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仲間



東京精神科総合病院。

診察室は空調が良くて快適な温度。

出入り口のドアの側には観葉植物が置かれており壁には美しく描かれた絵。

緊迫感のある診察室を少しでも和ませようと飾られている。

俺、悟心優(さとみゆう)は患者が診察室に入ってくるのを椅子に腰掛けて待つ。

机の上のパソコンにはこれからやってくる患者の血液検査のデータが映っている。

一通り目を通していると緊張気味に男性が入ってくる。

患者『よろしくお願いします』

ドアの所で少し頭を下げて挨拶する。

優『こちらに』

白髪が少し混じった痩せ気味の男性。

シャツは襟元が少し伸びていて長く使っている物だとわかる。

パソコンのデータでは三十八才となっている。

患者は目の前の椅子に座り目線だけで辺りを見渡す。

優『今日はどうされましたか』

患者『最近その、、眠ろうとしたら、筋肉が変な感じがするんです。むず痒いといいますか、、変な感じがして、、他の病院に行っても原因がわからないと言われてしまって。もしかしたらストレスとかからの精神からくるものなのかなとおもい今回こちらの精神科を受診してみたんです』

優『いつ頃から症状は?』

患者の目を見て質問する。

患者『大分前からです』

優『症状が続いているのですか、、眠ろうとした時に症状がでるのですか?』

患者『はい、、休もうとした時に症状が出るような気がします。なんか気持ち悪くて全然休めれないんです。だんだん辛くなってしまって』

優『休もうとした時とは動かさない時?』

患者『、、はい』

優『どのあたりか教えてください』

患者『脚です』

優『なるほど』

俺は患者の症状と血液検査のデータを元にとある病だと疑う。

優『おそらくレストレス症候群だと思います。血液検査の鉄の項目の数値に異常が見られます。今教えてもらった症状と合わせて間違えないです』

患者『ほんとですか?それって、、どうやって治すのですか?』

優『薬を出しますのでまずはそれを飲んで下さい。ストレスはなるべく溜めないように運動や睡眠をしっかりとるようにあとは適度に休めば治ると思います。何か症状が悪化したり困ったことがあった場合はまた受診して下さい』

患者『ありがとうございます!ほんとにずっと原因がわからなくて辛かったです』

患者は少し安堵している様子。

優『頭のドパミンと呼ばれるものが鉄分などのが不足して起こる病です。安静にしていれば大丈夫ですよ。薬は眠気が強い物ですので服用後は運転などは控えるようお願いします。薬剤師の方からも説明されると思います』

患者に安心してもらうため笑顔を交えながら説明した。

患者『ほんとにありがとうございます』

頭を下げてお礼を言いと診察室から出て行く。

患者の背中を見届け午前の診察が終わる。

昼休憩は外の風に当たりたいので病院の敷地に向かう。

白衣のポケットに手を入れ広い院内の廊下を歩く。

ずっと診察室にいると外が恋しくなる。

院内の敷地は緑豊が豊かで美しい。

木のそばにあるベンチに腰をかけて外の風と日光を身体いっぱいに浴びる。

室内の空調も悪くないのだがやはり五月の外の気候には敵わない。

晴れている日はだいたいこのベンチで一人静かに昼食を食べる。

昼食は腹に少し満たされる物ならなんでも良い。

最近は素早く栄養の摂れるゼリーを飲んでいる。

ゼリーの蓋を開け口をつけてゼリーを吸う。

味はマスカット味なのだが栄養を摂るだけのものなので特に気にしたことはない。

れなな『優先生お疲れ様、隣座っても良い?』

可愛い女子の声が優に言う。

黒い髪をツインテールし、目は綺麗な二重で睫毛が長い、いろんなものに興味を示しそうな元気いっぱいな瞳、服装はぶかぶかした黒のパーカーにショートパンツ、白くて綺麗な美脚が伸びる先には白い靴下とスニーカー。

彼女は大原華舞久(おおばられなな)カウンセラーを目指している研修生で今この病院で経験を積む二十二歳の大学生。

袋を携えて突っ立っている。

美貌の持ち主でこの晴れた空の元によく似合っている。

彼女の問いに答えずゼリーを飲んでいると勝手に隣に座って脚を組んだ。

れなな『座っていいか聞いてるのに!答えてよ!』

優『もう座っている』

彼女はぷぅ〜と頬っぺたを膨らませる。

急に賑やかになったな。

れなな『先生って本当に普段無口!つまんなーい』

優『いいだろ』

腑に落ちないといった様子で俺の事を伺う。

れなな『、、、先生お昼ご飯それだけでお腹空かないの?』

優『これだけあれば大丈夫』

れななは袋からおにぎりを取り出すと一つ俺に渡してこようとする。

れなな『私の一つあげるからちゃんと食べなさい!』

優『、、、ありがとう』

要らないと言えたが断ると面倒そうだったので彼女の優しさを受け取っておくことにする。

れななはパリッと海苔の音をたてながら美味しそうにもぐもぐおにぎりを食べ始める。

俺も袋から順番が書かれた通りに破りゼリーとおにぎりをいただくことに。

れなな『今日も午前中はずっと診察?』

優『仕事だから当たり前だ』

れなな『そっか、、』

俺と会話したそうにしているからおにぎりのお礼にと何か話題をふる。

優『研修順調なのか?』

結局いい話題は見つからず仕事のことになってしまう。

れななは俯きながら首を横に振る。

どうやら上手くいっていないみたいだ。

まぁ最初から順調にできるなんて思っていない。

カウンセリングは知識もそうだが一番大事なのは経験だ。

れなな『苦しそうにしている人を前にすると、、なかなか上手く言葉が出てこないの』

両手でおにぎりを持ってコロコロするのを見ながら言う。

優『カウンセリングに大事なことは経験だから焦らないでいろんな事を聞いて感じて考えて進んでいけば良い、れなななら大丈夫だと思う』

れなな『ありがとう』

俺の方を見て言ってきたので口の端を上げて答える。

れななはガブっとおにぎりにかぶりつく。

俺もおにぎりを食べ進めると中身は鮭とわかった。

優『鮭』

何故かボソッと呟いてしまった。

れなな『先生何好きかわかんないから適当、ダメだった?』

私の一つあげると言っておきながらいつもここでゼリーだけ飲んでいる俺の為に買ってきてくれたらしい。

優『いや、丁度良かった』

俺がそう言うとれななはニコッと笑いご満悦な様子。

その美しい笑顔は病んでいる心をたくさん救ってあげることができるだろう。

れなな『そしたらおにぎり代百五十円です』

優『、、、ごめん今財布持っていない』

白衣に財布入れない。ロッカーのカバンの中だ。

れなな『今度なんか奢って下さい!』

俺は鼻で笑うと彼女は立ち上がる。

れなな『午後も頑張ってきます!』

優(歯に海苔ついてる、しっかり歯磨き忘れるな』

れななはかーっと顔を真っ赤にして舌で歯を触る。

れなな『バカっ!わかってるわよ!』

目の前の状況を言ったら怒らせてしまったみたいだ。

れななはドシドシ地面を鳴らしながら院内へと姿が入っていった。

俺も午後の診察のため近くのゴミ箱にゼリーの容器と袋を捨てて白衣のポケットに手を入れ院内に入った。

診察が終わった夕方十八時の院内の廊下。

夕日が差し込んで真っ白な廊下に淡いオレンジの絵の具を塗っているみたい。

肩から鞄を下げて廊下を歩く。

この後身体を動かす為にアニマウェポンでも触って帰宅しようかと思っているとまた騒がしい人に声をかけられる。

炎『優!飲みに行こう!セオとれななちゃんも誘うつもり〜』

がしっと後ろから肩を組まれて身動きが取れない。

別に解いて解放できるが余計な力は使わない。

彼はこの病院で働く俺と同じ精神科医の伊狩炎(いがりほむら)

同い年の二十九歳。

鼻が高く端正が整った顔に少しくしゃっとした髪型は清潔感のある。

院内では優と肩を並べるイケメン医者と看護師達から言われている。

明るくて頼りになるので女性看護師たちから人気も高い。

たまにこうして飲みに行こうと誘ってくる。

優『この後アニマ触って帰宅しようかと思っるんだけど』

炎『え〜!!お前働きすぎだって!行こうよ!飲みに〜』

優『俺がいなくても飲みにいけるだろ』

炎『たまには休もうぜ!なぁ?行くぞ!』

優『人を助けるのに休んでいられない』

炎『人を助けるために休むんだよ、助ける俺たちが元気でなきゃどうするんだよ』

俺は肩をすくめてため息を漏らす。

彼の言うことは一理ある。

最近は昼は診察、夜はアニマ触ってで休みは取れていなかった。

れななもセオも彼もそうだ。

診察の無い休日はほとんどアニマウェポンを触っているのでここで少しリフレッシュするのもありだった。

優『車はどうする』

炎『病院に置いて行くよ、帰りは電車』

優『わかった』

炎は決まり〜と歓喜の声を漏らすとスマホでれななとセオに連絡する。

二人ともアニマを触ると最初は断ったが俺も行く事を伝えると渋々今日は飲みに行く事になった。

病院の近くにあるいつもの居酒屋に徒歩で移動。

通勤に使う車は院内の駐車場に一晩置いて行く。

赤い提灯が目立つ店の暖簾を上げて中に入る。

たまにだが今日の四人でここで飲むことがある。

今日はそのたまにの日になった。

四人で座れるテーブルに炎と迎え合わせに座り女性二人の到着を待つ。

炎は早速店員を呼んでビールを注文している。

店内はうっすらと煙がただよい仕事終わりのスーツ姿の人達で賑わっている。

楽しそうにゲラゲラ笑ったり男性の大声が聞こえてくる。

店員が器用にたくさんのジョッキを運んでいてつい目で追ってしまう。

炎『優も飲めよ!恥ずかしいなら俺が頼んでやるぞ』

全く何言ってるんだと思い軽く流す。

優『揃ったら注文する』

炎『おう!そうだ。渚に居酒屋寄って帰るって連絡しとかなきゃ』

炎はそう言って嬉しそうにスマホを触る。

彼には歳の離れた妹がいてここ東京で二人暮らしをしている。

炎は妹大好きなおっさんでいつもデレデレしている。

スマホのロック画面も渚の写真。

彼女は現役アイドルでステージで歌っている写真だ。

一番の推しはお兄ちゃんだといつも自慢している。

暫く待っているとビールより先にれなながやってきた。

彼女は昼会った時と同じ格好をしていてとても可愛らしい。

この居酒屋の雰囲気とは合っておらず浮いている。

炎『れななちゃん!こっち!』

炎は手を上げて大きな声で彼女を呼ぶ。

店内が騒がしいので誰も気にしない。

れななは俺たちに気づくと小走りでやってくる。

俺の隣に座るとリュックを足元の籠にしまった。

炎『れななちゃん!今日も可愛いねっ!』

れななにウィンクしながら言った。

優、れなな『『きもー』』

二人で半目になって揃って言った。

炎『れななちゃんにきもーとかご褒美でしかないわー!サンキュー』

れなな『優先生、炎まだ酔ってないよね』

耳打ち気味に言ってくる。

優『素の彼もあれだ、すまない、受け入れてくれ』

れなな『今日はどうして飲みに行く事になったの?優先生も行くって言うから納得してきたんだけど』

炎『いや最近俺たち働きすぎだろ?たまにはなっ!』

れなな『そうだけど、、』

れななは困った様子でチラッと俺を見た。

優『たまにはいいだろ』

れなな『そっか、、なら飲んじゃおうっと!セオさんはまだ来ないの?』

優『今日はたしか学校にカウンセリングにいっているはずだ』

炎『車自宅に置いて来るからちょい遅れるってよ』

カウンセラーは院内で働くこともあれば他の施設に行って働く場合もある。

彼女月夜野セオはカウンセラーで今日は指定の学校に行っていた。

炎の頼んだビールがフライングしてやってくる。

れなな『炎、あんたなに先に頼んでるのよ!みんな揃って乾杯でしょ?』

炎『へっ?』

惚けた顔で先にもう飲み始めていた。

ジョッキを片手にどんどんビールが喉に吸い込まれていった。

炎『うんめぇー!!』

れなな『あんたちゃんと考えて飲まないとまた酔い潰れて妹に迷惑かける事になるわよ!』

炎『大丈夫大丈夫!ところでれなな研修はどうなんだ?』

優、れなな(急に話変えやがった)

前のことは絶対反省していないな。

れなな『昼優先生と話したから大丈夫ですっー!炎に聞いても適当なことしか言わなそうだもん』

炎『そんなことないぞー、困ってるんだなぁ、俺に聞いてみなさい、うん、うん』

悟りを開いたお坊さんみたいにそう言った。

明らかに胡散臭いお坊さんだ。

これでも彼は東京精神総合病院の優秀な医者だ。

れななはベーっと舌を出して胡散臭いお坊さんを一蹴する。

なんだかんだ仲の良い二人のやり取りを眺めていると彼女がやってきた。

サラサラの黒髪をポニーテールにして白いカッターシャツの上に黒のスーツにスカート、長くて美しい脚線美も黒のストッキングを纏っていて妖艶で魅力的な姿。

長い睫毛ののった吊り目の中には男を虜にする麗しい瞳。

一番目立つのはその大きな胸元でシルエットだけでも彼女だとわかるぐらいに他を寄せ付けない美しすぎるスタイル。

炎『セオ!こっちこっち!』

炎に呼ばれて俺たちに気づきやってくる。

彼女もまたこの居酒屋の雰囲気に浮いていて他のサラリーマンから注目を集める。

セオ『ごめんなさい』

遅れた事を謝ると炎の隣に座る。

上着を脱ぐと大きな胸元が強調された。

れなな『セ、セオさん、お疲れ様です、、』

セオ『れななちゃんこんばんは』

炎に食いかかるれななでもセオの妖艶な美しさに緊張してしまう。

セオにカウンセリングされた者はみな彼女の虜になってしまうと言う。つまりは転移性恋愛と呼ばれる。

彼女はその道のプロなのでなんとかしているらしいが。

炎『セオ様!今日も美しいあなたを見ながら酒が飲めて幸せですぅー』

セオ『あらそう、良かったわね』

炎の気持ち悪い発言なんか気にもしないでどこ吹く風と言った様子。

セオ『今日はアニマ触らなくて良かったのかしら?今日は特に鎌を振りたくてうずうずしてたんだけど』

優『今日は休みという事になった、たまにはいいだろ』

セオ『隣の炎が優に飲みに行きたいって聞かなかったみたいね』

そう言いながら炎の顔を見る。

炎『おっしゃる通りです!』

セオ『そうなったのなら今日は飲みましょうか、炎君はワンちゃんみたいに待てもできない悪い子みたいだから後でお仕置きしてあげましょうか?』

炎『マジて!?お願いしますぅーえへへ』

鼻の下伸ばしながら気持ち悪い声と顔。

先に飲み始めていて酔いが回ってきているらしい。

れななはそれを冷たい眼差しで眺めている。

セオ『私たち三人で今日の仕事終わりの一杯の乾杯しましょう』

セオはそう言って店員を呼んだ。

炎『俺も俺も〜グゲぇ〜』

でかいゲップをしながらジョッキを掲げてご満悦に言う。

店員が店に注文を聞くためにメモ用紙とペンを持ってやってくる。

セオは手書きのメニュー表を見ながら店員に注文し始める。

セオ『生ビール一つお願いします、優、れななちゃんはなに頼む?』

れなな『私は、レモンサワーで、お願いします』

れななの注文をセオが代わりに店員に伝える。

セオ『優は?』

優『烏龍茶』

セオ『飲まなくていいの?』

俺はセオの隣で愉快に飲みまくる炎に視線を向けると察したらしく烏龍茶を店員に注文してくれた。

他にもサラダに焼き鳥唐揚げなどセオがどんどん注文してくれた。

れなな『優先生ビール飲まないの?』

優『炎を車でおくることになりそうだから、それに今は飲みたい気分じゃないから大丈夫』

れなな『そっか、、』

注文が届くのを待つ。

セオ『れななちゃん、今日の研修どうだった?』

れなな『えっ!?、、うん、、まあまあだったかな、、』

俯いて人差し指をツンツン合わせながら言った。

セオもれななの研修が気になっているらしく今日の成果を聞いた。

俺たち三人はれななとは少し年の離れた先輩に当たる。

親のいる子みたいにカウンセラーのたまごであるれななの事を見守っている。

セオ『もし良かったら私の元で研修やってみない?まぁ、私の場合は移動が多いからその分大変だけど、学校とか行くから歳の近いれななちゃんなら話があっていいかもしれないわ』

れなな『ほんとに!?やりたい!セオさんとお仕事したいです』

セオはれななの真っ直ぐて輝く瞳にうふっと微笑む。

セオ『わかったわ、詳細は後日また連絡するね』

れななはうんと元気よく返事した。

セオ『なんでも相談していいから、困ったことがあったら遠慮しないで私を頼って』

ほをづえをつきながられななに言った。

れななは憧れの上司を見るような目で彼女を見ている。

炎『セオさん俺も彼女できなくて〜困ってまーす!』

炎はセオに唇を尖らせ近づこうとするが彼女に顎を下から掴まれてそれを制された。

炎『イタタタっ!!』

机の下では追い打ちをかけるようにれななが炎の足を思い切り踏む。

そんな事をしていると机に注文した品が届き始める。

結局は四人でジョッキを合わせて乾杯して仕事終わりの一杯を堪能する。

セオ『美味し』

ボソッと手の甲で口を拭きながら呟く。

その仕草はとてもエロく世の男を虜にするだろう。

れなな『はぁー美味しいー!!』

パーっと綺麗な花が咲いたような笑顔でご満悦。

しっかり両手でジョッキを持っていてまだ飲み慣れていない初々しい可愛さがある。

俺も烏龍茶を軽飲む。

特に普通の烏龍茶の味。だが仕事終わりの一杯に変わりはないので少しだけ美味い気がした。

セオは唐揚げを食べ始め、れななは焼き鳥に手を伸ばす。

炎は勝手に注文してどんどん周りに飲んだジョッキが溜まっていきそれを店員が片付けてくれる。

優『セオ、今日は鎌を振りたいとか言っていたが何かあったのか?』

セオ『ん?何もないわよ、ただ仕事のストレスで無性に身体を動かしたかったの』

医者やカウンセラーはずっと室内で過ごすのでストレスが溜まり身体を動かしたくなる気持ちはわかる。

セオ『思春期の子達をずっと相手にしているとやっぱり気疲れはしちゃうかしら、、』

炎『そういえば今日さぁ、微笑み鬱の診断下した人結構いたんだよ、最近増えてないか?』

れなな『微笑み鬱??』

セオ『外見では明るく振る舞っているのだけど内面は鬱病になってるの、普段とあまり変わらないから見分けがつきにくいの』

れなな『そんな鬱病もあるんだ、、』

炎『見つけるの難しいし放っておいたらパズスが宿るからやっかいなんだよな』

れなな『見つけるの難しいしなら優先生の力でなんとかならない?』

優『俺のHSPはパズスの声が聞こえるだけだから、そうなっていたらもう微笑み鬱どころではない』

炎『パズスが心に宿る前にしっかり治療しないとだな、できないとパンデモニア症になってしまう可能性が高くなる』

炎はグビグビ、ビールを飲んだ。

大分顔が赤くなっていて名前のように燃え上がりそうだ。

セオ『早期発見が大事、責任感や誠実な人ほど発症しやすいの、つまり真面目な人』

れなな『真面目に頑張ってるのにそんな事になっちゃうなんて、、』

セオ『そうよね、、だから私たちカウンセラーがその人達の心に寄り添って辛さや苦しみを吐き出させてあげさせるの、れななちゃんはそういう人になろうとしてるのよ』

れなな『大事な仕事だね』

炎『やばい、俺はビール吐き出しそう、、グフゥ、、』

セオ『お手洗い行ってきなさい』

炎は席を立ちトイレに向かっていった。

暫くしてすっきりした顔で戻ってくる。

机の上の食べ物がなくなるとセオは店員を呼び追加の品を頼む。

キモさしに鳥ユッケと聞こえてきた。

セオ『みんなはまだ何か頼む?』

れなな『私焼き鳥もう少し食べたいです』

炎『竜田揚げ竜田揚げじゃ〜』

戻した筈なのにタフなやつだ。

優『烏龍茶』

俺は机の真ん中に置かれている唐揚げを少し摘んだだけだったがそれだけでよかった。

アニマウェポンを振った後じゃないと食欲はあまり湧かなかった。

セオが店員に今言った品を注文してくれる。

セオは妖艶な魅力を醸し出すだけではなく優しく気が利ける頼りになるお姉さんといった人。

追加の注文が届き時間が経っていく。

追加で頼んだ皿の上のものが無くなり時刻は二十二時を回りそろそろお開きといった頃合い。

セオはそのスタイルに似合わず四人の中で一番食べていた。

れなな『セオさんってそんなにいっぱい食べるのになんでそんなにスタイル良いの?』

セオ『んー?どうしてかしら、わかんない、れななちゃんだってスタイル良いじゃない』

れなな『えっ!?私は、、』

セオにそう言われて彼女は照れている。

顔が赤いのは酔いからではなさそう。

隣の炎は机に突っ伏してスヤスヤ気持ちよさそうに眠っている。

今から彼を車まで背負って送っていかないといけない。

れななは最初に頼んだレモンサワー一杯と焼き鳥ばかり食べていた。

彼女は帰宅した後勉強したいらしくアルコールは控えたらしい。

ほんとうに努力家だ。

セオ『それじゃ今日はこのくらいにしておきましょう』

優『支払いは俺が全部出しとく』

女子二人に礼を言われぐっすり幸せな炎を起こす。

れなな『炎!起きて!帰るよ!』

れななは彼のほっぺをベシベシ叩くが全く起きない。

優『送っていくから気にするな、勉強頑張れ』

れなな『うん!先生ありがとう』

セオ『れななちゃん一緒に帰りましょう』

れななは嬉しそうに返事をする。

セオ『炎お願い』

俺は相槌を打つと女子二人居酒屋から出て行った。

勘定を済ませてから膝を曲げて肩にほむらの腕を回し立ち上がらせる。

右肩に彼の重みが伝わる。

フラフラしながらもなんとか歩いている。

外に出ると居酒屋の喧騒から解放されて少し冷たい夜風に迎えられる。

病院までそんなに距離はないのでこのまま車が止まっている駐車場に彼を連れていく。

居酒屋から離れて行くと人通りも少なくなり閑散とした東京の細い道。

炎『ゆうーすまない〜』

炎が口を開くと顔が近いので酒の臭いが漂ってきた。

心でため息をつき歩みを進める。

彼の鍛えた身体が右から乗ってきて少し重いが俺も彼以上に鍛えているのでもんだいはなかった。

優『セオさーん!れななちゅあーん!可愛いですね!付き合って下さい』

寝ぼけているのだろう耳元で訳のわからない事を言っている。

今彼を街に解き放すと大変な事になりそうだ。

病院の駐車場に止まっている俺の黄色いランボルギーニが見えてくる。

スピードを出すために設計された車体は低く二人乗り。

ボタンを押すとドアが上に開いて右の助手席に彼を放り込む。

彼の重みがなくなり少し腕を伸ばしてから運転席に乗車。

エンジンをかけるとヴォォンと高い音が鳴る。

ギアを弄りアクセルを踏み彼を送りとどけるために車を走らせる。

チラッと隣を見るとドアに寄りかかり眠っている端正な横顔。

彼とは医大から十年の付き合いだ。

SPT隊でも共にパズスから患者を救っている。

俺はうっすら笑みを浮かべハンドルを握る手に少し力を入れた。

東京都内にある大きな高級マンションの前に車を停めた。

エントランスは黄色く輝いて開放感のある広い空間。

天井にシャンデリアが吊るされていて見上げた者を幻想的な世界へ誘う。

肩に炎を乗せたまま彼の部屋のインターホンを押すと可愛らしい女性の声が答える。

渚『どなたですか?』

優『炎を連れてきた』

渚『すいませんすぐに向かいます!』

暫く待っていると奥から小走りで小柄な美少女がやってくる。

肩まで伸ばしたサラサラの黒髪は風呂上がりで艶がいっそう増している。

生地の薄そうな白のセットアップの部屋着を着ており綺麗な腕と脚がすらっと見える。

清楚な雰囲気で目は優しそうな垂れ目で彼女に見つめられると力が抜けてしまいそうになる。

彼女はアイドルをしていて東京に出てきて炎の家に住んでいる。

最近は知名度も上がってきているらしくなみにのれそうみたいだ。

俺たちの前に立ち止まると頭を下げて炎に変わりお詫びをする。

渚『お兄ちゃんが本当に申し上げございません!!』

優『大丈夫』

慌てて俺の反対に行き炎に肩を貸す。

彼女のおかげで少し重みがなくなった。

渚『もう!また優先生に迷惑かけて!どれだけ飲んだの!』

炎『へっ?なにこの可愛い子??』

渚『記憶おかしくなってるじゃん!』

炎『渚か!?にいちゃん帰ったぞ〜』

渚は恥ずかしそうに目も当てれないと言った様子で俺と一緒に彼を運ぶ。

エレベーターに乗り十三階に。

部屋の前まで行くと彼女がドアを開けてくれたので玄関の綺麗なフローリングのところに彼を寝かせた。

渚は炎の靴を脱がしてあげている。

渚『本当に本当にご迷惑をおかけしました』

改めて頭を下げられる。

炎『大丈夫〜!迷惑かけてないよー』

渚はため息を漏らし肩を落とす。

優『大丈夫気にするな』

フローリングに横になっている彼の寝顔は本当に幸せそうな顔をしていた。

優『彼は毎日一緒懸命働いている大目に見てやってくれ』

炎は涎を垂れ始めこの廊下で今晩寝るつもりでいるらしい。

渚『良かったねお兄ちゃん!優先生みたいな優しい友達がいてくれて』

炎『良かったぞーあはははーー』

いったい起きているのか寝ているのかわからない。

まぁ俺たちの声に反応はしているので意識はあるらしい。

渚『あとは私がなんとかしますので休んで下さい』

彼女にそう言われて俺はそっとドアを閉める。

彼の状態を見るとこの後の彼女の奮闘を想像してしまい大変だなと思った。

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