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5話〜ツキのキモチ〜

「次の目的。とりあえず、この地にいる魔力を持った者を探す。」

起きて、狩りをして、ご飯を食べたあと。ヨルが次の目的を提示した。

「地球に魔力を持った者なんているの?昔、全員カエムルに行ったんじゃ?」

「そりゃあ全員が初代王に従うわけないよ。その時は王だってただの若者だったし、発信しきれなかった魔力持ちもいただろうし。」

「そっかぁ……でも、生きにくそうだね、その人たち。」

これは単純な感想だ。そもそも戦争の道具にされるからカエムルに逃げてきたわけで、伝説によると魔力に関する記憶を消したからもう戦争の道具にされることはなかっただろうけど……でも、人と違うことはやはり生きにくいことだと思う。

「でも、伝説から何百年経った今でも地球に魔力を持つものが居るって明確にわかってないってことは上手く血を薄めたか、どこかに平和に隠れてるんじゃないかな?」

そのツキの言葉を信じたい。

「……ねえ、なんか感じない?」

キラが真剣な顔で問う。私も、あたりを警戒してみる。きっと、ディーア族だ。私の経験がそう言っている。

パァンッッッ!!!

「!!???」

この音と速さは、銃。まさか、相手は……あの、双子?前は転移魔法で呼ばれていたけど、今回はいきなりエンカウントのようだ。

「ツキ王女。」

出てきたのは、やはりあの黒髪の男女。でも、そんなことより気になるのは発した言葉だ。ツキ……王女……?

「……、あ、」

ツキの顔がみるみるうちに青くなる。その隣で、知っているように涼しい顔をしているヨルがいて、そのコントラストが妙だった。

「ツキ王女……こんな下劣な輩と行動して……脅迫でもされましたか?すぐにお助けします。」

「ち、違うの、まって、ミルキー、ウェイ、」

どういうこと?ツキとキラはまだこっちに来てからディーア族と会っていないって言ってたのに。なんで、ツキがあの二人の名前を知っているの?

「ブルハ・ラール・ウェイ」

ゴオッ!!

突然の強風。風の刃のものも入っていたから、まともにくらえばみじん切りだ。ご丁寧に、ツキには当たらないように放っている。

「ブルハ・ラール・キラ!!」

バチッ!!

黄色い電気の膜のようなドーム型のバリアが私たちの周りを覆う。かなり洗練されたバリアだ。

「ツキ王女。早くこちらへお戻り下さい。」

「違うの、私は、自分の意志でここに……っ、」

「勘違いしているようだが」

終わらないミルキーさんとツキの押し問答に口を挟んだのはヨル。そこはさすが王子といったところか、張り上げた声はよく聞こえた。

「俺達はツキ王女を拉致とか、誘拐とかしていない。仮にしようとしたとしても、国を失ってすぐに敵国へ向かい、わざわざ影響力の少ない第2王女を拉致するのはリスクがでかすぎる。」

「そんなことはわかっている。そんな子供の言い分がわかっていないとでも思ったか?さあ王女、年齢的に反抗したいのはわかりますが、そろそろお戻りください。」

「違うっ……、反抗期で片付けないで!!」

ダメだ。終わりそうにない。その間もウェイさんはこちらにずっと攻撃を仕掛けているし、キラはずっと私とヨルを守ってくれている。……あれ、なにもしてないの私だけ……?

じゃあ、私が考えなきゃ。なんとかして、場を収める方法。ツキと会話をするために、この二人から逃げる方法。守られてばかりじゃダメだ。

水蒸気爆発を起こす?いや、これは前やった方法だ。この二人が同じ手に二度も引っかかるとは思えない。

水流で押す?炎で囲う?どれも似たようなことをやった気がする。まだ、相手に見せていない方法。私が最近習得した……

「……弓………」

そうだ。弓だ。まだ百発百中するほど上手くないけど、目的は逃げること。めくらませできればいい。なんの属性で打てばいい?雷で感電させる。単純に火矢。……そうだ、もっといいやつがあった。ミルキーさんとウェイさんが近づいたタイミングを狙って……

「ブルハ・ラール・ホシ!!」

パァンッッッ!!

私の放った矢が、二人の足元に突き刺さる。その瞬間、矢から黒いモヤのようなものができて、二人の足の動きを止める。そう、私が放ったのは闇属性。始めてやったけど、成功してよかった。

「みんな速く!!」

全速力で森の中をかける。途中、ツキが後ろから水流で押してくれたので、かなり速く移動できた。ツキ、水属性なんだ。


「……で、そろそろ説明してくれないか。なにがしたいのかがわからない。」

敵からも(おそらく)だいぶ離れて、息切れも直ってきたころ。もうそのあとは、ツキに事情を聞くしかない。

「………」

ツキはしばらく顔を伏せ、暗い表情をしていたがやがて、観念したように頭の帽子をとった。

そこから現れたのは、耳。真っ白な、ウサギの耳だ。ディーア族である、証。

「ルシーン国第2王女、ツキです。」

あえて、なのだろうか。動作は普通の人のものとは思えないほど綺麗で、明らかに貴族のそれだった。

「……で、何故こちらの旅に同行を?なんでルシーン国に戻らない?」

やはりヨルは最初から知っていたようで、次々と話を進めてしまう。ああ、まだ頭の中が処理できてないのに……

「私は……アステール国石化計画に、反対しました。」

アステール国石化計画。ルシーン国ではそう呼ばれているらしい。でもそうか、王族なのだからそのような計画を深く知っていても不思議ではない。

「でも……第2王女の私なんかじゃ、なんの発言力もない。本当に……ただの、世間知らずのお姫様だった。」

ツキが、シワになりそうなほど服の裾をギュッと握る。でも……なんでここまで、アステール国に味方を……?

「だからなに?」

今まで黙っていたキラの、鋭い声。目は怖いほどツキを睨んでいて、明らかに怒った様子だ。

「だからしょうがないって?グラマー族を滅ぼしておいて?それではいそうですかとでもなると思った?」

「キ、ラ……」

「近づかないでよ!!!」

カァ。カァ。

森で静かに息を潜めていたカラスたちが、キラの鋭い声で空に飛び立つ。あたりは、さらに静かになった。

「ディーア族が……私たちに、近づかないで」

明らかな、拒絶。こんなにはっきりした拒絶は見たことがなかったので、動けなかった。

「ヨル王子、ホシ、行こう。」

「まって、ツキは……、」

「あんなヤツ連れていきたいの?」

「………っ、」

怖い。どうすればいいかわからない。普通に考えれば、敵か味方かイマイチよくわからないツキについていくより、アステール国の王子であるヨルと、そのメイドであるキラの方が明らかに安全だ。でも、理由もよくわからないままツキを敵扱いしていいの?この図、どこかで見たことがある気がする。そうだ。いじめだ。いじめと、なんら変わらない図だ。

ディーア族。確かに、これが一番の敵と思う原因だ。ルシーン国の王女。でも、ツキの今の話が本当だったら……

「ホシ」

キラにちょっと待ってろ、と言ってから私の方に駆け寄る。やっぱり、ヨルもツキを置いて、キラと行こうと言うのだろうか。

「王族とか、過去の出来事とかなにもない、まっさらなホシの方が、上手くツキと話せるかもしれない。そんなに遠くへはいかないから、ツキ王女と話してくれるか?」

それはかなり小声で。キラに聞こえないようにだろうか。

「……うん。」

同じく、小声でヨルにかえす。

まだ、何もかもわからない。ツキがなぜ国に抗ってまで私たちの味方をするのかも、過去になにがあったのかも。話さなければ、いけない。


「……ホシも……行った方がいいよ。私なんて……得体が知れないでしょ?」

「その……完全に別れたわけじゃないの!えっと……なんというか、ツキと話したい、というか……」

理由を聞くことを任されたが、どう話せばいいのか難しい。結局、単刀直入に聞くことになってしまった。

「えっと……ツキは、なんでこんなに私たちの味方をしてくれるの?」

「……やりすぎだと、思ったから……は、建前で……」

またうつむいてしまう。こういうときはどうすればいいのだろう。黙っているのが正解?

「私ね、昔、王城に入ってきた侵入者と友達になったの。」

「え!?侵入者と!?」

侵入者と友達……それは、大丈夫なのだろうか……一応王族なんだし、暗殺とか……

「私よりちょっとお姉さんで……楽しかった。名前も教えてくれなかったけど、あんまり同年代の子と遊んだことなかったから……」

ツキの表情は本当に穏やかで、楽しかったことが伺える。やっぱり王族にとって、『友達』ってかなり特別な存在なのかもしれない。

「でも……その子は、お母様を殺そうとした。」

体がヒヤッと冷える。しかしその話だと、ツキはグラマー族を恨んでも仕方がない。

「お母様は命は取り留めたけど……治らない後遺症を負った。今も、車椅子で生活してる。でも私は、その子を恨むことができなかった。」

なんとなく息を飲む音も許されない気がして、ただただ、呆然とツキの話を聞く。

「お母様が怪我をしたとき、お姉様も一緒にいたんだけど……お姉様は、助けを呼ぶためにすぐにその場を離れた。そしてそこでたまたま通りかかったのが、私。」

ざぁ。

ゆっくりと、風が木を揺らす。静かすぎて、耳がキーンとしてくる。

「その子は私に刃を向けた。死ぬって、本気で思った。……でも、その子は私に何もせずに去っていった。」

「……」

ただ無意味な殺しはしない主義だったかもしれないけど、私、刃を向けられたときの顔が忘れられなくて。

と言って、ツキは自傷の笑みを浮かべた。

「その子は、グラマー族で、奴隷だった。つまり、ディーア族が仕組んだ事件だったの。」

本当は禁止されている奴隷制度。でも、グラマー族はディーア族を、ディーア族はグラマー族を捕まえて奴隷にすることが裏で行われている。それを、非難する人はいない。

「でも、国はすべてグラマー族のせいに……あの子のせいに、した。」

再び、服の裾をギュッと掴む。心の奥が苦しくて、私も同じような行動をとる。

「お父様はグラマー族をさらに恨んだ。お姉様も、お母様を目の前で怪我させられたショックで、グラマー族を恨んだ。お兄様だけは……私の話を聞いてくれたけど……」

奴隷であれば、ただ命令されただけ。命令したのはディーア族なのに、その子だけが悪者扱いされる。

ツキを殺さなかったのは、本当に友達、と、思っていたからなのだろうか……

「でね、その子は、綺麗なオレンジ色の髪をしていたの。」

「え、……それっ、て………」

ヨルたちが入っていった森の奥深くを、見つめた。

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