6話〜キラのホンネ〜
☆ちょっと整理☆
カエムル(星の名前)
アステール国(グラマー族が住む国。耳はついていない。)
ルシーン国(ディーア族が住む国。動物の耳がついている。)
〜Sideキラ〜
私は産まれたときから、奴隷だった。恐らく、突然変異だったのだろう。ディーア族同士の親からグラマー族が産まれたりすることは、割とよくある。その逆もまた然り。
食事は最低限で、いつもお腹を空かせていた。それなのに重労働させられるし、汚いし、もう最悪だった。女の子だからと大人になって夜の相手ができるように、気持ち悪いことも仕掛けられた。でも、それ以外の生活を、幸せを知らなかったから、別に平気だった。
王妃を殺せ、と言われた。理由は考えなかった。どうせ、政策がウザいとか、私が王妃になりたいとか、くだらない理由だろう。私はどちらかといえば戦闘系の奴隷。重い荷物を持たせられたり、夜の仕事をするよりもナイフを持つ方が性に合っていた。すぐに終わらせようと、懐にナイフを仕込ませて王城に侵入した。
侵入するのにはかなり時間がかかったが、上手く抜け道を見つけて、王城に入り込んだ。早く王妃を見つけてさっさと終わらせよう。そう思った矢先、小さなピンクの塊がこちらを見ていた。
「……だあれ?」
嘘もどす黒い世界も何も知らなそうな、箱入りお嬢様。その真っ白な心が少し羨ましかった。面倒くさいし殺してしまおうか。ついでに殺すのなら問題ないだろう。地位は低いが、一応王族なのだし。
「!お怪我してるよ!」
そう言われて始めて気がついた。といっても、侵入するときに少し木に引っ掛けただけの、掠り傷だ。こんなの痛いとも思わないし、怪我のうちに入らない。
「あのね、私、回復の魔法が上手って言われたの!治してあげるね!」
ブルハ・ラール・ツキ。子ども特有の高くて甘い声を小さな口から発する。すると少し血の滲んでいた腕は瞬く間に綺麗になり、怪我なんてなかったかのようになった。なるほど。この年齢でこれだけ綺麗に治せるのは確かに凄い。将来はいい回復魔術師になれるんじゃないか。まあ、どうせここで死ぬけどな。
「私、侵入者だよ。わかってる?」
どうせ逃す気はないし、もう薄情してしまう。後ろを向いて逃げ出したならば、きっと母親のことろに行くだろう。追いかけて、二人まとめて殺して、はい終わり。任務は終了だ。
「お宝を探してるの!?」
……。はい?まさか私のこと、物語に出てくる冒険家かなんかとでもおもってる?そういった本は見たことがないけど、もしそうなのだとしたらとんだ頭お花畑だ。
「凄いね!ここはげんじゅーって言われてたのに、入っちゃったんだ!」
ニコッと、花が咲いたような笑顔に、つい思い留まってしまった。このお花のような子を、殺す。ただの任務だったはずなのに、情が湧いてしまった。迷うな。コイツは、私の人生を泥沼に落とした、ディーア族。
「お名前なんていうの?」
「……さあね……」
名前なんてものはない。産まれたときから奴隷商にいたし、呼ばれても番号だ。
「『みすてりあす』!あのね、この絵本の王子様がそう呼ばれてたんだよ!」
そう言ってこのお姫様は何やらカラフルな絵本を取り出した。私の見たことのない、華やかな絵に、文字の羅列。私もまだ子どもだったのだから、好奇心は抑えられなかった。
「気に入った?」
お姫様に呼びかけられて始めて気づく。絵本に、読みふけっていた。暗殺対象に隙を見せるなんて。
「……まあ……」
別に、急ぐ任務じゃない。多少日にちが延びたって、何も言われないだろう。
殺すのは、明日でいいか。
また明日、また明日、と、先延ばしにする日が続く。お姫様とは毎日会って、絵本を読んだり雑談したりしていた。友達ができたみたいで、楽しかった。幸せ、だった。
ついに、早くしろと言われた。今日、殺さなければいけない。
お姫様は、諦めよう。私の任務は、王妃を殺すこと。お姫様まで殺さなくていい。
あれ、なんで私、こんなにお姫様に感情移入してるの?コイツはディーア族。私の人生を全て狂わせた、ディーア族。
殺す、べきだ。
私は、王妃の部屋に忍び込んだ。簡単ではなかった。でも、入れた。王妃は何やら資料を整理している。毒を忍ばせたナイフを、後ろから、刺す。
王妃の口から、血が溢れ出る。助けも呼べない。これで、任務完了だ。
「キャアァァァッ!!!」
バッと後ろを振り返る。いたのは、第1王女の方。あのお姫様より、随分大人っぽかった。
「お母様!すぐに助けを呼んできます!!」
そう言って第1王女は去ってしまった。不味いな、応援を呼ばれたら面倒くさい。さっさと去ってしまおう。
「……侵入者さん……?」
……お姫様だ。応援にきたわけではなく、たまたま通りかかったのだろう。こんな小さな子が何かをできるとは思えない。
「お、お母……様……」
お姫様は出入り口に立ち往生している。殺せ。進行の邪魔なんだから。殺すのが一番、スムーズに進む。
王妃を殺したナイフを、お姫様に向かって突き立てる。
「侵入者……さん……」
青い瞳に大粒の涙が流れる。動じるな。コイツはディーア族。敵。
友達なんかじゃ、ない。
私は、できなかった。結局あのあと、窓を使って逃げた。お姫様には傷一つついていない。でも、お姫様にはもう二度と会えない。会ったとしても、それは復讐の返り討ちのときだろう。
「テメェ!!王妃殺せてねぇじゃねえか!!」
「ごめんなさい。」
どうやら王妃は、毒から回復してしまったらしい。例のお姫様が、回復薬を持ってきてしまったらしいのだ。もちろん、簡単に解毒できるようなやわなものは使っていない。でもそこはお姫様の天性の才能なのか、そこら辺にある薬草と自分の魔法を合わせて、作ってしまったらしい。
ああ。でも何故だろう。恨めない。こんなに私が殴られているのも、そもそも奴隷になったのも、全部ディーア族のせいなのに。
もし次に会うことがあったら、恨もう。あのお姫様を。ディーア族で、しかも王族なのだから。
恨まなければ、ならない。
その日は、アステール国から新たに奴隷を捕まえたり、買ったりするらしい。奴隷暦が長いということで、私も同行することとなった。
しかし運悪く、アステール国の奴隷商とばったり会ってしまった。国境近くのことだった。
そのまま平和にすれ違えるわけもなく、戦いになった。そうだ。アステール国の方に保護してもらえれば、私、アステール国にいけるんじゃないのか?私と同じ種族、グラマー族がたくさん集う、アステール国へ。
なんとかグラマー族の方へ逃げる。ディーア族が止める。奴隷たちがみんな、それぞれの部族のところへ逃げていく。助けて、という声が飛び交う。
ついに私は、森へ逃げた。誰もいない、森に。
途中、誰かがいた。きっと、私と同じように逃げてきた奴隷だろう。奴隷は帽子を付けていないので、ディーア族かグラマー族かが丸わかりだ。二人は、虎の耳をしていた。
「こっちだって!こっちに行くの!」
「アステール国だったらどうするの?やっぱり戻ってディーア族の方に付いていこうよ!」
二人は外見はとても似ているのに、言っていることは全然違っていた。性別もわからないが、7年生ぐらいの子たちだった。
「……別のことを言ってはダメだ。今回は、俺がお前に合わせる。」
「……わかった。じゃあ、次は私があなたに合わせる。」
急に、全てを抑え込んだ無表示になって、2人で同じ行動を取り出す。ゾッとするほどに、全部、同じだった。
その時、私と目が会った。
「俺たちと同じか。災難だったな。」
「話しかける?話しかけない?」
「話しかけない。」
「そう。わかった。」
前の宣言通り、今度は「私」と言っている方が「俺」と言っている方に合わせた。
二人は黒髪で、双子のように似通っていた。
何日歩いただろう。川を越えたところで警報がなり、びっくりして慌てて逃げた。町中を走って、走って、あの子ボロボロ、とか、汚い、とか、色んな声を聞いて、走る。
ついに、私は倒れた。暗い暗い、路地で。
「……大丈夫?」
どれくらい意識を失っていたのだろうか。お腹はペコペコだし、目は霞む。でも、目の前にいる綺麗な服を着た、いかにも貴族らしい男の子が私を見下ろしていたのはわかった。
「ヨル王子!猫でも見つけたんですか……て……」
後ろから来た護衛らしき人が駆けつける。ああ、ちゃんとアステール国に行けたのかな。
「……かわいそうに……ルシーン国から来た奴隷か……とりあえず、王城で保護しよう。」
「ヨル王子!なにか病気を持っているといけないのであまり触ってはいけませんよ!」
差し出された、私よりずっと小さな手が最後に見えた。
私は今まで贅沢に生きてきたであろう王子様なんか、最初は嫌いだったけど、私たちは後にとてもよい主従関係を築くことになる。
それはまた、別の話。
☆☆☆☆☆
怒りに任せてズンズン森を進んでいく中で、ホシが着いてきていないと気づく。
ああ、ディーア族の味方をするのか。アイツ。
私の中で、ホシは敵となった。
「キラ」
ヨル王子の声。そうだ。ヨル王子だけは、ずっと私の味方だ。あのとき、私を見つけ出してくれたときから、ずっと。
「キラ、ちゃんと話そう。ツキと。」
ドクン。と、体が心臓みたいに波打つ。なんで。ヨル王子だけは、味方だと思ったのに。一番信じていた人に、裏切られた。
「どうして!ディーア族は敵!ましてやルシーン国の王女と行動するなんて!そんなの絶対許されない!!」
「わかってる!!」
ヨル王子が声を張り上げる。一気に、森が静かになる。
「わかってる……お前がどうしてもディーア族を信じられないのは、わかってる。でも、怒りに任せてもしょうがない。キラ、お前は、昔、ツキ王女に会ったことがあるんだろう?」
昔の話は、以前ヨル王子には全部話した。だからヨル王子は、王妃の暗殺失敗の話も知っている。
「楽しかったって、言ってたじゃないか。友達みたいだったって、」
その時の気持ちも、全部話した。確かに、言った。次に会ったときには、恨もうと。そこまで。
「殺せなかったんだろう?だったら、お前にとってツキ王女は、『ディーア族』より、『友達』の方が勝ったんだ。」
その言葉が、ストン、と嫌に上手く胸にはまった。その通りだ、と、思ってしまったのだ。
「……じゃあ……どうすればいいの……」
私の人生を全て台無しにしたディーア族。私を、殴って、殴って、ご飯もまともに与えてくれなかったディーア族。ディーア族を許してしまったら、その怒りは、どこにぶつければいいの。
「ディーア族とか、王族とか。それを全部置いて、お前はどう思う?少なくとも、キラを殴った奴とは、違うんじゃないか?」
知ってた。本当は知ってた。ツキが、私が恨むディーア族とは違うこと。
最初に会って、仲良くなったときから、知ってた。友達になりたいって。助けてって。言いたかった。
それでも言えなかったのは、ツキがディーア族だったからだ。私が恨む、ディーア族だったから。
今になって再会して、お姫様なんじゃないかって、本当は思った。あのとき殺せという命令だけで、名前も知らなかったけど、髪の色から目の色、顔立ちまでそっくりだったから。でも、気付かないフリをした。このまま、なにも知らずに仲間になれたらいいのにって。
心のどこかで、思ってた。ツキを、敵だと切り離せなかった。
「わからない……わかんない……じゃあ誰を恨めばいいの?私の人生をめちゃくちゃにした人は、誰?」
ただ、恨む相手が欲しかっただけかもしれない。だってそうしないと、この怒りをどこに追いやればいいのかわからなくなる。
「……俺、国を失って、始めて気づいたんだ。」
ヨル王子が濡れた私の手をとる。泣いてたんだ、私。
「国を戻した後、どうするか。民衆の怒りに合わせて、ルシーン国を攻撃……戦争することだって、できる。」
ヨル王子は幼くして国を操る力を持っている。いや、持ってしまった。本人が、どんなに嫌がっても。
「でも、それじゃあまたキラみたいな人が増える。復讐を考える人が、増える。これじゃあ、ダメなんだ。どこかで、連鎖を斬らないと。」
ヨル王子なりに、考えたのだ。たくさん。たとえ国が戻ったとしても、平穏はすぐに訪れない。アステール国の王子であるヨル王子なら、なおさら。考えなきゃいけない。国を戻した後、平和に暮らす方法を。
「キラが……なれないか?連鎖を断ち切る、最初の人に。」
変わらなきゃいけない。私も。いつまでも、ディーア族というだけで人を恨んではいけない。だって、ツキのように、仲良くなれる人だって、いるのだから。
「はい。」
涙を拭いて、強く言い放った。
ーーーー
「ホシ!」
「ヨル!」
しばらく経って、ヨルとキラが戻って来た。というか話した……けど……私、本当にツキの話聞いただけだよな?なんにもしてない気が……
「キラ……」
ツキはやはり、キラを見て気まずそうだ。でも、ちゃんと戻ってきたってことは、ヨルが何かしら話をつけたのか……?
「ツキ」
キラが、ツキの目の前に立って大きく息を吸う。私まで緊張してしまうような、重く、冷たい空気。
「行こう。」
たった一言、それだけ。キラは、ツキに手を伸ばした。他人からすればなんでもないような瞬間。そのキラの行動に、一人、ツキは泣いていた。
「……うん……うん。……」
そっと、手を取った。その光景は、胸からこみ上げるなにかがあった。
「友達に、なってくれる?」
「もちろん。」
これで全て解決、というわけではないだろう。キラはきっとまだ心のどこかではディーア族に恨みを感じているし、この二人のように上手くいくことは、そうそうない。
それでも、グラマー族とディーア族がこうやって、手を取り合う光景が、当たり前になって欲しい。そう、強く思った。
「旅を続けよう!」
そう言うと、3人が着いてきてくれる。それは、当たり前で、当たり前ではないこと。




