お前を生涯愛することはない──イヤです!
調子に乗ってテンプレからの第三段です。
今回は、ちょっと?かなり?ダークな部分があります。
ご注意くださいませ。
【side 新婦 キャサリン・トレンディウス】
えっ、なんて言われました?
ん~~っと、えっ?
えぇと、私は幼い時から、クレイシュ第二王子の婚約者として、厳しい王子妃教育に耐えてまいりましたわ。普通なら公爵家か侯爵家から選ばれるところ、伯爵家の私が選ばれたという誉れある奇跡。泣き言一つ言わずに、いつの日か王家の、ひいてはクレイシュ様のお役にたちたい一心で──それはもう、厳しい厳しい厳しい毎日でした。
そして、待ちに待った成婚の儀を恙無くこなし、遂に訪れた初夜。
緊張した面持ちの私に、クレイシュ様が言ったのは、『お前を生涯愛することはない』。
「イヤです!」
即答しました。
当然でしょ。私は本当に厳しい教育を受けてきたんです。
確かに、厳しい教育ばかりで、愛を育む時間なんて無かったのは分かっています。でも、貴族同士の婚姻です。政略なのは当然です。でも、そこから愛を育んでいくのが筋ではないでしょうか!
私の王子妃教育の中には、閨教育もありました。
経験のない、男性の裸体すら見たこともない、知識だけを詰め込まれた私が、どんな気持ちで寝室で待っていたのか──分かりますか?
それを『お前を生涯愛することはない』なんて…………。
【side 新婦の兄 フレイマン・トレンディウス】
妹が結婚した。
幼い頃から第二王子の婚約者に選ばれ、それこそ子供時代も少女時代も、学園生時代でさえも自由を謳歌する事なく、王太子妃教育に漬け込まれていた妹が、やっと結婚した。
しかし、当の第二王子ときたら、真実の愛がどうのこうのと男爵家の娘を囲っているが、そんな事はこれからは許されない。いや、近衛騎士から第一騎士団、第二騎士団、守衛騎士に至るまで、騎士団ネットワークを築くトレンディウス伯爵家の全力をもって、真実の愛とやらを妨害し、妹の結婚生活を護っていく。
それは、第二騎士団副団長補佐を勤める僕の、いや、トレンディウス伯爵家の総意だ。
「王子、どちらへ」
今日も守衛騎士が、城外に出ようとするクレイシュ第二王子を呼び止める。
王子は、どこでもいいだろ!うるさい!不敬だ!なんて大声で怒鳴っているけど、守衛騎士の「城外に出られるなら、行き先の報告と護衛騎士の帯同を願います」の一言で、態度を変え、トボトボと城内に戻って行く。
フッ、男爵令嬢の所に行こうとしてたんだろうが、甘い。行かせるものか。守衛騎士はトレンディウス家の縁者だし、護衛騎士も当然、トレンディウス家の息が掛かっている。
政務はもちろん、外交、茶会、食事、果ては手洗いすらも、王子、貴方の行動には騎士を貼り付けているのだよ。
と、結婚後一週間が過ぎた辺りから王子の動きに変化が現れてきた。
城外への脱出が鬼気迫るようになってきて、妙に一人になりたがる。実際、何度かは城外脱出を許してしまった──すぐに連れ戻したけどね。
結婚後二週間を過ぎた頃から、王城内の女性文官に接触し始める。王子に接する可能性のある女性文官は、全て年配の文官であるが、明らかに以前と比べて身体への接触が増えている。女なら何でも良い状態になってしまったのか?
だとしたら、ヤバいだろ…………。
そうこうしている内に、文官長が慌てて配置換えをしていた。年齢、婚姻の有無に関わらず、王子の近くに女を置かない。
そもそも、性に弱いところがある第二王子には、同世代の女性の侍女、メイド、文官は付けていない。
元々は、野心ある侍女、メイドがハニートラップを仕掛けない為、王子がお手付きにしてしまい、徒に王家の血を広げるという失態をさせない為の措置であった。
結婚後一ヶ月を過ぎた辺りから、王子の目が年若い男性文官、騎士に向くようになってきた。
露骨なスキンシップ、性的な言葉。
実際に下腹部を触られたという護衛騎士もいて、トレンディウス家のネットワークが荒れた。
僕もどちらかと言うと、そちらの気があると言うか、まんまそちら側の人間であるが、あれは無い。見境がないのは見苦しいし、そもそもタイプじゃない。
だいたいが妹の旦那とBLな関係って、あり得なくない?
【side 真実の愛の相手 ルビー・モテンス】
彼氏が結婚した。
そんな事は分かっていた。
だって、彼はこの国の第二王子で、私はしがない男爵家の次女。
それでも良いと思っていた。
だってそうじゃない?
第二王子よ、王族よ。実際に結婚できたとしても、品位?品格?教養?知識?王子妃教育?無理よ!
そんな事、出来るわけがない!
それに、今の状態が最高!
いつも、『お前は真実の愛の相手だ』って、王子様が囁いてくれるのよ。
ドレスだって、宝石だって、買ってくれるし、旅行にだって連れて行ってくれた。
姉だって、母だって持っていないような宝石で飾り立てたドレスで旅行。まるで、私はお姫様。
あ〜『真実の愛』最高!
──とか、思っていた時もありました。
結婚してから一週間、彼が会いに来る事はありませんでした。きっと、新婚生活が楽しいんでしょう。
真実の愛とか言っておきながら、やっぱり男は男。王子様だって所詮は男、真実の愛なんて、現実の前では無力なんだと、勝手に怒ったりもしました。
でも、彼が来てくれた。
ふふ、一週間で飽きる奥様よりも、やっぱり真実の愛なのね。一週間で飽きられた奥様、本当〜にお可哀想〜〜。
まさにお忍び、隠れるように入ってきた彼は、少し疲れているようでした。
「会いたかった!でも、大丈夫?疲れているようだけど」
心配する私に、いきなりガバッと抱きつく彼。
ああ、きっと奥様って人は鬼のような人なのね。こんなにもやつれてしまって…………。あぁ、私の王子様。
彼は、耳元で一言。
「やらせてくれ!」
「へっ?」
何て言った?
「やらせてくれ!」
「へっ?」
や……ら……せ……て……く……れ……?
何を?
って、あれの事?
久しぶりに会って、第一声が『やらせてくれ』?
第二声も『やらせてくれ』?
何言ってんの?
抱きしめられたまま、私の下腹部に擦り付けるようにあたるのは、ギンギンのアレ。
はぁ?
昼間っから?
本気?
ともあれ、真っ昼間から獣のように腰を振るだけ振った彼は、出すだけ出して帰っていった。
服を脱ぎきる時間さえも与えられなかった私は、乱れた服のまま、呆然と見送った。
それから二日経って、彼が再び訪れた。
前回同様、いや、前回以上に隠れながら。
そして、嵐のように致したら、再び隠れるように帰っていく。
乱れたドレスを直しながら私は、呆然と──いや、悲しみに──いやいや、怒りに包まれていた。
何?
私は、何?
娼婦?──いやいや、娼婦の方がまだマシよ。会話もなく、愛を囁くでもなく、包み込むでもなく、ただやられる。服を脱ぐ間さえも無く。
お姫様じゃなかったの?
あーーー、あんなの王子様じゃない。
と、言うか──怖い。
彼が来るのが怖い。
逃げよう。
【side 新郎 クレイシュ・フォン・デ・サイハンディス】
結婚した。
幼い頃からの許婚の伯爵令嬢。
真面目で頑張り屋で一生懸命に王子妃教育に取り組んでいるのが健気。小柄で可愛らしいが、何となく地味。そんな感想の娘。
それがどうしてこんな事に…………。
夫婦の寝室には、俺とキャサリン、そしてキャサリンの護衛の女騎士が二人。
俺は、ベッドに寝転ぶ事無く、ベッド脇の椅子に縛り付けられている。もう、諦めるしかない、毎晩の事。
初めは抵抗した。
抵抗したけど、ガチムキの女騎士からは逃げられない。どうしても逃げられない…………。
蔑んだ四つの瞳に突き刺されながら、寝室に連れてこられて、椅子に拘束される。
「──でね、六歳の時に三カ国目の言語の授業が始まったんだ。ラトリネア語だよ。旦那様は、何カ国後話せます?私は、六カ国語。母国語だけなんてことありませんよね──」
「──でね、六歳の時のお茶会でね。みんなクッキーとかビスケットを食べてたんだよ。でもね、旦那様に相応しい女性になる為にって、体重まで管理されててね、私は紅茶だけ。それも、砂糖もミルクも無し。今では慣れたけどね、当時は辛かった──」
「──でね、六歳の時に読んだ本がね、信じられる?国学書だよ。それも、クルメヌト国、フシヨツ国、オレラント国、ラトリネア国の国学書。それぞれ二十冊以上だよ。一昨日言ったでしょ、五歳の時に自国の国学書は、全部読んじゃったから。でね、旦那様は知ってる?フシヨツ国の第三期王朝の事──」
今日は、昨日に引き続き六歳の頃の話か…………。
分かってる──いや、良く分かったよ、お前がどれほど頑張ってきたか──いや、頑張らざるをえなかったか、だよな。
「あっ、眠そうな顔してる。酷いなぁ、まだ今日が終わったばかりの時間だよ。私なんて、五歳の頃からずっと四時間以上寝たことがないんだよ。全部、旦那様に相応しい女性になる為。でも──」
「す、すまない。本気じゃ無かったんだ。そう、疲れてたんだ。あんな事、本気で言う訳がないじゃないか」
「あんな事って?」
「お、お前をしょ……生涯あ……愛することは……ないって」
「うん。辛かった。でもね、それも全てお互いの事をよく知らないのが原因じゃないかってね。私がどれほど頑張ってきたか分かってもらったら、きっと旦那様も愛してくれるんじゃないかって──」
「わ、分かった。分かったから」
「だからね、いっぱいお話しましょう。──アン、旦那様に飲み物をあげてちょうだい」
女騎士の一人が、無言で茶色い飲み物を持ってくる。
「嫌だ、ごめん、それだけは許して」
「許してって、人聞き悪いなぁ。ちゃんと勉強したんだよ。これは男性を元気にする飲み物なんだって。だから飲んで。旦那様には元気でいてほしいからね」
「嫌だ。嫌だ。い──ゴブッ」
縛られた俺の代わりに、女騎士が二人がかりで飲まされる液体は、ドロッとして口中を満たしていく。吐き出すことは許されない。頬と首を掴まれて、無理矢理喉の奥に流し込まれる。
少しの間もなく、体の奥の方が熱くなる。
「ゴホッ。げ、元気にするの意味が違──あっ、あああぁぁ…………」
分かっているのか、いないのか、キャサリンは今日も、ゆっくりと自分の服を脱いでいく。
「──でね、閨教育っていうのも勉強したんだよ。毎日言ってるよね。でもね、先生に大事な事って言われたんだよ。だから、今日も旦那様にも教えてあげるね。でも、恥ずかしいね、裸でね。これはね、男性をその気にさせる勉強なんだって。その気って、どの気なんだろうね」
動けない俺の前で、可愛らしいキャサリンが、途端に妖艶に変わり、大人となった身体を捩らせていく。
拘束された俺は動けない。
触れることもできない。
自分を慰める事もできない。
熱い体が、更に熱くなっていく。
今日も、地獄が始まる。
その気になりまくっている体中を、激しく脈動する血液が駆け巡り、我慢しきれない衝動が痛みとなる。
く、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ………………
「でね、今日は、こんなお香も準備したんだ。男性をその気にさせるお香なんだって。大事な時に使えって、先生に貰ってたんだけど、今から使っちゃうね。その気ってなんだろうね?好きになってくれることなのかな?」
「や……やめぇ……て…………ゴメン…………ゴメン…………あっくぅ………………………………やらせ……て…………ねが…………い………………………………………」
あぁ
ありがとうございます。
気分が悪くなってしまった方、申し訳ございません。