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23話〜エメラルド〜

ある日の夜、何故かスッと目が覚めた。隣にはツキとキラが眠っていて、どうやら起床する時間じゃなさそうだ。しかし外には明かりがついていて、カリカリという音まで聞こえる。夜の見張りは使い魔たちがやっていてくれるが、彼らは夜目が効くため明かりを付ける必要はないはず。それに、何かを書く音がするのは尚おかしい。しかし、この時点で私は明かりをつけている人物が誰なのか、予想はついていた。

「やっぱりセイか〜」

「ホシさん、起こしてしまいましたか?」

私の予想通り、その人物はセイだった。近くに小型のランプを置いて、書き物……いや、計算?をしている。いくらディーア族がグラマー族より夜目が効くといっても、それほどではないらしい。

「セイもそろそろ寝た方がいいんじゃない?」

「はい、あとこの数式を解いてから……」

………。………………。

うん。もうしばらくかかりそうだ。さて、私はどうしよう。なんだか目が冴えてしまったし、もう少しここにいようかな。

「ホシ。ここにいるなら上着を着ろ。」

「あ、ネクありがとー」

さすが第二のお母さん。気が利く。ずっとここにいるセイは寒くないのかな?と思ったけど、ラルフが近くで丸まっていて、暖かそうだった。

「そうだ、ホシさん。もしよかったら血を取らせてくれませんか?」

「うえ!?血!?」

血を取るといったら注射。痛いし普通に苦手だ。というか好きな人いるのかな?

「グラマー族の血も調べてみたくて……それに僕はどちらの血も混ざっているから分かりづらい部分が多いんです。それに……ホシさんの、属性のことも」

「!」

私の、属性。思えば突然全属性使えるようになったし、その突然が旅に出た瞬間だなんて、都合が良すぎる。まだまだ謎が多い問題だ。

「……わかった、自分のことを知りたいってのもあるけど、セイの研究、私も協力したい。」

ずっと地球にいて、ずっと研究していたのに、こうやって魔力を持っている人の血を取ることもできなかっただろう。私たちが来たことでセイの研究が何か動くなら、協力したい。

「ありがとうございます。医師免許も持ってない人の注射で申し訳ないのですが、自分で何度も試したので。」

2、3回は差し直されたし普通より痛いなぁとは感じたけど、私の血は無事に取れたらしい。お礼を言ったセイは早速私の血を何やら見たことのない機械にかけたりしていた。……これはもうしばらくどころではなさそうだな……

すると今まで私の近くで湯たんぽの代わりをしてくれていたネクが離れて、セイに近寄った。

「ネクさんも見ますか?主のことですし、気になりますよね。」

相変わらずネクは無口だが、近くに座ったのでYESということだろう。しかし、ネクという湯たんぽが無くなった私はとても冷えてきた。

「じゃあ、私はもうそろそろ寝るね。」

「はい。ありがとうございました。」

明日の出発はちょっとだけ遅くしてもらおうかな、とライトに照らされるセイの顔を見て思ったりした。


「あっちだろ。」

「いや、あちらではないか?」

クリスくんとルシファー様がそれぞれ別の方向を指差す。現在、3つ目の宝石を捜索中。しかし、唯一頼りになるなんとなくレーダーがこの調子だ。クリスくんは宝石として自覚したばかりだし、ルシファー様の方が正しいのではないかと思ったが、そうでもないらしい。

「どうやらこの宝石は移動しているようなんだ。それもかなりの短期間で、大幅に。」

大幅に。それは家から仕事に行くだとか、国内旅行だとかそういうレベルではなく、国から国を次々と移動しているらしい。しかも往復している様子もなく、短期間ときた。

「いったい何して暮らしてるんだよ、そいつ。」

クリスくんが呆れたように溜息をつき、手を頭に組む。でも確かに定住しているところがあるなら往復しているはずだし、そんなに頻繁に国々を周る職業も珍しそうだ。いったい何をしているやら。

「別の宝石を探すとかは?」

「……この宝石以外の気配がほとんどないんだ。不思議なことにな。」

え、それってその動き回っている宝石を手に入れたとして、そこから先は詰むってこと?どっちにしろ後先悪くない?

……そして、私たちが密かに気にしていること。方向的に、現在私たちは元来た道を戻っているのだ。つまり、イギリス方面に向かっている。そしてそのイギリスあたりには……ユエ様によると、王国騎士団団長のジェイルがいる。

「とりあえず一回休もっか。日も暮れてきたし。」

そうして、ツキの一声で今日は寝ることとなった。だいぶ慣れてきたキャンプの準備をし、私は動物を狩る。そうそう、だいぶ弓の精度も上がってきたんだよ。十発六中くらいにはなってきた!

「ホシさん、今日はウサギですか?」

「セイ!うん!ちょっと小さめだけど食べれそう!」

そこで、バケツいっぱいの水を持ったセイとすれ違った。セイは基本的に力仕事担当になることが多いので、よく水を汲みに行く係になりやすい。

「あ、そういえば……私の血、どうだった?なにかわかりそう?」

私が寝たあともしばらく研究を続けていたっぽいのでちょっと聞いてみる。するとセイは私の肩にいるネクの方に目線を向け、少し微笑んでから話し出す。

「属性のことについては、わかることはありませんでした。でも、グラマー族とディーア族の違いについての研究は少し進みましたよ。ありがとうございます。」

「そっか!よかった!」

正直私の属性のことなんてついでだし、セイの研究が進んだのならよかった。

「あれ〜?こんなところでキャンプしてるの〜?」

……?唐突に現れたのは黄緑色の髪をした男の子。年は10歳程しかなさそうだ。

「えっと……なぜこんなところに……?」

「キャンプ楽しそうだね〜!ボクも入れて!」

セイの言葉をガン無視し、どんどん話を進めていってしまう不思議な少年。私も勢いについて行けず慌てるだけになってしまう。

「あ、そっか!食料ないとダメだよね!え〜っと……」

少年はそのままあたりをキョロキョロと見渡し、やがて上空を飛んでいる鳥に目をつけた。

「えいっ」

ドサ。

少年はどこから出したのやら小さなナイフを的確に飛んでいる鳥へ投げ、なんと撃ち落としてしまった。私たちは唖然とするしかない。

「よし!これで参加できる?」

にっこりと、それはそれはとても良い笑顔で血まみれの鳥の足を持ちながら言われる。

「えっ……と……」

「……とりあえず、皆さんに相談しましょうか……こんなところに子供を置いていくのも心配ですし……」

セイの意見で、とりあえず皆と合流することに。少年はさっき狩った鳥だけ持ってついてくる。ほとんど荷物を持っていないのも、不思議だった。


「み、みんな〜……」

「ホシ!なにか狩れた……って……誰?その子……」

最初に出迎えてくれたのは料理の準備をしていたキラ。テントを張っているヨルと、木の実採り終えたらしいツキもその場にいる。

「えっと……なんかキャンプがしたいって……」

「あれ〜?サファイアだ!久しぶり〜!何百年ぶりだろ〜?」

たまたま人間の姿をとっていたルシファー様に少年が近づく。えっと……久しぶり?何百年ぶり?どういうこと?

「……!もしかして……エメラルドか?」

エメラルド。と、いうことはもしかして……

……3つ目の宝石……!?

「サファイアあのときから変わってないんだね〜!」

「お主こそ世代交代していないとは……と、名前は何だったか?」

「ん〜、忘れちゃった!君は……えっと……る……る……ルータ?」

「ルシファーだ。」

ポンポンと進んでいく話についていけない。すると、知らない宝石の気配を察したのか、宝石の姿でゆっくりしていたクリスくんが人間の姿をして近づいて来た。

「あ!君は……オパールかな?新しいオパールだね!年齢は?見た目通り?」

「そ……そうだけ、ど……」

ああ、クリスくんも勢いについていけてない……

「……すまないな。この者はエメラルドだ。私が最初に宝石の力を説明しに行った時から変わっていないから、少し驚いてしまった。」

宝石の力を説明しに行った時……と、いうことはルシファー様と同じ初代からずっと生きてるってこと!?

「え、でもでも、なんでサファイアとオパールが同じところにいるの?この5人は何者?」

私たちは一度顔を見合わせてから頷き、ヨルが説明を始める。

「カエムルのことを知ってるなら話が早いんだが、実は……」

クリスくんの時と同じように旅の経緯を説明する。クリスくんよりかは知っていることが多かったので、話は早かった。

「それで、七つの宝石を集めているんだ。」

「へえ〜……面白そうだからボクも協力する!」

「え!?」

つい声が出てしまった。だってこういうのってこう、時間がかかるというか何かこちらから協力しないとというか……

「ボク暇なんだよね〜、新しいこともな〜んもないし。だから楽しませてね!」

た、楽しませる……とは……?普通にしていていいのか……?これもこれで対応に困るな……

「それより食べよー!1週間ぶりの食事!」

「い、1週間!?」

そこに驚いたのは私ではなくクリスくん。飢餓に苦しんでいた時期があるからこその驚きだろう。

「ん?だってボクたちは子供を産まない限り不老不死なんだよ?食べなくても死なないよ?」

それが当たり前、と言う様にきょとんとした顔でこちらを見つめる。そしてすぐにわくわくした様子で肉を捌き始める。

「……そう、かもしれないけど……空腹は普通に感じるし、3日で死にそうになる。」

そう、なんだ。てっきり不老不死って、そういう痛みは感じないものだと思ってた。あれ?でもそれなら……

「ルシファー様が食べてるところ、見たことないんだけど……」

いつも用意するのは私たち5人分だけで、ルシファー様はずっと宝石になったままだったから要らないものだと。

「まあ、慣れだな。長く生きていれば普通の人のようにずっと同じ仕事ができるわけもなく、いつかは身分証なるものも無効となる。そうなればお金を手に入れる手段はそう多くはないし、食べるのを我慢するのも必然的だ。」

「ほ、ほえ〜?」

うん。よくわからん。普通にそんな長く生きた経験なんてないからな。

「よーし!食べよー!」

いつの間にか解体から焼くまで済ませていて、少年は鳥に齧り付いた。他の分もいくつか取り分けてあって、肉汁が美味しそうだ。

「ね、ねえ、君のことはなんて呼べばいいの?」

「え〜?生まれた時の名前なんてもう忘れたし……もう『エメラルド』でいいけど……長かったら、そこから文字って『エド』とかでもいいよー」

ゆ、ヨルいな……名前をこうも簡単に……

「ほら〜、みんな食べないの〜?腹ペコなボクが全部食べちゃうよ〜?」

少年……エド、の声で皆が席に着く。今回は流れでルシファー様も食べるらしく、一人一人の分は少し少なくなりそうだ。


寝るときは、基本宝石たちは宝石の姿をとって寝る。感覚的にそちらの方が心地よいらしい。場所も取らないし、私たち的にもありがたい。しかしエドはそのまま人の姿を取り、永遠に話し続けている。

「……えっと……もう寝ない……?」

ついにキラがエドの口を止めた。おそらく悪気はないだろうし、ここで止まってくれるといいが。

「あ、ごめんね?人と話すの久しぶりだったから……人は寝なきゃいけないよね。」

そう言うとエドは素直におやすみ、と私たちを送り出した。話していた内容も山で落石に合っただとか、銀行強盗に合っただとか、どこか人間離れした内容が多かったし、この子はあまり人間らしくない。

「ねーねーオパールー!話そー!」

「なんだよ……つーか俺はクリス!ちゃんと名前があるんだからそっちで呼べよ!」

まさかの宝石の姿になっていたクリスくんを起こすという行動に出た。本当に話足りないんだな……

「ごめんごめーん。ねーねークリスはさ、なんでこの旅に同行したの?楽しい?」

「楽しいとか……そんなのねーよ……ただ、俺は普通の暮らしがしたいだけだ。」

「学校とかってこと?それなら、イギリスに魔法学校があるよ?」

『え!??』

それには全員で声を出してしまった。魔法学校?イギリスにってことは地球に魔法学校があるってこと??

「うん。魔力がない人には見えないように隠されてるんだけど……周りは小さな町みたいになってて、地球で魔力を持ってる子たちが暮らしてるんだ。学校も寮があるし、外部から来た子も多いみたい。」

「……でも俺、魔力ないぞ?」

「いや?ボク大昔に通ったことあるけど入れたよ?宝石は別なのかなー?まー学校も飽きちゃったから辞めたけどねー」

「………」

本当にエドは飽きっぽいらしい。学校を『飽きた』という理由で辞めるとは。

「……じゃあ、次はとりあえずイギリスに戻って、学校を探すか。先に約束を果たそう。」

「イギリスでしたらやはり一回ティーさんのところに戻りますか?」

「……そうだな。少し食料も貰いたいところだし……」

ゴオッ!!

「……オースティン……?」

突然暗闇に向かって魔法を放ったのはオースティン。額の星を光らせている。……オースティンがこんなに動くの、初めて見たかも……そのままオースティンはヨルの肩に乗り、同じ暗闇の方を警戒する。

「………!」

「ネク?」「ラルフ……」

使い魔たちが一斉に暗闇の方を警戒し出す。……どうしたんだろう?特に魔力の気配もない、し……

キィィン………

静かな金属音の後、ヨルの足元にカランとナイフが落ちた。ヨルの肩には額を光らせたオースティンが乗っていて、どうやらバリアを使ったっぽい。

「さすがに使い魔は誤魔化せないか。」

暗闇から、人の声。『使い魔』という、カエムル特有の言葉。まさか、まさか。

出てきたのは漆黒の髪に金の瞳を持った男。手にはしっかりと剣が握られている。

「……ジェイル!!」

ツキの声に、さらに緊張感が高まる。……この男は。

ルシーン国王国騎士団団長、ジェイル。

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