22話〜オパール〜
「へえ〜!じゃあキラの名付け親って、ヨルなんだ!」
なんだかいい話だった。ヨルのおかげで、キラは感情を取り戻せたんだ。
「でも、由来ってなんなんですか?『キラキラしてる』ーとは言ってたけどどのへんが?」
「さあ……?俺もよく覚えてない……だってあれ5歳のときだろ?記憶も曖昧だし……」
「えーっ、じゃあ由来誰にもわからないじゃないですかー!……まあいっか、別に気に入ってるし」
「……おい、着いたぞ。」
二人の微笑ましい会話を聞いていたうちにクリスくんの家……?に着いたらしい。疑問符がついてしまったのはあまりにも家らしくなかったから。最低限雨は凌げそうだが、風が吹いたら全てが崩れてしまいそうな脆さ。
「よし、じゃあ話すね。まず毒の抜き方は……」
私が知らない話を黙々と喋るキラ。クリスくんは驚くほど真面目に聞いていて、本当に生きるのに必死なんだ、と痛感した。
「あ、でもその草は毒を抜くのに手間がかかる上に食べられる部分が少ないからやめておいた方がいいですよ。あと死にはしませんけど数日間腹痛に悩まされます。」
いつの間にかセイも参戦して話始めた。えっと……セイのそれは、体験談かな?セイもなかなかに過酷な人生を生きてるからなぁ……
「情報は貰った。ちゃんとバッグは返す。そこの板の上に置いてあるから、待ってろ。」
クリスくんからの質問もあってかなり長引いた話し合いもようやく終わって、やっとバッグを返してくれるらしい。なんか長かったな、すぐに宝石を探さないと……
ピョンッと、クリスくんが軽々と上から下に降りていく。薄い服がふわりと浮いて、細い腰が少し見え………
「あああああ!!!」
突然大きな声を出した私に目線が集中する。だって、だって、叫ばずにはいられない。あの、お腹に刻まれた模様は。
「く、くり、くり、お腹、模様!」
「……あ?お腹の模様?これか?たぶん生まれつき……」
私から指摘されるとクリスくんは自分から服をペラリとめくり、そのお腹にある模様をあらわにする。そこには、ルシファー様の瞳にあるものと同じ模様が刻まれていた。
「オパール。お主だったか。」
キラッと、何もないところが光り、ルシファー様が人間の姿を現す。オパール。と、いうことはやっぱりこの子は。
「は!?誰だよお前!何もないところから出てきやがって!」
クリスくんは猫のように後ろへ跳び上がり、持っていたバッグを両手で握りしめる。
「『七つの宝石』という話は聞いたことがあるか?」
「……あんなの、おとぎ話だろ。」
「やはり聞いたことはあるのだな。」
クリスくんとルシファー様が黙って睨み合う。なんだか、クリスくんに関しては本当に猫のようだ。隅で丸くなりながら、目だけは鋭くこちらを睨みつける。
「……爺さんが、言ってた。おそらく、寿命が欲しいがために適当に産んでここに捨てたんだとかなんとか。でも、俺に寿命がないだとか宝石だとかなんて、絶対嘘だ。そんなことあり得るわけない。」
爺さんって、あの『クリス』という名をくれたお爺さんのことか。でも、七つの宝石のことを知っているとは何者なのか。
「……もしかして、その老父は先祖に宝石となったものがいるのかもしれないな。宝石は必ず第一子に受け継がれるし、下のきょうだいとして生まれたものの先祖なら、あり得るだろう。……まあ、それはさておき不思議に思ったことはないのか?怪我をしないだとか、……宝石の姿になれるだとか。」
「………」
長い沈黙がはしる。どうやら、クリスくんにもある程度心当たりはあるようだ。
「……怪我をしない、は、ある。どんなに殴られても、痛いだけで痣とかは一切残らない。……今まで、楽だとしか思って来なかったけど。」
宝石としての特徴がある。つまり、クリスくんは本物の可能性がかなり高い。でも、どう説得するのか。力を貸してもらうよう頼むも向こうに利益はないわけだし、そもそもどう力を貸してもらうんだ?一緒に旅に同行してもらう?
ガタンッ!!
それは、一瞬だった。気づけばクリスくんは目の前にいなくて、扉側に移動している。いくらクリスくんが素早いとはいえ、こんなに速く動けるとは考え辛い。では、何故、
「ミルキー!ウェイ!」
そこにはクリスくんの首根っこを掴んだウェイさんと、私たちに剣を構えるミルキーさんがいた。
「ツキ様……まだそちらにいるおつもりでしたら私たちも王に報告せねばなりません。」
「そんなの覚悟してる!それよりその子を離して!その子は無関係よ!」
「離せよ!痛えだろ!!」
しばらく何が起きたかわかっていない様子だったクリスくんが暴れ出し、ウェイさんは拘束に手いっぱいになる。
「無関係ではない。『七つの宝石』の一人……だろ?」
……っ、もしかして、先に『七つの宝石』たちを潰すつもり?七つの宝石たちは心もあって、私たちの戦いとはなにも関係ないのに。また、無関係の人間を。
「っ!ブルハ・ラール・ホ……」
「まてホシ!ここで魔法を使うのはまずい!」
バッとヨルに肩を掴まれ、詠唱が中断される。そうだった。ここは、地球の町中。地球人が沢山住んでいる場所だ。
「ふんっ、賢明な判断だ。」
そのまま双子は魔法陣を出し、ワープをしようとする。こいつら!!私たちに魔法を使わせないくせに自分たちは魔法を使って逃げるつもりか!!
「もうなんなんだよ!!こんなクソみたいな場所で頑張って暮らしてきたのに!!振り回されるのはもう懲り懲りだ!!」
ピタ。
魔法陣の形成が止まった。クリスくんが止めた?いや、そんなことないはず。クリスくんは魔力を持っていない。魔法を前にできることはないはず。
「おい、どうした。」
「……やっぱり辞めようと思っただけだ。」
「はあ!?何言ってんだよ!次は俺に従う番だろ!?」
「でもこの子は私たちと同じ!」
「なんでもいいから今は俺の番なんだから!黙って従えよ!」
今まで気持ち悪いほど意見の合っていた二人が。まるで初めて別々の人になったかのように意見が食い違う。それに、『俺の番』とは?今まで、片方に無理矢理合わせていたってこと?
「……やっぱり、あなたたちは、あの時の双子なんだね。」
ギャアギャアと言い合う双子の声を止めたのは、今までずっと黙っていたキラ。そのまま一歩前に出て、双子に近づく。
「私の見た目に見覚えはない?私は、あのお互いの国の奴隷商が会ってしまった事件の日に、虎の耳をしたディーア族の双子に会った。あなたたちとよく似た、黒髪だったよ。」
「「………」」
何も言わないが、黙っているということは見たことがあるのだろうか。まさか、ここにも接点があったなんて。
「っ、!」
ゴン、と鈍い音。セイが剣の柄部分をウェイさんの手元に叩きつけ、クリスくんを救出している音だった。そのままセイはクリスくんを担いで双子から距離をとる。
「……もう撤退しましょう。」
「何言ってんだ!ここは任務を遂行するところだ!」
「次は私の番でしょ!?」
「先にそっちが破ったくせに!!」
一度崩壊した二人はいっそ清々しいほどに噛み合わない。仲間割れのような状態を見ているこっちもどうすればいいのかわからなくなっている。そこに、一筋の銀の光が走る。
「早く撤退してください。あなたたちが攻撃をするなら、僕はこの剣を振るいます。ただ、ここで戦って魔法の存在を地球人に知らしめるのはあなたたちも望んでいないはずだ。」
セイが剣をまっすぐ前へ突きつけた光だった。しばしの沈黙が流れ、小さな舌打ちが聞こえる。
「……チッ、」
再び魔法陣が形成され、今度は双子と一緒に消えた。……なんだか嵐のようだった。
「……ねえ、キラ。あのキラの話……つまり、あの双子も奴隷だったってこと……?」
「たぶんね。でも、道が違っていたら私もああなってた。私はあの二人を、一概に責めることはできない。」
最初、ツキに対して強い拒絶を見せたキラ。きっと、ヨルに拾われなかったら。ツキに会っていなかったら。キラはあの双子のように、王国騎士団に入ってディーア族をせん滅していたかもしれない。
「さっきからなんなんだよ……魔法とか耳だとか……」
「……あ……、」
クリスくんにはどこまで説明すればいいのだろう。完全に巻き込んでしまったため、宝石の力を貸して欲しいというのも言い辛くなってしまった。
「私から話そう。ここまで知ってしまった以上、見なかったことにしろというのも無理な話だろう。」
そうしてルシファー様は、クリスくんに何もかもを話した。カエムルのこと。ルシーン国とアステール国の戦争。七つの宝石。全てを。
「……は?つまり、魔法も異世界も実在した……ってことか……?」
「まあ、地球人からしたらそうなるな。」
クリスくんはしばらく頭を抱えて考えるような動作をした。まあ……理解が追いつかないよね……今日一日に色々起きすぎて……
「……わかった、じゃあその宝石の力?を貸す。どうやって貸すかは知らないけど。」
「え?」
正直協力してもらうのは絶望的だと思っていたのに。それに、クリスくんは情で動くタイプでもなさそうだ。
「そのかわり!俺を安全に暮らせる場所へ連れていけ!」
う〜ん?それは簡単……なのか?何を言って『安全に暮らせる』かだよな?ただスラムを出て置いていくだけじゃ『暮らせる』とはいえないし……えっと、つまり金銭的な補助をしてくれる人を探せと……?
「え、えっと……、とりあえずティーさんのところとか……?」
「それが一番現実的か……?俺たちはまだしばらく旅を続けないといけないし……」
確かに旅は安全とはいえないし……だとしてもまたイギリスに戻るのか?ワープは一方通行と言っていたからまたここに戻るのに何日かかるか……
「別に贅沢じゃなくていい。ただ、普通に学校行って友達できて……この宝石の能力だって、不思議がられない。普通の生活がしたい。」
……。思ったより難しい要望だ。きっとクリスくんは私たちと同じように身分証明のできるものは何も持っていないだろうし、宝石の能力を不思議がられないっていうのはなかなか難しい条件だ。
「……わかった。俺たちも旅をしている身だしすぐに安全な場所に送れるってわけじゃないけど、一緒に安住できるところを探す。宝石の力を借りるのは、それからでいい。……みんなも、それでいいか?」
私は黙って首を縦に振る。楽ではないだろうけど、今はこれが一番お互いの納得のいく約束だ。なんか、旅の目的がどんどん増えていく気がする。最初は『七つの宝石を探す』だけだったのにセイの『ディーア族とグラマー族の違いを研究する』さらには『安住できる地を探す』。どれも簡単なとこではないし時間もかかるだろうけど、やっていくしかない。きっと、アステール国を取り戻すのに一歩一歩近づいている。
「ではまず『本体』になる方法を教えよう。数に数えられると色々不利なこともあるからな。」
「ルシファー様」
実はずっと人間の姿をとっていたルシファー様がクリスくんに駆け寄る。……あの双子に姿を見られてるけど、大丈夫なのかな?それくらい向こうも調べてる?いや、人間の姿をしたクリスくんを『宝石』と認識していたから理解はしてるか。
「うわっ!本当に宝石になった!!」
しばらく二人は私たちにはよくわからない感覚的な話をしていたけど、『本体』になることは結構簡単らしく、クリスくんはすぐに小さなオパールの姿となった。
「……なんか、変な感じ。」
「まあ、お主は人間の姿でいた時間が長いからな。時期に慣れるだろう。」
こうして、私たちは七つの宝石の一つ、オパールと仲間になった。あと残る宝石は5つ。……う〜ん……、先は長そうだけど、頑張ろう。




