート力が+5向上します。】


 集中力が研ぎ澄まされる。バットがボールを正確に捉えた。


 カキィィィン!


 快音とともに、白球はショートとセカンドの間を一直線に抜け、センター前へと弾む。


「うおおおお、ナイスバッティング!」


 ベンチから歓声が上がった。


 一塁に駆け抜けた俺は、静かにベースを踏みしめた。


(……これが、俺の答えだ)


 ふとマウンドを見ると、ピッチャーが口をぽかんと開けて、まるで狐につままれたような顔をしていた。


「……なんでや……今のん、絶対抑えた思うたのに……」


 その呟きが、やけに心地よかった。


 ようやく掴んだ一歩。その重みを、噛みしめる。


(俺は、ここに立ってる)


 風間拓真の“今”が、ようやく動き出した。


<ステータス>

 ===============

 名前:風間 拓真(Kazama Takuma)

 ポジション:投手(左投左打)

 球速:121km/h

 コントロール:E(41)

 スタミナ:E(43)

 変化球:ストレート1,カーブ1

 守備:E(40)

 肩力:D(52)

 走力:E(41)

 打撃:ミートE(42)、パワーE(43)

 捕球:F(36)

 特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・

      ピッチングの心得(Lv1)・逆境○・

      継続○・意外性・対強打者○・

      打撃センス○


 成長タイプ:元天才型

 ===============

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思った方は、

☆☆☆☆☆を面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つにして頂けると、とても嬉しく思います!


また、『ブックマークに追加』からブックマークもして頂けると本当に嬉しいです。


皆様の評価とブックマークはモチベーションと今後の更新のはげみになりますので、なにとぞ、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ