闇の微笑み
パズス(死導魔)『外にしよう、家でやると見つかる』
大丈夫だろう、きっとみつからないさ、、
『遺書は書いたっけ』
書いた机の上に置いておくよ。
『実行は明日の夜だ、絶対に見つからない』
明日終われるんだ、この苦しみからこの辛さからこの悲しみからこの悩みからこの責任感から全て解放される。
誠さん?誠さん?
誰かが僕を呼んでいる。
花『誠さん?大丈夫?』
誠『あっ、、、大丈夫』
魂の抜けたような身体で玄関に突っ立っている僕を呼ぶのは僕の妻でえっと、名前はーー
またボーッとしてしまう。いやボーッとしないといけない。
ボーッとしないと色んなことを考えてしまう。
花『誠さん?お願い休んで、すごい疲れた顔してるよ?』
へっ?
僕の身体に妻の体温がまとわりつくのを感じる。
正面から抱きしめてくれているらしい。
花『お願い、、、休んで』
今にも泣き出しそうな表情で僕を見上げてくる。
心配かけてしまったらしい。
僕はうっすらと微笑んで
誠『大丈夫だよ』
と言った。
四年前僕の失敗のせいで会社の成績に傷を付けてしまった。
挽回する為に今日も頑張って働いてきた。
首にならなかっただけまだマシだった。
たくさんの人に迷惑をかけてしまった。
当時は息子が生まれたばかりで花は毎日大変そうにしていた。
会社の事を相談するわけにはいかなかった。
僕が頑張れば良いだけだった。
全て僕が悪いんだから、責任は全て僕にある。
一緒懸命少しずつ少しずつ大きくしていった会社に僕はなんて事をしてしまったんだ。
誠『拓磨は寝てるのか』
花『うん、寝てるよ』
誠『そっか』
ここずっと拓磨の寝ている顔しか見ていない。
花『あなたも休んで』
自宅の暖かい温もりに包まれたおかげなのか妻の美しい顔に色がつき始めた。
外に出ると全てのことが白と黒にしか見えない。
靴を脱いで上がる。
リビングに行くと妻がご飯の用意をしてくれて温かいご飯と味噌汁、生姜焼きとキャベツがのった皿を机に並べてくれる。
スーツを脱がせてくれて僕は椅子に座った。
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花『誠さん?』
気がついたら妻は僕の迎えに座っていた。
誠『大丈夫だよ』
微笑みを顔に貼り付ける。
花『拓磨ね今日自転車の補助輪外して乗れたの』
誠『、、、、』
花は悲しそうに僕を見つめる。
ボーッとしてしまったからまた心配かけてしまったらしい。
誠『、、、、』
花『誠さん?お願いがあるの、会社休んで、病院に行かない?』
誠『なんで?大丈夫だよ、ほら』
微笑みを貼り付ける。
僕はどこもおかしくない、病院に行く必要はない。
花『大丈夫じゃないよ!!!!ここ最近ずっと誠さん変だよ?ずっとボーッとしてて』
花は珍しく声を荒げた。
顔の表情筋を少し緩めるだけで受け答えできるから疲れた時は楽だったので微笑んでいた。
拓磨『ママ?パパ?』
眠たい目を擦りながら息子の拓磨が起きてきた。
リビングの隣が拓磨の部屋だから花の大きな声で目が覚めてしまったらしい。
花が拓磨の元に行き膝をついて頭を撫でてあげている。
その様子を身体ごと向けて見ているとぎこちなくトコトコ僕の脚に拓磨が抱きついてくる。
拓磨『パパ、おかえり』
子供の成長は早いものでもう僕の膝の高さを越えるまで伸びていた。
前みたいに拓磨と全く遊べていない。
仕事が一段落したらいっぱい遊んであげるからな。
パズス『明日死ぬやつが何言ってんだ』
そうだった
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息子の未来よりも今この苦しみから逃れる方が大事だ。
きっと花と二人仲良く暮らしていけるだろう。
花『誠さん?ご飯食べて』
誠『えっ?うん』
気がついたら拓磨は部屋に戻っていた。
また暫くボーッとしていたらしい。
僕は少しだけ妻のご飯を食べ休むために自室に行こうとする。
花『お風呂沸いてるよ?』
誠『今日は疲れたからお風呂はいいや、明日も仕事だし着替えて休むよ』
前までは川の字で家族三人で眠っていたのだが今は一人になりたい。
花は拓磨の部屋で寝るだろうから願いは叶いそうだ。
花『、、誠さん、、病院、、いこっ、、』
苦しそうに涙を堪えながら言ってくる。
誠『大丈夫』
微笑みを貼り付けた。
※
日が上り障子が明るくなってくる。
大嫌いな朝がやってくるらしい。
一晩眠れず、ずっと天井を眺めていた。
今日僕は自殺する。
そう思ったらなんだか気持ちが楽になった。
やっと、死ねる。
今日は花にたくさんありがとうと言っておこう。
布団から起き上がると身体が軽い気がした。
布団を押し入れにしまいリビングへ行く。
朝六時半、花は起きていて僕の弁当と朝ご飯を作ってくれていた。
花『おはよう、眠れた?』
誠『、、、うん、花、いつもありがとう』
花は不思議そうに俺の事を見つめる。
誠『今日はなるべく早く帰ってくるよ、花に言われた通りしっかり休むよ』
彼女は嬉しそうな表情をする。
そんなに美しい笑顔も今の僕の心には全く届かない。
花『晩御飯何食べたい?何でも作るよ』
誠『、、なんでもいいよ』
花『なんでもいいは一番困ります』
僕は微笑みを貼り付ける。
拓磨はまだ眠っているらしい。
静かに起こさないように引き戸を開ける。
スヤスヤこの世の残酷さなんかまだ知らないと眠っている。
引き戸を閉める。
最後の朝食を食べ最後の昼食の弁当を受け取り最後の出社をした。
※
時刻は夜中の二時。
寝室にある一つの大きなクローゼットをゆっくりと開ける。
僕と花の服が鉄の棒にハンガーでかけられて収納されている。
邪魔になりそうな服をどかしこの棒に今日帰りに用意した紐を首を吊れるように巻き付ける。
遺書はリビングに置いた。
僕の死に場所はここにすると決めた。
パズス『これで楽になれる。僕は間違っていない』
辛かった、しんどかった、苦しかった。
パズス『楽になれる、楽になるために、自分を守るために、自分を助けるために』
輪っかを作ったところに首をかけようとした時
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
家の中にインターホンが何度も鳴ったような気がした。
こんな時間に誰なんだ?非常識にも程がある。
まぁ気にしない。このまま僕は首を輪っかに、、、
だっだっだっ!!
慌しい足音。
寝室の引き戸をばっと!勢いよく開けたと思うとそこには花がいた。
首を吊ろうとしている僕と目が合う。
花は一瞬固まって口を両手で押さえて目の前のことが信じられない様子。
花『誠さん!!何やってるの!!!ダメ!!!』
彼女の絶叫が寝室に響き渡った。
やばい、見つかった!
やっと楽になれると思ったのによ!!!邪魔しやがって!!!!
僕は彼女を突き飛ばして寝室を出る。
次の死に場所を!次の死に場所を探さないと!
だっだっだっだっ
騒がしく足音を鳴らして駆け出す。
玄関に白衣を着た男性、後ろに膨らみのあるボブヘアーの女性とツインテールの女性。
誠『どけよ!!!!』
勢いよく男性にぶつかる。
男性の体格が良く僕の身体がズキっと痛んだ。
男性が僕を捕まえようとするのをかわし、アパートの一階の部屋から外に靴を履かずに飛び出す。
どこでもいいから死に場所を探す。
パニックになり息を荒げながら夜の東京の閑散とした道を駆ける。
優『れなな!彼女のケアを頼む、俺は彼を追う。清水さん頼む』
清水『はい!』
後ろからさっきの男性が僕のことを追ってくる。
捕まれば死ねない、捕まったらダメだ。
もう少し走った先に車通りが多い車道に出るはずだ。
夜中とはいえ東京だからそこそこ車が走っているはずだ。
僕は車道に向かって全力で走る。
三車線の大きな車道。
読み通り少しだが車が行き交っている。
なんでもいいから跳ねられるために車道に飛び出す。
ベッドライトの光が近づいてきた。
運転手が僕に気づいて慌ててハンドルを切るが間に合わないだろう。
やっと、、しね、、
ガサッ!!キュュュュ!!!!
さっから追ってくる男性に抱きつかれて車道を転がる。
間一髪のところで彼の邪魔がはいってしまい車に轢かれない。
男性から解放されるために必死に暴れ回る。
誠『はなせ!はなせ!はなせ!お願いします、死なせて下さい!死なせて下さい!』
男性は僕にしがみつき放そうとしない。
誠『はなせっていってるだろうがよ!!!!』
パズス『舌を噛め』
僕は舌を噛もうとするが男性の手を噛んでしまう。
僕が舌を噛もうとすることがわかっていたのか?
ボブヘアーの女性が遅れてやってくる。
優『清水さんお願いします』
その女性に鎮静剤を注射されだんだん意識が朦朧としてくる。
事故を起こしそうになった運転手が降りてくる。
運転手『いきなり飛び出してきたんだ!危ないだろ!』
優『清水さん救急車をお願いします、彼と病院へ、俺は彼の家族に説明してきます』
清水『はい、わかりました』
くそっ!くそっ!手足に力が入らなくなってきた。
このまま僕は鎮静剤のせいで眠りについてしまった。
※
彼の自宅に戻った俺優、は一階の開けっぱなしのアパートに入る。
靴を脱ぎ勝手に上がらせてもらうとうずくまって震えている女性と彼女の背中をさすってあげているれななな姿があった。
花『私のせいです、私のせいです、私のせいです』
れなな『違うよ、あたなのせいじゃないよ』
ショックな光景を目にしてしまったからこうなってしまうのも仕方がなかった。
れなな『優先生』
優『無事保護した』
れななはうんと相槌を打った。
れなな『彼は保護したから大丈夫だよ、辛いよね、、』
花『ごめんなさい!!』
顔を埋めてうずくまったまま泣きながら声を漏らす。
拓磨『ママ?泣いてるの?』
小さい子供が部屋から出てきて母を心配している。
ぎこちない歩みで母に寄っていく。
拓磨『パパ?どこ?』
れななはしゃがみながらその子の前に移動して顔を覗き込む。
れなな『お名前は?何歳ですか?』
拓磨『いちのせたくま、よんちゃい』
れなな『拓磨くん、パパはね心の病気になっちゃったの、でも元気になって帰ってくるからその時はたくさんパパとお話ししてあげてほしいの』
拓磨は頷く。
れなな『約束だよ』
拓磨『できる』
れななは決意した目で立ち上がり俺の隣に立つ。
希望に満ちた逞しいその目つきは俺が頼りにしているSPT隊天才のアニマウェポン、コナトス(血の滲む銃)使い。
れなな『必ず助ける』
ボソッと自分に言い聞かせるように呟いた。
優『準備が整い次第彼の心に入りパンデモニア症の治療を行う』