表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

26話〜ルシーン国へ〜

〜Sideヨル〜

ぐにゃぐにゃした不思議な感覚に身を任せ、カエムルへと繋がる道を通る。やはりこの、宇宙を通して移動する感覚は慣れない。

「……数ヶ月ぶり、か……」

カエムルに戻ったのは数ヶ月ぶりなのに、なんだか長い間離れていたような気がする。それだけ、あの旅は濃かった。

「……また、ここに戻って来ることになるとはな……」

隣について来てくれたデスティニさんの呟きが聞こえる。……そういえば、どうしてデスティニさんは地球へ来たのだろう。そのまま定住しているということは、何かカエムルに帰りたくない理由があるのだろうか。

「……で、どうやって結界を越えるんだ?」

「そこは策があります。オースティン。」

俺の掛け声で肩に乗っていたオースティンが地面に降りる。

「オースティンに囮になってもらいます。警報が鳴ったあと、結界を超えたところでしばらくは近くに身を潜めて、オースティンが警備を引き寄せてくれたら進みましょう。」

「お、おう。でもオースティンは大丈夫なのか?」

「我を甘く見るのではない。我は王族の使い魔ぞ。引き寄せて逃げ切るくらい造作ない。」

そう、オースティンはこんな態度をとっているが100年以上生きた王族の使い魔だ。そこらの一般の使い魔より訓練されている。

「……よし、行きます!!」

ビーッと、耳をつんざく警報音がなる。あの時、ホシと一緒に走ったのを思い出す。

「デスティニさん!こっち!」

オースティンが飛び出すのを横目に、草むらにデスティニさんを呼び寄せる。しかしそれだけでは、魔力の気配で気づかれてしまう。ここからは俺が王子であることを存分に生かすときだ。

「ブルハ・ラール・ヨル」

見た目は何も変わらない魔法だ。しかし、これは一部のものだけが知る魔法。……隠密魔法。魔力の気配を、消せる魔法だ。もちろん時間制限もあるし、今回みたいに絶対に来るとわかっているとき、なおかつまだ敵に見つかっていないときに限ると、なかなか使い所は難しい魔法だ。

「いたぞ!」

「……使い魔か……?」

「コイツアステール国の王子の使い魔に似てないか……?」

「とりあえず近くに主人がいるはずだ!半数は使い魔を追い、半数は主人を探せ!」

バタバタと、静かだった場所があっという間に騒がしくなる。どうやらもう遠くへ行ってしまったと思ったらしく、多くの人は町へと走って行った。少しその場に留まっている者もいるが、このくらいなら逃げ切れる。

「……よし、動きましょう。」

気づかれないように細心の注意を払って、町を目指す。木を隠すなら森。人を隠すなら人混み。町に入ってしまえば顔も見ていない侵入者を見つけるのは困難だろう。


なんとか森を抜け、『侵入禁止』と書かれた看板を越える。ここさえ抜けてしまえばもう町だ。デスティニさんの家で着て行ったフード付きのコートを深く被り、顔を見られないようにする。人を隠すなら人混み、とは言ったものの、俺は敵国の王子で顔が知れ渡っている。顔を見られたら大惨事だ。

「ここからは俺が案内するぜ。ルシーン国の地理なら、俺の方が詳しいからな。」

頼もしい言葉に黙って頷く。なんだかここに来てすごく緊張してきた。こんな危ない橋は散々渡って来たはずなのに。一緒に進んできた仲間たちが、ここにはいないからか。

「………すげぇな……」

人通りの多い都市にやって来た。そこで俺はさらにフードを深く被り、俯きながら歩くことになった。町に貼られているポスター。戦争を促進させる言葉とともに俺の顔。敵国の王子に向けられた心ない言葉。この王子を殺せば完全勝利だと、国中の人々が呟いている。

「君、どうしたんだい?体調悪い?」

ビクッと、身体が大袈裟に反応してしまう。ルシーン国の住民。ただ、異常なほど俯いて歩いている俺を心配しただけの善良な人。それなのに、震えが止まらない。俺のことがバレたら、どうしよう。ただそれだけが、頭の中を支配する。

「あー、すみません。こいつ、久しぶりに外に出るもんで。今から帰るところなんです。」

横からデスティニさんがフォローを入れてくれた。地球を出た時は夜だったけど、カエムルでは昼。今が平日か休日かもわからないし、こんな真っ昼間から俺みたいな学校に通っているような年の子がいるのもおかしいということも考慮してのフォローだろう。完璧すぎるフォローだ。今は残念なことに外に出れない不登校児も増えているから、相手も納得してくれたようだった。

「……すみません、ありがとうございます。」

「いいって。むしろそれだけで済んでいるのが凄いくらいだ。」

やはり顔を見られるのは怖くて、俯きながら極力デスティニさんの背中にくっつく。そうして、城までの道を進んだ。


「ふん、随分時間がかかったな。」

「オースティン。いや、推定時刻だろ。」

城の近くで待っていたオースティンが、腕を伝って俺の肩に乗る。怪我……は、若干後ろ足に擦られた痕があるくらいか。流石だ。軽く回復魔法をかけると、ふんっと偉そうな鼻息が聞こえた。

「侵入者が入って混乱している間に城に乗り込むのは分かるが……どこから入るんだ?さすがに正面突破は難しいよな?」

「キラが昔通ったルートを参考にします。対策されているところもあるでしょうけど、ツキの話によると何処から入ったのかわかっていない場所もあるようですから。」

まずは、侵入されないように高く高く設置された柵。キラは、このあたりの壊れた柵に草木が被ったところから入ったらしい。子どものサイズではないと入れないのではと考えたが、意外と余裕はありそうだ。草木を抜けるのはかなり痛かったが。

次に、キラはダクトを通って行ったらしい。しかしそこはもう対策されているらしく、広さ的にも子どもしか通れない。そこで俺たちが使うのは、非常用脱出通路だ。王宮なら必ず着いている。ツキの話では厨房から抜けたという。城の構造やごみ捨て場の位置的におおよその厨房の場所は推測できる。そこから地下通路を繋げるとなると、現実的に出れるのは……

「おそらく、このあたりです。」

少し広がった、なんの変哲もない庭。薔薇がアーチ場に植えられていたりして、かなり腕の良い庭師が管理しているのがわかる。

「あまりここに人が入ることはないと思いますが……窓から見えてしまうし、庭師が入って来るかもしれません。オースティンが上を見張るので、デスティニさんは地上を警戒して下さい。俺が通路を探します。」

そう言うとデスティニさんはすぐに警戒体制に入ってくれた。オースティンはすでに高いところに登り、窓を見ている。……さて、ここからが問題だ。アステール国の王宮の隠し通路も教えて貰ったが、本当に外からは見えない。手探りで少しずつ探していくしかない。コンコンと、足に細心の注意を払いながら歩く。空洞がある独特の音と、少し他のところより硬めな地面が判断基準だ。

「誰か来たぞ!」

デスティニさんの控えめな声で、一斉に死角へ隠れる。そこに現れたのは庭師でもメイドでもなく、意外な人物だった。

「で?侵入者は見つかったのか」

「それが使い魔しか居らず、しかもその使い魔まで見失ったようで……」

「我々の目を掻い潜る使い魔……ただの使い魔ではないな。引き続き探せ。」

「はっ」

黒髪に、金の瞳。……部下を連れた、ジェイルだった。幸いこちらに気づくこともなく、通り過ぎて行ったようだ。

「……ジェイル……?」

「え?なんでその名前……」

デスティニさんにはジェイルの話は一切していないはず。セイも今回始めて親族だと気付いたっぽいし、セイから聞いたということもないだろう。

「……あいつ、今どのくらいの地位なんだ?」

「えっと……王国騎士団団長の……」

「……そうか、もうそこまで……いや、昔の同僚でな。……まだ、俺がルシーン国に住んでいた時の。」

デスティニさんが、まだルシーン国に居た時。つまりデスティニさんは、地球に来る前はこの国で王国騎士団に所属していた、ということか。

「ほら、さっさと探そうぜ。」

あまり突っ込んで欲しくなさそうだったので、大人しく隠し通路を探す。……なぜ、デスティニさんは地球に来たのだろうか。王国騎士団に所属するのはかなりの大出世で、この先安泰と言えるほど安定した職業なのに。


「……ここか!」

探し始めて20分弱。少し時間はかかったが、まあまあ早く探せただろう。そのまま手で芝生をかき分け、通路を開ける。湿った空気が漂い、何とも隠し通路らしい暗さだ。

「ここからは人数が少ない方がいいだろ。俺はここで待ってる。かき分けた芝生も戻しておく。」

「わかりました。ありがとうございます!」

手に火をつけ、暗い通路を照らす。覚悟はしていたが、やはり迷路になっているようだ。これはもう虱つぶしに探していくしかないか。

「出口はあっちの方だな。食べ物の匂いと食器の音がする。恐らく出た先は食糧庫だろう。」

そう考えていたら、オースティンが出口の方向だけは示してくれた。だが十分だ。あとは火で微かな空気の方向を確かめて、進むだけ。だいぶ楽になった。

「……あとこういうのは、大体罠があるはずだけ……どっ!」

何かを踏んだ瞬間、目の前の地面が崩れた。やはり罠はあるらしい。だからこういう隠し通路を通る可能性のあるものは罠の場所や迷路を覚えさせられるのだ。俺も覚えさせられた。空いた地面は空中歩行魔法で突破した。

そこからも俺が自分の国で習った限りの罠の種類や場所を予測し、上手く立ち回った。アステール国と似たような罠もあったので助かった。


「ここが入り口っぽいな……」

30分ほど彷徨い、なんとか出口っぽい所に到着した。はしごの上に扉があるので、たぶんそうだろう。オースティンも人の音が聞こえると言っているし、ほぼ確定だ。

「ブルハ・ラール・ヨル」

透明化の魔法をかける。城内ならこれで対応できるはずだ。ホシの幻覚魔法があればもっと安全だったが、まあしょうがない。これで行こう。はしごを登り、そっと扉を開ける。やはりオースティンの見立て通り食糧庫で、周りには干し肉や米など、保存の効くものが置いてあった。きっとこの奥にある扉を開けたら厨房だ。いよいよ人がいる。絶対に見つかってはいけないかくれんぼが始まる。

「よし、行こう。」

何も言わずにオースティンはふんと鼻を鳴らす。しかし身を乗り出して耳も立てているから、これでも緊張していることだろう。

最小限静かに厨房に繋がるであろう扉を開ける。奥にはやはり作業中であるシェフたちが沢山いた。己の透明化魔法を信じ、目の前を歩いていく。そして目線に気をつけ、誰の目も向いていないときに厨房を出る扉を開けた。

「とりあえず第一関門突破……」

広い廊下に出て、とりあえず一息つく。とは言ってもここにも多くのメイドが通る。城内に落ち着ける場所なんてものはない。

「右の方から人が来るぞ。気をつけろ。」

「ああ。わかった。」

物音を立てないように注意しつつ、大体の王子の部屋を予測する。厨房がここにあって、廊下がこの形、外から見た形状と王子の部屋のセキュリティ的に……

「恐らく、こっちの方だな。」

部屋の位置を予測し、歩き出す。あとは物音を立てないように注意して歩くだけだ。しばらく城内を歩き、もうすぐで王子の部屋にたどり着ける。

そのとき。

ビッー!ビッー!ビッー!!

「っ!!」

心臓がこれ以上ないほどに跳ね上がる。まずい、透明化の魔法と気配を消す魔法も消えている。

「後ろからしか人は来ていない!!走れ!!」

オースティンが肩から降りて先導する。足音も気にせずに思いっ切り走り、王子の部屋であろう扉を叩く。しかし、やはり出ない。当たり前だ。こんなに外が騒がしくて王子が不用心に扉を開けるわけがない。そもそも部屋にいるとも限らない。足音が近づいてくる。


もう、終わりなのか?


「あれ?ねーねーユエ、おそとにいるのツキのなかよしさんだよ!」

「仲良しさん……?」

中から、あの幼くて白い使い魔の声と落ち着いたユエ王子の声がする。

「えいっ!」

「おいクロエ……!」

少しだけ扉が開かれ、白い塊が飛び出してくる。それに続いてユエ王子も姿を現し、しっかりと目が合った。

「……ヨル王子……!?」

「ユエ王子……」

よかった、とりあえず、会えた。……だけど、この騒動をどうすればいいのか。ユエ王子が疑われてしまうのも今後を考えるとよくない。

「とりあえず入ってて!」

バタンと中に押し込まれ、そのまま扉を閉じられた。何もかもが突然のことで感情が追いつかない。

「ユエ王子!部屋へお戻りください!それともどうかなさいましたか!?」

扉の外から声が聞こえる。ここにいることがバレないかドキドキしてくる。

「ああ、ごめんね、クロエがセキュリティの魔法陣をいじっちゃったみたいで。」

「……!だってわかりにくいところにあったから宝探しみたいだったんだもん……」

「俺から注意しておくから。騒がしてごめんね。仕事に戻っていいよ。」

「そうですか、承知しました。」

バタバタと、足音が遠ざかっていく。ここでやっと、肩の力が抜けた。しばらくしたらユエ王子も部屋に入ってきた。

「ごめんねクロエ。イタズラをしたことにしてしまって」

「ううん!いいよー!ユエにつかえることがつかいまのしごと!だもんねー!」

どうすればいいかわからずに固まっていると、好きなところに座っていていいよ、と施された。

「……事情は、ある程度は知っているよ。ついにツキたちを攻撃したのだろう?……あと、エメラルドもこちらに来ている。」

「え……!?」

ユエ王子が指さす方向には、緑に輝く宝石があった。あれは間違いなく、エドだ。

「……とりあえず一つずつ整理しながら話そうか。君がなぜここに来たのかも含めて。」

俺は静かに、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ