プロローグ
綺麗な夜空の元、静かで寂しい誰もいない何処かの屋上。
十三階建ての建物からの景色はとても美しくて輝いている。
離れたところから警察のサイレンの音がウーっと鳴ってこの綺麗な景色を台無しにする。
だけどこんな景色はどうでもよかった。
彼は景色を見にここに来たのではない。
輝いてみえるそれは今の僕には全くそうは見えない。
すべてが疲れた。
ふらふらと柵に向かってだらだらとゆっくり歩いていく。
あの頃は社会人になって会社の役に立って立派に出世してって希望に満ちていた。
朝起きる、会社に行く、夜まで仕事をする、帰宅する、眠る。
朝起きる、会社に行く、怒られる、夜遅くまで仕事をする、帰宅する、眠る。
朝起きる、なんで起きたんだろう、会社に行く、怒られる、怒られる、頭を下げる、謝る、夜遅くまで仕事、帰宅、眠る。眠れない。眠る、眠れない。
朝起きる、ずっとベッドの上で起きている。
眠たいのに寝れない。
頭の中で仕事のことばかり考えている。
家でも残業しているみたいだ。
パソコンのカタカタとなる音がずっと耳の奥で鳴っていて気持ち悪い。
会社に死んだ目をして本能のまま向かう。
満員電車に揺られていると何のために乗っているのかわからなくなる。
疲れなんか癒えずにずっと疲れた心を持って出社。
夜遅くまで仕事をして帰宅する毎日。
後何回これを繰り返すんだろう。
明日も明後日も明明後日も繰り返すんだ、、、
僕は今二十五歳だから定年の六十まで何日だ?
計算するのも面倒くさい。
一万回なんか余裕であるな、、、
趣味のゲームなんか時間なくて全くできない。
できても楽しめない。
アニメは最後まで話を追うことが困難になっていた。
気づけば周りの友達もいなくなっていた。
ただ毎日一生懸命仕事しているだけなのになんでなの?
なんで生きてるの?僕ってなんなの?なんなの?
夢も希望も何もない腐った僕の人生。
辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い
ただ辛いだけ。
パズス『死のうよ、死ねば楽になれる、辛いよな、大丈夫、死ねば全て終わる、死なせてあげる』
心の中からそう諭された。
その時、肩の力が抜けてふわっとなんだが安心したような気がした。
死のうよ、その言葉に僕は救われた。
何ヶ月もずっと心の中からそう言われた。
鉛のように重いものを胸にしまっていたのに今はとっても軽い。
たっ、たっ、たっ、、、
屋上の柵に少しずつ近づいていく。
夜空には綺麗な星が見えているはずなのにその輝きは僕の目に映らない。
たっ、たっ、たっ、、、
涙が頬を伝った。
絶望して絶望して絶望した。
辛かった。生き地獄だった。
疲弊したその足取りはどこか軽やかさが混じっていた。
毎日毎日毎日一生懸命に働いた彼は疲れ切って死を選ぼうとしている。
パズス(死導魔)が宿った心はその心の持ち主は自殺してしまう。
苦しくて辛くて悲しくて鬱になった心には自らパズスを生み出してしまう。
人はみんな生きたい、生きたいにきまっている。
死にたいと望む人なんていない。
でもそれが宿ってしまうと人は自ら命を断つ。
肩ぐらいの高さの屋上の柵に手をかけて身体を乗り越える。
安全の為に作ってくれた柵なのだが本当に申し訳ない。
下は真っ黒な海が広がっている。
躊躇うこともせず彼は屋上から飛び降りた。