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番外編〜二人で一人〜

「そっちの方が多い!!」

「早いもの勝ちだもん!私の方が早かったもん!!」

「もー!二人とも喧嘩しない!!」

それは、馬車に乗った四人家族だった。子供は二人。どちらも黒髪で、見た目は似ているが性格はお世辞にも似ているとは言い難かった。双子の二人は女の子の方がミルキー、男の子の方がウェイといった。母親が注意するも、二人の声は大きくなるばかり。

「はっはっはっ、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか!」

父親は笑って双子の様子を眺める。父親にとって二人の喧嘩はただの子供のじゃれ合いとしか見えていない。

「ウェイが私のおかず食べたー!!」

「べーっだ!早いもの勝ちなんだろ!?」

「先にお皿にとってたもん!」

うわぁん、と泣きながら彼女は母親に泣きつく。どうやら彼女の方が気が弱く、喧嘩に弱いようだ。

「ウェイ!お皿に乗ったやつは取っちゃダメ!ミルキーも盗られたくないなら早く食べなさい!」

「だってウェイが!」

「だってミルキーが!!」

母親に注意されても二人はなかなか仲良くはなれない。それほどに、二人はお互いに合わなく、嫌っていた。

「ほら二人とも!そろそろ先に進むから奴隷たちが逃げないように見ててくれ!」

「は〜い」

「え〜、ミルキーと一緒なんてやだ〜」

「私だって嫌よ!離れててよね!」

「誰が近づくか!!」

父親の掛け声に、二人は喧嘩をしながらも馬車の荷台につく。荷台には、服も肌もボロボロで耳がついていないグラマー族の子供たちが沢山積まれていた。そう、この家族は奴隷商だった。アステール国とルシーン国を渡り、奴隷を仕入れ、生計をたてるものたち。今日は、アステール国から仕入れた奴隷をルシーン国に持ち帰る途中だった。

「み……ず……、ごは、ん……」

奴隷の弱々しい細い手が、二人に伸びる。彼はプイッとそっぽを向いたが、彼女は自分の分の水とご飯を少しだけその奴隷の手に置いた。

「なんでグラマー族なんかにご飯を分けるんだよ」

「だってちょっとだけ可哀想。それに、奴隷が死んじゃったらお金にならないのよ。」

「ふんっ、お腹が空いたからって俺のご飯盗るなよ。」

「私はウェイみたいに食い意地張ってないもの。」

二人は相変わらず喧嘩しながらも、馬車は進む。やがて、月が昇り馬車が停止した。近くには焚き火が焚かれ、四人家族が焚き火を囲む。その日はよく晴れて、月より星が主役となった夜だった。

「見て、ミルキー、ウェイ。天の川よ。」

母親が二人を両手に抱き、空を指差す。雲一つない空はそれはそれは綺麗な天の川を夜空に描いていた。

「知ってる?天の川はミルキーウェイっていうの。貴方たちを産んだ日もこんな天の川の空でね。だから貴方たちはミルキーとウェイなの。素敵でしょ?」

母親は愛おしそうに二人の頭を撫でる。盗賊などに警戒をし、少し離れた場所にいた父親も三人の様子を、愛おしそうに眺めていた。

「うん!とっても素敵ね!」

「いいけど、なんでまたミルキーとセットなんだよ。」

彼女は素直に喜び母親に抱きついたが、彼は少し不服そうだった。しかし母親に頭を撫でられるその姿は何とも嬉しそうだ。

「じゃーウェイだけ改名したらー」

「はあ?そっちが改名しろよ!」

「はいはい終わり!二人とも寝た寝た!」

母親は小さな二人の背中を片手ずつで押す。二人はしぶしぶ言い合いを辞め、寝袋の中につく。お互いそっぽを向くように彼女は右を向き、彼は左を向く。寝ている間まで二人は喧嘩を続けているらしい。そのまま、二人の目がそっと閉じられた。天の川の下で、二人はそっと眠りについた。


カタン。


小さな物音。二人はその小さな音を聞き逃さなかった。月が少しだけ落ちかけた頃だった。なんたって二人はディーア族。その頭に虎の耳をつけている。物音には敏感なのだ。

「……12番が逃げ出した!!」

「え!?」

どうやら仕入れた奴隷が逃げ出したらしい。繋げていた鎖が無理矢理引き千切られていて、あたりには血が散らばっていた。どうやらかなり無理矢理逃げ出したようだ。

「追いかけるぞ!」

「お母さんたち起こして来る!」

二つの声が重なる。どうやら、ここでも二人の意見は割れたらしい。

「早く行かないと!逃げ切られて俺たちのことをアステール国に喋られたりしたら、商売ができなくなる!」

「でも私たちだけだなんて危険よ!お父さんは強いんだから、起こしてからでも遅くない!」

「それだと見失うだろ!もう勝手にしろ!俺は行く!」

「あっ、ちょっと!!」

彼は彼女を置いて暗い森の中を走って行ってしまった。しかし彼女は追いかけようとせずに、馬車に戻って両親の元へ向かう。彼女は彼女の言い分通りに、両親を起こそうと考えたのだ。

「お母さん!お父さん!起きて!12番が逃げ出した!」

彼女の声に両親は数秒もしないうちに飛び起き、彼女に状況を確認する。するとすぐに、双子の片割れがいないことに気付いたようだ。

「ミルキー!ウェイは!?」

「えっ、えっと……12番を追いかけちゃった……」

彼女の言葉を受け取った父親は、すぐに走り出した。身体が先に行動してしまうところは彼そっくりで、親子だということが改めて伺える。

「ちょっとお父さん!」

「母さんはミルキーと奴隷を見ててくれ!父さんがウェイと12番を探してくる!!」

母親は飛び出した父親を制止したが、父親は構わず飛び出してしまった。母親は小さく溜息をつき、呆れたように言い放つ。

「まったく……あの人、確かに腕は立つけどちょっと馬鹿なところがあるから……大丈夫かしら……」

双子の両親は、腕の立つ奴隷商だった。速やかに子供を仕入れ、戦いになっても頭脳の母親と戦力の父親で乗り切ってきた。それが、父親だけで飛び出してしまったのだ。心配するのも無理はない。

「あのね、ミルキー。貴方たちは今はなるべく一緒にいて欲しいの。」

「……ウェイとってこと?」

彼女はやはり少し不服そうな顔をして言う。嫌いな相手と一緒にいるのは嫌で仕方がないのだ。

「貴方たちが離れてしまうと、今回みたいにお母さんたちも別れて探さなきゃいけないでしょ?それはとても危険なの。」

もちろん、彼女も少しだけ大人に近づいてきた年齢なので、言いたいことはわかる。しかしやはり、気持ちは付いていかないものだ。

「……わかった……」

今の彼女には、そう不満そうに言うのが精一杯だった。


「ウェイ!!」

父親の声が夜の闇に響く。驚いた鳥たちが葉を揺らしながら夜空へ飛んで行く。

「お父さん!」

彼は足音がよく聞こえるように、帽子を外して虎の耳があらわになった姿だった。グラマー族より夜目の効くディーア族の目は、暗闇によく光る。

「ごめんなさい……見失っちゃった……」

彼は虎の耳をぺしょりと下がらせ、父親に謝罪の言葉を告げる。しかし父親は怒るのとは逆に何とも誇らしそうに、彼の頭をガシガシと撫でた。

「はっはっはっ!すぐに飛び出して行く勇気はいいぞ!だが、お前は武器を持っていない。見つけたとしてどうする?」

彼は答えることが出来ずに、そのまま黙り込んだ。確かに彼は武器を持っておらず、丸腰の状態だった。

「12番は確かにお前よりは身体も小さいし護身術も習っていないだろう。しかし、全力で暴れられたらお前も骨が折れるだろう?」

彼は少し悔しそうに、父親の言葉に首を縦に振る。追いかけきれなかったことも、武器のことまで頭が回らなかった自分も、彼は許せなかった。

「さあ、母さんたちのところへ帰ろう。12番は父さんが探してくるよ。」

それにも彼は声を出さず、首を縦に振ることで返事をした。そうして父親と彼は手を繋いで歩き出す。


ところだった。


「お父さん!!」

暗闇の中を走って来たのは、彼女だった。しかしその姿は血で汚れていて、全力で走ったためか息も続いていなかった。

「ミルキー!?その姿は……!?母さんはどうした!?」

「グラマー族っ……、おかあ、お母さんが……っ!!」

彼女は一生懸命に言葉をつなぐが、息切れと興奮でなかなか上手く言葉を発せない。

「こっちに逃げたか……ディーア族の子供……」

それは、グラマー族の奴隷商だった。こちらも血に汚れていて、剣や銃を持った者たちが沢山いる。

「……その血……まさか、母さんの……」

彼が彼女とグラマー族を見比べながら呟く。ここに母親は居らず、彼女は何故か一人で走って来た。それなら、自分たちの母親は……考えるのは難しくない。

「よくも……グラマー族!!!」

父親が剣を右手に握りしめ、グラマー族に斬りかかる。相手は沢山いるが、母親の言った通り父親は腕が立つ。これほどなら、互角に渡り合えただろう。頭脳の、母親がいたのならば。

「父さん!俺も魔法で加勢する!!」

「ウェイ!危険よ!後ろでじっとしていた方がいい!」

またしても、二人の意見は割れてしまった。そうして彼女は後ろへ、彼は父親へと近づく。二人の距離が、離れる。

「ミルキー!ウェイ!離れるな!!」

父親の叫び声とともに、彼女に影が襲いかかる。彼女を殺そうとする魔法が、取り巻く。しかし、間一髪、父親のバリア魔法が彼女を守った。だが、敵は一人ではない。父親と彼のところへも、敵が迫りくる。

「っ!ブルハ・ラール・ウェイ!!」

彼は魔法を繰り出し、父親を守ろうとする。彼の攻撃は、確かに効いていた。ただ、数が多く、彼の攻撃だけでは防ぎきれない。彼女は奥の方で蹲っている。母親を目の前で殺されたショックもあり、腰が抜けているのだろう。

「ウェイ!!」

父親の身体が彼の身体を覆う。父親は彼女にバリアを展開していたから、二重に魔法を使うことは至難の技だ。そのまま、魔法は父親の身体を貫く。赤い液体が飛び散る。そのまま、父親の身体は動かなくなった。ただただ、地面に赤を描いていく。

「………え、」

同時に、彼も衝撃で固まった。父親の身体が動かなくなったのが、ただただ信じられない。

「あははっ!無様だな!お前たちが固まっていればオトウサンは守るべき場所が一つになったのにな!」

二人は、別々の行動をとったことが仇となったのを初めて痛感した。だって、グラマー族の言う通り二人が固まっていれば。父親も死なずに、二人も助かっていたかもしれない。

「よし、こいつらは殺さずに仕入れるか。見た感じ双子っぽいし、双子だと商品価値が上がる可能性がある。」

二人は手に鎖をつけられた。あの時、自分たちが馬車の荷台に積めていた奴隷のように。否、二人はもう奴隷へと成り下がってしまった。


この食べ物を食べるかどうか。

しばらくグラマー族の馬車に引かれ、粗末な食事が出された。しかし、二人はグラマー族を信用してなんかいない。この食事に毒が入っているかもしれない。二人はそう思いながら、じっと出されたスープを眺める。

「食べた方がいいわ。またいつ食事が出されるかわからない。」

「食べない。毒が入ってたら終わりだ。その辺の草でもなんでも食べればいい。」

二人の意見はまたもや別れた。もはや、この二人の意見が揃うことはないのではないかと思うほどに。しかし、今回はいつものような喧嘩には発展しない。二人とも、ただただお互いを見つめる。また別の行動をしてしまったら。二人にとって、あの出来事は十分トラウマとなっていた。

「……わかった、じゃあ今回は食べる。でも、次は俺の番だからな。」

彼は自分の主張をぐっと飲み込み、彼女に合わせた。彼女は頷き、スープを口に運ぶ。幸い、毒は入っていなかった。


「ついて来い。」

しばらくして、奴隷商が馬車に繋いでいた足枷を二人から外した。護身術を習っていた二人なら、ここで走って逃げ出すことも考えられた。しかし、捕まったらどのようなことが待っているか。それが想像できないほど、頭の悪い二人ではなかった。

「従う。」

「わかった。」

前回の宣言通り、今度は彼女が彼の意見に合わせた。彼女がどのような意見を持っていたか、知るものはいない。

「次は私の番」

「次は俺」

二人は、それを繰り返した。そうすれば、二人の意見が違えることはない。

「こっちだって!こっちに行くの!」

「アステール国だったらどうするの?やっぱり戻ってディーア族の方に付いていこうよ!」

ある日、二人の乗っていた馬車がお互いの国の奴隷商と鉢合わせしてしまい、混乱の最中にあった。無事に二人は逃げ出したが、どっちへ行くかでもめているようだ。

「……別のことを言ってはダメだ。今回は、俺がお前に合わせる。」

「……わかった。じゃあ、次は私があなたに合わせる。」

二人は、またもや意見を合わせる。いっそ、不気味なほどに、完璧に。すると、二人の目にオレンジの髪をした女の奴隷が目に入った。耳がついていない、グラマー族だ。

「俺たちと同じか。災難だったな。」

「話しかける?話しかけない?」

「話しかけない。」

「そう。わかった。」

二人は女を無視して歩く。『番』である彼がそう言ったから。

それから二人は孤児院に保護され、グラマー族の恨みのままに王国騎士団に入った。

「行こう。」

「これは従おう。」

次第に、『次は誰の番』という言葉がいらなくなった。

「………」

「………」

そして、二人は声を交わさずともお互いの考えていることがわかるようになった。きっと彼女なら、彼ならこう考えるだろう。そうしてお互いの考えていることを予想して、『自分の番』じゃないときには相手に合わせる。それが普通になっていた。

二人を知る者は言う。『こんなに息がピッタリだなんて誰にも真似できない』と。

二人は、本当に息がピッタリなのだろうか。

『何も言わずに考えていることがわかるなんて、仲がよろしいのですね。』

二人の意見は昔と変わらず、合わないままだ。

果たして。

騎士団に入ろうと言い出したのはどっちなのか。

剣を、銃を練習しようと言い出したのはどちらなのか。

二人は、覚えているのだろうか。

しかし、二人は思う。

「私

  は、」

「俺

「「誰なのだろう」」

と。

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