24話〜開幕〜
じりじりと、距離を取る。あの双子より、強い。それは、どのくらいなのだろうか。私は警戒してずっとジェイルさんの姿を追っていたが、それがシュッと消えた。まるで、テレポートをしたかのように。
キィィン!!!
瞬間、大きな金属音が鳴る。それは、ヨルのいる方向へ。しかしジェイルさんが降った剣は、前に立ち憚ったセイに止められていた。
「お前が情報にあった剣の使い手、セイか。私の剣を止めるとは、相当な実力はありそうだ。だが、」
カンカンカンと、うるさいほどに金属音があたりに響く。セイとジェイルさんの猛攻は、私にはただの風にしか見えない。
「ヨル王子!こっち!」
セイが気を引いてくれている間に、私たちはキラの周りに固まる。キラのバリアはとても精度がいいから、ある程度は防いでくれるはず、
カァァンッ!!!
その音とともに、一つの剣が空高く飛び、地面に突き刺さる。それは、私たちがよく知る、セイの剣だった。
「はあ、はぁ……」
「ふん、こんなものか。」
……、衝撃で、声が出ない。あの双子とも対等に渡り合えていたセイが、ほんの数分で。しかもジェイルさんの方は無傷なのに対し、セイはところどころに血が滲んでいる。……これと、私たちは渡り合えるのか?
キンッ
「!」
セイはどうやら隠し持っていたらしい小さなナイフで突きつけられていた刃の方向を変え、そのまま手を使いながらぐるっと回って足で相手の顔面を蹴る。そしていつの間にかラルフが取ってきていた遠くに刺さっていた剣を右手に持ち、構える。その時間、数秒。流れるように行われた行為に、口を開けるしかない。回った衝撃で帽子が取れ、白銀の狼の耳があらわになる。
「……、あはははは!やはり似ているなあ!アイツに!!」
「……アイツ……?」
突然笑い出したジェイルさんは謎でしかない。そうして何故か自分も帽子を取り、漆黒の狼の耳をあらわにする。……この人も、狼なんだ。
「その金の瞳……本当に、アイツにそっくりだ。……『シルナ』に。」
しるな……シルナ?……って、誰だ?私は知らない。ヨルもツキもキラも、知らなさそうな反応。じゃあ、誰も知らな……
キィィン
ジェイルさんが抑えているから、これはきっとセイからの攻撃。重い、音。
キンキンキンッ!!
そのまま再び激しい攻防に入る。しかしやはりジェイルさんは余裕そうで、セイにはたくさんの汗が噴き出している。
「感情任せで勝てるとでも思っているのか?さすがグラマー族の血が入った子供だな。」
「うるさい……母さんはずっと、悲しんでた。味方でいてくれると思っていたのに、と。」
……お母さん……?何故急にセイのお母さんが……?……似ている。そっくり。二人だけが知る、共通の人。でも、本人同士は会ったことがない。それって、もしかして……
「グラマー族と結婚した妹など、国の恥さらしだ。こちらが恥ずかしいくらいだな。」
「母さんは恥さらしなんかじゃない!!世間なんかに惑わされないでちゃんと自分の幸せを見つけていた!僕たちは幸せだった!!」
……親族。つまり、『シルナ』は、ジェイルさんの妹でありセイの母親。
……セイの、叔父にあたる人だ。
「はあ、シルナと私の瞳が似ていたことが憎たらしい。負の遺産とも間接的に似てしまったではないか。」
「ブルハ・ラール・セイ!!」
冷気があたりを覆う。寒い。動き回っていた二人には丁度いいかもしれないが、今まで見ていることしかできていない私たちにとってはとても寒い。
「セイ待って!一度治療……!」
ツキが思いっ切り叫ぶが、セイには届かない。金属音で全てかき消されてしまう。しかし、やはり優勢なのはジェイルさんの方。駄目だ、止めなければ、ジェイルさんはもう本気で殺しにかかってる。まだ、セイはここで散ってはいけない。カエムルに居場所を作るっていう夢は、まだ叶えてない!!
「ブルハ・ラール・ホシ!」
二人の間に、光の矢を放つ。それはたちまち発光し、二人の目を眩ませた。今は夜だから、普段よりも効くはずだ。そのままセイの手を引っ張り、キラたちのところへ向かう。
「一人で行かないで!皆で修行、したでしょ?皆でやろう!今は私たちがいるよ!」
セイは、一人旅が長かったせいか一人で突っ走ってしまう部分がある。でも、今は五人なのだ。一人じゃない。助け合える。
「……ホシ、さん……」
「ブルハ・ラール・キラ!!」
ジェイルさんの剣をキラが魔法で弾き返す。体制を立て直すのはさすが早かったが、かなり遠くに飛んだのですぐには来ないだろう。
「まずは治療だからね!ブルハ・ラール・ツキ!」
セイの周りに雫が舞い、傷が治っていく。さすがツキの回復魔法だ。
「ブルハ・ラール・ホシ!!」
「ブルハ・ラール・ヨル!」
私は続けていろんな属性の矢を放ち、ヨルはまるでピストルのような炎魔法を撃つ。ここ、一応森だし被害が出ないようにかな?しかし。
カキィィン
私の放った矢は剣で軽々と払い除けられ、ヨルの攻撃は軽やかに避けられた。
「ブルハ・ラール・ツキ!」
遠くからツキの声が聞こえたかと思えば、ジェイルさんの足元にぶよぶよと弾力のありそうな水が現れる。いつの間にそんな技覚えたのか。
「ホシさん!サポートお願いします!!」
治療が終わったらしいセイが後ろから飛び出して、ジェイルさんに斬りかかる。サポート、……あの、修行のときみたいにか!!
「ブルハ・ラール・ホシ!!」
風の刃でセイに斬りかかるジェイルさんの攻撃を捌いていく。いい感じだ。互角くらいには、なってる!!
「ホシ!気をつけろ!後ろに大勢」
「来い!!前進だ!!」
ネクの声が聞こえたかと思えば、上からジェイルさんの声でかき消される。その瞬間にはあたりが真っ白で、目の前に黒いネクの身体が見える。
ドォォォォン!!!
耳がはち切れるような爆音の後、煙があたりを覆う。痛い。身体中が痛い。ネク、ネクは。手探りで必死にネクを探し、温かい黒いものに触れる。
「……ネク!!」
耳から血を流しているネクを抱き上げる。また、また私はネクに助けられた。でも、どうして急にこんな攻撃が、
「………っ」
ジェイルさんの後ろには、大勢の王国騎士団。最初から、一人で来たわけではなかったんだ。使い魔たちに悟られないように、最大限後ろに下がって、戦闘が始まって注意力が欠けたときに一気に。
「セイ!ツキ……キラまで……!」
周りを見渡すと、一番前にいたセイはかなりの傷を負っているし、ツキも咳をしながら苦しそうにしている。キラはヨルの前で倒れていた。
「こんにちは。ボクは『七つの宝石』の一人、エメラルド。ねえ、君たちの国は面白い?」
この場に合わない明るい声。戦闘が始まった瞬間、身を守るために宝石の姿をしていたエドが急に人の姿をとる。
「……面白いかどうかは人によると思うが、着いて行きたいと言うなら案内しよう。」
「やったー!じゃあ着いてこっかなー!ボクカエムル行ってみたかったんだー!」
「ちょ、エド!!」
七つの宝石は一人でも欠けたら効果を発揮しない。一人でも、ディーア族の手に渡ってしまったら……!
「知ってる?戦争はね、強いところに居た方が、大切な人を守れるんだよ。」
身体だけはジェイルさんに向けたまま、こちらを振り返る。戦争。そうか、これは、戦争なんだ。
「ま、ボクに大切な人なんか居ないけどねー!早く行こー!」
「ああ。すぐ終わらせる。」
どうしよう、どうすればいいんだろう。相手は大勢。こちらが動けるのは私とヨルだけ。逃げようにも、他の3人を抱えては無理だ。エドも向こうに行ってしまった。
「ブルハ・ラール」
大勢の名前が重なる。輪になって唱えられた呪文の中心には、禍々しい本。……あれは……禁書……?
「ホシ!逃げろ!絶対防御魔法だ!俺たちをここで、石にするつもりだ!」
あの時の、シエルが灰色になった情景が脳裏に焼き付く。また、皆あんなふうに?そんなの、嫌だ。絶対に嫌だ。
「ヨル!デスティニさんの所に行く魔法陣、覚えてる!?」
「あ、ああ、セイが教えてくれたやつならもう覚えたけど……」
「私は覚えてない!!」
今回みたいな緊急事態時のためにセイは私たち全員に魔法陣を教えてくれたが、何せ模様なので暗記が難しい。こんな短期間で覚えられるなんて、さすがヨルだ。私が残ったとしても、すぐに捕まってしまう。
覚悟は、決まった。
「ブルハ・ラール・ホシ」
ありったけの魔力を込めて、ヨルに向けて風を吹かせる。怖くないかって?そりゃ、怖いよ。石になるって、仮死状態みたいなものでしょ?でも、少しでも世界を取り戻せる希望があるなら。
「ホシ!?」
「絶対に、世界を取り戻す!石化なんか壊してやる!だから、絶対、ヨルも諦めないで!!」
光に飲み込まれる。よかった、ヨル、走ってくれた。身体が動かなくなる感覚がする。指先が灰色だ。
ねえ、シエル。私もそっちに行けるかな?
〜Sideヨル〜
必死に覚えた魔法陣を描く。息が苦しくて、指先が震えて上手く描けない。まだ、王国騎士団は近い。話し声はまだ聞こえている。
「ヨル王子がいないぞ。」
「丁度いい。ヨル王子は生かして捕らえろ。国で公開処刑してやる。」
声が近づいている。描けた。ところどころ線が歪んでいるけど、発動してくれ。
「ブルハ・ラール・ヨル!デスティニ!!」
よかった、ちゃんと光った。身体が浮く感覚。でも、これから俺はどうすればいいんだろう。
「おう!今回は随分早かったな……って、ヨル王子……?」
やっと安全な所に逃げられた安心感で、その場に座り込んでしまう。俺しかいないことにただならぬ状況を察したらしいデスティニさんが、優しく俺の背中を叩く。
「どうした?坊主たちは?」
「どう、しよう、俺だけ、みんな、石に、」
上手く言葉を紡げない。思考が混乱してる。
「……よし、一回座ろう。紅茶入れて来る。」
自分でも落ち着ける方法がわからない。こんなことしてる場合じゃないのに。早く、助ける方法を。
「うおっ、誰だ!?」
いつの間にか人間の姿となっていたルシファー様とクリスが目の前にいた。とりあえず、二人は俺に着いて来てくれたんだ。
「うわ、本当に場所変わってる……」
「私たちは『七つの宝石』の一人だ。敵ではない。」
クリスはワープに驚いたようであたりをキョロキョロ見渡し、ルシファー様は冷静に状況を説明してくれた。
「つまり……ヨル王子以外全員石になっちまった……ってことか!?」
小さく頷く。そうだ。俺は、皆を犠牲にして、
「ヨル王子、落ち着け。坊主たちは、諦めていたのか?」
『ヨルも諦めないで!!』
ホシの声が頭に響く。そうだった。ホシは、諦めていない。俺も、諦めるなと言われている。
「諦めて、ない。」
本当はもう、諦めたい。でも、ホシが諦めていないのなら。俺は、ホシを裏切りたくない。
「……よし。実は、坊主がヨル王子たちを連れて来てから、禁書についても色々調べたんだ。でも、禁書に打ち勝つには禁書しかない。」
デスティニさんが高い棚からなにやらブックカバーのついている本を取り出した。でも、魔力を持っている俺ならわかる。この禍々しい感じ。……禁書、だ。
「禁書は地球にもいくつか散らばってるみたいでな。でも魔力がない者にも、この禍々しい気配に無意識に気づいて触ろうとはしない。だから魔力持ちがカエムルに移って何百年経った今も、こうして地球に残ってるんだ。」
恐る恐る、禁書を開く。王子である俺でも、封印されていて目にすることすらなかった禁書。まさかここに来て、触ることになるとは。
「……完全解除魔法……?」
文字の解読に少し時間がかかったが、確かにそう書いてあった。完全解除魔法。これなら、ホシたちを……!
「ああ。でもやっぱり条件はあるそうだな。魔法を受けて24時間以内であること。3人以上の魔力が必要なこと。」
「……3人以上……」
クリスとルシファー様は魔力を持っていない。オースティンも一人分にはならない。デスティニさんを数に入れるとしても、あと一人足りない。きっと俺の中には二人分くらいの魔力はあると思うが、それを解放すれば暴走してしまう。現実的ではない。
「……ユエ王子……」
「ユエ王子?ルシーン国の王子か?」
もしかして、ユエ王子なら。ツキも巻き込まれているのだし、協力してくれるかもしれない。ああ、でも連絡をとっていたのはツキだけだ。俺は連絡先を知らない。こうなったら。
「ルシーン国に行く。」
「マジか!?敵地だぞ!?それにヨル王子は顔も知れてる!」
「でも時間もない!可能性があるなら、それに懸ける!!」
24時間以内。それまでに、ユエ王子を連れてあの場所に戻らないといけない。そんなに時間は余っていない!!
「……わかった。今回は俺も行く。近くにカエムルに繋がる道があるから、ついて来い。」
いつぶりのカエムルだろう。もう随分、地球にいたからな。今回はルシファー様とクリスには留守番を頼み、家を出る。
絶対に、ホシたちを助ける。




