誠のパズス(死導魔)
一晩たち午前十時になろうとしている。
俺優、は患者の自宅で家族にこの状況を説明するためリビングの机に息子を幼稚園に連れていった後の女性と向かい合うように座り隣にれななが同伴している。
れなながいるのは女性の心のケアをしてもらうためだ。
一晩経ったが夜中のショックが癒えているわけがない。
優『お名前は?』
花『、、、一ノ瀬、、花です、、』
優『昨日の男性は』
花『、、、一ノ瀬、、誠』
辛そうな面持ちで消え入りそうな小さな声で答えてくれる。
優『誠さんはいつから鬱病に?』
花『、、、最近ずっとボーッとしていて、仕事で疲れてるんだなって、大丈夫?って聞いても微笑んでこたえてくれるだけで、でも最近あきらかにおかしいなって思って、病院に行こうって言ったんです』
れなな『微笑み鬱?』
俺に向かって呟くので頷く。
優『誠さんは微笑み鬱だったと思います』
花『誠さんは誠実な人だからきっとなんでも一人で背負い込んでいた、、、もっとはやくきずいてあげればよかった、、私のせいです、ごめんなさい、ごめんなさい』
泣き出してしまい何度も謝る。
れななが彼女の隣の席に行き彼女の肩に手を当てる。
落ち着くまで暫く待ち状況を説明していく。
優『微笑み鬱は気づきにくい病です、決してあなたのせいではない』
励ましにはならないと思うが自分を責める彼女にそう伝えた。
優『誠さんは今パンデモニア症になっています』
花『、、、はい、、近頃よく耳にします、、、どうしたら誠さんを助けることができるんですか!?教えて下さい!!お願いします!!』
優『落ち着いて、誠さんは助けることができます、そのためには俺たちだけではなくあなたの力も必要です』
花『なんでもします、教え下さい』
優『まずパンデモニア症とは人は死にたいと思うことはあるけど実行はできないです。ですがパズスの力で実行してしまう病です。パズスの正体は病んだ心の中の自分と言った方がいいでしょう。治療の方法は分かりやすく言うと心の癌です』
花『心の癌、、、?』
優『誠さんの心を身体、パズスを癌、俺たちをメスと思って聞いて下さい、これから俺たちは誠さんの心に入ります、そしてパズスを消滅させます』
花『、、はい、、でも、それって危険なんですよね、たしかSPT隊ですよね、、、』
優『危険ですがそのためにこちらも訓練してますので心配いらないです、このパズスを消滅させないと今の誠さんは何を言っても死にたいとしか言わないし死のうとしかしません。』
花『、、、、』
俺の発言に彼女の表情が曇る。
彼の今の現状を聞くとそうなってしまうだろう。
優『パズスを消滅させ、カウンセリングできる精神状態に戻します、そこからはあなたの力も必要です、彼の心にゆっくり優しく寄り添ってあげて下さい』
花『はい、、よろしくお願いします!!』
深々頭を下げた。
れなな『私たちすごく強いから、絶対誠さんを助けるから大丈夫だよ!』
花にニコッと笑って見せる。
重苦しいこの空間が少しだけ和む。
れなな『彼は今死にたいってしか言わないけど心の奥では生きたいって叫んでいるの』
花『、、、誠さんをよろしくお願いします』
優『説明は以上です、れなな行くぞ』
一ノ瀬誠を救うため俺とれななは彼女たちの自宅を出て東京精神総合病院へ向かった。
※
東京精神総合病院のアニマウェポン保管室。
パズスと戦うために作られた武器。
炎『ちんちんぶらぶらソーセージ〜』
れなな『やめて!集中してるから変なこと言わないで』
炎が愉快に下ネタを言いながら手にした武器は自分の身体と並ぶ槍。
その武器の名を
アニマウェポン ドラゴンランス(竜槍)
暗い青を基調としたその槍の先は鋭く尖っており竜を一撃で貫く強度を誇る。
先端の少し下の所には少し尖ったものが逆に伸びていて槍を抜く際にもダメージを与えられるかえしが備わっている。
持ち手の少し上の所には竜の羽の飾りがついていて槍のかっこよさを際立てるデザイン。
れななが手にする武器は二丁の拳銃。
その武器の名を
アニマウェポン コナトス(血の滲む銃)
コンパクトで持ちやすい大きさの銃なのだがその威力は強度なパズスの身体を確実に射抜く威力を誇る。
黒色を基調として持ち手のところが少し赤色になっていてそれが血が滲んでいるように見える。
努力を重ねてきた彼女にこの武器を握るのに相応しい銃。
炎『セオさん、仕事終わったらこの後デートいいですか??』
セオ『予定があるわ』
炎の誘いを断った彼女が手にする武器は彼女の身体はどの大きさの鎌。
その武器の名を
アニマウェポン 漆黒鎌 死神
漆黒に染まったその鎌はパズスの首を最も容易く刈り取る。
ハデスという扱いがめんどくさい死神が宿っている。
最後に俺が黙って手にした武器は
アニマウェポン エクスカリバー(聖ナル剣)
美しく銀色に輝く大剣。
持ち手の上のところがT字に広がって真ん中に宝石が埋め込まれている。
清らかなその剣は闇に囚われた心の世界に救いの斬撃を与える。
各々武器を持ち院内の廊下を移動して一ノ瀬誠がいる部屋へ。
広々としま何も置いていない真っ白な空間の真ん中に椅子に座らされて俯く彼の姿。
じーっと白い床を見つめぶつぶつ何かを呟いている。
看護師達五人が待機していてその中に昨日彼に鎮静剤を打ってくれた清水優空の姿。
彼女はその姿通りこの病院の看護師でカウンセリングの術も身につけている。
俺たちが心の中に入っている間、清水さんがここで誠さんのことをカウンセリングする。
カウンセリングの言葉は彼の心の奥には届かないがパズスを少し弱体化させることができる。
これから心の中でも外でも戦いが始まる。
清水さんたちがいるのは他にも誠さんが暴れた際に面倒を見てもらうためだ。
舌を噛みちぎろうとしたり自分を殴ったり引っ掻いたりして傷つけるので彼女たちが止めてくれる。
椅子に縛りつければいいのだが苦しんでいる患者にそんな事はしたくない俺の願いでこの病院では患者を縛り付けるようなことはしないとなっている。
最悪どうしようもなくなった場合は仕方がないのだが。
麻酔を打って眠らせてはならない。
患者の心の奥の生きたいと想う意思が弱まってしまいパズスを強化してしまう。
さっきれななが言っていたが心の奥ではみんな生きたいと願っている。
死にたい人間なんて一人もいない。
心の中にいられる時間は三十分と短い。
三十分以上いてしまうと俺たちの心が入ってしまっているから情報量が多くなり患者に負担をかけてしまう。
そうなってしまったら一生植物状態になってしまう。
四人で入ることも同じ理由だ。
それ以上で入ると植物状態を引き起こす。
心に入る事はそれだけシビアで慎重にしないといけない。
四人で三十分がパズスと戦うために与えられた条件。
俺は誠さんの前で膝をついてそっとエクスカリバーを床に置いた。
誠『つ、か、れ、た、し、に、た、い』
何度も何度もぶつぶつ呟いていた。
優『必ず、助けます』
清水『ここは私達に任せてください、気をつけて、いってらっしゃい』
優しい声音で見送りを言われる。
俺はエクスカリバーを持ち立ち上がると持つ手に力を入れた。
炎『あれ?キミ髪型変えたんだね!似合ってるよー』
甘いマスクの炎から指を指されて言われた看護師がほっぺを赤くした。
彼は呑気でマイペースな人だ。
誠さんの前で俺たち四人は円になるようにして並んで立つ。
俺はエクスカリバーを持つ手の反対を手の甲を上にして広げた。
炎、セオと順に武器を持たない手で俺の手の上に重ねていく。
最後にコナトスを持ったままれななが重ねた。
優『行くぞ』
俺の言葉に三人とも頷く。
俺は誠さんの心に意識を集中させる。
心に入るために俺の特殊で強力なHSPの力を使う。
少しずつ俺たち四人の身体が薄くなり消えていった。
、、、、、、
、、、、、、
東京都渋谷のスクランブル交差点。
その交差点の真ん中に俺たちはたっている。
空は明るく少し雲があり太陽が東にあり朝ならしい。
外とは違い行き交う人は誰も居らず閑散としている。
時々薄ら交差点を歩く人が現れるが消えてしまう。
この人達は誠さんの記憶にある人達。
ここは誠さんの記憶と知識と経験と想いで作られた心の世界。
れなな『ここ渋谷のスクランブル交差点?』
セオ『そうみたいね』
炎『109寄っていく?』
セオ『一人でいってらっしゃい』
れなな『身体軽〜い』
れななは少し地面を蹴ってジャンプするとピョーンと高く身体が浮いて地面に着地した。
心の中の世界は重力が外よりも少なくてこうして月面を移動できるように身体を動かせる。
慣れるまでは結構大変で俺も最初は苦労した。
院内の心内室で擬似パズスと戦いアニマウェポンの扱いや心の中で素早く動く練習ができる。
建物には大きなモニターがあり広告が流れているのだが内容が訳がわからないものになっていた。
可愛らしい幼いピンクの髪の色をした女の子が出てきて映画 酸っぱいファミリーと書いてあるが正しくはSPY×FAMILYだ。
誠さんどんな覚え方してるんだ、、、
誠さんの記憶の世界でもあるからこのような事になってしまう。
他にも店の場所や看板、木の数など外と異なるところは幾つもある。
辺りを見ていると109の建物の上に大きな心臓がドクンドクンと鼓動を打つのが見えた。
れなな『あそこ心臓』
指を指して少し見上げて言った。
優『ああ、そこに心の中の誠さんがいる』
しゅっ!!!
俺の胸ぐらを誰かに掴まれる。
少し目線を下げると血色の悪い肌をしたスーツ姿の男が俺の事を睨みながら掴んでいた。
その視線は冷酷で睨まれた者を恐怖させてしまう恐ろしさがある。
まさしく悪魔。
顔は誠さんとは違うが少し痩せた体格はよく似ていると思う。
パズス『お前見覚えあるぞ、ここまで何をしにきた?』
※
優達が心に入る少し前の時。
109と書かれた建物の上に五メートルほどの大きさの僕の心臓があり片足をあぐらをかいてもう片方を山のようにして膝に腕を乗せダラーっくたびれた様に座っている。
ふもとのところに僕の心臓の一部にした心の中の誠、いや僕と言った方がいいかもしれない。
心臓から肩の上が出ていて目を瞑っている。
ドクン
心の中の誠『死にたい』
ドクン
心の中の誠『死にたい』
心臓の鼓動と同時に死にたいと呟く。
僕は見上げて僕に話しかける。
パズス『仕事ばっかで疲れたよなぁ?苦しかったよなぁ?、全部一人で抱え込んでヨォ〜、』
ドクン
『死にたい』
ドクン
『死にたい』
パズス『疲れたよなぁ〜疲れたよなぁ〜生きてるからそんなに疲れるんだよ、自殺さしてやっから、楽になろうよ、死のうよ、死のうよ』
ん??
なんだかいつもの雰囲気が変わったぞ?
僕は面倒くさそうに立ち上がりその正体を確かめるため建物から辺りを見渡す。
交差点の真ん中に大きな武器を持った奴らがキョロキョロしている。
髪を二つ結びにしたパーカー娘が僕の方を指さして何か言ってるぞ?
もしかして僕を探しているのか?
という事は僕を助けに来たのか?
助かるわけにはいかない。
僕は死にたいんだ。
自殺するために僕は僕を生んだんだ。
自分を守る為に僕は戦う。
ん?あの白衣の男、、
しゅっ!!
僕は一瞬で移動して大剣を持った白衣の男の胸ぐらを掴んだ。
じろっと男を睨む。
パズス『お前見覚えあるぞ?何しにここにきた?』
優『自殺を止めにきた』
パズス『そうか、お前、車に轢いてもらおうとした時庇った奴だな?余計な事しやがって』
自殺を止める?僕を助ける?
できるわけないだろ
ブオォン!!
男は僕に大剣を振り斬りかかってきた。
背中を反って地面に手をつきブリッジしてかわす。
僕は後ろに下がり距離を取ろうとする。
槍を持った白衣の男がいない!?
横かっ!!
僕の右横から男が槍で身体を貫こうとしてくる。
ギリギリでかわしてふと彼の顔を見ると僕をじっと見つめ必ず仕留めると視線で訴えかけられた。
一瞬で僕の右横に移動したのか?
僕の速度について来られるのか?
コイツら只者ではない。
僕は一度状況を整理する為に飛び上がり近くの建物のモニターの出っ張りの所に行きしゃがむ。
あれ?、、目の前が、、逆さまに見える、、、
ボトッ、、
僕の首が地面に落ちた。
髪を一つに縛ったスーツの女に首を鎌で刈り飛ばされていた。
くそっ!くそっ!
慌てて首を再生させる。
僕は首を刈った女を追う。
彼女が地面に着地したタイミングで女を右足で力を込めて勢いよく蹴る。
鎌で防がれ致命傷は与えられなかったが後方に大きく吹き飛ばす。
女は受け身を取りすっと身体を起こすと僕のところに一瞬で距離を詰めて、、、
僕の身体を半分にした。
血飛沫が飛び散り地面が赤く染まる。
上半身が落ちていく時少し離れたところで大剣の男が僕のいるところではなく別の方向に駆けていくのが見えた。
あの方向は、僕の心臓の場所!?
まずい、、
僕は上半身を再生させて駆けていく大剣の男を追う。
僕の素早い速度で回り込んで男に蹴りを入れようと飛び上がる。
バーン!!
銃声がしたかと思うと蹴ろうと構えた右足が吹き飛ぶ。
あのパーカー娘かっ!!
バーン!!
今度は左脚。
脚がなくなり地面に着地できずに崩れ落ちる。
大剣の男は僕の後方、心臓に向かおうとする。
あの男、僕の倒し方を知っているみたいだ。
そうか、そうか、それなら、、、
僕は心臓から分身を作り出し駆けていく男に向かわせる。
その分身は人の姿ではない異形。
真っ黒で人間の大人ほどの大きさをしていて目はなくたくさんの牙を生やした口、身体を引き裂きそうな長い爪、腕と脚は太く翼が生えている。
心臓から急降下していき男に襲いかかる。
その太い腕で男に殴りかかる。
男は大剣でガードして地面に墜落した。
ドゴーン!
砂埃が舞って状況が見えない。
その隙に脚を再生させ落ちた男の元に分身と、とどめを刺す為に駆ける。
僕の両側に槍の男と鎌の女が体勢を低くして並走してくる。
並走しながら距離を詰めてきて次の攻撃がくると構えながら走る。
男が槍を動かす一瞬を見て身体を突いてくると見切り少し駆ける速さを緩めてかわそうと、、、
男は更に体勢を低くして槍を地面スレスレに振り回した。
足払いか!!
間一髪で上に飛び脚を攻撃されずにすんだ。
パズス『バカめ!これだと後ろの女に槍が当たっているぞ!』
セオ『バカはあなたよ』
何っ!?
後ろを振り返ると女も僕と一緒に飛び上がり槍をかわしていた。
見事な連携っ、、、
まずい、、
僕はこの女に二度目の首を刈られた。
二人は大剣の男の元に行く。パーカー娘も合流した。
気がつけば分身が男に倒されているではないか。
四人心臓を背にして並んで僕の頭の再生を眺める。
なるほど、
僕を心臓の元には行かせないと、そういうことか。
何故コイツらは僕の倒し方を知っている?
パズス『僕を倒すってことか?』
優『ああ』
れなな『そうよ』
セオ『ええ』
炎『ちんちん』
パズス『クックックックッケッケッケッケッはははははは!!!!!!』
口を大きく開け豪快に笑った。
僕は心臓を守らせる為に分身を作る。
分身を作るには体力を使うのだが、、、
何度か身体を斬られて再生に体力を使ったがまだまだ僕の力はこの程度ではない。
さっきの異形が心臓からどんどん飛び出していき空に舞う。
その数は十体、五十体、百体と増えていく。
空にたくさんの黒い塊が現れる。
それを四人が黙って見上げている。
パズス『この数に絶望しているのかぁ?怖気付いたかぁ?、、、ここから出ていけ、おとなしく自殺させてくれるならコイツらをお前に向かわせたりしない』
優『れなな、
あの異形全部お前に任せる』
はぁっ???何を言っているんだあの男は。あの数をあの娘一人に任せるって、、、
回想
上司『一ノ瀬君、きみにこの仕事を任せることにした。』
誠『はい!!』
上司『大切な仕事だから頼んだよ!!』
終
やめろ!!任せたとか言うなぁ!!失敗したらどうするんだよぉぉぉ!!!やめろ!!!!責任感はもう嫌ダァダァダァ
大量の異形を四人に襲わせる。
黒い塊が一斉に翼を羽ばたかせ勢いよく奴らに向かっていった。
れなな『承知っ!』
パーカーの娘が異形の集団に向かって怯むことなく走っていく。
ピョーンと高く飛び上がると身体を捻って回転させながら両手の拳銃で異形の弱点の頭に弾丸を的確に当てていく。
なんだ、、あの動きは、、、、
僕の異形が次々地面に落ちて息絶える。
撃ち抜いた異形を足場にして飛び上がり身体を捻って回転させながら次々異形を仕留める。
空に異形がいる限りパーカー娘は地面に降りてこないだろう。
回転させながら撃つので死角がなくどこから襲っても異形の頭を撃ち抜かれ倒されてしまう。
そしてその銃の腕の高さ。
この娘、どれだけ鍛錬してきたんだ!?
彼女のその動きは美しく舞う新体操の選手。
優『次のバーストで一気に決める、パズスを弱らせ再度心臓に近づく』
炎『了解!』
セオ『わかったわ』
このままでは僕は倒されてしまう、、、
死にたいのに死ねない、、、
思い出せ!苦しかった日々を。
思い出せ!思い出せ!
回想
上司『お前のせいでうちの会社の成績が落ちたんだぞ!!わかってるのか!!』
誠『申し訳ございません!!!』
上司『もういいよ、他に任せる』
誠『ごめんなさい!』
上司『ほんとに!全く!!お前が優秀だから頼んだんだぞ!!どうしてくれるんだぁぁ!?』
誠『ごめんなさい!』
大きな責任感を背中に背負って生きていた辛さを。
誰にも迷惑かけたくなかった、、
思い出せ!!
パズスはウグゥと唸る。
背中から大きな太く長い腕が二本生える。
尾骶骨から尻尾がニョロニョロと伸びていく。
身体が膨張していき大きく醜く変化していく。
脚が大きくなった身体を支え倒れないようにする為横に伸びる。
両方の目玉が取れて中から長い太い腕が生えてくる。
歯が牙に生え変わりダラーッと長い紫の舌が横断歩道の白線に落ちて地面が凹んだ。
その醜くて大きな身体はスクランブル交差点なら周りの建物ほどの大きさになった。
身体の色は血色の悪い紫がかった白、血管が所々に浮き出ている。
パズス『辛くても生きろと?悪魔だなお前たちわぁぁぁ!!!!』
優『悪魔はお前だ』
パズスは大きく太った身体を反らし勢いをつけて両目から生えた腕を三人めがけ振り地面を叩きつけた。
ドゴーン!!!
大きな音と共に砂埃が大量に舞って地面が大きく凹んだ。
三人は各々方向に飛び散りそれをかわす。
炎『デカくなりやがって!攻撃が遅くなってるぞ』
パズス『だぁ〜!まぁ〜!れぇ〜!』
パズスの汚い大きな声がスクランブル交差点中に響き渡る。
空中にいる槍の男に口から白い大きな光線を吐き出した。
このままだと直撃だ!
この光線が身体に当たれば跡形もなく吹き飛ぶだろう。
炎『やっば!!』
炎は目を大きく見開いて焦る。
ババババーン!!
ボカーン!!!!!!!
彼にギリギリ光線は届かず空中で大きな音を立て大爆発した。
爆風で周りの建物の窓ガラスがたくさん割れる。
たくさんの異形を相手にしているはずのパーカー娘が身体を捻ってこちらに弾丸を撃ち僕の放った光線に当てて彼を庇っただと!?
炎は爆風に飛ばされて身体を回して地面に着地した。
れなな『しっかり!』
炎『すまない!あっぶねぇ〜今のはやばかった、、、』
パズスの顔の前に大きく飛び上がった大剣の男が颯爽と現れる。
大剣を振りかぶると身体を回し遠心力を作りパズスの身体を切り刻んでいき地面に片膝をつき着地。
着地と同時に身体の至る所から血飛沫が飛び散り、右腕、目から伸びた右腕、背中から伸びた左腕が斬られた。
パズス『グォォ!!アアアア!!』
断末魔の叫びが響き渡る。
速い、一瞬でここまで斬られるのかっ!!
奴らの攻撃の手は緩まない。
鎌の女が体勢を低くして走ってきて尻尾を刈ると飛び上がり半回転してパズスの背中に手を当てる、更に手に力を入れて高く飛び上がり背中の首筋あたりから身体を回転させながら鎌で身体の皮膚を刈っていく。
背中に黒いタイヤが通るみたいで最後に右脚を刈られて間合いを取られた。
あまりの速さについていけない!!
右脚を斬られバランスを崩す。
まずは脚を再生させないと倒れてしまうので右脚を優先して再生させる。
その後すぐに残りの腕を再生させたのだが、、、
はぁはぁはぁ
くそっ!くそっ!
再生を繰り返し弱体化し疲弊する。
なんなのだコイツらは!
あまりの奴らの強さにパズスは全く攻撃することができずただ再生を繰り返すだけ、、、
三人は一度集まると疲弊しているパズスを見上げる。
れなな『こっちは全部倒したよ!心臓からもう出てこないみたい』
パーカー娘も合流してきた。
心臓のある方向を見ると、大量の黒い異形が地面に落ちていた。
そうかあれを全て一人で倒すのか、、まだ異形を作ることはできるがこちらに再生する力を使わないと負ける。
それに幾ら作ってもあの娘に倒されてしまう。
四人が肩を並べてこちらを伺っている。
白衣やスーツ鎌女のほっぺやパーカー娘の全身に僕や異形の血がついて僕は恐怖する。
あんなの勝てるわけない、、、
悪魔はお前たちだ、、、
優、れなな、セオ、炎『バースト(心息想力ヲ一つ)』
四人が同じことを呟いたかと思うと奴らの姿が変わり始める。
まだ、まだ奴らは強くなるのか!?
なんだ、、あれは、、??
バースト(心息想力ヲ一つ)とは五分毎にアニマウェポンの最大の力を引き出すことができる時間。
使用者の身体能力を一分極限まで強化してパズスの戦える。
炎の周りに蒼いオーラが出現し身体に槍と同じ暗い青色の鎧が身につく。
その鎧は頑丈でどっしりとした物ではなく動き回る竜を狩るために動きやすくした身軽さがある。
口元だけ隠れていない兜が頭に装着され勇ましい戦士の姿に変化した。
炎、バースト(心息想力ヲ一つ) ドラゴンスレイヤー(竜騎士)
ハデス『セオー!呼んでくれたんだね!キミは本当に美しくよぉ〜!!ところで今日のパンツの色教えてくれませんかね?』
鎌から黒いフードを被った骸骨の頭が現れた。
セオ『、、、、』
ハデス『またキミとエッチ(重なり)できて嬉しいよ』
炎『黙れハデス、セオに気安く話しかけるな!お前俺のキャラ被ってんだよ!出てくんな!』
ハデス『被るのはフードとちんこだけにしとけってかぁ!?包茎野郎!!かはははははは』
笑うとカタカタ骨の音が鳴る。
炎『はぁ!?頭だけでちんこすらないお前が何言ってんだよ』
ハデス『てめぇ!殺すぞ』
炎『お前こ』
セオ『二人ともそろそろいい加減にしてくれるかしら?最低ね、、ハデス、あまり調子にのらないのよ?』
美人の隣で最低な言い合いをしてセオに冷たく叱責される。
ハデス『ごめんよぉ〜セオ!、、、わかったよ、、、
あいつを助けたいのか?力を貸してやる』
ハデスは頭を鎌からぴょこっと出てくるとセオの身体の中に消えていった。
セオ『ん、んん』
少し喘ぎ声を漏らしてしまう。
紅と黒のオーラが全身から溢れると黒い衣を全身に纏い顔にフードを被せられた。
ハデスに纏われている間は好きな異性に身体を触られる感じがするのだそうだ。
フードから少し見える瞳は赤く妖艶に光る。
セオ、バースト(心息想力ヲ一つ) ハデスシュラウド(死神ヲ纏ウ)
ハデス、セオ『んん〜!!気持ちいい!!気持ちいい!!』
邪悪な狂気に満ちたハデスの声音と麗しい美声のセオの声音が重なる。
ハデス、セオ『パズスよ、生意気だな、死を決めるのはお前じゃない、決めるのは死神だけだ!セオのためにお前を生かしてやる!!』
今セオの身体の主導権はハデスにある。
ハデスがセオの身体を操りパズスと戦うじょうたいになった。
れななはそっと目を閉じて瞑想する。
少しずつ目を開きその綺麗な瞳が露わとなる。
姿に変化はないがただじーっと一点を見つめる。
れなな、バースト(心息想力ヲ一つ) アンジャーゾーン(無意識時間)
オリンピック選手は本番の時ゾーンと呼ばれる無意識の状態に入ることがあると言う。
その時は練習してきた以上に力を発揮でき自信に満ち溢れるのだそうだ。
れななは今その状態にアニマウェポンの力を使い自らなったのだ。
優の全身から白く美しく輝く光のオーラが現れる。
頑丈で重厚な白く輝く鎧を身に纏う姿は全てから守ってくれる気高き騎士。
パズスの気持ちに寄り添う慈悲深き高貴な戦士。
闇を切り裂き光を届ける。
優、バースト(心息想力ヲ一つ) ミゼリオブウォーリアー(悲寄添戦士)
それからは一瞬の出来事だった。
四人のあまりの速さに何が起こっているかもわからない。
一人ずつなら辛うじて相手になると思うが四人で息を合わせて攻撃されたら防ぎようがない。
パーカー娘がパズスの周りにたくさんいて腕を振り叩きつけるがどれも残像で仕留めることができない。
銃で身体を何度も撃ち抜かれていることだけはわかる。
ブォンブォンブォンと鎌を振る音が耳に纏わりつく虫の羽音のようで耳障りで仕方ない。
鎌と大剣で身体の全てを斬られた。
再生してもまた斬られる。
だんだん再生がおいつかなくなってきた。
追い込まれ追い込まれたパズスの思考は最後に冴えてきて攻撃がどれも当たらないのであれば光線を自分の真下に放てば自分は後でゆっくり再生すれば良いと思いつく。
口を大きく開けて全力の光線を撃つために力を溜め、、、
ジャキジャキーン!!!
大剣で口を切り裂かれて口の中で光線が爆発。
パズスの顔がぐちゃぐちゃになる。
だめだ、、、
自殺できない、、、
死ぬことができない、、、
悲しみに天を仰ぐとそこには槍を持った男の姿。
五十メートルはあろうかといった高さのところにいて槍を構える。
炎『ドラゴンダイブ(竜突降下)』
炎は天から矛先をパズス向けて急降下する。
その姿は竜が空から獲物を見つけ捕食するために降りてくるようだった。
切り裂かれた口から体内に入り身体を貫いていった。
パズス『グゥがああああああー!!!!!』
負けた、、、
唸り声と共に地面に倒れて大量の砂埃が舞う。
身体を貫いた炎は全身血に染まっていた。
炎『風呂はいりてぇ、、』
ボソッと嘆くと地面に大の字で寝転がる空を見上げた。
心の中の空は外と全く変わらない空。
バーストが終わり鎧が脱げ白衣姿に戻った。
炎の近くにセオが立っていて黒い衣が剥がれると鎌が地面に落ちてカラーンと高い音が鳴った。
セオは両膝を立てて地面に崩れ落ちた。
はぁはぁと息が上がっていて事後を思わせる息遣い。
鎌からぴょこっと骸骨頭が出てくる。
ハデス『気持ちかったねセオ、次のバーストはまだですか?』
セオ『今日はお終いよ、はぁ、はぁ、、ありがとう、おかげで彼を助けることができるわ、、はぁ、はぁ』
ハデス『セオに褒められた!!うれちぃ!うれちぃ!ぞぉぉぉ』
気持ち悪い声音で言う。
それを聞いた炎が槍を置いて立ち上がり鎌の場所に走る。
炎『おい!糞カス死神やろう!!』
炎は骸骨頭を捕まえようとするが鎌の中に入って見事にかわしている。
ハデス『捕まえてみーろぉバーカ!かははははは』
炎『誰が包茎だとコラァ!!』
炎は骸骨頭を見事に捕まえる。
ハデス『あっ、、やばっ、、、』
炎はハデスを適当な方向に思い切り蹴飛ばした。
ハデス『いったあああああ!!』
炎『セオ、大丈夫か?』
セオ『ええ、少し疲れたけど、はぁはぁ、大丈夫よ』
セオの少し熱った表情とセクシーな声に炎は息を呑んだ。
負けた、、、
負けた、、、
負けた、、、
弱った身体は再生不可能で徐々に萎んでいき最初のスーツ姿の人の形に戻ってしまった。
死にたいのに、死にたいのに、死にたいのにっ!!
大剣の男は白衣姿に戻っていてパーカー娘と少し離れたところで僕を見ている。
優『心臓から引き剥がしてくる』
れなな『うん、気をつけてね』
心臓から心の中の誠を引き剥がしに行くみたいらしい。
待ってくれ!!それをしたら僕は消えてしまう。
死にたいのに、死にたいのに、、、
大剣の男が彼の後方にある心臓に向かって走って行った。
パズス『待ってくれ!頼む!お願いだ!』
くたびれた、、今出せる力で懸命に叫ぶ。
パズス『死なせてください!!お願いします!!辛いのはもう嫌です!楽に、、させて下さい、、』
頭を地面につけ土下座して懇願する。
それを聞いたパーカー娘が銃をそこらにほっぽり僕に向かって走ってくる。
何をするつもりだ??
死体蹴りでもしに来たか??
散々銃で身体を撃ち抜いたくせにまだ足りないってか??
もう身体は動かない。
まぁどうせ生きていたらまたすぐ僕は生まれるさぁ。
その時はもう一度、、、
バサっ!!
えっ??
パーカー娘が僕の身体を抱きしめてくる。
なんで?こんな事するんだよ、、、
温かい体温を感じた。
花??
何処かでいつか感じたことのある温もり。
セオ『れななちゃんダメよ!!パズスから離れて!!』
炎『ちっ!!あいつ武器持ってないぞ!!』
炎は舌打ちすると槍を置いた場所に走って取りに戻り矛先をパズス向けて構えた。
れなな『辛いよね、生きることは、でも死んじゃダメ!!』
耳元で話しかけられる。
パズス『お前に何がわかるんだよ!!仕事で失敗して何度も怒られて挽回するために夜遅くまで働いて働いて!!それがどんなに辛いのかわかるのか!?そんな綺麗な目をしやがって!!苦しいことなんか知らない顔しやがってよ!!お前に何がわかるんだよ!!』
パーカー娘はそっと袖を捲ると手首を見せてくれた。
そこにはたくさんのリストカットした後が残っていた。
えっ??この娘が、リストカット??
れなな『私もね、、心の中に、、パズスがいたことがあるの』
この娘にも、僕がいたのか?
れなな『大好きなことがある日いきなりできなくなって、、、悲しみでどうしようもなくなった時があったの、辛くて苦しかった、悩んで悩んで死にたいなぁって思っていたらほんとうに死んじゃいそうになって、、、ここにいる人たちに助けてもらったの』
パズス『お前も、辛かったのか??』
彼女は優しく相槌を打つ。
れなな『最初と夢は違うけど好きなことはできるようになってね、今は生きててよかったって思えるの』
僕は黙って彼女の言葉を聞いていた。
れなな『生きてると辛いことはたくさんあるけど楽しいこともきっとあるから、辛くて苦しかったらカウンセラーを頼ってほしい、、私達はあなたの味方だからっ』
ニコッと優しく微、笑、ん、だ。
僕とは違う心の底からの本当の笑顔。
やり方なんて忘れてしまっていた。
パズス『味方なのぉぉ?辛かったら頼っていいのぉぉ?』
れなな『うん』
目から涙がこぼれ落ちた。
彼女の優しい顔が滲んで見えない。
身体が震える。
僕は、、今泣いているのか??
パズス『ああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!』
声を上げて彼女の前で僕は泣きじゃくった。
大剣の男が心臓から誠を、僕を引き剥がしたみたいだ。
僕の身体がどんどん消えていく。
れなな『大丈夫、大丈夫、大丈夫だよ』
空に向かって声を上げて泣きながら僕は消滅した。
もう僕は生まれなければいいなぁ、、、
※
109と書かれた看板の上にきた俺優、はドクンドクンと鼓動を打つ大きな心臓の前に立つ。
ふもとに心の中の誠さんが心臓から肩から上を出して目を瞑っている。
エクスカリバーを地面に置いて彼に近づく。
ドクン
心の中の誠『生きたい』
ドクン
心の中の誠『生きたい』
鼓動と同時に生きたいと呟いている。
パズスの囁きがなくなり本来の心の底からの言葉に戻っている。
優『次は心の外から治療します。大丈夫、俺たちはずっとあなたなの気持ちに寄り添います。花さん拓磨さんと心から笑えるように一緒に頑張りましょう』
ドクン
『生きたい』
ドクン
『生きたい』
俺は彼を心臓から引き剥がすために心臓の中にすっぽり全て入るくらいに腕を入れる。
グチュッ
と音がなり生温かい感触が腕全体に伝わる。
彼を抱くように足に力を入れて後ろに引き剥がそうとする。
彼に触れることができるのはHSPを持った人だけ。
彼の身体が少しずつ心臓から出てくる。
!!!!!!
優『うぐっ、、、』
彼の苦しみ、辛さ、疲労がHSPの力で共感共有してしまい吐き気を催す。
あまりの負の気持ちに立っていられない。
身体に重圧がのしかかり心が鉛のように重い。
グッと堪えて歯を食いしばり持ち堪える。
優『ウオオオオオっ!!!!!』
グチュッ!!!
声を出して腕に足に腹に力を思い切り入れる。
彼を心臓から引き剥がし腰に手を回して抱き抱える。
白衣が赤く染まる。
心の中の誠『ありがとう』