第10話 気持ちを新たに
春の風が、頬を撫でた。
早朝の住宅街を、俺はゆっくりと歩く。制服の上に羽織ったウインドブレーカーが、軽やかに揺れた。
ついに、今日から高校生活が始まる。
とは言っても、もう一週間は経っていた。入学式が終わり、オリエンテーションがあり、教室にも少しは馴染み始めて――そして今日、いよいよ、部活動の本格始動日だ。
「よぉ、来たな」
朝のトレーニングを終えた永井さんが、玄関の前で俺を待っていた。
俺は静かに一礼し、手にしたジャージのバッグを肩に掛ける。
「今日は野球部の入部テストです。頑張ってきます」
「おう。けどな、風間。改めて言っておく。お前が入部した“早実野球部”はな、ここ20年、一般課からベンチ入りしたやつすらいない。野球特待生ってのは、全国からエリートばかりが集まってくる。お前が相手にするのは、その連中だ」
その言葉に、俺の足が少しだけ止まった。
分かっていたつもりだった。でも、永井さんがこうして改めて釘を刺すってことは、それだけ覚悟が必要ってことだ。
「……はい。それでも、やってみます」
俺の答えに、永井さんはゆっくりと笑みを浮かべた。
「その顔が見たかった。風間、お前な……ほんとに見違えるほど強くなったよ」
「……」
「初めて会った時は、バットに振られて、骨と皮だけだったお前が、今じゃ1000本素振りしてもブレない軸を持ってる。下半身の安定感も、ピッチングのキレも、間違いなく“通用する”レベルに来てる」
永井さんが、俺の肩をぽんと叩く。
「行ってこい、風間。今のお前なら、ちゃんと通過できる」
その言葉を胸に、俺は早実高校のグラウンドへと向かった。
午後、放課後。グラウンドの裏門を抜けた瞬間、俺は息を呑んだ。
――人の、山。
ユニフォーム、ジャージ、私服。入り混じる1年生たちの姿が、まるでフェスか何かのように芝生の上を埋め尽くしていた。軽く50人は超えてる。
それもそのはずだ。この学校の野球部は、甲子園常連の超名門。プロに進んだ先輩は数知れず、監督は「全国で一番厳しい」と言われる男。
俺みたいな、一般課の人間は、正直言って空気みたいなもんだ。
……でも、ひるむつもりなんて、ない。
俺はバッグを肩から下ろし、グラウンドの隅に立ってウォームアップを始めた。
その時だった。
「――あれ? お前、まさか野球部入るつもり?」
聞き慣れた、しかし聞きたくなかった声が背中から飛んできた。
俺は、ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――渡井だった。
中学時代、俺――いや、“風間”をバカにし続け、卒業式の日には皆の前で落書きまで晒して笑っていた、あの主犯格の渡井。
髪を短く刈り上げ、特待生用のジャージを着て、両手にはグローブとスパイクが握られていた。
「マジで笑うんだけど。お前なんかが、こんなとこで何してんの?」
あざけるような笑み。
だけど俺は、もう下を向かない。
彼の目を、真っすぐに見返した。
「……野球部に入る。今日のために、準備してきたからな」
「へぇ? どこで? 誰に? あ、まさか“素振り1000本”とか? そんなんじゃ、この高校の野球部に入れるわけねぇだろ!」
他の1年生たちも、ちらちらとこちらを見始める。
だけど、もう構わない。
俺は、バットを振ってきた。投げてきた。走ってきた。
誰にも、見向きもされなかった日々でも、ただ一人信じてくれた人がいた。
永井武。
あの人の言葉が、背中を押してくれる。
「今日の俺は、あの頃とは違う。試すなら、好きにすればいいさ」
渡井が、鼻で笑った。
「へぇ、面白い。ま、どうせ書類審査で落とされるのがオチだけどな。見といてやるよ、お前がどんな顔で帰ってくのか。そして指をくわえて俺が受かる様子でもみてろよ!」
……今更、言葉で返すつもりもない。
俺は、ボールとバットで答える。
このグラウンドで、俺は――風間拓真は、生まれ変わるんだ。
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名前:風間 拓真(Kazama Takuma)
ポジション:投手(左投左打)球速:121km/h
コントロール:E(41)
スタミナ:E(43)
変化球:ストレート1,カーブ1
守備:E(40)
肩力:D(52)
走力:E(41)
打撃:ミートE(42)、パワーE(43)
捕球:F(36)
特殊能力:元天才・ケガしにくさ×・
逆境○・ピッチングの心得(Lv1)・
継続○・意外性【new】・
対強打者○【new】
成長タイプ:元天才型
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