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1.【開拓】の足跡

※少々残酷描写&ちょっぴり3rd世界の描写があります。

今回は、開拓者のお話。名前は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎にしてありますが、ぜひ自分の開拓者の名前を当てはめてお楽しみください。


物語の時間軸は開拓クエスト【狐斎志異】の辺りです。

「ねぇヴェルト」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は、列車の席に腰掛けぼうっと窓の外に広がる星々を眺めているヴェルトに声をかけた。

「どうした?⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。何かあったのか?」

ヴェルトは彼女に視線を移すと、柔らかな声でそう問う。彼の物腰柔らかな立ち振る舞いは、この列車に実家のような安心感を与えてくれる。もとい、ヘルタ宇宙ステーションで目覚めた後の記憶しか無い彼女に取って、この列車は半ば実家のようなものなのだが。

「ヴェルトの昔の話聞かせてよ。色んな大冒険をしたのは知ってるけど、どんな事をして来たのか知らないと思って」

「……そうだな。どこから話せばいいか……」

彼は珍しく言葉を詰まらせた様子で、中指で眼鏡を上げた。

「いや、今は辞めておこう。話し始めたら長くなってしまうだろうからな。また時間がある時に話そう。なのかや丹恒も一緒に、な」

「分かった、楽しみにしておく」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は潔く静かに頷いた。

「あまり期待し過ぎて聞いた時にガッカリしないでくれよ。……それにしても、何故俺の昔の話を?」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は首を傾げた。

「うーん、単純に気になったのもあるけど。私は宇宙ステーションからの記憶しか無いから。それまでどんな過去を歩んで来たのか、知りたくなって」

ベロブルグの星核問題もとりあえず解決したし、仙舟『羅浮』に持ち込まれた星核によって生じた事件もかなり落ち着いたと言えるだろう。

今でも目を瞑れば、瞼の裏に『開拓』の記憶がありありと映し出される。

その一つ一つが、彼女を構成する過去である事には変わりない。されど、それ以前の記憶は彼女の意識から綺麗さっぱり消えて無くなってしまっているのだ。

「丹恒が飲月君としての姿を取り戻したのを見て、焦っているのか?」

「分からない。でも、そうなのかもしれない」

ヴェルトは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の頭の上に手を置いて、優しい笑みを浮かべた。

「急く必要は無いさ。俺たちナナシビトに過去は重要じゃない。大切なのは()()()()()する事だ。己の過去は、開拓の度の中で見つけていけばいいさ」

ヴェルトの脳裏に懐かしい顔が浮かぶ。頬を膨らませて何かと小言を付けてくる赤髪のツインテールの少女と、ボサボサの空色の髪を揺らしながらチョコレートを肩手に本の活字に目を落とす少女。名を受け継いだ、彼の最後を。

「……」

「ありがとう、少し気が楽になった」

「何か困ったら直ぐに相談してくれ。若者は大人の助けを受けて成長するものだからな」

ヴェルトはエデンの星を改造して作ったステッキを着いて立ち上がり、客室の方へ足を動かして行った。

「明日は羅浮の十王司の所に行くんだろう。さ、早く寝なさい」

「うん、お休み。ヴェルト」

「ああ、お休み。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」




彼女の寝室は皆の部屋のある客室の隣の車両にある。コーヒーの香ばしい匂いの漂う廊下を抜け、少し重い車両の扉を開ける。

その車両の客室の一番手前の扉を開け、キチンと整えられたベッドに身を沈める。

最近十王司の仕事を手伝っているせいか、異様に体に気だるさが残っている。布団の温もりを感じた途端、瞼が重くなり体が溶けていくような感覚になる。

「…………」

ふ、と思考が止まるのを感じる。そしてそのまま、深海の如く暗い暗い夢の中に落ちていく――――――。




……。





――



「さ、私の可愛い⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。手早く済ませてちょうだい」


特徴的で艶やな声が耳を通り抜ける。この声は、星核ハンターのカフカのものか。

は、と周りを血みどろに塗れた死体が辺り一面に転がっている。その死体の一つを踏みつけながら、背中に刺さった刀を引き抜くカフカ。そして更にその隣には傷だらけの割れた剣を抱え、静かに佇む長身の仙舟人がいた。彼は……確か刃と言ったか。

「……?」

状況を把握しきれずに、彼女は首を傾げた。今日は確か十王司の元へ行くはず。なのに何故死体の山の上で、血に濡れたバットを手に、見慣れぬこの地に立っているのだろうか。

「どうしたの?⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。彼の尋問をしてちょうだい?」

カフカが指さす方向には、震えながら涙と鼻水と血で顔をぐちゃぐちゃに汚した男がいた。腕を欠損し、耳からも血を流し、襟首を片手で掴まれていた。

一体誰に?⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に。

「どうして?」

「彼の鼓膜が破れてしまったから、彼は音が聞こえないの。音が聞こえないのなら私の言霊も聞かないのよね。……刃ちゃんは今魔陰を抑え込んでいるから動けないし、あなたにお願いしたいのだけれど?」

カフカはわざとらしく、困ったように言う。

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は手に掴んでいる震える男に目を落とした。これを尋問?耳が聞こえないのなら言葉で尋問するのは難しいだろう。


「分かった」


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎はカフカの望みに応え、バットを振り上げる。 一振り。骨が砕ける感触がバットから手に掛けて伝わり、背筋がゾクゾクと震えるのが分かる。

一振り。嗚呼、肩の骨を砕いてしまった。彼の劈くような悲鳴が、動かなくなった彼の仲間達の耳をすり抜ける。

一振り。肋骨を数本。

一振り。しまった、背骨を折ってしまった。

一振り。うん、これくらいの力加減で良さそう。

一振り。

一振り。

一振り。


なんだろう。忘れていたような感覚が心に満ち溢れてくる。顔に飛ぶ返り血も、部屋中に漂う死臭も、少しずつ弱くなっていくこの男の悲鳴も、鼓動も。

そのどれもが心地いい。そのどれもが心を落ち着けてくれる。


「…………………………。そう、もう良いわよ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。用は済んだわ」


いつの間にかすぐ側にいたカフカが彼の蚊の羽音ほどの声を聞き、満足そうな笑みを浮かべて立ち上がった。どうやら、お目当ての情報は手に入ったようである。

「さ、刃ちゃんもそろそろ良さそうだし帰るとしましょう。新入りちゃんから警備システムのハッキングをこれ以上続けるのは面倒だって連絡来てるから」

カフカは刃の腕を引きながら、踵を返して歩き始める。カツカツと彼女のヒールの高らかな音が部屋中に木霊する。

しかし、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が着いてこないことに気が付くと彼女は首だけ動かして振り返り、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の方を尻目で見た。

「どうかした?」


「……」


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は少し舌を空回りさせ、言った。


「これ、もう要らない?」

「ええ、好きにしてちょうだい」


カフカは再び振り返る。その背後で、ヒールの音に混じって骨の砕ける音が鳴り響いた。



――




――ブ、ブーー。

「……っ」

荒れ狂うようなスマホの通知音で、海底に沈んでいた意識が釣り上げられる。

重たい瞼をこじ開け、口端からシーツに垂れていた涎を手の甲で拭う。

「……ん、んんぅ」

身を起こして強ばっていた全身をぐい、と伸ばす。崩れるように寝てしまっていた為、枕元の目覚まし時計のアラームをセットするのを忘れていた。星ごとに時間の概念は違う為、この時計は今仙舟の時間間隔に合わせている。それでいて時計の針を見てみると、もう日が登り始めている頃だろう(列車は宇宙空間に停泊している為、常に日が登っていて朝昼夜の概念が無いのだが)。

目元を擦りながら頭の傍にあったスマホに目をやると、『怪異退治隊』のグループが何やら騒がしい。


――――――――――


『またフォフォが消えちゃった!』

『けいちゃんが対面でのコミュニケーションの練習をさせようとするからでしょ!』

『対象が圏外のため、メッセージを送信できません』

『あちゃー』

『あちゃー』

『ねぇ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、私達でフォフォを連れ戻してくるから先に行っててくれない?場所は工造司のここなんだけど』


――――――――――



「仕方ない。行こうか」

寝癖で若干ボサついた髪を手櫛で整え、欠伸を噛み殺しながら部屋の入口に立て掛けてある愛用のバットを手に取り、その感触を確かめた。……何だか今日は無性にバットを振りたい気分なのである。

「でも歳陽って殴っても意味無い、よね」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は苦笑いを浮かべながら、列車のラウンジに向かい、そこで談笑している姫子やヴェルト達に軽く挨拶をして羅浮へと向かう。






 

遥か先で輝く星々へ。


いつか、世界が彼女の事を思い出した時。

その時、彼女はナナシビトの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎として開拓の道を歩むのだろうか。

それとも。

彼女は其と同じように途切れたレールの先に向かうのだろうか。


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