第11話 1次試験
グラウンドに、緊張と熱気が入り混じった空気が漂っていた。
午後一時。一次試験開始の合図とともに、俺たち1年生はいくつかのグループに分けられ、順番に種目をこなしていく。
一次試験は三つ。
遠投、シャトルラン、そして最後にバッティング。
……どれも、誤魔化しのきかない、基礎力が問われる試験だった。
「次、風間拓真!」
グラウンドの外野ラインに立った俺の名前が呼ばれた。
遠投は、上半身の筋力だけでなく、体全体の連動性が求められる。
――軸を意識しろ。肩だけで投げるな。腰の回転から、指先へ。
永井さんに何度も叩き込まれたフォームを思い出し、俺は一歩助走をつけ、全身をしならせてボールを放った。
風を裂くような音。
放物線を描いた白球が、外野の芝を越えていく。
「……69メートル! おおっ、一般生でこの距離かよ……」
周囲からざわめきが起こる。
普通の中学生が投げられる平均なんて、せいぜい40メートル前後。特待生でも60メートルを超えれば上出来だ。
その中での69メートル。
俺自身も、思わず口元が緩んだ。
「……次、シャトルランだ!」
種目が切り替わる。
走るのは、得意だ。何より、これまで朝晩続けてきたランニングとインターバル走の成果を、今こそ見せる時だ。
“ピーッ”という笛の音と同時に、地面を蹴った。
1回、2回、5回、10回……。
周囲が息を切らし、止まりはじめる中、俺の足取りは止まらない。
“過去の俺”と、比べるつもりはない。
でも――この風間拓真は、もう逃げないと決めたんだ。
「回数、118回! 一般生でこの数字……お前、特待生じゃないのか?」
監督らしきスーツ姿の男が眉を上げ、俺の顔を見た。
「風間……ねぇ」
手元のリストを確認するその視線が、真剣そのものだった。
「よし、最後はバッティングケージ行ってこい!」
グラウンド脇にあるケージでは、特待生の連中が代わる代わるスイングを見せていた。
トスで投げられたボールを、芯で捉える。飛距離はそこまで問われず、スイングの鋭さ、軸の安定性、反応速度が見られる。
――俺は、バットを構えた。
集中する。
トスされたボールが、ゆっくりと山なりに飛んできた。
それを、迷いなく振り抜く。
“カンッ!”
乾いた音が、空を突き抜けた。
一球、また一球。
バットに吸い寄せられるように、ボールは一直線にネットへ飛んでいく。
体幹が、ブレない。
下半身が、沈まない。
1000本素振りの成果は、伊達じゃない。
俺は、俺の持てる全てで、今日この瞬間にぶつけた。
「おいおい、見たか? あの一般生」
「軸がすげぇ。下半身から力伝えてんだな、あれ……」
そんな声が、ケージの外から漏れてきた。
視線を感じて振り返ると、スーツ姿の男――野球部二軍監督の鬼島が、こちらをじっと見ていた。
その目は、驚きと興味と……そして、何かを見出したような色をしていた。
やった。やっと、見つけてもらえた。
そのとき――ケージの反対側で、ひときわ固まっていた男がいた。
渡井。
彼は、俺の打球を見たあと、目を見開いたまま、何も言えずに立ち尽くしていた。
先ほどまでのあざけるような笑みは、消えていた。
まるで、理解できないものを見るような目で、ただ俺を見ていた。
「……そんな、バカな。あいつが……なんで」
自分の順番が近づいているのにも関わらず、渡井はバットを強く握りしめたまま、何も言えなかった。
――もう、俺は“いじられ役”でも、“笑われ者”でもない。
このグラウンドの上で、俺は“選ばれる側”になってやる。
【一次試験、完了】
【評価:S】
【鬼島二軍監督の興味を引きました】
【スキル『打撃センス○』が発現しました】
打撃センス○:バッティングにおいて、タイミングや芯の位置を直感的に把握する能力。試合時のミート力が+5向上。
<ステータス>
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)
球速:121km/h
コントロール:E(41)
スタミナ:E(43)
変化球:ストレート1,カーブ1
守備:E(40)
肩力:D(52)
走力:E(41)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:F(36)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・
ピッチングの心得(Lv1)・逆境○・
継続○・意外性・対強打者○・
打撃センス○【new】
成長タイプ:元天才型
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