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3話〜友達〜

「ぶはっっ!!」

やっと息ができる感覚に包まれた。周りを見る。しっかりネクとヨル様と、ついでにオースティンもいる。ディーア族の声は、もう聞こえない。

「……ここは……?」

町中に飛ばされたらどうしようとも考えたが、森の中のようだ。

「とりあえず……少し歩くか……」

と、いうわけでテントを張るために、少しひらけた場所を探すことにした。ヨル様は私と同じようにただのカラスで驚いたり、目の前を舞っただけの葉っぱに大声をあげたりで、なんだか場違いだが親近感が湧いたりした。


「この辺が丁度いいか……」

少し木が少ない、平らな場所に出たところで一旦寝ることになった。まだ真っ昼間だが、恐らくこれからは夜に動くことになるだろうから、と。ヨル様が持ってきてくれたテントを張り、中に入る。……お風呂と昼食は、今日は我慢だな。

「……なんか、悪いな。俺と二人で。」

急にヨル様が謝ってきたから何事かと思ったが、すぐに理解した。狭いテントの中なので、寝る場所は隣り合うことになる。つまり、付き合ってもいない男の子と隣合わせで寝ることになる。

「ぜ、ぜぜぜぜぜ、全然!!緊急事態だしね!!」

少しは意識してしまうが、もうこの際しょうがない。ネクもいるし。ついでにオースティンも。

「……じゃあ、寝るか」

ヨル様とは背中合わせで寝る。ネクはいつもどおり、私の頭の上だ。緊張で寝れなさそうなのに、今日はそれ以上に疲れていたのか、すぐに眠ることができた。……世界崩壊。ディーア族。七つの宝石。もう、色々起きすぎてわけがわからない。


ぐぅ〜……

翌日、というか夜、お腹が空いて起きるというなんとも健康的な目覚め方をした。……でも、これから食事、どうするんだろう……隣のヨル様はまだ寝ている。……木の実、とか、あるかな?今日はヨル様に助けてもらってばっかだったし、ご飯くらい採ってこようかな。ヨル様を起こさないように、そっと起き上がる。でもかなり熟睡しているらしく、起きる気配はない。テントから出ようとしたところ、何かが肩に乗る、慣れた感覚。

「……ネク、」

「知らない世界にお前一人放り出すわけにはいかないからな。」

ネクにギュッと抱きつく。温かい。いつもはベタベタ触られるのを嫌い、こんなことをしたら猫パンチされるところだが、今日はなにもしなかった。気を取り直して外へ出ると、大きな月が空に浮かんでいた。カエムルで起こった事件が、まるで嘘のように、悲しいほど静かで綺麗だった。


「っ、ホシ!」

「ヨル様。……あ、置き手紙とかしとけばよかったね……」

とりあえず食べれそうなものを持てるだけマジックバックに詰め、なんとか元の場所へ帰ってきた。しかしヨル様に伝えるのを忘れた。私がいなくなったことに慌てて当然だ。

「ちょっと食べれそうなもの採ってきたの!……なんか、毒あるかとかわかる?」

「……ああ、ちょっと待ってろ。」

そう言ってヨル様が取り出したのは、『地球の全て』地球の植物についても書かれているらしい。万能だ。


仕分けすること小一時間。私が採ってきた大量の木の実は、両手で持てるほどとなってしまった。

「……なんでこんな食べれないものが多いんだろう……」

「……あくまで、人間にとって毒になるものだからな……動物にとっては普通に食べれるんだろう……」

と、いうわけで少ない食料を二人と二匹で分け合う。魚釣りも視野に入れないとな……と思った夜だった……

………。いや、夜はそれだけでは終わらない。私たちはこれから、『七つの宝石』を集めなければならないのだ。

「……これからの方針のことだが……とりあえず、フランスのエッフェル塔に行こうと思う。」

「ふらんす?えっふぇるとう?」

暗号みたいな言葉が飛び交い理解不能。なんだそれ。物か。地名か。

「……何故突然そこに?宝石のアテでもあるのか?」

混乱している私を置いてネクが話を進めていってしまう。うん。たぶんネクの言い草的に地名だ。それだけはわかった。

「……いや、宝石とは関係ないんだが、カエムルで一緒に逃げたメイドがいるんだ。敵と会ったり国民を助けたりではぐれてしまったが……もし地球へ逃げれたら、『フランスのエッフェル塔で集まろう』と。しばらくはそこに滞在して、来なければ諦める。」

「まあ、味方は多い方がいいしな。この状態でディーア族と会ったら結構まずい気がする。」

というわけでなんか行く場所が決まったらしい。ちょっと地球の地理はパッパラパーなので口出しせずついていこうと思う。

「……まずここがどこかだよな……」

「人里は降りれないしね。」

人里に行けたら言語か地図かが見つかるはずだが。何しろ、私たちが魔法を使えることが地球人にバレたら大変なことになる。

「いや、格好をなんとかして魔法を使わなければ、人里には降りられる。……でも、ちょっと……急に行くのは……」

……。確かに、怖い。というかしばらく知らない人に会いたくない。……すべてが、敵に見える。

「では、我が行って来てやろう。額の星を隠せば良いのだろう?我は毛が長いから整えれば額くらい隠れる。」

「……ああ、頼む。」

ヨル様はオースティンの長い毛をかき分け、額の星を隠した。猫は地球にもいるらしいし、問題ないだろう。

「その間に俺達は……動物とか狩れるようになるか……さすがに今日みたいな食生活を送ってたら栄養失調で倒れる……」

……うん。食料問題。深刻な問題だ……

「武器も持ってないし、魔法でなんとかならないかな?」

「俺の属性は火だ。下手したら山火事になったり動物ごと燃やし尽くしてしまう。」

う〜ん……焚き火とかには役立ちそうだけど……山火事になるのは大問題だな……

「ホシの属性は?そういえば学校で聞いたことなかったけど」

……うっ、やっぱりきたか……その質問……言うたびなにかのプライドが傷つくんだよな……

「……む、無属性……」

「……無?」

「……はい……」

カエムルの人は、火、水、地、雷、風、光、闇の7属性の人がいて、だいたいどれか一つの属性が当てはまるんだけど……

「う、産まれたときから……属性魔法が使えないの……」

「……そうか……でも、逆に都合がいいかもしれない。普通に、ボールみたいに魔力の球を打てるか?」

魔力の球……とりあえずがむしゃらに魔力を込めて、魔力の塊を作る。これで打てば……

「……え?」

みるみるうちに魔力の塊が炎に変わっていく。こんなこと始めてだ。て、え、ちょ、

「あっつ!!」

バチッと小さな爆発を起こして弾ける。え、え?どういうこと?

「ちょ、え?火属性なのか?」

「いや、違、確かに無属性で……」

そもそもここで属性についての嘘をつく利益はなにもない。なんで火が出たのかも私にもさっぱりだ。

「戻ったぞ。そのへんの店でチョチョイと鍵をこじ開けて取ってきた地図だ。」

オースティンの帰りで話は一旦中断。……いや、でもチョチョイと鍵を……って……

「ああ、ありがとうオースティン。」

そんなことは気にせず地図を受け取るヨル様。そんなこと気にしている場合じゃないのか……

「……世界地図の中心を見るかぎり、ここはドイツ……だな。フランスとは陸つながりだ。」

いや〜……どいつ?も知らないんですが。王子、どこまで教育されてるの?……でも……『王様も王妃様もいない』し、周りも焦ってるのかな?

「……ホシ、魔力を持った人間が、近くにいる。」

「……え……?」

ふと耳の近くでネクの声。魔力を持った人間……さすがに、ヨル様のことではないだろう。そんな今更なこと言わない。

「まさか……ディーア族か?」

「恐らくな。」

ゾワッ。

殺されかけたあの記憶が蘇る。ウソ、もう追いついてきたの?地球は、広いんじゃないの?

「……こんなに魔力のない中にいると、魔力を持つ人間が目立つからな……魔力の流れなんかでわかるんだ。恐らく、何チームかに分かれて地球へ入り、たまたま近くに転移したチームがこちらの魔力を感じとったんだろう。」

ご丁寧な説明ありがとうネク。でも私の心臓はバクバクだし足はガクガクだよ。

「ど、どうしよう、ヨルさま、」

ヨル様に助けを求めればなんとかなる。今までだってそうだったんだから。だって、王子だし……

「……っ、と、とりあえず、じっとしてよう。下手に動くと、危ない、」

ヨル様の顔は蒼白だった。何やってるんだ。私。今は、王子とか関係ない。二人とも、命の危機にさらされている同じ人。身分とか、一般人だとか、そんなのどうでもいい。

「……、ホシ危ない!!!」

キンッ!!!

私の前にネクが立ち憚り、バリアを発動する。攻撃がきた。……、と、いうことは……

「……バレた……?」

ザク、ザク、と、草を踏む音がする。ああ、ホラーゲームの主人公ってこんな感じなんだ、と場違いなことを思ったり。

……ガサ、と、私たちが隠れていた草を誰かがかき分け、光が入る。

「……見つけたぞ。王子と少女だ。」

無意識に走り出していた。息切れなんて感じない。ただただ感じるのは、恐怖。

「副団長!!」

騎士団の団員がそう叫び、転移魔法陣を展開する。そこから出てきたのはあの、黒髪の双子のような男女だった。

「……見つけたか。捕獲を開始する。」

ずっと全力で走っていたのに、あっという間に追いつかれる。この人、風の使い手だ。

「っ、!ブルハ・ラール・ヨル!!」

ゴオッ!!

一気に炎の壁が燃え上がる。もう山火事なんて気にしてられない。とにかく、逃げなければ殺される。

「ブルハ・ラール・ミルキー」

しかしなんと、双子の女性の方、ミルキーさん、は剣で炎の壁を斬っていく。

「ブルハ・ラール・ヨル!!」

今度は龍の形をした炎を生み出す。これ、あれじゃん。7属性のすべてが使える魔法で、かなりの難易度の。

「ブルハ・ラール・ウェイ」

しかし、男性の方、ウェイさんが銃で龍を打ち倒してしまう。ダメだ。戦力差がありすぎる。私はまるで役に立たないし、ヨル様も魔法が使えると言っても騎士団ほど戦闘能力に長けているわけではない。

「……ホシ、先、行け。フランスの、エッフェル塔、だ。」

「……え、」

走るのをやめて、敵に向き合う。でも、なんて言った?先に、行け?

「……ディーア族の一番の狙いは、俺。……王子である、俺だ。ホシだけなら、それほど狙われないかもしれない」

でも、でも、それなら、ヨル様は?

話すようになってまだ一日ほどしか経っていないが、ヨル様は思ったより私と同じだ。だって、今だって震えてる。ディーア族に捕えられた後の王子の末路なんて、私にもわかる。民衆の前で、処刑されるんだ。私より残酷な死に方になるのは明らかだ。

「早く!!」

その声に、私は動けなかった。


〜Sideヨル〜

怖い。

今の感情は、ただそれだけだ。戦いたくない。全部放かって逃げてしまいたい。

でも、俺は王子だから。逃げたらいけない。一人でやらなきゃいけない。じゃないと……

俺の居場所は、ない。


☆☆☆☆☆


「やだー!おべんきょうやりたくない!!」

これはいつのころだったか。母上と父上が亡くなって、1年くらい経ったあとか。

「ヨル王子、一時間だけ頑張りましょう。」

「やーだー!!」

その頃は、ずっと母上と父上のお墓の前で遊んでいた。戻ってこないのは子どもながらにわかっていたけど、それでも何故か、そばにいるような気がしたのだ。

結局その日は、渋々ながら勉強したっけ。


「大丈夫かしら、ヨル王子。」

「まあ子どもだし、あんなもんじゃない?」

メイドたちの話し声が聞こえる。まだ、俺には気づいていないらしい。

「でも、あの方は18には即位されるんでしょう?あんなに勉強が嫌いで大丈夫なのか……」

「まだ13年後のことよ?考えすぎよ。」

「でも、ヨル王子には『ちゃんとした王』になってもらわなきゃ。」

「まあそうね。あ、そろそろお食事の時間じゃない?」

「そうね。ヨル王子呼んでこなくちゃ。」

そう言ってメイドたちは早歩きで去っていった。

勉強ができれば、褒めてくれるかな?『ちゃんとした王』になれば、みんな喜んでくれるのかな?

実際、勉強を頑張ってみれば褒められた。お稽古も作法も頑張って習得した。これでいいんだ。勉強を頑張れば、みんな母上と父上みたいに、褒めてくれる。


「ヨル王子、今日は全然覚えが悪かったの。」

「今日中にここまでは進めておきたかったのにね……いつもは覚えもいいのに……」

たまたま、苦手な科目だった。たまたま、気分が乗らないだけだった。でも、そんなの関係ないんだ。

完璧な俺以外は、求めていない。

じゃあ、完璧じゃなくなった俺は、なんなんだろう?『ちゃんとした王』にはなれない。王になれない、俺は?

捨てられる。存在する意味が、なくなる。

やらなきゃ。完璧でいないといけない。

やらなきゃ。王子でない俺は、誰も求めていない。

やらなきゃ。やらなきゃ。一人でも。

だって、

母上と父上は、俺のせいで亡くなったのだから……


☆☆☆☆☆


とりあえず強い魔法を放っていく。魔力だけは底なしだから、魔力切れの心配はあまりしていない。でも、魔法暴走しそうだ。俺は昔から、魔法制御が苦手だから。

「ブルハ・ラール・ウェイ」

目の前で剣を躱し、遠くでは銃が鳴る。2体1。しかも、相手は王国騎士団。勝ち目はほとんどない。ホシは、まだ逃げていない。もう、息切れが限界だ。

「ブルハ・ラール・ミルキー」

確かに剣は避けられた。でも、その瞬間に銃が飛んできて。体制が、崩れてしまった。

「ぐっ、」

一気に俺を押し倒し、手を拘束された。ああ、もうダメだ。大勢の罵声を浴びながら、死ぬんだ。

俺、ディーア族になんかしたっけ?



「ブルハ・ラール・ホシ!!!」

バシャッ!!

急な水圧に、手の拘束が外れる。……ホシ?いや、何故?さっき、火が出ていた。なのに、何故水?属性は、一人一つのはずだ。

「……、ヨルの、バーーーッカ!!!」

……は?、わけのわからん行動と言葉で、ポカン。それにコイツ、俺のこと呼び捨てにした。そういえば、呼び捨てで呼ばれるのなんて久しぶりだ。……ああ、母上と、父上が、最後か。


ーーーーー


わからない。何故、出てきてしまったのか。このまま逃げていれば、助かったはずなのに。でも、何故かムカついたのだ。確かに私は頼りないかもしれない。なにもわからないかもしれない。でも、王子とか以前に、一緒に地獄から逃げてきた、ただのクラスメイト。頼って、欲しかった。

「ブルハ・ラール・ホシ!!」

とりあえず目くらませをしようと思ったら、なんか光が出た。私だってこの状況に混乱している。なんで急に火や、水や光が出たのか。でもそんなのにかまってられなかった。

「ホシ!氷!出せるか!?」

耳元からネクの指示。もう頭はぐちゃぐちゃだがとりあえず氷を出した。出せた。

ゴオッ!!

ネクの意図が一瞬でわかったのか、ヨル様が炎で氷を溶かす。瞬間、水蒸気で目の前が真っ白になった。

「ヨル!こっち!」

ネクが私の肩から降りて先に進んでいるのが見えたので、見失わないうちに、と、ついヨル様に手を差し伸べた。ヨル様はしばらくびっくりしてフリーズしていたが、やがて大人しく私の手を取り、私に引っ張られてくれた。


はぁ、はぁ、はぁ……

二人とも、息切れを超えて酸欠。使い魔二匹は余裕そうだ。そりゃあ君ら、私たちの肩に乗ってたくせに人間より足速いからな!!

「ディーア族はもう追ってこないな。」

「……そう、だな……はぁ……」

オースティンの言葉になんとか答えている様子のヨル様。とりあえず、息を整えなくては。

「……ホシ、ありがとう。」

「へ!?」

ああ、あの水とか氷のことか。いや、あれはもう私にもよくわからないというか……

「……なんか、よくわからないけどいろんな属性使えちゃうみたいなんだよね……あ!無属性だったって話は本当だよ!」

「なんだそのぶっ飛んだ能力……」

いや、ヨル様の魔力量も十分ぶっ飛んでますがね?ふとネクの方を見ると、何か考えこんでいるような表情をしていた。

「………」

「……ネク?」

「……いや、なんでもない。」

なんだろうとも思ったが、ネクがなにか難しいことを考えているのはいつものことなのでほっとこう。

「そういえばホシ、名前……」

名前?………あ。

「す、すすすすすす、すみません!!ヨル様!ヨル様!」

ヤバい、感情に任せてヨル様を呼び捨てで呼んでしまった。しかもニ回も。

「……いや、名前、ヨルでいい。」

それはまるで、始めて友達をお出かけに誘うような。そんな気恥ずかしさを含んだ表情だった。まだ始まってそれほど経っていないクラスの一人で、つい昨日話すようになったばかり。そんなんでも、少しは近づけたかな?

「うん!ヨル!」

改めての意味を込めて、握手をする。ヨルはテレビでは見ないような笑顔を浮かべる。

こうして、世界を助ける旅が幕を開けた。

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