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心の底からの微笑み

ガラガラと僕誠、は個室のドアを横にスライドさせて開ける。

中に入ると長いポニーテールを垂らした黒髪の素敵な女性が座っていて迎え入れられた。

セオ『体調はどうかしら?』

誠『、、はい、、薬を飲んだら大丈夫です、、』

僕が自殺未遂をしてから三週間をすぎていた。

あの時のことは記憶が途切れ途切れであまり覚えていない。

暗闇の中でひたすら苦しくて空気に溺れて窒息してしまいそうな、、そんな苦しみだった。

でも、、縄を首にかけようとした時、、心が軽くなって苦しみがなくなるようなそんな気がしたことは覚えている。

全てから解放されると思って嬉しかった。

今考えると、とても怖い。

他にも顔はわからなかったがパーカーを着た誰かに抱き締められたような気がしたことも覚えている。

あの温かい気持ちは花に抱きしめられた時に似ていた。

セオさんの前に机を挟むようにして少し背中を丸めて膝の上に軽く拳を作るようにして座った。

彼女は腕を上に伸ばして背伸びをすると肩が凝っているのか交互に動かして触る。

セオ『では、カウンセリングを始めましょうか』

誠『、、はい、、』

セオ『あなたは微笑み鬱なの、わかっているかしら?』

誠『、、はい、、わかっています』

まず最初は僕が鬱病だという事を認識するところからカウンセリングが始まった。

最初は認めることができずに大丈夫、違うと否定していたが彼女の巧みな話術によって今は鬱病な事を認めて向き合うために頑張ろうとしている。

三週間前の心の苦しみは緩和されてなんとか会話できる状態にはなった。

病院は退院して花に付き添ってもらい通院している。

仕事は復帰できずに退職して治療に専念する事に。

花がパートの仕事をしてくれていてなんとかなった。

彼女にはたくさん迷惑をかけてしまい本当に申し訳ない、、、

セオ『今日はどうしてあなたが鬱病になってしまったのか、その理由をいったん整理してみようと思うのだけれど、、いいかしら?』

誠『、、、』

ボーッ、、、

まだボーッとして記憶が飛ぶことがある。

誠『、、えっ?、、、すいません、、聞いてなかったです』

セオ『ゆっくりで大丈夫よ、もう一度説明するわね』

セオさんは優しくもう一度説明してくれた。

どうやら僕が鬱病になった原因を整理してくれようとしてくれるらしいがなんのためだろうか。

誠『、、それをして、、意味はあるのですか?』

セオ『もちろん意味はあるわよ、自分と向き合うことが鬱病を治療するために大切なことなの、幾つか質問するので辛かったら無理に答えようとしなくて大丈夫よ』

誠『、、はい』

セオ『では、質問していきます。さっきも言ったけど辛かったら答えなくて大丈夫だから、ゆっくり自分と向き合っていきましょう』

誠『、、よろしくお願いします』

セオ『では、、まずは単刀直入な質問なのだけれど、あなたはどうして鬱病になってしまったと思う?』

誠『えっ?、、それは、、』

ほんとに単刀直入な質問に頭が混乱する。

ゆっくり頭の中で整理していき質問の答えを考えてみる。

誠『、、、仕事で大きな失敗をして、、信頼を取り戻そうと一生懸命に働いて、、気がつけば陽が落ちてしまっていることが毎日で、、それが辛くて、、疲れてしまって、、、』

彼女は僕の言う事をメモ用紙に書いていく。

セオ『うん、、辛かったわね、、それが原因?他にはまだ何かあるかしら?ゆっくりで大丈夫よ、考えてみてほしい、、、』


上司『何してくれたんだね!!きみ!!』


上の人からの怒声が頭の中で再生されて胸が苦しくなり表情がひきつってしまった。

これ以上思い出すと辛い。

誠『、、、』

セオ『大丈夫?』

誠『、、ごめんなさい、、これ以上は、、』

セオ『わかったわ、、では次の質問なのだけれど、あなたの周りには花さんや仕事の仲間がいると思うのだけれど、その人たちに相談しようとは思わなかった?』

誠『、、、あの時は拓磨が生まれたばかりで、花には言えないです、、仕事の人たちにも、言いたくないです。、、、僕のせいで迷惑をかけているのに、、、辛いとか言えないです、、責任は全て僕にあるので、僕が全て悪いんです。だから頑張るしかないんです』

セオ『あなたは責任感が強くて誠実な方なのね』

自分の特徴を言われて自分のことが見えてくる。

花にも言われたことがある。

それが素敵なところだと。

セオ『そういった方は鬱病になってしまいやすいの』

誠『、、待ってください、、でしたらどうしたらいいんですか?もし治ったとしてもまた再発してしまうじゃないですか。誠実なことはいけないと、そう言いたいのですか?』

僕と花の価値観が否定されたようで少し怒気の混じった声音になってしまった。

彼女は首を横に振る。長いポニーテールがふわっと揺れた。

セオ『そんな事はないわ、あなたの誠実なところは素敵で立派よ』

誠『、、すいません』

先走り勝手に否定されたと思い込んで怒気をまじえてしまったことを謝った。

セオ『また鬱病にならないためにはどうしたらいいかしら?もちろんあなたの誠実なところを残したままよ、考えてみてほしい、、』

誠『どうしたらいいか、、』

彼女の質問に答えるために考えてみる。

思考を巡らせると頭がボーッとしてしまう。

、、、だめだ、、どうしたらいいのかわからない、、

誠『、、、、』

僕は俯いて黙ってしまう。

静寂に包まれ時間がどんどん過ぎていった。

セオ『、、、私の考えがあるのだけれど聞いてくれるかしら?』

誠『、、なんでしょうか?』

セオ『なんでも一人で抱え込まないで辛い時は誰かに頼ってほしいの、そういった誠.実.さをもってほしい』

誠『、、、それは、、、』

セオ『あの辛い時もし花さんや仕事の仲間たちに相談していたらどうなっていたかしら?きっと今とは違う結果になっていた、、そう思わない?、想像してみて、、』

彼女に言われた通り想像してみる。

たしかにそれができていたら気持ちは楽になったかもしれない。

でも相談したところで僕が仕事で失敗した事実は変わらない。

花に相談したって余計な心配を増やしてしまうだけで迷惑だ。

だから僕の行動は間違っていない。

大切な人に心配させたくない。

誠『、、、できない、、です』

セオ『花さんや仕事の仲間たちに言えないのなら私たちもいるのよ?』

誠『えっ?、、、』

僕はこの言葉を知っているような気がする。

パーカーを着た誰かにもそう言われた。

暗闇の中で言われて心が温かくなり救われたような、、、

セオ『私たちはあなたの相談を聞いてあげたいの、どうしても大切な人に言えないのなら私たちに頼ってみてもいいと思わない?』

誠『ですが、、あなたたちに相談しても、、答えなんて出ないと思います、、、ただ迷惑なだけですよ、、』

彼女は少し小さく首を横に振った。

セオ『そんな事はないわ、私たちは必ずあなたと一緒に解決策を探し出してみせる』

誠『、、、、』

僕は黙ったまま俯いてしまう。

セオ『どうしてあなたは人に迷惑をかけることがそんなに嫌?辛い時は誰かに迷惑をかけてもいいのよ?』

優しく言うと彼女はほをづえをつきながら少し僕の顔を覗き込むようにしてきた。

どうして迷惑をかけたくないのか、、、

そんな事僕にとっては当たり前のことだ。

子供の頃から父に他人に迷惑をかけるな責任感を持てとそう育てられてきた。

辛い時は歯を食いしばって踏ん張れと、そうしないと成長できないと。

父は立派な人だからそれが間違ってるなんて疑った事はなかった。

誠『、、、子供の頃から父に人に迷惑をかけない大人になれと言われてきました。辛い時は踏ん張って耐えろとも言われました。、、、父は立派な人です。、、だから、、、』

セオ『なるほど、、』

彼女は右上の方に視線を向けて何かを考えている様子を見せた。

セオ『あなたの父は本当に誰にも迷惑をかけたことがなかった?思い出してみて』

誠『えっ、、、』

そう言われて子供の頃の自分を思い出してみる。

怒ると怖い威厳のある父。

普段はあまり喋らないし笑わない。

厳しかったが父のおかげでなに不自由なく過ごせれていた。

学校の成績も優秀、大学にもちゃんと通えれた。

父が僕に迷惑をかけたことなんて、、、そう言われてみると父は僕や母に迷惑をかけたことは、、ある、、な、、、。

誠『、、足が臭くてそれは迷惑でしたね』

セオ『、、ふっ、、、ゴホッ、、失礼』

彼女は少し笑みを浮かべると咳払いした。

あまり笑わなそうな妖艶な彼女が一瞬見せた笑顔に一瞬ドキッとしてしまった、、、

花、ごめんなさい、、、

セオは黒のストッキングを履いた脚を組み替えると何事もなかったかのように話を進めようとする。

セオ『たしかにそれは迷惑ね、、』

誠『お酒を飲んで帰ってきて変なテンションの時は母が迷惑そうな顔をしていたような、、』

幾つか父の迷惑話しをするとセオさんは相槌を打ちながら聞いてくれた。

セオ『誰かに迷惑をかけないで生きていくなんてきっと無理なことなの、、、あなたに一つ宿題を出すわ』

誠『、、、宿題、、?』

彼女は鞄からペンとメモ帳を取り出すと僕の目の前に置いた。

セオ『花さんにでいいわ、彼女になにか迷惑をかけたならその内容をこのメモ帳に書いてほしいの、また今度私に見せて』

誠『、、は、、い、、』

いきなり訳のわからない事を言われて戸惑う。

セオ『一番大事なことは迷惑をかけてしまった後に、ありがとう、と言う事、それをしたら迷惑の内容の横にまるをつけてほしいの、どうかしら?やってみない?』

誠『わ、わかりました』

きっとこれも治療の一つなのだろうと思い彼女に言われた事をやってみることにした。

誠『早速ですが、、今日も、花に付き添ってもらって病院に来てもらっているのですが、、迷惑かけてますよね、、』

セオ『そうね、書いてみましょう』

僕は彼女から渡されたメモ帳に 病院に付き添わせてしまった と書いた。

こうして宿題を出されて今日の定期カウンセリングが終了した。

セオさんにお礼を言って個室を出た。

少し廊下を移動して待合室に行くと花が待ってくれていた。

僕が歩いてくる事に気づくと立ち上がってそばに来てくれる。

花『カウンセリングどうだった?』

誠『、、、いつも通りかな、、』

花『そのメモ帳何かに使うの??』

誠『、、まぁ、いろいろと使うみたい、、、』

花『そうなんだ』

不思議そうに上目遣いで僕のことを見てくる。

とっても可愛らしい表情。

ちゃんと色もついていてとても綺麗。

花『帰ろっか、拓磨を迎えに行こ』

僕はうんと相槌をした。

彼女は僕の隣に肩を並べる。

僕の肩のところに彼女の可愛い顔がある。

ボーッとしてしまってなかなか歩き出さない僕を待ってくれる。

誠『花、、その、、、いつも一緒に来てくれて、、ありがとう』

僕は少し照れてしまい頭を触りながら横にいる彼女の目を見て言った。

誠『、、迷惑、、だよね、、』

花『迷惑じゃないよ、頑張って一緒に病気治そっ!』

誠『、、うん』

呼吸が楽になる。

すーっと身体の力が抜けて心の中にある重たい何かが軽くなる。

メモ帳にさっき書いた内容の横に丸を書いた。

彼女と手を繋いで待合室から出ようとしたところに顔がカッコいい背丈の高い白衣のポケットに手を入れて歩いてくる男性とその横にツインテールのパーカー姿の可愛らしい女の子がやってきた。

彼女は首から研修生のカードをつけていて初々しさがある。

優『花さん誠さん、こんにちは』

花『優先生、お世話になっています』

彼女が頭を下げて挨拶する。

誠『お世話になっています』

僕も頭を下げて挨拶した。

彼は優先生。

僕の命を救ってくれた恩人の一人。

彼は特殊なHSPを持っていてパズスの声が聞こえるらしい。

自殺しようとした僕を彼が見つけて助けてくれた。

パズスとはどんな存在なのか実際には見たことはないが僕の心にいたそれを消滅させてくれたらしくてほんとにすごい人たち。

思い切り手を噛んでしまったことは前に謝った。

花『れななちゃん、こんにちは』

れなな『こんにちは』

彼女はれななちゃん。

明るくて親しみやすい印象の素敵な女の子。

花とは僕がカウンセリングを受けている間に待合室で仲良くなったみたいだ。

れなな『誠さん、体調は大丈夫??』

手を後ろで組んで少し首を傾げて見上げながら聞いてくる。

誠『まだ薬を飲んでいないといけないけど、みんなのおかげで少しずつ良くなっているよ』

れなな『そっか、少しずつだけど絶対良くなるから大丈夫だよ!』

誠『ありがとう』

れななちゃんはニコッと僕の事を見上げながら笑顔を見せてくれた。

花『これから拓磨を迎えに行くところなの』

れなな『はーい!私も行きたいなぁ、拓磨くんとお話ししたいです』

小学生が自信満々の答えを思いついたみたいに手のひらを思い切り広げて腕を上に伸ばしながら言った。

優『れななはこの後他の方のカウンセリングの研修だろ?』

れなな『ダッシュで会ってダッシュで帰ってくるから大丈夫!』

なぜか自信満々に親指を立てる。

優『無理だ、花さんすいません、彼女の事は放っておいてください』

れななちゃんはぷくーっとほっぺが膨らんで腕を組み優先生のことをふくれっ面で見ている。

その可愛らしい姿に思わず表情が緩んだ。

花『あらら、そうなの、、また拓磨の写真見せてあげるね』

れなな『うん!』

元気いっぱいの返事に少し元気を分けてもらった。

優『ではまた、薬のことで何かありましたらいつでも聞いてください』

花『ありがとうございます』

優先生はそう言って背中を向けポケットに手を入れ歩いていった。

れななちゃんは小さく僕たちに手を振ると優先生の後を追っていった。

二人の背中を見送り僕たちも拓磨を迎えに病院を出た。

拓磨を迎えにいって自宅のアパートの一階についた。

花がドアを開けてくれる。

僕は頭がボーッとしてきて思考が回らなくなってきた。

どうやら薬の効果が切れてきたらしい。

僕は寝る前に睡眠薬、鬱病の症状を抑える精神剤を飲んでいるのだが後者の薬の効果が弱まってきた。

どっと倦怠感が僕の身体を襲う。

ボーッ、、、

玄関先で靴を脱ごうとしないで突っ立ってしまう。

今すぐにでも横になりたい、、

大きな大人をおんぶしているみたい。

花『誠さん?』

拓磨『パパ?』

二人に心配をかけてしまう。

誠『、、、布団をお願い、、横になりたい』

花に布団の準備をお願いした。

こうなると自分で布団を押し入れから出し入れすることすらできなくなってしまう。

迷惑をかけてしまう。

メモ帳に書こうとするがめんどくさくてできない。

花が布団の準備をして戻ってきた。

花『薬の効果がきれてきた??お布団準備したから横になろっ、、、』

拓磨『僕もお布団一緒に行く!』

花『拓磨は幼稚園の服を着替えてきなさい、パパ疲れてるからあんまり邪魔しないのよ』

拓磨『いやだ!お姉ちゃんと約束したもん!パパと一緒にいる!』

花は口を真一文字に結ぶとそっと拓磨に頷いた。

誠『、、、ありがとう』

ぼくを座らせてくれると拓磨が靴を脱がせてくれた。

寝室まで花が腕を引っ張って拓磨が足を持ってくれて引きずりながら布団まで連れていってくれた。

布団に入ると花が薬を持ってきてくれて水と一緒に飲ませてくれた。

左腕を下に横になる。

その後は花は枕元に正座をして僕の右肩から腕の辺りを優しくさすってくれる。

拓磨は僕の腰のあたりに手を置いてくれている。

まだ小さな優しい手の感触がしんどい中ちゃんと伝わってくる。

鬱病は一人ではなかなか治すことが困難な病気。

薬よりも生命の愛情や体温が心に一番効く。

暫く布団に横になっていると薬の効果も効き始め身体の倦怠感が取れて思考が回るようになってきた。

花と拓磨は時折り僕の様子を見に部屋にやってきてくれていた。

何度も引き戸を開け閉めする音が聞こえていた。

ゆっくりと上半身を起こす。

部屋の中は薄暗くなっていて紐を引っ張って電気をつける。

布団の隣にメモ帳が置いてあったのでさっきの迷惑をかけた内容を書いて丸をつけた。

人に迷惑をかけずに生きていくことなんてできないなとメモ帳に文字がどんどん書かれていくから思った。

なんでも一人で抱え込まずに辛い時は頼る。

とっても気持ちが楽になる。

さーっと引き戸が開くと拓磨が部屋に入ってきた。

拓磨『パパ起きた!大丈夫??)

誠『大丈夫だよ、、拓磨、ありがとう』

拓磨は仮面ライダーのような逞しい顔をすると花を呼びにいった。

今度は花と拓磨、部屋に入ってくる。

花『誠さん、体調大丈夫?』

誠『うん、薬が効いてきたみたいだよ、みんなのおかげ、ほんとにありがとう』

花は安堵の表情をすると僕の前にちょこちょこやってきて正座を崩して座った。

花の細くて綺麗な手が僕のほっぺに触れる。

花『夕飯は食べれそう?』

誠『うん、少しなら食べれそうかな、早く花のご飯たくさん食べたいな』

もう一つ薬よりも心に効く花の料理。

ゆっくりと立ち上がり三人でリビングへ。

三人で机を囲み夕飯を食べる。

仕事に追われてこんなことまったくできていなかった。

とってもとっても幸せな時間がながれる。

拓磨の今日幼稚園であった事を一言一句しっかり耳に入れる。

花の笑顔、ちょっとした可愛い仕草全て目に焼き付ける。

みんな、、ほんとにありがとう、、、

しっかり休養を取り定期カウンセリングを受ける生活をしてさらに一ヶ月が経過した。

あれから体調はだいぶ良くなってきて薬を飲むこともほとんどなくなってきた。

今日のカウンセリングはれななちゃんも同行するみたいだ。

誠の症状がだいぶ良くなってきたので彼女を研修に入れても問題ないとセオの判断。

れなな『えっと、、、よろしくお願いします』

どうやら緊張しているらしい。

いつもの明るい雰囲気はあまり見ることができない。

セオ『れななちゃん、緊張してるわよ、カウンセラーはリラックス状態でいないと相手が緊張してしまうの』

れなな『はっ、はい!』

ピーんと背筋が伸びた。

とっても綺麗な姿勢だ。

彼女の初々しいさに僕の表情が少し緩む。

彼女は意図していないか立派なカウンセリングになっている気がしなくもない、、笑

机を挟んで僕、前にセオさんとれななちゃんが座る。

セオ『今日はこの前言ったメモ帳を見せてほしいのだけれどいいかしら?』

誠『、、はい』

前のカウンセリングで次回メモ帳を持ってきてほしいと言われていたので持参した。

一ヶ月ずっしり書いたメモ帳を見られるのは恥ずかしい、、

だけど宿題なので彼女にしっかり提出した。

れなな『メモ帳??』

れななちゃんの頭の上にはてなマークが浮かぶ。

セオさんがメモ帳のことをれななちゃんに説明して納得した様子。

二人肩が触れながら僕のメモ帳を覗き込み読む。

、、、恥ずかしい、、なぁ、、

メモ帳は二ページ埋まるほどに迷惑をかけた内容を書いた。

しっかり全て丸をつけることもできた。

セオさんは表情を変えずに真面目に読んでいて、れななちゃんは楽しそうに時折り表情を緩ませながら読んでいる。

セオ『うん、合格よ、それでこのメモ帳を書いてどう思ったかしら?』

誠『はい、花にはたくさん迷惑をかけているなと思いました。もちろん拓磨にもです、、、人に迷惑をかけないなんて無理だなと思います、、、だから辛い時だけは、一人でなんでも背追い込まずにはす誰かに頼っていいのだと、思いました。その大切さがわかりました。その時は心がすっと軽くなって、とっても居心地が良かった、、、』

セオ『迷惑をかけて花さんや拓磨君は嫌な顔してた?』

誠『いえ、二人とも一生懸命に僕のために頑張って看病してくれています』

セオ『うん、それはあなたが辛くて苦しんでいるから、二人ともそれをわかっているからよ、何度も言うけれど、辛かったり苦しい時は誰かに頼っていいの、もちろん私たちカウンセラーにもよ』

ふと隣のれななちゃんを見るとニコッと笑顔をかえしてくれる。

それにつられて僕も少し微.笑.む。

その微笑みは貼り付けたものではなくなっていた。

心で動かされた表情。

セオ『でも意外とそういったことがむずかしかったりするの、、』

誠『たしかに、、そう思います』

人に迷惑をかけることはやりたくないし相手がどう思うのか怖い。

でも自分が辛い時、相手が辛そうにしている時は迷惑をかけていいと僕は思えるようになった。

これからはこの事を大切にして生きていこうと思った。

セオ『今日のカウンセリングは特に議題とかないわ、、好きに雑談しましょう』

誠『えっ??』

れなな『えっ??』

あまりに意外なセオさんの発言に思わず聞き返してしまった。

れななちゃんも、、笑

セオ『誠さんは花さんとどうやって知り合ったの?二人とも仲が良くて羨ましいわ』

誠『えっ??』

れなな『私も知りたい!!』

キラキラ瞳を輝かせながら言ってきた。

誠『えっ??え〜〜!!』

僕は二人に花との出会いについて話した。

れなな『そっ、、そんなことが!運命の出会いね!!』

目をぱちぱちさせて乙女のようなリアクション。

セオ『ほんとね、素敵な出会い、、』

二人とも興味津々に僕の話を聞いてくれていた。

れななちゃんはずっと瞳を輝かせながら。

れななちゃんが恋バナ好きそうなのはわかるがセオさんのその物静かな雰囲気からの恋バナギャップに驚いてしまう。

誠『二人はご結婚とか、好きな人とかいたりしないんですか?』

れなな『私は彼氏いたことないです、、、』

誠『れななちゃんそんなに可愛いのに彼氏いたことないの!?』

れなな『えっ?、、う、うん、、、』

彼女はほっぺを赤くして照れた表情を浮かべる。

セオ『私も仕事ばかりで、、恋愛のほうはまったく、、』

誠『そうなんですね、、』

二人ともこんなに美人美少女なのに彼氏がいないことに驚いてしまう。

れなな『私の周りの男の人はね、口を開けば変な下ネタしか言わない人(炎)と無口でちょっと口を開けば仕事のことしか言わない人(優)しかいないもん!!』

セオ『変なペット(ハデス)を飼ってしまって、面倒を見るのが大変なの、、私が他の男の人といると嫉妬して力を貸してくれなくなるの、、』

セオさんのペットとは犬なのかな、、

嫉妬深いワンちゃんなのかな、、笑

誠『そっ、そうなんですね、、』

僕は苦笑いをした。

誠『僕も聞いてみたいことがあるのですが、、その、、二人は僕の心の中に入ったんですよね、、心の中ってどんな感じなんですか??』

セオ『心の中の世界はその人の経験や知識、記憶、想いからできてる世界なの』

れなな『心の世界は身体が軽くてね、ちょっと飛んだだけで大きな建物なんか飛び越えれちゃうの』

誠『えっ!?なんか楽しそうですね』

れなな『慣れるまではけっこう大変だけど、私はすぐに慣れることができたの』

誠『そうなんだ、れななちゃんすごいね』

セオ『その人の大切な場所とか思い出の場所、逆に怖い思いをした場所だったりが投影されることがあるわね、、あなたの場合は、、、』

セオさんとれななちゃんは顔を見合わせる。

れななちゃんがなんだかニヤニヤして楽しそう。

誠『あの、、なんかあったんですか??』

セオ『いえ、、』

れなな『なるほどね〜』

誠『なんですか?気になるんですけど』

セオ『まぁ、その場所があなたにとって大切な場所だったのねってことかしら』

誠『大切な場所??僕の??どこなんですか??』

二人とも楽しそうで教えてくれない。

どこなんだー僕の心の世界の場所は〜〜

それからも雑談は続いて今日のカウンセリング?は終了した。

僕の体調が良くなったことで今日のカウンセリングで定期カウンセリングが終わった。

最後にこの個室に笑い声が響くなんて思ってもいなかった。

誠『セオさん、れななちゃん、、、ほんとにほんとにほんとに、、ありがとうございました』

僕は深々と頭を下げた。

頭を下げることに慣れているがこんなにも感謝を込めて頭を下げたことなんてなかった。

涙が溢れ出そうになってしまう。

セオ『お疲れ様、本当に頑張ったわね』

れなな『お疲れ様です!私たちにできることならなんでもするからね、また頼ってね!』

誠『はい!』

個室を出て花のいる待合室に行く。

誠『花、お待たせ』

花『誠さんとっても楽しそう』

誠『今日のカウンセリングは雑談するだけだったんだよ』

ニコニコ花に言った。

花『え〜!何話したの??』

誠『まぁ、色々、、』

花『教えてよー』

誠『、、そっそ、、今日で定期カウンセリング終了だって』

花『えっ!ほんとに!!セオさんにお礼言わないと』

誠『今日はれななちゃんも一緒だったんだ、二人ともまだ部屋にいると思うよ』

花はカウンセリングの部屋に向かって走っていった。

廊下を走らない落ち着いた彼女が廊下を走って行った。

それだけこの病院の人たちに感謝を伝えたかったんだ。

僕の鬱病が治って嬉しかったんだ。

暫く待っていると花が戻ってくる。

誠『みんなにに会えた?』

花『うん!!ちゃんとお礼言えたよ』


誠『僕からも、、花、鬱病治ったよ、ほんとにありがとう』


僕は心の底から微笑んだ。


これからたくさんありがとうを言うためにありがとうと言った。


彼女は照れて顔を赤くする。

ニコッと笑うと、

花『帰ろっか、拓磨を迎えに行こっ』

手を繋いで病院を出る。


僕は空を見上げた。


雲一つないどこまでも続く空。


生きていて良かった


ほっぺに涙が伝っていった。

だめだたくさん溢れてきてしまった。

世界は暖かかった。美しかった。優しかった。

この世界を花を拓磨をおいて先に逝こうとしてしまった。


『ごめんなざぁいーーーー!!あああああ!!!』


膝から崩れ落ちた。

みっともなく泣きわめく僕を彼女がそっと抱きしめてくれた。


ずっと自分を攻めていた。

ずっと一人で背負い込んできた。

優しさで溢れているのに頼らず一人になって苦しんで、、、

こんなにも温かい人、優しい人はたくさんいるのに。

僕は馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ!!!!!


ほんとに僕は大馬鹿者だ。



それから二年の月日が流れた。


今日も雲一つない美しい青空、拓磨の入学式の帰り道、拓磨を肩車して僕たちは自宅に向かって歩いている。

隣にはメイクをした綺麗なスーツ姿の花。

拓磨のランドセルを持ってくれている。

コツコツ彼女が歩くヒールの音が聞こえてくる。

拓磨『パパ!グルングルンやって!』

誠『また!?パパ目回っちゃうよ、、』

と言いながらも拓磨の足をしっかり持ってグルングルン回る。

拓磨の愉快な笑い声が澄み渡る青空に溶けていった。

花『誠さんあんまり無理しないでよ拓磨も落ちないように気をつけて』

拓磨『大丈夫だよ』

今は仕事にも復帰して花と二人共働きで拓磨を育てています。

これから先たくさんの困難はやってくると思いますが家族三人で力をあをせて乗り越えていきます。

誠『なぁ拓磨』

拓磨『なーにー?』

頭にいる拓磨に話しかける。

誠『辛いことがあったら絶対パパに言うんだぞ!人に迷惑をかけられる誠.実.な大人になってほしい』

拓磨『またそれ言ってる!わかった!パパにいっぱい迷惑かければいいんだね』

誠『いや、いっぱい、、そういう意味じゃ、、』

花『ふふ』

花は可愛らしく微笑んでいる。

拓磨『後で公園連れてって』

誠『いいぞー何して遊ぶ?』

拓磨『いっぱい遊ぶ』

誠『よーしっ!いっぱい遊ぶぞっ!!』

またグルングルン回る。さっきよりも多めに回っています。

グキッ!!

バランスを崩して倒れそうになる。

花が支えてくれて倒れずに済んだ。

拓磨の足をしっかり握っていたので落とさないで良かった、、、

危なかった、、

調子に乗りすぎた。

花『危ないでしょ!!』

誠『ごめん、、ん?、、イタタタ』

どうやら足首を痛めてしまったらしい。

誠『足首やったかも、、』

花『もう!無理しないでって言ったでしょ??』

誠『拓磨降りてくれ、、足首が痛い』

拓磨『嫌だ!』

拓磨は僕の頭を掴むと左右に何度も振る。

誠『イタタタタ』

僕の痛がる声も青空に吸い込まれて溶けていった。

朝の渋谷スクランブル交差点。

たくさんの通勤の人たちが交差点を行き交う。

男性は出社の時間に余裕を持っているので落ち着いて背筋を伸ばして交差点を歩いている。

ガチャ、バタン!!

反対から歩いてくる女性の鞄が開いてしまい中から物が散乱してしまう。

男性は落ち着いて女性の元へ行く。

立膝をつき散乱した物を拾う手伝いをする。

道行く人たちが僕たちを避けて通り過ぎていく。

女性『すいません』

男性『いえ』

ふと男性は女性の顔を見た。

その美しい容姿に男性は恋に落ちてしまう。

、、、

女性『すいません、拾っていただいて、ありがとうございます』

男性『、、、大丈夫です』

お互い軽く挨拶をして立ち去ろうとする。

女性は男性の右側から立ち去ろうとする。

男性は女性の左側から立ち去ろうとして、、

コツン

ぶつかる。

今度は逆から立ち去ろうとして

コツン

またぶつかる、、

男性『すいません、、、』

女性『すいません、、、』

お互い俯いて謝る。

男性『僕左からいきますね』

女性『、、はい』


コツン


またしてもぶつかった。

男性『すいません僕から見て左です、、』

女性『すいません、、うふふ、右左どっちかわかんなくなっちゃった、、』

女性はそう言って男性のことを見上げた。

その姿があまりにも可愛かった、、、

男性『あっ、、えっと、、僕、、一ノ瀬誠って言います、、そのー、、とっても可愛いですね、、、すいません、、、』

女性『、、、白河花、、です』

誠『花さん!、、もし良かったら、、連絡先交換しませんか?今度ご飯でも一緒ご飯でも、、すいません、、こんな交差点の真ん中で、、』

花『、、はい、、いきましょう、、』

誠『いいんですか!?』

こうして二人は連絡先を交換し合った。


誠はこの日花に人生で一番大きな迷惑(ナンパ)をかけた。





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