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25話〜精神世界〜

「……シ、ホシ!!」

聞き慣れた声に、ゆっくりと意識が浮上する。私は、何をしていたんだっけ?確か、ジェイルさんが来て。禁書を使って。それで……

「!!」

ガバっと、飛び起きる。そうだ。私は、どうなった?確か、石にされたはず……、

「ネク……?ツキ、キラ、セイ!……ラルフまで……」

そこには、石にされていたはずの皆がいた。どういうこと?ここは、どこなんだ?あたりを見回しても、ただただ灰色しかない。全面石だらけかことしかわからない。

「私たちにもわからないの……目が覚めたらここにいて……」

ツキの言葉に、全員が頷く。どうやら、全員状況は理解できていないようだ。少し見渡すと、道がある。なんだか古代遺跡のようだ。

「あそこ、進んでみよう。」

とりあえず進んでみないと何もわからない。私が進むと皆もついて来てくれた。もともと、私が起きたら進むつもりだったのかもしれない。

「……!人がいる!」

キラの指差す方向を見ると、確かに人。ローブを着ていて、明らかにカエムル人っぽい装いだ。

「す!すみません!ここって、どこなんですか!?」

現実でこれを聞いたら記憶喪失を疑われそうな質問。でも、これ以外に置き換える言葉もないので、話しかけた男性が答えるのを静かに待つ。

「はあ?嬢ちゃんたち今更何言ってんだ?ついに気でも狂ったか?」

……。やはり頭の方を疑われてしまったか。ここにいる人たちにとってはここがどこかは周知の事実のようだ。とりあえず男性にお礼を言い、別れる。

「……でも、『ついに』ということは、ここが気の滅入る場所だということは間違いなさそうですよね。」

少し進んですれ違う人も多くなってきたが、特に傷を受けているだとか、ガリガリだとかはない。やはり、精神的なものなのか。……駄目だ。何もわからない。

「……キラさん……?」

「……え……?メイド長……!?」

少し顔に皺を刻んだ、年配の女性がキラを見て驚く。メイド長……ということは、キラの上司!?いや、それより知り合いがいたことが不思議だ。アステール国の人びとは、ほとんどが石になってしまったはずじゃ……

「ああ……貴方も、ついに来てしまったのね……」

「あの……メイド長、私たち、状況が読めていなくて……」

女性はキラの身体を優しく包み込み、頭を撫でる。……キラは天涯孤独だったし、母親のようなものだったのだろうか。

「私たちも正確な所はわからないけど、ここは恐らく『精神世界』。石となってしまった人たちが集まっている場所よ。」

精神世界……つまり、やはり私たちは石になってしまったようだ。でも、石になった先でこんな世界があるとは。

「……私たちは……負けてしまったのかしら。ヨル王子は……まだ見えないけど、無事なのかしら?」

「ヨルはまだ無事です!負けてなんかない!!」

つい声を張り上げて反論してしまった。この女性に悪気なんて一つもないのに。

「ヨ、ヨル王子を呼び捨てに……!?」

「あー!いいんですいいんです!ホシとヨル王子は友達だから!」

慌ててキラが間に入る。……まさかそこに反応されるとは思わなかった。今考えると国の王子を呼び捨てって、かなりすごいことだよな……

「あ、ごめんなさい。……そう、あの方に友達が……」

まじまじと私を隅々まで見られる。え、どうしよう、薄汚いだとか、お似合いじゃないとか言われるのかな。

「ああ、そんなに緊張しないで。あの方と心からの友達になってくれたのなら、なんでもいいの。……私たち大人が、ヨル王子の人生を縛りつけてしまっているから……」

……。きっとこの人は、王様と王妃様の末路を、知っている人なんだろう。でも、よかった。ヨルの周りに優しい大人が一人でもいてくれて。

「そうだ、キラさん。メイド寮の子たちにも会ってあげて。ここで会えてよかった……と言うのは不謹慎かもしれないけど、寂しがっていたのは確かだから。」

「……はい。」

ということでまずはキラと暮らしていた子たちに会うことに。歩いている間、メイド長さんがここでのことを色々話してくれた。ここには本当に何もないこと。食事も必要ないし、痛みも感じない。娯楽もないので最近狂ってきている人が多いのだとか。ただ一つ、娯楽と言えるものは人と話すこと。確かに、すれ違う人びとは手遊びをしていたり、しりとりをしている人が多かった。


「キラちゃんだー!」

「キラおねーちゃん!」

最初に、初等部低学年くらいの小さい子たちがキラに抱きついて来た。その次に、少し恥ずかしそうに私より少し小さいくらいの子が近づき、その次にキラと年の近い子たちが抱きつく。

「おうじさまは?いっしょにいないの?」

この中でも一等小さい子が、キラの足元で問いかける。キラは少し考えてから、その子の頭を優しく撫でる。

「……ヨル王子は、まだ戦ってる。私だって、まだ諦めてないよ。」

小さな子はわかっているのかわかっていないのか、嬉しそうに頭を撫でられている。

「……ツキ王女?どうかしましたか?」

「しー……」

今まで後ろで黙っていたツキとセイの話し声。何故かツキは帽子を深く被り、顔がよく見えないようになっていた。

「……もしかしたら、私のこと知ってる人がいるかもしれないから。」

「……あ……すみません、配慮が足りなくて……」

……そっか。ここにいる人は、ほとんどがグラマー族。ツキがルシーン国の王女だと分かったら、どうなることやら。

「でも、私の国はこれだけの罪のない人の生活を壊したのだと思うと、心苦しい。」

「………」

ツキはじっと、無邪気な子どもたちを眺めていた。

「貴方たちも、家族を探してみてはどうですか?きっと心配していらっしゃいますよ。」

メイド長さんがこちらにやってきて、声をかける。……家族……!そっか、家族に、会えるかもしれないんだ。もしかしたら、シエルにも……!

「ホシの家族、探そうか。あれからずっと会ってないし、もしかしたら死んでると思われてるかもしれないしね。」

キラがたくさんの子どもの隙間からこちらを覗く。確かに私はあそこでヨルに助けられなかったら死んでいた。誰も私があの襲撃から逃れられたとは思っていないだろう。

「キラちゃん行っちゃうの……?」

「まだはなそうよー……」

「……ごめんね、次は、ちゃんと現実で会おう。私はまだ、ヨル王子を護らなきゃ。」

キラは一通り子どもたちを撫でたあと、私たちと合流する。

「行こう。」

キラの声で、また前に進む。ここから出る方法も、考えなきゃな。ヨルと約束したんだから。絶対に諦めないって。


進んでも進んでも、景色は変わらない。ずっと灰色だ。狂ってしまった人々とも、たくさん会った。やっぱり、早く、早く。世界を戻さないと。

「……セイ」

セイを呼ぶ声。でも、私たちじゃない。しっかり声変わりの終わった、男性の声だ。声のする方には、セイとよく似た銀髪の男性。

「……とう、さん……?」

バッと、勢いよくセイに抱きつく男性。そして、ぎゅうぎゅうとセイが潰れそうなほどに強く抱きしめる。

「ああ、セイ、セイ……生きて、いたんだな……」

「父さん、こそ、あのまま、母さんと一緒に……殺されちゃった、のかと……」

ラルフもセイのお父さんの足元にやってきて、優しく撫でられていた。

「……しばらく、そっとしておこうか。きっと、生死がわからなかった人との、10年ぶりくらいの再会だもんね。」

「……そっか、10年ぶり……」

そんなに長い間、家族と離れていたんだ。私はまだ家族と離れてから1年も経ってないのに、こんなに寂しかったのに。

「……よく、わかったね。父さんが最後に見た僕って、まだ子どもだったでしょ?」

「間違えるわけないだろ。ずっと、ずっと、あのまま置いて来てしまったのを、後悔して、大人になったお前を想像したんだから。」

そのまましばらく、二人は抱き合ったまま動かなかった。やがて、惜しむように離れ、セイが言葉を発する。

「父さん、僕、まだやることがある。」

しっかりとお父さんの目を見て、そう発した。

「父さんや、僕みたいな人が暮らせる世界を作りたい。そのために、研究してるんだ。グラマー族と、ディーア族の違いを。」

「……そうか、強く、なったな……。」

頑張りなさい、とセイの頭を優しく撫でる。

「また絶対に、現実で会おう。」

「ああ。何もできないことが悔しいくらいだ。待ってるよ、セイ。」

そうして、セイのお父さんと別れた。もうちょっと一緒にいたら?と言ってあげたかったけど、それがセイの覚悟なら、止めるのは野暮だ。


「だいぶ奥に来たけど、人が多くなってきたね。」

だんだん道幅も広くなり、ところどころ広場のように広がっている場所で子どもたちが鬼ごっこなどをして遊んでいる。しかし、今のところ、石から戻る手がかりは見つからない。

「……もしかして、ホシちゃん……!?」

「え……!……と、ごめん、誰だっけ……?」

ついに私にも知っている人が!と思ったが、なんか見たことあるようなないような。

「ほら!同じクラスの……!学校でとりあえず人数合わせしたときに、ホシちゃんとヨル様だけいなくて、死んじゃったのかなって心配してたんだよ!!」

「ああ!私の前の席の!!」

え?ホシ?

行方不明だった?

ざわざわと、クラスの皆が集まって来る。学校が一緒の子は暮らしている場所も近いから、大体同じ場所にいたようだ。

「ホシー!!」

「!!」

ふわふわと、雲のような柔らかい癖毛。青空のような優しい空色。

「シエル!!」

そのままぎゅうっと、シエルと抱き合う。色がある。柔らかい。本当に、シエルだ。

「シエル。悪かったな。俺がもっと早く気づけていればよかったんだが……」

「ネクちゃん。ううん、しょうがないよ。」

ネクが私の肩からひょこっと出てきて、シエルと話している。私はそれどころではないと言うようにぎゅうぎゅうとシエルを抱きしめる。

「ホシちゃん!お母さんとお父さん呼んできたよ!」

さっき、最初に話しかけてくれた子が声をあげる。その後ろには、見慣れた二つの顔。

「お母さん!お父さん!」

「ホシ!!」

ここでもう涙腺がダメだった。大泣きしながらお母さんたちに抱きつき、服が濡れるのもお構いなしに泣き続ける。恥ずかしいとか、そういう感情は今はなかった。

「ああ、ネクも、ホシを守ってくれてありがとう。さすが私の使い魔。」

「今はホシの使い魔だぞ。」

「いいの。私の使い魔でもあったんだから。」

そう言ってネクの小さな身体も優しく抱き上げた。

「……ホシ、今までどうしていたんだ?もしあの襲撃から生き残れたとしても、食料なんて採れる環境じゃなかっただろう?」

お父さんが心配そうに聞いてくる。……一から話すと長いな、え〜っと、上手くまとめて……

「ヨルと、そこにいる皆と一緒に地球にいたの。」

「ヨル様と!?え!?地球!?」

やはりこの衝撃的なことを一言で表現するのは難しかった。少し長くなるけど、今までの経緯を説明する。ヨルと友達になったこと、七つの宝石を集めていること。

「……そんな、ことが……」

「……ホシ、無理はしないでね……ネクにも、限界があるんだから……」

そうやって心配されると、うん、としか言えなかった。

「……ねえ、お母さん。ちょっと聞きたいんだけど、私の属性ってなんなの?」

旅に出て、色んな属性が出て、ずっと聞きたかったこと。ネクは何も話してくれなかったし、お母さんに聞くしかないと思っていた。しかしお母さんはこの質問に、ギュッと眉を潜めた。

「……ホシは、全属性が使えるようになってしまった。……あの祠に行ったんだ。きっと、どこかで魔法が解けてしまったのだと思う。」

急に話し出したネクに少し驚く。この件について、少しは知ってるだろうな〜とは思っていたけど、こんなに隠していたとは思わなかった。

「……そう、それで、身体は大丈夫なの?」

「様子を見たがとりあえずは大丈夫そうだ。だが、記憶を思い出した時にどうなるかはわからない。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!どういうこと?」

記憶だとか、身体は大丈夫だとか、意味がわからない。少なくとも、私は幼い頃から健康だったはずだ。『魔力の高い子ども』ではなかったと聞いている。

「ネクさん、大丈夫ですよ。あれから少し調べましたが、ホシさんにはもう高い魔力を蓄えるだけの機能は備わっているようです。」

「え、なんでセイが??」

さっぱりわからない。確かにセイには血を渡したけど、なぜネクとそれを共有しているのか。

「ホシさんに血を貰って少し調べたところ、血に流れる魔力が極端に少ないことがわかったんです。そして、これほど少なくするには外的な要因がないとあり得ないことも。僕が真相に近づいてしまったので、ネクさんが最初から教えてくれたんです。……ホシさんの魔力は、記憶を引き換えに抑えられた、と。」

……記憶……?でも私は確かに人並みの記憶はある。幼い頃の出来事は他の人より覚えていないな〜とは思っていたけど、そんなの忘れるもんだと思っていたし。

「……それなら、大丈夫だろう。元々、15になれば伝えるつもりではあったしな。」

「……そうね……。ホシ、あなたは、『魔力の高い子ども』だったの。」

「……え、でも普通は薬とか手術とかで、」

ヨルのあれはかなり特殊な例だ。まさか、私もヨルのように違う所に魔力が溜まって……?

「属性は4歳頃にわかるでしょう?魔力が高めだとは言われていたけど、まさか全属性を持って暴走し出すとは思わなかった。」

「このままでは助からないと言われて、父さんが本を漁りまくって見つけたのが、ある祠の伝説。」

お父さんが言うには、国の境界線にある祠の前で、強く願えば願いを叶えてくれる、というおとぎ話のような伝説だった。どんな可能性にも賭けてやる、と二人は祠へ行き、私の健康を願ったという。

「そこで突然、祠が光ったんだ。そして、誰かが頭に話しかけて来た。『記憶を思い出させてはなりません』……と。」

確かにその後に私の魔力は落ち着いたが、軽い言語後退が見られ、なつきかけていたお父さんを怖がったりしたという。そして、魔法の使い方を忘れていた、と。

「……じゃあ、今になって私の属性が戻ったのは、」

「祠に触れてしまったから、中途半端に力が戻ってしまったのかもしれないな。ホシの魔力自体は低いままだから、完全に戻ったとは言えない。」

……。私の過去に、そんなことが。今記憶を知ったのに何も起きないのは、ここが精神世界だからか。

「……え!?なにこれ!?」

キラの声に驚くが、すぐにその理由を知ることとなる。……身体が、透けてる。

「もしかして戻れる?」

「え、でもなぜ急に……」

身体が透けているのは私たち4人だけ。ネクとラルフもしっかり透けているので状況は同じなようだ。これは、きっと。

「きっとヨルだよ!戻す方法、見つけてくれたんだ!」

なんだかだんだん眠くなってくる感じがする。この感覚は少し怖いけど、きっと現実ではヨルが待っている。

「……そう、だね。」

ゆっくりと、不思議な眠気に身を任せる。あ、そうだ。お母さんたちに最後、バイバイって……

「え、ツキ!?」

キラの驚いた声に意識が少し浮上する。気づけばツキは、少し山となっているところに立ち、なんと帽子を自分から取り、声を張り上げてこう言った。

「私はルシーン国第二王女、ツキ。私はこの戦争に反対し、この者たちとともにアステール国復興に努めることを宣言する!!」

「は?なに?ディーア族?」

「王女?復興?何言ってるんだ?」

ざわざわと、一気に周りがざわめく。何もない場所に突然声が響いたからか、あちこちから人が集まってくる。

「うわ!こいつディーア族だぞ!!」

「お前らがこんな風にしたんだろ!戦争に反対?ふざけんな!!」

わーわーと、数々の罵倒が飛んでくる。聞いたことのない暴言、人格を踏みにじるような言葉。私に言われているわけでもないのに、実際目の前で聞くと恐ろしい。

「つ、ツキ、なんで……」

「……これで、いいの。」

真剣に、怒鳴りつける人たちを見つめる。私たちの身体は、どんどん透けていく。

「もう戦争は止めさせて!」

恐ろしいほどの罵倒の中聞こえた声。その声に、少しだけあたりが静まりかえる。

「なにディーア族にお願いしてるんだよ!ディーア族にも同じことをして罪を償うべきだ!」

「でも、もう戦争はいや……」

「ディーア族って初めて会ったけど、以外と獣臭くもないし……」

「ディーア族は悪だ!!」

「戦争反対!!」

民衆の間で論争が起こり始める。皆がみんな、ディーア族が悪だと思っているわけではない。それがわかっただけで、なんだか胸が暖かかった。

「一緒に、行こう。」

ギュッと、ツキの手を強く握る。その行動一つで、民衆がざわめく。

「ディーア族と手を握ったぞ!」

「ホシちゃん!離れた方がいいわよ!」

怖くて人がいる方向は見れない。でも、私はディーア族であるツキやセイと一緒に、世界を救うって、決めたから。

「ホシ!!」

お母さんの声が聞こえる。もう意識はほとんどない。

「いってらっしゃい!!」

いつものように、私を送り出す声。私はしっかりと答えた。

「いってきます!!」

世界は、変わり始めている。

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